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2010年7月

2010年7月28日 (水)

いろいろ(9) スワンレイクとマノン

バレエは良い席で観るのが好き♪

というわけで秋のシーズンの「白鳥の湖」(9月)と「マノン」(12月)の切符を早速ゲット♪

でも、白鳥の湖のかぶりつき席630クローナ(約7000円、サービス料込み)はまだしも、マノンの二階正面席835クローナ(約9000円、同)は高いと思うなぁ。。ま、日本に比べたら安いのだろうけれど。

ラトビアのリガでは来週&再来週に「眠りの森」、「ジゼル」が上演されるみたいだけれど、もう良い席は残っていないだろうしぃぃ。やっぱロシアに行くしかないのかなぁ。。でもサンクト・ペテルスブルグでジゼルを見たときにはスチール椅子だったんだよねぇ<擦り切れていてもやはりビロードの椅子に座りたいと思ったのであった。

2010年7月25日 (日)

いろいろ(8) 小川洋子と角田光代

数日前までの真夏日とはうって変わって肌寒いほどの雨模様の休日、図書館から借りて読んだのは角田光代の「森に眠る魚」と小川洋子の「ミーナの行進」。

「森に眠る魚」は<お受験>に奔走する数人の母親の物語。「ミーナの行進」というのはカバに乗って通学する病弱なミーナとその不思議な家族の物語。二人とも好きな作家だけど、やっぱり角田光代は大衆文学で小川洋子は純文学という違いがあるような気がする。どっちが偉いというわけではないけれど。

もうちょっとしたら何か書き始めてみよう、と思う今日この頃(#バイキングの娘も寝たままだし、極光の女神も<無害化>作業が頓挫したままだし。。)、体力を養わねば。

2010年7月23日 (金)

いろいろ(7) スウェーデン一の日本レストランへ飛行機に乗っていく

日帰りか一泊かでどこかに飛行機旅行する計画は、SASが夏の間国内線を大幅にカットしたためいろいろ組み合わせが難しくしばらくそのままになっていたのだけれどここに来て急遽的が絞られた。

友人が伝説の日本レストラン(田舎にあって、夕食のみで、1日数グループしかとらず、3日前までに完全予約制。火~土営業)にいってみたらとても良かったという感想メールをくれたのだ。このレストランはもう10年以上前からスウェーデン一(北欧一かも?)という評判だったのだけど、車がないとたどり着けないところだったのであきらめていたのだった。それが1,2年前に火事で焼けたため、新しく市内に移ったのだそうで歩いてもいける距離になったのだと。味にうるさい友人も値段もリーズナブルだし、天ぷらなんて最高だったとベタボメ。

これで旅の目的&行き先確定♪ホームページを見ると8月1日から24日まで夏休みとのことで、では善(?)は急げで7月31日(土)なんかどうかしらと思って飛行機チェックしたら大丈夫そう♪。。ところがっ!

ホテルに空きが無い。。地方都市ゆえ4つ星から星無しまで8つしかないホテルのうち6つが満杯で、残りの2つもソファーベッドで1800クローナ(約2万円)という、なんじゃこれ?値段。。

8月末まで待つしかないかなぁ。。

2010年7月22日 (木)

北欧の詩(118) 「そして今は夜。。」

「そして今は夜。。」

そして今は夜、尾根と湿原の上に

月は橋の傍らの家の上高くに。

小さな星が優しい灯台のように輝く

王座の下の青い海に、

星々は私達に愛と夢と春をもたらす

思慕と裏切りと産みの涙も

私達を狂人にする熱中も私達に与える、

高く褒め称えられ、歌に歌われ、そして待ち伏せの罠に満ちているもの。

ダン・アンデション(Dan Andersson、スウェーデン、1888-1920)、‘Och  nu var det natt…1918-1920  i Efterlämnade dikter

2010年7月19日 (月)

いろいろ(6) プリンス・オブ・ペルシャ

猛暑の中、映画を見てきました。Pricne of Persia。Disney映画ですね~。ちょっと人がバタバタ死に過ぎたり、「時を戻すことのできる短剣」という設定に説得力がないのが玉に瑕。。

だって、時を戻すことができて、つまりは未来を変えることができるのなら、映画が始まって10分で、国を乗っ取られたプリンセスが時を戻したらそれでThe Endだと思うんだけど。。

ま、固いことは言わないのがディズニーのお約束。今月末には別の面白そうなの(マジシャンの弟子、みたいな案内だった)が公開されるみたいだし。

プリンス・オブ・ペルシャはもともとゲームだったのだとか。ゲームといえばドラクエ9は最初のが700時間、二番目の(日本滞在中に買ってやり始めた)が150時間くらいプレイ中。この才能(ど根性ともいふ)をなにかに使えないものか。。

2010年7月17日 (土)

いろいろ(5) 旅に出たい

現在夏休み中なんだけど、今回の休みは家の片づけをしたりただひたすらぐーたらするためのもの。

これとは別に8月の初めに1泊2日くらいでどっかに旅行に行きたいなと思っているところ。エコノミーでもどっかに飛べばSASのポイントがいっぱいもらえるキャンペーンに応募したので。

南欧や中欧は一般観光客でいっぱいだろうし、やっぱ近場の北欧のどっかかなぁ?ノルゲに行きたいと思うのだけれど、あの細長い国はほとんどどこに行くのにもオスロで乗換えということになって非常に時間の効率が悪いのよね。ベルゲンだったら一日1便とんでもない時間にストックホルムから直行便があるんだけど、ベルゲンに行くのだったらフィヨルド観光もしなくちゃ損じゃないかという気になっちゃったりもして、やっぱ時間が足りないし。

感動のアイスランドを再訪したいとも思うけれど、火山がまた爆発して帰れなくなったら大変だしぃ。。

フィンランドは秋にとっておきたいし。デンマークはコペンは飽きたし。

国内旅行だと日帰りかなぁ。そんなにまでして行きたいところってあまりないなぁ。。

でもまあ、温めているうちにアイデアがわいてくるかも?

