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北欧神話

2010年7月11日 (日)

北欧神話(80) 第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(2)

第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(2)

ヘイムダールとローケは互いに疲れて死んでしまうまで戦う。火の巨人スルトは叫び声をあげながら彼の隊の先頭に立ち、その火を吹く剣でフレイを殺す。フレイは死ぬ前に愛のために剣を簡単に犠牲にしてしまったことを反省する。それからスルトは世界の残りを炎で包む。すべてが燃え、炎の海の中に沈む。
最後に地球の薄い表面がずたずたに裂け、溶岩、ガス、岩が内部から噴出す。黒い煙の雲が広がり、その熱が地表の生き物すべてを覆う。それは徐々に世界中に広がり、最後にアースゴードにもやってくる。
運命から逃れられるものはなく、世界は破滅する。
聞いているか、ヘイムダールの遠き子孫たちよ。
それからわしに見えるのは静寂と海から生まれた新しい地球じゃ。イグドラシルを巡る世界は再生する。明るく、新鮮に、緑に。川は山の間を楽しく喜びながら音を立てて流れ、空には大きな鷲が小さな獣と魚を探してゆっくりと飛んでいるのが見える。野原にはそよ風が吹き、自然の草がよく生え、新しい太陽が地球の上の軌道で光を放っている。
オーデンの息子達ヴィーダルとヴァーレが草の頭がたれる野原をゆっくり歩いているのが見える。彼らは静かで怪我をしてない。彼らは自分達の中に父の賢さを受け継いでいる。トールの力強い息子達モーデとマグネがかれらと出会う。彼らも怪我していない。彼らは父のハンマー、ミョルネルを持っている。善良の神バルデルと彼の弟ヘーデルは一緒に死 の国から戻ってくる。 
わしにはまた一人の新しい神も見える。力強く、権威あり、すべてをつかさどるもの。
二人の健康な人間もまた生き残った。イグドラシルの幹の中に守られていて、火の中でも怪我を負わなかった一人の男と一人の女、リフとリフトラシル。
アースゴードでは神々が新しい住居を待っている。太陽よりも美しく金で飾られたところ。芽生えたばかりの緑の芝には生き残った神々の子ども達が祖先から受け継いだ遊びの金片を見つける。イグドラシルの周りに昔存在した平和の時代を思い出させるものを。
イグドラシル、最も美しく、最も素晴らしい樹。

                             (了)    

北欧神話(79) 第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(1)

第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(1)

 さあ、ヘイムダールの神の子孫達よ、時は経つ。けれどもアースゴードの運命の女神達は静かに時の糸を紡ぎ、織物を織っている。
 わしは巫女だからその糸が織り成す模様を見ることができるのを知ってるじゃろう。わしは未来の運命を見ることができる。わしはこれからわしたちに待ち受けていることを知っている。
 最初にわしは人間の記憶にある限りのひどい冬を見る。凍った青い三つの冬が続く。春も暖かさも受け入れないひどい冬が続く。うなる雪、鞭のような風嵐、噛みつくような寒さ。太陽はどんどん弱くなり最後には真っ黒になってしまう。雪、風以外の天気はなくなってしまう。
 ひどい冬の後には乾きと不幸が訪れる。地球はひどく揺れ始め、地表の裂け目から炎と蒸気の雲が噴出してくる。熱は天まで震えて昇り、星々は天の位置を離れ互いにぶつかり合う。
 地面が揺れるとき、世界中の拘束されていた獣が解き放たれる。獰猛な竜ニードヘッグはイグドラシルの根を離れ、悪の戦士達に続く。ガルムはそこらじゅうを走り回り、その憎しみを咆哮する。地震によってフェンリスウルヴェンの拘束が解け、ミッドゴードの蛇は大きな波を作り、それは陸に押し寄せてそこのすべての生き物をさらってしまう。悪の生き物が洞穴の中にうずくまり、その拘束を解くのに成功するのが見える。彼の横にはシーギンが座っている。彼女は夫ローケの傍らにずっととどまり続けていたのだ。彼が地球の滅亡を叫んでいたのにもかかわらず。
 イグドラシルは揺れ動く。
 暗い力が終結し大きな軍隊となり、ビフロストの橋に来ようとする。橋は大きな音を立て、裂ける。ヤラルの角笛を掲げ、警告の知らせを吹くヘイムダールの周りには白い輝きが見える。神々は角笛を聞き、会議に急ぐ。彼らは死の国と地下の力に対する最後の戦いに備える。斧のときであり、嵐のときであり、剣のときであり、狼のときである。
 戦いに飢えた巨人達を乗せた恐ろしい船が嵐の海を渡ってくる。それはナーゲルファールの船だ。それは死人の爪を何千も集めてくつったものだ。
 死人の爪はちゃんと切っておくべきなのだ。世界の終わりが来るときにそんな船がさらに造られないように。
 戦力が対峙したとき、トールは直ちにミッドゴードの蛇に戦いを挑んだ。蛇の毒液より彼の攻撃の方が早かったが、トールはその毒でやられてしまう。フェンリスウルヴェンはオーデンに飛び掛り彼を八つ裂きにしてしまう。ヴィーダルが父を救うために走り寄る。彼は自分の厚い鉄の靴を狼の口に差込み、それから彼の上あごを裂く。けれどもヴィーダルの助けは間に合わず、神々の王は死んでしまう。

