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極光の女神

2010年7月11日 (日)

極光の女神(1) 「極光の女神-プロローグ」

「極光の女神」

-プロローグ-

「お父様、まだまだ先なのですか?」
「ああ、ウルリカ。起きてきたのか。もう少しだ。寒くはないか。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。グンがいっぱい毛皮を巻いてくれたので」
「そうか。では、毛皮の中に入って寝ていなさい。明け方には村につくだろう」
「はい。お父様、お気をつけて」
私はまた橇の荷台の毛皮の寝袋の中にもぐりこんで、目をつむった。踏み固められた雪道をシャリシャリと速やかに進んでいく橇は、時々、馬車のわだちに落ちかかってガタンと揺れて、私の眠りを妨げるけれど、その時以外は私はうとうとと温かい毛皮につつまれて夢うつつの状態だった。背の低いがっしりとした馬がニ頭、橇を引っ張っていく。
父と家来のトールビヨーンがその二頭の馬に跨って、凍りつく息でヒゲもじゃの顔面を真っ白にしている。前と後にそれぞれ二頭ずつ、控えの馬が続き、毛皮に身を包んだ屈強な男たち達がそれらの馬に跨っている。
 私を産んだ翌々日に亡くなってしまったという母。その母の父、つまり私の母方の祖父が危篤だという知らせが届いて、父は私を連れて、私を溺愛してくれた祖父のところへ最期
の挨拶に行くことにしたのだった。祖父の住む村へは急ぎ馬でも一日かかる距離だった。
増してや今は厳寒の季節。雪が降っていないだけでも幸運だったが、祖父の臨終に間に合うかどうかはまったく分からなかった。
「急がねばならぬようだ、トールビヨーン」
「は?スティーグ王、なにか、その・・兆候でも?」
「胸騒ぎがする。あっ」
「あっ」
二人の叫び声を聞いて、半覚醒状態だった私はまたもそもそと毛皮の寝袋の中から、息も凍る外気の中へ顔を出した。
満天の星の中を、すうーっと流れ星が流れていくのが見えた。
「ああ、それでは、おじい様は今、星に迎えられたのだわ・・」
と私は悟り、その瞬間、ぶわっと涙が溢れてきた。外気の中で泣くと、そのまま涙が凍って皮膚を痛めて危険なので、私はまた毛皮の寝袋の中にもぐりこんで、声を立てずにさめざめと泣きつづけた。
村につくと、おじい様の下僕達がわらわらと私達を囲んだ。
「スティーグ王!」
「ウルリカ様!」
「ウルリカさまぁ・・一足違いでございましたぁ・・。グスタフ様はたった今・・わああぁ・・」
グスタフおじい様の世話係りだったスヴェアが、わあわあと泣きながら私をぎゅっと抱きしめた。お父様、つまり、スティーグ王は、私とスヴェアの両方を抱きかかえるようにして、無言で家の中に入るべく入り口の方向にそっと押した。
「ああっ」
「おおっ」
その時、皆がまた驚きの声をあげた。満天の星を打ち消すような緑と青と橙色の光が天に溢れ、ななめの筋を描きながら、大きく波打って私達のところへ降りてきたのだった。
「こんな・・すごい極光は初めてだ・・」
「こんなに不思議な色は・・なにか特別なことが・・」
皆が口々に怖れの言葉を発し、身動きできないでいる中、お父様が私を抱きながら静かに
言った。
「ウルリカが極光の申し子だからだ。グスタフ様が天に上られるときに、極光の女神にウルリカの後見を再度お頼みになられたのだろう。さあ、ウルリカ、あの極光の後の空に上られたグスタフ様にお祈りしなさい」
「はい」
私は、刻々と色調を変える緑の光を全身に浴びながら、亡くなった者への弔問の歌でもあり、天への賛歌でもある極光の歌を歌い始めるために、天に向かって両腕を広げ、喉を思いきり
伸ばして揺れ輝く不思議な色に染まっていくだろう透明な声を放った。