2010年7月15日 (木)

いろいろ(4) 「悼む人」

ストックホルム市立図書館別館の国際図書館で天童荒太の「悼む人」を借りて読んだ。

「永遠の仔」の方がより私好みだったけれど、「悼む人」もちゃんとした小説だなぁと思った。これだけ書くのは体力が要るだろうなぁ。今日から8日間の夏休みなんだけど、その間にちゃちゃちゃとなんか書いてもダメだろうなぁ。

それよりもなにより暑くて執筆活動なんかできそうもないし。

2010年7月14日 (水)

いろいろ(3) バナーにならないバナ

バナーが画像になりませぬ(泣)。

ま、「○○バナー」と字でことわっているのだからそういう画像だと思えば(苦)。。

記事の中に貼り付ければ良いのかもしれないけど、そーゆーのって見苦しいじゃん?

ということで当分このままということで(悔)。

2010年7月12日 (月)

いろいろ(2) お引越し大体終了

引越し作業が大体終わりました。

でも、バナーが字になっちゃうのと、本文の行間設定がヘンなのが直らない。。

ま、そのうちどうにかなるでせう。

ということで、宜しく~♪

2010年7月11日 (日)

バイキングの娘(22) バイキングの音楽

先日(といってももう3ヵ月も前。。)オスロに行ったときに購入した「ヴァイキングの音楽-I Dereamt me a Dream」のCD(デンマーク製)をようやく聴いた。中世音楽とよく似ていた。
ヴァイキングのメロディーはやはりちょっと物悲しく、心の表面を擦っていくような感じだったろう。

バイキングの娘(21) バイキングの経済学

先日、オスロのヴァイキング船博物館のお土産ショップで日本語の本を買いまして:熊野聡著『ヴァイキングの経済学』。
経済学の専門家がアイスランド・サーガなどをもとにヴァイキング時代の経済を分析したもので面白かったです。
たとえば、なぜ、ヴァイキングの墓から大量の金銀財宝が出てくるのか、について世界でいろいろな学者の説があるのだそうです。曰く、死者の国に持っていって死後の世界で裕福に暮らしたかったから、とか、一時的な財宝の隠し場所でいずれ子孫が暴くはずだったのにそのチャンスがなかったから、とか。
熊野氏は、サーガを読んでいく過程で、上の節はどちらも間違いである、と主張します。
で、彼の結論は「(墓に埋葬された人が)他の誰にも使わせたくなかったから」!う~む、、なんとなく、納得できちゃうかも。。

あー、またゆっくり博物館めぐりをしたいなぁ。。
レイキャビクとか、ロフォーテンとか、まだいったことのないヴァイキング博物館がおいでおいでをしているのがひしひしと感じられるし。。

バイキングの娘(20) バイキング船博物館

オスロのヴァイキング船博物館には船がいっぱいあってびっくりしました。
「舟」というよりは「船」なの。
細部の細工よりも全体の造形がとても美しいと思いました♪

Vikingskepp1

Vikingskepp2

極光の女神(1) 「極光の女神-プロローグ」

「極光の女神」

-プロローグ-

「お父様、まだまだ先なのですか?」
「ああ、ウルリカ。起きてきたのか。もう少しだ。寒くはないか。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。グンがいっぱい毛皮を巻いてくれたので」
「そうか。では、毛皮の中に入って寝ていなさい。明け方には村につくだろう」
「はい。お父様、お気をつけて」
私はまた橇の荷台の毛皮の寝袋の中にもぐりこんで、目をつむった。踏み固められた雪道をシャリシャリと速やかに進んでいく橇は、時々、馬車のわだちに落ちかかってガタンと揺れて、私の眠りを妨げるけれど、その時以外は私はうとうとと温かい毛皮につつまれて夢うつつの状態だった。背の低いがっしりとした馬がニ頭、橇を引っ張っていく。
父と家来のトールビヨーンがその二頭の馬に跨って、凍りつく息でヒゲもじゃの顔面を真っ白にしている。前と後にそれぞれ二頭ずつ、控えの馬が続き、毛皮に身を包んだ屈強な男たち達がそれらの馬に跨っている。
 私を産んだ翌々日に亡くなってしまったという母。その母の父、つまり私の母方の祖父が危篤だという知らせが届いて、父は私を連れて、私を溺愛してくれた祖父のところへ最期
の挨拶に行くことにしたのだった。祖父の住む村へは急ぎ馬でも一日かかる距離だった。
増してや今は厳寒の季節。雪が降っていないだけでも幸運だったが、祖父の臨終に間に合うかどうかはまったく分からなかった。
「急がねばならぬようだ、トールビヨーン」
「は?スティーグ王、なにか、その・・兆候でも?」
「胸騒ぎがする。あっ」
「あっ」
二人の叫び声を聞いて、半覚醒状態だった私はまたもそもそと毛皮の寝袋の中から、息も凍る外気の中へ顔を出した。
満天の星の中を、すうーっと流れ星が流れていくのが見えた。
「ああ、それでは、おじい様は今、星に迎えられたのだわ・・」
と私は悟り、その瞬間、ぶわっと涙が溢れてきた。外気の中で泣くと、そのまま涙が凍って皮膚を痛めて危険なので、私はまた毛皮の寝袋の中にもぐりこんで、声を立てずにさめざめと泣きつづけた。
村につくと、おじい様の下僕達がわらわらと私達を囲んだ。
「スティーグ王!」
「ウルリカ様!」
「ウルリカさまぁ・・一足違いでございましたぁ・・。グスタフ様はたった今・・わああぁ・・」
グスタフおじい様の世話係りだったスヴェアが、わあわあと泣きながら私をぎゅっと抱きしめた。お父様、つまり、スティーグ王は、私とスヴェアの両方を抱きかかえるようにして、無言で家の中に入るべく入り口の方向にそっと押した。
「ああっ」
「おおっ」
その時、皆がまた驚きの声をあげた。満天の星を打ち消すような緑と青と橙色の光が天に溢れ、ななめの筋を描きながら、大きく波打って私達のところへ降りてきたのだった。
「こんな・・すごい極光は初めてだ・・」
「こんなに不思議な色は・・なにか特別なことが・・」
皆が口々に怖れの言葉を発し、身動きできないでいる中、お父様が私を抱きながら静かに
言った。
「ウルリカが極光の申し子だからだ。グスタフ様が天に上られるときに、極光の女神にウルリカの後見を再度お頼みになられたのだろう。さあ、ウルリカ、あの極光の後の空に上られたグスタフ様にお祈りしなさい」
「はい」
私は、刻々と色調を変える緑の光を全身に浴びながら、亡くなった者への弔問の歌でもあり、天への賛歌でもある極光の歌を歌い始めるために、天に向かって両腕を広げ、喉を思いきり
伸ばして揺れ輝く不思議な色に染まっていくだろう透明な声を放った。