北欧神話(78) 第二一章<ローケが追われる>(3)

第二一章<ローケが追われる>(3)

 神達はそれぞれの弓を取り出し、狼を射た。それから彼らは苦しんでいるローケに向かって、その狼の腸に新しい仕事を与えるつもりだと言った。
 腸は太い綱となりローケの周りに結び付けられた。縄の最後の結び目が結ばれたときにそれは鋼鉄に変わった。
 洞穴で何が行われているかの知らせを受けたスカーデが急いで駆けつけてきた。彼女の父の死の原因を作ったローケに、復讐するチャンスがようやく近づいたのだ。彼女は背中に大きな袋を背負っていた。彼女はそれをローケの前にぶちまけるつもりだった。
 ローケはゆっくり彼の方に向かってくる袋をじっと見つめた。スカーデが袋の紐を緩めるととぐろを巻いた大きな蛇が現れた。スカーデは急ぐことなく、半裸で縛りつけられているローケの体の上にその蛇を縛った。すぐに蛇の口から腐った毒液が滴り落ち始め、その毒液がローケの体に落ちるたびに、彼は痛みで体をぴくぴくさせたので、彼が縛り付けられている台と洞穴全体が揺れた。
 ローケの信頼する妻シーギンはローケを助けるために洞穴に急いだが、毒が彼に落ちるのを見ると、大きな鍋を取りに戻った。彼女はそれで毒を受けるつもりだった。彼女はその日以来ずっとローケを毒液の苦しみから救っているのだが、時々鍋をからにする必要があるときにはその場を離れねばならず、そのときには毒液がロー蚊の体の上に落ちるのだった。そうするとローケは体を震わせ、ミッドゴード全体が揺れるのだ。あんたがたは時々起きる地震の事を聞いたことがあるだろう。今そのわけがわかったじゃろう。

北欧神話(77) 第二一章<ローケが追われる>(2)

第二一章<ローケが追われる>(2)