北欧神話(80) 第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(2)

第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(2)

ヘイムダールとローケは互いに疲れて死んでしまうまで戦う。火の巨人スルトは叫び声をあげながら彼の隊の先頭に立ち、その火を吹く剣でフレイを殺す。フレイは死ぬ前に愛のために剣を簡単に犠牲にしてしまったことを反省する。それからスルトは世界の残りを炎で包む。すべてが燃え、炎の海の中に沈む。
最後に地球の薄い表面がずたずたに裂け、溶岩、ガス、岩が内部から噴出す。黒い煙の雲が広がり、その熱が地表の生き物すべてを覆う。それは徐々に世界中に広がり、最後にアースゴードにもやってくる。
運命から逃れられるものはなく、世界は破滅する。
聞いているか、ヘイムダールの遠き子孫たちよ。
それからわしに見えるのは静寂と海から生まれた新しい地球じゃ。イグドラシルを巡る世界は再生する。明るく、新鮮に、緑に。川は山の間を楽しく喜びながら音を立てて流れ、空には大きな鷲が小さな獣と魚を探してゆっくりと飛んでいるのが見える。野原にはそよ風が吹き、自然の草がよく生え、新しい太陽が地球の上の軌道で光を放っている。
オーデンの息子達ヴィーダルとヴァーレが草の頭がたれる野原をゆっくり歩いているのが見える。彼らは静かで怪我をしてない。彼らは自分達の中に父の賢さを受け継いでいる。トールの力強い息子達モーデとマグネがかれらと出会う。彼らも怪我していない。彼らは父のハンマー、ミョルネルを持っている。善良の神バルデルと彼の弟ヘーデルは一緒に死 の国から戻ってくる。 
わしにはまた一人の新しい神も見える。力強く、権威あり、すべてをつかさどるもの。
二人の健康な人間もまた生き残った。イグドラシルの幹の中に守られていて、火の中でも怪我を負わなかった一人の男と一人の女、リフとリフトラシル。
アースゴードでは神々が新しい住居を待っている。太陽よりも美しく金で飾られたところ。芽生えたばかりの緑の芝には生き残った神々の子ども達が祖先から受け継いだ遊びの金片を見つける。イグドラシルの周りに昔存在した平和の時代を思い出させるものを。
イグドラシル、最も美しく、最も素晴らしい樹。

                             (了)    

北欧神話(79) 第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(1)

第二二章<巫女がこれから起こることについて明らかにする>(1)

 さあ、ヘイムダールの神の子孫達よ、時は経つ。けれどもアースゴードの運命の女神達は静かに時の糸を紡ぎ、織物を織っている。
 わしは巫女だからその糸が織り成す模様を見ることができるのを知ってるじゃろう。わしは未来の運命を見ることができる。わしはこれからわしたちに待ち受けていることを知っている。
 最初にわしは人間の記憶にある限りのひどい冬を見る。凍った青い三つの冬が続く。春も暖かさも受け入れないひどい冬が続く。うなる雪、鞭のような風嵐、噛みつくような寒さ。太陽はどんどん弱くなり最後には真っ黒になってしまう。雪、風以外の天気はなくなってしまう。
 ひどい冬の後には乾きと不幸が訪れる。地球はひどく揺れ始め、地表の裂け目から炎と蒸気の雲が噴出してくる。熱は天まで震えて昇り、星々は天の位置を離れ互いにぶつかり合う。
 地面が揺れるとき、世界中の拘束されていた獣が解き放たれる。獰猛な竜ニードヘッグはイグドラシルの根を離れ、悪の戦士達に続く。ガルムはそこらじゅうを走り回り、その憎しみを咆哮する。地震によってフェンリスウルヴェンの拘束が解け、ミッドゴードの蛇は大きな波を作り、それは陸に押し寄せてそこのすべての生き物をさらってしまう。悪の生き物が洞穴の中にうずくまり、その拘束を解くのに成功するのが見える。彼の横にはシーギンが座っている。彼女は夫ローケの傍らにずっととどまり続けていたのだ。彼が地球の滅亡を叫んでいたのにもかかわらず。
 イグドラシルは揺れ動く。
 暗い力が終結し大きな軍隊となり、ビフロストの橋に来ようとする。橋は大きな音を立て、裂ける。ヤラルの角笛を掲げ、警告の知らせを吹くヘイムダールの周りには白い輝きが見える。神々は角笛を聞き、会議に急ぐ。彼らは死の国と地下の力に対する最後の戦いに備える。斧のときであり、嵐のときであり、剣のときであり、狼のときである。
 戦いに飢えた巨人達を乗せた恐ろしい船が嵐の海を渡ってくる。それはナーゲルファールの船だ。それは死人の爪を何千も集めてくつったものだ。
 死人の爪はちゃんと切っておくべきなのだ。世界の終わりが来るときにそんな船がさらに造られないように。
 戦力が対峙したとき、トールは直ちにミッドゴードの蛇に戦いを挑んだ。蛇の毒液より彼の攻撃の方が早かったが、トールはその毒でやられてしまう。フェンリスウルヴェンはオーデンに飛び掛り彼を八つ裂きにしてしまう。ヴィーダルが父を救うために走り寄る。彼は自分の厚い鉄の靴を狼の口に差込み、それから彼の上あごを裂く。けれどもヴィーダルの助けは間に合わず、神々の王は死んでしまう。