 トールとティールは、暖炉の中で炭のようになった薪の間から飛び出している魚とり用の網の残骸を指で確かめているクヴァセルを探索するように見た。
「この家の中には話をしてくれるものは居ないが、私の目は網を見ている。我々の友はある魚のことを考えていたようだ。それがどのように捕まえられるかを研究していたようだ。」
 神達は炎の中から拾い出した網の残りを詳細に調べた。
「この家に居た誰かはどうやってこのような細かい目の網を逃れればいいかを考えていたようだ」とクヴァセルは鼻で笑った。「同じような細かい目の網を作ろう。これは良くできている。」
 網を作り終えたとき、三人の神達は川のところに降りていった。彼ら両岸に立ち、彼らの間の水の中に網を沈めて下流のほうに向かった。
 最初の試みはうまくいかなかった。彼らが近づくとローケは網の下を逃げた。二回目の試みでは網に重みがかかり、川底を滑った。ローケは川の下の方に泳ぐことを余儀なくされたが、彼が恐れていたように網はどんどん近づいてきた。彼は上流に上らないといけないとわかっていたので、網を越えて果敢に高く跳び上がった。彼は近づいてくる浅い湖に追い込まれたくなかったのだ。
 神達は魚が宙で輝くのを見て、戦術を変えた。彼らのうちの二人が上流に網とともに走り、一番背の高いトールが水の真ん中に入って、ふくらはぎまで浸かり、網を避けて飛び跳ねる魚を捕まえるのだ。
 ローケは浅い湖に向かってはいけないことを知っていたので、トールが川の中に立っているにもかかわらず、神達が再び近づくと網を越えて跳んだ。
 トールは魚を捕まえることに成功したが、手が滑って、あわてて力を入れなおしてようやく尾びれの手前で止まった。だから鮭は今でも尾びれのすぐ前が一番細くなっているのさ。
 神達はあまり言葉を交わさずとらわれたローケを洞穴の中に引きずっていった。そこで彼らは無言で三つの平らな岩で四角く背の高い台を作った。それからローケをその上に置き、太い縄で彼を台に縛り付けた。ローケは縄が締め付けられるとその痛みで息ができなくなり、岩板の鋭い縁に押し付けられた。
 神達は、ローケとその妻シーギンの間にできた息子達ヴァーレとナルフェを連れてくるための洞穴を出た。
 ヴァーレとナルフェが洞穴に着き、彼らの父が縛り付けられているのを見たとき、神達はローケをさらに罰するためにナルフェを狼に変えた。
 狼になったナルフェは直ちに兄に襲い掛かり彼をずたずたに噛み裂いてしまった。

北欧神話(76) 第二一章<ローケが追われる>(1)

第二一章<ローケが追われる>(1)

 オーデンが不在の間にアースゴードでは神々の憎しみが増していた。ローケを捕まえて、正当な罰を与えねばならない。彼は悪そのものであり、その前進を食い止めねばならない。
 ローケがヘーデルの手を操作して兄弟殺しを引き起こしたときから、彼はミッドゴードの荒れた山地に隠れ住んでいた。人が何かを建てられるところから最も離れた一番奥のところ、激しい流れの滝と冷たい湖に面して、彼は家を建てた。
 家には4つの扉があった。それぞれが東西南北に向かっていて、彼はどちらの方向も良く見ることができ、神々が彼を追ってきたらどの方向へもすぐ逃げられるようになっていた。
 発見され、囚われの身になるという心配はローケをひどく苦しめ、彼は四六時中ずっと可能な逃げ道について考えていた。けれども落ち着いて良い計画を立てるのは難しかった。冷たく、変化の無い山はローケを怖がらせた。ローケは徐々に、どこに隠れようと羽を持った神々のいろいろなスパイが彼を見つけ出すだろうと確信するようになった。カラス、鷹、鷲を見かけるたびに彼の心臓は止まりそうになった。
 彼は日中鮭に変身するようになり、水の中ですごす時間がどんどん長くなった。水の中に居れば羽を持ったスパイ達の目を気にせずに済む。夕方遅くになってからかれはようやく滝からあがって家にそっと入り、火の前に座って木の実を割った。彼が魚ですごしていることがわかれば神々は網をかけて捕まえようとするかもしれない。だからその網を逃れる方法を考えねば。ローケは自分で網を作り、それをだんだん目が詰まったものにした。彼はその網を水の中に入れてみて、肴がそれをのがれる一番の方法はそれを飛び越えることだと判断した。上流に向かって。漁師は網を持って上流に移動するのは難しいだろうから。
 ある晩オーデンが玉座に長く座って世界を見渡しているとき、彼は突然ローケが水からあがって山の中の家に入るのを見た。
 追われる動物のように感覚が鋭くなっているローケは、すぐに誰かに見られていることを感じた。彼は網を炎の中に投げ入れ、滝の暗い水の中へと急ぎ、また鮭に変身した。
 けれどもそれは遅すぎたのだった。アースゴードではオーデンがトールとティール、それに彼らの友人クヴァステルに使いを送っていた。ローケの隠れ家が明らかになったので、彼らは直ちにミッドゴードへ向かって出発した。
 神達がローケの家を見つけるまでにそれほど時間はかからなかったのだが、家はもぬけのからだった。
 賢いクヴァステルは家の中を見回し、ほとんど燃えつきかかっている火の中にヒントを見つけた。
「我々が探しているものについて、話すことにしよう」と彼は賢そうな笑い方で言った。

北欧神話(75) 第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(2)

第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(2)

「ニョードについて語ってくれ」と彼は言った。
「ああ。ヴァーナへイムからの海の神だ。アースゴードに友情の人質として連れてこられた。年の最後においてヴァーナへイムへ戻る。」
 オーデンは時の終わりが近づいており、ニョードは生き残るということを知った。それは彼を慰めた。
「この時についてはもっと語ることがあるか?」
「狼がオーデンを殺すが、彼の息子ヴィーダルがその復讐をする。オーデンの息子ヴィーダルとヴァーレは最後の闘いを生き残る。トールの息子マグネとモーデもだ。イグドラシルに守られて人間二人が生き残り、彼らは子孫を残す。」
「あんたはすべての答えを知っているな、賢きヴァブトルドネル」とオーデンはもごもご言った。彼の息子が彼の敵を討つということに彼は安心した。彼自身の死については彼は怖くなかった。
 巨人は客を見つめ、問いかけを諦めたのかを確かめた。最後の質問が出てくるところだった。
「では息子バルデルを葬礼の舟に乗せる前にオーデンは何をバルデルの耳に囁いたか?」と客は問うた。
 巨人は肩をすくめ、突然の客の正体がわかったのがその目の中に見て取れた。
「だれもあんたが何を言ったかはわからないよ、オーデン。あんたはすべての中で最も賢い。」
 問いかけに答えられなかったものは命を失う。オーデンは彼の質問の答えを得、賢い巨人がこの世からいなくなったのさ。

北欧神話(74) 第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(1)

第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(1)

 オーデンはある朝いつものように探索するカラスを解き放ったが、その後玉座に座り深い思索に埋没していた。フリッグが時々覗き込んだが、彼は彼女がそこにいることすら気づいていないようだった。食事もしなかったが、夕方が近づくとフリッグは、夫の喉の渇きを癒すべく、杯を持って彼のところへ行った。オーデンはワインを少し飲み、彼の妻を悲しそうに見た。
「私たちのバルデルは戻ってこない。そしてそれには私にわからないことがまだたくさんある」と彼はふさぎこんで言った。「ヴァブトルドネルのところの客になりに行くのが良いと思う。」
フリッグは夫の頑固な視線に会った。
「巨人のヴァブトルドネル?一番賢い巨人?そんな危険なことを?賢すぎる彼は危険な敵になるかもしれないわ。」
 オーデンはうなずいた。
「私はもういろいろ見てきたからね。有名なヴァブトルドネルの広間を見て見たいのだ。」
 賢さに対する夫の希求を知っているフリッグは彼の頬に重々しくキスをして、彼のたびの無事を祈った。
 ガグンロードという名の一人の放浪者が数日後ヴァブトルドネルの豪勢に飾られた広間の扉をノックした。
ヴァブトルドネルがその客に座るように勧めると、その客は喉の埃を払うために何か飲み物が欲しいと言った。
「さて、あんたはどなたなのかな?」と巨人は穏やかに、しかし透視するような視線で水を飲んでいる客を見た。「放浪するものよ、この年取った主人と同じくらいに物知りであるかな?」
 ガグンロードと名乗った男は杯からぐっと水を飲んだ。
「飾らない男は重要でないおしゃべりはしない賢さを持っているものさ」と彼は静かに言った。
巨人は眉を吊り上げ、杯を飲み干した。
「ごくっん。そうか?わかった。重要なことが起きているのだな。我々は人々の上に日中を引っ張る馬は朝であることについて話せばよいだろう。」
 ガグンロード、つまりヴァブトルドネルの前で他人に成りすましたオーデンは、うなずき、巨人に向かって日の馬シンファクセについてのあらゆることを述べた。
 巨人は耳を傾け、他の重要なことについて尋ねた。長い間対話をしてから、彼は黙った。
「あんたは物知りの客だ!もっと話をしよう。相手の問いに答えられなかったら頭を失うこととしよう」とヴァブトルドネルは決めた。
 オーデンはうなずいた。今度はオーデンが巨人に問いかける番だった。さあ彼が知る必要があることの答えを得なければ。