北欧神話(78) 第二一章<ローケが追われる>(3)

第二一章<ローケが追われる>(3)

 神達はそれぞれの弓を取り出し、狼を射た。それから彼らは苦しんでいるローケに向かって、その狼の腸に新しい仕事を与えるつもりだと言った。
 腸は太い綱となりローケの周りに結び付けられた。縄の最後の結び目が結ばれたときにそれは鋼鉄に変わった。
 洞穴で何が行われているかの知らせを受けたスカーデが急いで駆けつけてきた。彼女の父の死の原因を作ったローケに、復讐するチャンスがようやく近づいたのだ。彼女は背中に大きな袋を背負っていた。彼女はそれをローケの前にぶちまけるつもりだった。
 ローケはゆっくり彼の方に向かってくる袋をじっと見つめた。スカーデが袋の紐を緩めるととぐろを巻いた大きな蛇が現れた。スカーデは急ぐことなく、半裸で縛りつけられているローケの体の上にその蛇を縛った。すぐに蛇の口から腐った毒液が滴り落ち始め、その毒液がローケの体に落ちるたびに、彼は痛みで体をぴくぴくさせたので、彼が縛り付けられている台と洞穴全体が揺れた。
 ローケの信頼する妻シーギンはローケを助けるために洞穴に急いだが、毒が彼に落ちるのを見ると、大きな鍋を取りに戻った。彼女はそれで毒を受けるつもりだった。彼女はその日以来ずっとローケを毒液の苦しみから救っているのだが、時々鍋をからにする必要があるときにはその場を離れねばならず、そのときには毒液がロー蚊の体の上に落ちるのだった。そうするとローケは体を震わせ、ミッドゴード全体が揺れるのだ。あんたがたは時々起きる地震の事を聞いたことがあるだろう。今そのわけがわかったじゃろう。

北欧神話(77) 第二一章<ローケが追われる>(2)

第二一章<ローケが追われる>(2)

 トールとティールは、暖炉の中で炭のようになった薪の間から飛び出している魚とり用の網の残骸を指で確かめているクヴァセルを探索するように見た。
「この家の中には話をしてくれるものは居ないが、私の目は網を見ている。我々の友はある魚のことを考えていたようだ。それがどのように捕まえられるかを研究していたようだ。」
 神達は炎の中から拾い出した網の残りを詳細に調べた。
「この家に居た誰かはどうやってこのような細かい目の網を逃れればいいかを考えていたようだ」とクヴァセルは鼻で笑った。「同じような細かい目の網を作ろう。これは良くできている。」
 網を作り終えたとき、三人の神達は川のところに降りていった。彼ら両岸に立ち、彼らの間の水の中に網を沈めて下流のほうに向かった。
 最初の試みはうまくいかなかった。彼らが近づくとローケは網の下を逃げた。二回目の試みでは網に重みがかかり、川底を滑った。ローケは川の下の方に泳ぐことを余儀なくされたが、彼が恐れていたように網はどんどん近づいてきた。彼は上流に上らないといけないとわかっていたので、網を越えて果敢に高く跳び上がった。彼は近づいてくる浅い湖に追い込まれたくなかったのだ。
 神達は魚が宙で輝くのを見て、戦術を変えた。彼らのうちの二人が上流に網とともに走り、一番背の高いトールが水の真ん中に入って、ふくらはぎまで浸かり、網を避けて飛び跳ねる魚を捕まえるのだ。
 ローケは浅い湖に向かってはいけないことを知っていたので、トールが川の中に立っているにもかかわらず、神達が再び近づくと網を越えて跳んだ。
 トールは魚を捕まえることに成功したが、手が滑って、あわてて力を入れなおしてようやく尾びれの手前で止まった。だから鮭は今でも尾びれのすぐ前が一番細くなっているのさ。
 神達はあまり言葉を交わさずとらわれたローケを洞穴の中に引きずっていった。そこで彼らは無言で三つの平らな岩で四角く背の高い台を作った。それからローケをその上に置き、太い縄で彼を台に縛り付けた。ローケは縄が締め付けられるとその痛みで息ができなくなり、岩板の鋭い縁に押し付けられた。
 神達は、ローケとその妻シーギンの間にできた息子達ヴァーレとナルフェを連れてくるための洞穴を出た。
 ヴァーレとナルフェが洞穴に着き、彼らの父が縛り付けられているのを見たとき、神達はローケをさらに罰するためにナルフェを狼に変えた。
 狼になったナルフェは直ちに兄に襲い掛かり彼をずたずたに噛み裂いてしまった。

北欧神話(76) 第二一章<ローケが追われる>(1)

第二一章<ローケが追われる>(1)

 オーデンが不在の間にアースゴードでは神々の憎しみが増していた。ローケを捕まえて、正当な罰を与えねばならない。彼は悪そのものであり、その前進を食い止めねばならない。
 ローケがヘーデルの手を操作して兄弟殺しを引き起こしたときから、彼はミッドゴードの荒れた山地に隠れ住んでいた。人が何かを建てられるところから最も離れた一番奥のところ、激しい流れの滝と冷たい湖に面して、彼は家を建てた。
 家には4つの扉があった。それぞれが東西南北に向かっていて、彼はどちらの方向も良く見ることができ、神々が彼を追ってきたらどの方向へもすぐ逃げられるようになっていた。
 発見され、囚われの身になるという心配はローケをひどく苦しめ、彼は四六時中ずっと可能な逃げ道について考えていた。けれども落ち着いて良い計画を立てるのは難しかった。冷たく、変化の無い山はローケを怖がらせた。ローケは徐々に、どこに隠れようと羽を持った神々のいろいろなスパイが彼を見つけ出すだろうと確信するようになった。カラス、鷹、鷲を見かけるたびに彼の心臓は止まりそうになった。
 彼は日中鮭に変身するようになり、水の中ですごす時間がどんどん長くなった。水の中に居れば羽を持ったスパイ達の目を気にせずに済む。夕方遅くになってからかれはようやく滝からあがって家にそっと入り、火の前に座って木の実を割った。彼が魚ですごしていることがわかれば神々は網をかけて捕まえようとするかもしれない。だからその網を逃れる方法を考えねば。ローケは自分で網を作り、それをだんだん目が詰まったものにした。彼はその網を水の中に入れてみて、肴がそれをのがれる一番の方法はそれを飛び越えることだと判断した。上流に向かって。漁師は網を持って上流に移動するのは難しいだろうから。
 ある晩オーデンが玉座に長く座って世界を見渡しているとき、彼は突然ローケが水からあがって山の中の家に入るのを見た。
 追われる動物のように感覚が鋭くなっているローケは、すぐに誰かに見られていることを感じた。彼は網を炎の中に投げ入れ、滝の暗い水の中へと急ぎ、また鮭に変身した。
 けれどもそれは遅すぎたのだった。アースゴードではオーデンがトールとティール、それに彼らの友人クヴァステルに使いを送っていた。ローケの隠れ家が明らかになったので、彼らは直ちにミッドゴードへ向かって出発した。
 神達がローケの家を見つけるまでにそれほど時間はかからなかったのだが、家はもぬけのからだった。
 賢いクヴァステルは家の中を見回し、ほとんど燃えつきかかっている火の中にヒントを見つけた。
「我々が探しているものについて、話すことにしよう」と彼は賢そうな笑い方で言った。