北欧神話(73) 第十九章<ヘルモードが勇敢な旅をする>

第十九章<ヘルモードが勇敢な旅をする>

 バルデルのお葬式の翌日、疲労したオーデンは神々を新たな会議に召集した。
「友よ、よく聞いてくれ」と彼は小さな声で言った。「我々の息子バルデルは死んだ。しかし我々は彼を取り戻そうとするのだ。」
 神々と女神達は注意深く耳を傾けた。
「ヘルモード、お前が最大の信頼を得る」とオーデンは言い、彼の息子たちのうちで一番勇気があるヘルモードを見つめた。「お前にスレイプネルを貸すから、ヘルに行ってバルデルを返してくれるよう交渉するのだ。この危険な旅を遂行できるものがいたとしたらそれはお前しかいない。」
 ヘルモードは無言で父を抱き、ヘルに向かって馬を駆った。スレイプネルは注意深く進み、9日にわたる長旅の後で彼らは無事に地獄の女神ヘルの恐ろしい住居にたどり着いた。
 ヘルモードはローケの根性の捻じ曲がった娘と、バルデルがアースゴードに戻ってくるためにどうしたらいいかを長時間にわたり交渉した。ヘルモードがイグドラシルの世界のすべてのものが善良の神バルデルを傷つけないと喜んで約束したということを語るのを、憎たらしいヘルは興味がなさそうに聞いていた。
「皆がバルデルに起こったことについて悲しんでいるのは大げさだろう」と彼女は短く言った。
「いや、そうじゃない。皆が皆バルデルの死を悲しんでいる」とヘルモードは答えた。「なんだったらそれを証明させてくれ。」
 ヘルは皮膚の無い部分の顔からばらばらの髪の一筋を払った。ヘルモードは彼女の視線の中に、彼をアースゴードに帰すものかと思っていることを見て取った。
「では、こうしよう」と彼女は最後に言った。「九つの世界のすべてのものがバルデルの死を悼んで泣いたときにまたここに戻っておいで。そのときまた考えよう」と彼女は言い、彼女の大広間をうめきながら足を引きずり出て行った。
 ヘルモードはこの伝言を持って、拍車をかけてアースゴードに戻った。
 皆が泣いた。鳥も、風も、海も、動物も、人間も、植物も。フリッグはアースゴードの若々しい芝に沈み込み、午後だというのに露をいっぱい溢れさせた羽衣草と一緒に泣いた。
 巨人までもが、善良がなくなってしまったことを嘆いて泣いた。一人を除いて、すべてのものが泣いた。
 神々は最後にその生き物を見つけ出した。それは遠くの洞穴に隠れていたテックという名の女巨人だった。テックは、バルデルの死を悼むかと聞かれたときに、ただ軽蔑するように意地悪く鼻で笑っただけで一言も答えなかった。約束や脅しをかけても彼女は態度を改めなかった。だから神々はついに世界に一人だけバルデルの死を悼んで泣かないものが居ると認めざるを得なかった。彼らにはテックが実際には誰なのかがわかっていたが、どうすることもできなかった。
 ローケは神々の側からの好意の最後の一オンスを使ってしまっていたのだった。もはや彼は彼らの視界から消されねばならなかった、永久に。

北欧神話(72) 第十八章<バルデルが射殺される>(2)

第十八章<バルデルが射殺される>(2)

 彼の問いに答えは無かった。ローケはすでに姿を消していた。
 死んだバルデルと、何も知らずにいる兄弟を目の当たりにして、すべての神々は心が砕けるような悲しみに襲われ、おおっぴらに泣き始めた。
 ティールとトールは彼らの半分血のつながった盲目の兄弟に走り寄り、宙を探っている彼の腕を取り、何が起こったのかを彼に告げた。
 ヘーデルの顔は真っ青になり、彼は草の上に倒れた。
 沈黙した神々はゆっくりと立ち上がった。慣習により彼らのうちの一人がヘーデルの犯したことに報復をしなければならないのだった。彼らには誰が黒幕なのかがわかっていたが、矢を放ったのはヘーデルの手だったのだ。二重の不幸だった。オーデンの息子はもう一人死ななければならないのだ。
 悲しみがアースゴードを覆った。誰もがたたずみ、実際に悪事を働いたものがどこに隠れているのかについては誰も注意を払わなかった。彼が罪をあがなうべきときだろう。バルデルの運命と新しい悲しみ、つまりそれに続く避けられない悲劇がすべてに影を落としていた。