北欧神話(75) 第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(2)

第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(2)

「ニョードについて語ってくれ」と彼は言った。
「ああ。ヴァーナへイムからの海の神だ。アースゴードに友情の人質として連れてこられた。年の最後においてヴァーナへイムへ戻る。」
 オーデンは時の終わりが近づいており、ニョードは生き残るということを知った。それは彼を慰めた。
「この時についてはもっと語ることがあるか?」
「狼がオーデンを殺すが、彼の息子ヴィーダルがその復讐をする。オーデンの息子ヴィーダルとヴァーレは最後の闘いを生き残る。トールの息子マグネとモーデもだ。イグドラシルに守られて人間二人が生き残り、彼らは子孫を残す。」
「あんたはすべての答えを知っているな、賢きヴァブトルドネル」とオーデンはもごもご言った。彼の息子が彼の敵を討つということに彼は安心した。彼自身の死については彼は怖くなかった。
 巨人は客を見つめ、問いかけを諦めたのかを確かめた。最後の質問が出てくるところだった。
「では息子バルデルを葬礼の舟に乗せる前にオーデンは何をバルデルの耳に囁いたか?」と客は問うた。
 巨人は肩をすくめ、突然の客の正体がわかったのがその目の中に見て取れた。
「だれもあんたが何を言ったかはわからないよ、オーデン。あんたはすべての中で最も賢い。」
 問いかけに答えられなかったものは命を失う。オーデンは彼の質問の答えを得、賢い巨人がこの世からいなくなったのさ。

北欧神話(74) 第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(1)

第二十章<オーデンが賢い巨人ヴァブトルドネルを訪問する>(1)

 オーデンはある朝いつものように探索するカラスを解き放ったが、その後玉座に座り深い思索に埋没していた。フリッグが時々覗き込んだが、彼は彼女がそこにいることすら気づいていないようだった。食事もしなかったが、夕方が近づくとフリッグは、夫の喉の渇きを癒すべく、杯を持って彼のところへ行った。オーデンはワインを少し飲み、彼の妻を悲しそうに見た。
「私たちのバルデルは戻ってこない。そしてそれには私にわからないことがまだたくさんある」と彼はふさぎこんで言った。「ヴァブトルドネルのところの客になりに行くのが良いと思う。」
フリッグは夫の頑固な視線に会った。
「巨人のヴァブトルドネル?一番賢い巨人?そんな危険なことを?賢すぎる彼は危険な敵になるかもしれないわ。」
 オーデンはうなずいた。
「私はもういろいろ見てきたからね。有名なヴァブトルドネルの広間を見て見たいのだ。」
 賢さに対する夫の希求を知っているフリッグは彼の頬に重々しくキスをして、彼のたびの無事を祈った。
 ガグンロードという名の一人の放浪者が数日後ヴァブトルドネルの豪勢に飾られた広間の扉をノックした。
ヴァブトルドネルがその客に座るように勧めると、その客は喉の埃を払うために何か飲み物が欲しいと言った。
「さて、あんたはどなたなのかな?」と巨人は穏やかに、しかし透視するような視線で水を飲んでいる客を見た。「放浪するものよ、この年取った主人と同じくらいに物知りであるかな?」
 ガグンロードと名乗った男は杯からぐっと水を飲んだ。
「飾らない男は重要でないおしゃべりはしない賢さを持っているものさ」と彼は静かに言った。
巨人は眉を吊り上げ、杯を飲み干した。
「ごくっん。そうか?わかった。重要なことが起きているのだな。我々は人々の上に日中を引っ張る馬は朝であることについて話せばよいだろう。」
 ガグンロード、つまりヴァブトルドネルの前で他人に成りすましたオーデンは、うなずき、巨人に向かって日の馬シンファクセについてのあらゆることを述べた。
 巨人は耳を傾け、他の重要なことについて尋ねた。長い間対話をしてから、彼は黙った。
「あんたは物知りの客だ!もっと話をしよう。相手の問いに答えられなかったら頭を失うこととしよう」とヴァブトルドネルは決めた。
 オーデンはうなずいた。今度はオーデンが巨人に問いかける番だった。さあ彼が知る必要があることの答えを得なければ。

北欧神話(73) 第十九章<ヘルモードが勇敢な旅をする>

第十九章<ヘルモードが勇敢な旅をする>

 バルデルのお葬式の翌日、疲労したオーデンは神々を新たな会議に召集した。
「友よ、よく聞いてくれ」と彼は小さな声で言った。「我々の息子バルデルは死んだ。しかし我々は彼を取り戻そうとするのだ。」
 神々と女神達は注意深く耳を傾けた。
「ヘルモード、お前が最大の信頼を得る」とオーデンは言い、彼の息子たちのうちで一番勇気があるヘルモードを見つめた。「お前にスレイプネルを貸すから、ヘルに行ってバルデルを返してくれるよう交渉するのだ。この危険な旅を遂行できるものがいたとしたらそれはお前しかいない。」
 ヘルモードは無言で父を抱き、ヘルに向かって馬を駆った。スレイプネルは注意深く進み、9日にわたる長旅の後で彼らは無事に地獄の女神ヘルの恐ろしい住居にたどり着いた。
 ヘルモードはローケの根性の捻じ曲がった娘と、バルデルがアースゴードに戻ってくるためにどうしたらいいかを長時間にわたり交渉した。ヘルモードがイグドラシルの世界のすべてのものが善良の神バルデルを傷つけないと喜んで約束したということを語るのを、憎たらしいヘルは興味がなさそうに聞いていた。
「皆がバルデルに起こったことについて悲しんでいるのは大げさだろう」と彼女は短く言った。
「いや、そうじゃない。皆が皆バルデルの死を悲しんでいる」とヘルモードは答えた。「なんだったらそれを証明させてくれ。」
 ヘルは皮膚の無い部分の顔からばらばらの髪の一筋を払った。ヘルモードは彼女の視線の中に、彼をアースゴードに帰すものかと思っていることを見て取った。
「では、こうしよう」と彼女は最後に言った。「九つの世界のすべてのものがバルデルの死を悼んで泣いたときにまたここに戻っておいで。そのときまた考えよう」と彼女は言い、彼女の大広間をうめきながら足を引きずり出て行った。
 ヘルモードはこの伝言を持って、拍車をかけてアースゴードに戻った。
 皆が泣いた。鳥も、風も、海も、動物も、人間も、植物も。フリッグはアースゴードの若々しい芝に沈み込み、午後だというのに露をいっぱい溢れさせた羽衣草と一緒に泣いた。
 巨人までもが、善良がなくなってしまったことを嘆いて泣いた。一人を除いて、すべてのものが泣いた。
 神々は最後にその生き物を見つけ出した。それは遠くの洞穴に隠れていたテックという名の女巨人だった。テックは、バルデルの死を悼むかと聞かれたときに、ただ軽蔑するように意地悪く鼻で笑っただけで一言も答えなかった。約束や脅しをかけても彼女は態度を改めなかった。だから神々はついに世界に一人だけバルデルの死を悼んで泣かないものが居ると認めざるを得なかった。彼らにはテックが実際には誰なのかがわかっていたが、どうすることもできなかった。
 ローケは神々の側からの好意の最後の一オンスを使ってしまっていたのだった。もはや彼は彼らの視界から消されねばならなかった、永久に。

北欧神話(72) 第十八章<バルデルが射殺される>(2)

第十八章<バルデルが射殺される>(2)

 彼の問いに答えは無かった。ローケはすでに姿を消していた。
 死んだバルデルと、何も知らずにいる兄弟を目の当たりにして、すべての神々は心が砕けるような悲しみに襲われ、おおっぴらに泣き始めた。
 ティールとトールは彼らの半分血のつながった盲目の兄弟に走り寄り、宙を探っている彼の腕を取り、何が起こったのかを彼に告げた。
 ヘーデルの顔は真っ青になり、彼は草の上に倒れた。
 沈黙した神々はゆっくりと立ち上がった。慣習により彼らのうちの一人がヘーデルの犯したことに報復をしなければならないのだった。彼らには誰が黒幕なのかがわかっていたが、矢を放ったのはヘーデルの手だったのだ。二重の不幸だった。オーデンの息子はもう一人死ななければならないのだ。
 悲しみがアースゴードを覆った。誰もがたたずみ、実際に悪事を働いたものがどこに隠れているのかについては誰も注意を払わなかった。彼が罪をあがなうべきときだろう。バルデルの運命と新しい悲しみ、つまりそれに続く避けられない悲劇がすべてに影を落としていた。

 バルデルは空色の夏の宵に葬られた。彼の父と母は彼を最も大きく最も美しい神々の長い舟に乗せた。それはあまりに立派で重かったので彼らは水辺までそれを押していくことができなかった。力持ちで知られるヒロッキンという名の巨人が狼に乗ってやってきて手助けをした。
 バルデルの愛する妻ナンナは夫の死を悼んでずっと泣き通しだったが、心臓が破れて倒れてしまった。神々は彼女が夫と一緒に死の国に旅立ちたがったことがわかったので、彼女をバルデルの傍らに横たえた。
 その大きな舟が水に向かって滑っていくとき、最後の陽光が水に跳ね返った。
 オーデンは水の中に進み、燃えるたいまつを舟の中に投げ入れた。舟の中の炎はすぐに広がり、空の色と溶け合った。神々は水辺にたたずみ、バルデルとナンナの最後の旅を見守った。

北欧神話(71) 第十八章<バルデルが射殺される>(1)

第十八章<バルデルが射殺される>(1)