 バルデルは空色の夏の宵に葬られた。彼の父と母は彼を最も大きく最も美しい神々の長い舟に乗せた。それはあまりに立派で重かったので彼らは水辺までそれを押していくことができなかった。力持ちで知られるヒロッキンという名の巨人が狼に乗ってやってきて手助けをした。
 バルデルの愛する妻ナンナは夫の死を悼んでずっと泣き通しだったが、心臓が破れて倒れてしまった。神々は彼女が夫と一緒に死の国に旅立ちたがったことがわかったので、彼女をバルデルの傍らに横たえた。
 その大きな舟が水に向かって滑っていくとき、最後の陽光が水に跳ね返った。
 オーデンは水の中に進み、燃えるたいまつを舟の中に投げ入れた。舟の中の炎はすぐに広がり、空の色と溶け合った。神々は水辺にたたずみ、バルデルとナンナの最後の旅を見守った。

北欧神話(71) 第十八章<バルデルが射殺される>(1)

第十八章<バルデルが射殺される>(1)

 オーデンはローケに罪を与えねばならないことがわかっていたが、今は、エーギルのところでのローケの信じられない振る舞いについて考えることよりももっと重要なことがあった。彼はバルデルを傷つけないという約束をすべての生き物、植物から取り付けている最中だったのだ。
 すべての約束が集まったので神々はそれがちゃんと効力を持ち続けているかどうかを試して楽しもうと思った。そして自分の死はもうすぐだと確信しているバルデル自身が、あらゆる武器の的になることを自分から承知したのだった。
 剣が彼に打ち下ろされたが彼を傷つけることはできなかった。彼に投げられた石はやわらかく跳ね返った。ナイフも彼には刺さらなかった。そしてすべての矢は彼に当たらなかった。神々はとても面白がった。
 宴会でほとんどすべての神々を敵に回し隠れていたローケは、藪の後ろに潜んでそれを見ていた。すべては終わったのだ。彼はもうアースゴードですることが無かった。彼はアーサの神々と一緒に暮らそうとしたのだがそれは無理だったのだ。オーデンは最初から彼の子ども達を追い出そうとした。あの義兄弟はそういう奴なのだ。さあ今は、ローケが同じことをする番だ。オーデンの子ども達を退治してやるんだ。
 ローケはちょっと笑い、細心の注意を払ってヤドリギで作った薄い彼の矢を削いだ。彼は神々がバルデルで遊んでいるのを朝の間ずっとよく観察した。そして神々の一人ヘーデルがずっとそれに加わらず横に立っているだけなのに気づいた。バルデルの兄弟であるヘーデルは目が見えなかったから、弓矢や槍を持っていなかったのだった。
 ローケはヤドリギで作った彼の矢を満足そうに眺め、それを彼のほかの矢と一緒にして一人ぼっちのヘーデルのところに行った。
「さあ、これを!俺の弓を取って他の奴らと同じように遊べよ」と彼は言った。「あんたがこの遊びに加わるのは当然のことだ。バルデルはあんたの兄弟なんだからな。さあ、これに触ってみろよ、、」と彼は言い、バルデルの手に弓と矢を握らせた。盲目のヘーデルは突然遊びに加わることができるようになってうれしくなった。
「バルデル、バルデル!これを見なよ!」と彼は自慢げに叫んだ。
 ローケは急いで矢の方向を定め、ヘーデルの手がそれを弓から放つのを手助けした。
 矢は狙い通りにバルデルの心臓に突き刺さった。彼は床に倒れ、一言も発することなく死んだ。
 野原では墓場のようにシーンとなった。ヘーデルだけが何が起こったのかを理解していなかった。
 周囲に抑えたような啜り上げを聞いたとき、彼はローケを探し宙を手探った。
「ローケ、どこにいるんだ?」と彼は不安そうに尋ねた。「なんか変なことが起こったのか?私は誰かを傷つけたのか?」

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