 オーデンはローケに罪を与えねばならないことがわかっていたが、今は、エーギルのところでのローケの信じられない振る舞いについて考えることよりももっと重要なことがあった。彼はバルデルを傷つけないという約束をすべての生き物、植物から取り付けている最中だったのだ。
 すべての約束が集まったので神々はそれがちゃんと効力を持ち続けているかどうかを試して楽しもうと思った。そして自分の死はもうすぐだと確信しているバルデル自身が、あらゆる武器の的になることを自分から承知したのだった。
 剣が彼に打ち下ろされたが彼を傷つけることはできなかった。彼に投げられた石はやわらかく跳ね返った。ナイフも彼には刺さらなかった。そしてすべての矢は彼に当たらなかった。神々はとても面白がった。
 宴会でほとんどすべての神々を敵に回し隠れていたローケは、藪の後ろに潜んでそれを見ていた。すべては終わったのだ。彼はもうアースゴードですることが無かった。彼はアーサの神々と一緒に暮らそうとしたのだがそれは無理だったのだ。オーデンは最初から彼の子ども達を追い出そうとした。あの義兄弟はそういう奴なのだ。さあ今は、ローケが同じことをする番だ。オーデンの子ども達を退治してやるんだ。
 ローケはちょっと笑い、細心の注意を払ってヤドリギで作った薄い彼の矢を削いだ。彼は神々がバルデルで遊んでいるのを朝の間ずっとよく観察した。そして神々の一人ヘーデルがずっとそれに加わらず横に立っているだけなのに気づいた。バルデルの兄弟であるヘーデルは目が見えなかったから、弓矢や槍を持っていなかったのだった。
 ローケはヤドリギで作った彼の矢を満足そうに眺め、それを彼のほかの矢と一緒にして一人ぼっちのヘーデルのところに行った。
「さあ、これを!俺の弓を取って他の奴らと同じように遊べよ」と彼は言った。「あんたがこの遊びに加わるのは当然のことだ。バルデルはあんたの兄弟なんだからな。さあ、これに触ってみろよ、、」と彼は言い、バルデルの手に弓と矢を握らせた。盲目のヘーデルは突然遊びに加わることができるようになってうれしくなった。
「バルデル、バルデル!これを見なよ!」と彼は自慢げに叫んだ。
 ローケは急いで矢の方向を定め、ヘーデルの手がそれを弓から放つのを手助けした。
 矢は狙い通りにバルデルの心臓に突き刺さった。彼は床に倒れ、一言も発することなく死んだ。
 野原では墓場のようにシーンとなった。ヘーデルだけが何が起こったのかを理解していなかった。
 周囲に抑えたような啜り上げを聞いたとき、彼はローケを探し宙を手探った。
「ローケ、どこにいるんだ?」と彼は不安そうに尋ねた。「なんか変なことが起こったのか?私は誰かを傷つけたのか?」

北欧神話(70) 第十七章<海の神エーギルが宴会を催す>(2)

第十七章<海の神エーギルが宴会を催す>(2)

 ローケは彼女に向かって杯を掲げた。
「ありのままを言えよ、イードゥン!お前は他の男たちの言うことを聞くのが好きだもんな。お前は喜んで俺を追って森に入ってきたもんな、そうだろ?」
 イードゥンは賢くも勇気を持って黙ったままだった。
 オーデンが皿をテーブルに叩きつけたので広間中にその音が響き渡った。
「お前は気が狂ったのか、ローケ!」と彼は怒鳴り声で言った。「頭がおかしくなったのか?」
「黙れよ、オーデン!」とローケは押し付けられた獣のようにしゅうしゅう息を吐いていった。「そんな口をきける男か?魔法を使うくせに。恥知らずで男らしくないぜ!」
フリッグが目を見開いて立ち上がった。フレイヤが急いで彼女の脇に立った。
「お前は卑劣なことを言うのを注意したほうが良い、ローケ」とフリッグは冷たく言った。
「はっ!男狂いのフリッグと魔法使いのフレイヤを見ろよ!」とローケは鼻で笑った。「アースゴードでお前達から逃れて安全に歩ける男は一人も居ないぜ!」
 ローケはティールを振り返った。
「地獄に落ちろ、ティール!なんでお前は他の者のように杯を掲げないんだ?ああ、そうだった!俺の息子がお前の手を噛み裂いたんだったな。お前達があいつをだまして繋いでしまったときにな。かわいそうに!」
「お前も縛ってやる、この悪党」とフレイが叫んだ。
「何を持ってくるというんだ、フレイ?それを望んでいなかった巨人の娘を買ってからなにか残っているのかい?」とローケは侮辱して笑った。
 シフがローケのところに行き、落ち着くように言った。
「さあ、もっと蜜酒があるわ。私のことをとやかく言わないで居てくれてうれしいわ」と彼女は彼の耳元でもごもごと言った。
 ローケは大笑いした。
「はは!あんたと俺はいつもあんたの寝室で楽しくやっていたからなぁ!」と彼は皆に聞こえるように叫んだ。
 そのとき、トールが広間に入ってきた。彼は心配そうな視線を真っ青な顔色の妻に向けた。
 ローケが境界線を越えてしまったことが皆にわかった。
「さあ、遊びは終わりだ、哀れな奴め!」とトールはうなり、ハンマーを掲げてローケに歩み寄った。「ミヨルネルがお前の生涯の最後のキスを与えるだろう!」
ローケは椅子に座りながら後ろに身を傾け、ゆっくりと落ち着いて周囲を見回した。
「お前なんか恐れはしない、トール」と彼は馬鹿にしたように笑った。「お前はスクリメルの弁当の縮んだ紐を解くことさえできなかったんだからな。」彼は突然わざと恐怖で震えるようなしぐさをした。「ふううう!ユートゴードでお前の足元の地面が揺れたときは怖かったな、トールちゃんよ。」
 トールは打ち下ろそうと考えているかのように見えたが、ローケはこれで終わりにするという印に手を上げた。
「俺は行くよ。お前は俺を撃ち殺すだろうからな。」
 神々は黙って身を寄せ合って座っていた。オーデンは苦虫を噛み潰したような表情をしたがローケを無視することにした。彼には後で罪を与えればよい。
 ローケは立ち上がり海の神エーギルにお辞儀をした。
「ただ一回だけのビールの宴会をもつだけだったな、エーギル。これ以上はもうないだろうよ。火がお前の持つものすべてを奪うように。炎がお前の尻を焼くように!」
 そしてこれらの言葉とともにローケは広間を去ったのだった。

北欧神話(69) 第十七章<海の神エーギルが宴会を催す>(1)

第十七章<海の神エーギルが宴会を催す>(1)

 ある日ついに海の神エーギルからの宴会の招待状が届いた。その催しへのアーサの神々の期待はとても大きかった。というのもその宴会はアーサの神々、ヴァーネの神々、巨人達、妖精達、幾人かの選ばれた小人達が和気藹々と集える数少ないチャンスだったから。オーデンと彼の妻フリッグ、ニョードと彼といまだにつきあっている女巨人スカーデ、イードゥンと彼女の夫ブラーゲ、ローケ、ティール、フレイとフレイヤは一緒に何人かの家来とともにエージルの広間に向かった。オーデンの無口な息子ヴィーダルもまた、なにはともあれなんでも参加するのだが、愛する鉄の靴の音を立てて宴会にやってきた。エージルのおいしい蜜酒を味わう機会を彼は逃したくなかったのだ。
 エージルのところでは雰囲気が一気に盛り上がっていた。客達が招かれいれられた広間は自ら輝く金で美しく光り、蜜酒は自ら注がれた。それらのおいしい飲み物と大量のご馳走で皆とても機嫌が良かった。
 ローケはその和気藹々とした雰囲気と飛び交う吐き気のするような優しい言葉の後で、突然エーギルの家来を訳もなく殺した。
 アーサの神々は面目ない様子で彼を見た。それから彼らは怒って自分達の盾を振って彼を森へと追い出した。しかしローケはまだ用事が終わっていなかったので彼らのところへ戻った。
 彼が入ってきたとき、広間に居たすべてのものは黙った。
「なぜそんなに静かなんだ、むっつりした神々よ?私だよ!席に案内してくれ、そうじゃなかったらもう一度森に追い出せばいい。どっちでもあんたたちが選べばいいさ。」
「私達は誰と一緒に宴会をしたいかを知っていると思うよ!」とイドゥンの夫、ブラーゲが叫んだ。
「では、オーデン」とローケは言い、彼の傷のある唇を引き上げ、ゆがんだ笑いを浮かべた。「私達が義兄弟になったときのことを覚えているかい?そうだとしたら私にも杯が配られなければあんたの蜜酒もうまくはなかろうよ。」
 オーデンはローケをしっかと見つめた後で、自分の息子ヴィーダルに向かって言った。
「席を立ちなさい、ヴィーダル。狼の父に席を作るんだ」と彼は命じるように言った。
 ヴィーダルは立ち上がり、一言も言わずにローケの杯に蜜酒を満たした。
 ローケは席に着き、周りを見回し、イードゥンの夫に視線を留めた。
「ブラーゲ、お前に地獄を。生き物の中で最も臆病なお前に」と彼は侮蔑する調子で乾杯した。
 ブラーゲはテーブルを離れた。
「お前は自分の頭が惜しくは無いのか、この嘘つきめ!」と彼は叫んだ。
イードゥンは恐怖の表情で夫の腕に手を置いた。
「急いで変なことをしないで。私達の子どものことを考えて。」

北欧神話(68) 第十六章<トールが力が強いばかりではないことを証明する>(2)

第十六章<トールが力が強いばかりではないことを証明する>(2)

「それについては私はすべてわかっている」と小人は満足して答えた。
「地球はなんと呼ばれているか知っているか?」とトールは興味を持って尋ねた。
「人間は地球といい、あんたがたアーサの神々はフォルドと呼び、ヴァーネの神々はヴェーガルと呼ぶ、巨人達はそれを常に緑のものといい、妖精達は芽生えの元と呼び、イグドラシルの樹の高みに居る他の者達はあの下のところのごみと呼ぶ」と小人は答えた。
「それはよい答だ。記憶にとどめて置こう。では空はどうだ?」
「空と人間は呼び、暖めるものとアーサの神々はいい、風をつむぐものとヴァーネの神々は呼ぶ。巨人達は上の世界といい、妖精達は色付き屋根と呼ぶ。我々小人達は滴りの部屋という。空から雨が来るのだからね」と小人はぺらぺらしゃべった。
トールは感心したようにうなずいた。
「とてもよい。雲、太陽、月、水の呼ばれ方についても知っているか?」
小人は身を正して深呼吸をしてから開始した。
トールは地面に座って小人が言うことを注意深く聞く間草を噛んでいた。
小人が話し終えるとトールは承認するようにうなずいた。
「お前はその名にふさわしいな」と彼は言った。「私はあといくつか聞きたい言葉があるだけだ。風、なぎ、火、森、そして夜だ。穀物とビールで締めくくってくれ。私があとで良く思い出せるように。」
 小人はどの言葉を翻訳するか思い出すのに夢中になり、そして直ちに風の翻訳を始めた。トールやあちこちで質問をはさんだが、アルヴィスは穀物とビールまでたどり着くのに成功した。
「穀物は人々はビュッグと呼ぶ」と彼は始めた。「あんたたちアーサの神々はコーンといい、ヴァーネの神々は草と呼ぶ。巨人達は単純にそれを食物と呼んでいる。妖精達はそれをビールを作る者たちの手助けと呼ぶ。ヘルでは下向きのがらくたという。そこではごみだけが大きくなるのだからね。」
 小人はトールが記憶にとどめるためにそれらの言葉を復唱するのを見た。
「ビールもそうだ」と小人は続けた。「人間はビールといい、ビーエルとあんたがたアーサの神々は呼び、ヴァーネの神々は飲み物という。巨人たちは澄んだ海と呼ぶ。彼らが飲む量を考えればその名の由来がわかるというものだ。ヘルでは蜜酒と呼び、岩山のトロル達は酔っ払いの元という。」
 アルヴィスがヘルでビールがなんというかを説明したときに森の端から太陽が昇った。白い肌の小人は恐怖に駆られて東の方に眼を向けた。そして彼の赤い唇からひゃーという音が飛び出した。
 トールは興味深く彼を観察した。
「そうだ、アルヴィス。私はこれまで言葉の力についてまったく聞いたことは無かった。けれどもお前の高慢はお前を倒してしまったのだ。朝の太陽が気持ち良く差し込んでお前の青白い皮膚はもう岩肌のようになりはじめている。」
 トールが言ったように小人は石になってしまった。トロルのように小人も太陽の光の中には居られないのだから。
 トールはこのことによって知恵を使って自分の娘を嫁にやることから逃れることができた。アーサの神トールはその力強さで有名だけれど、力のほかにも覚えておくべき特徴があるのだと私たちは知ったのだった。

北欧神話(67) 第十六章<トールが力が強いばかりではないことを証明する>(1)

第十六章<トールが力が強いばかりではないことを証明する>(1)

 それはトールがヨートゥンヘイムの岩山での偵察からアースゴードへ夜遅く戻ってきたときのことだった。自分の砦に近づいたとき、彼は山羊車を止める暇もなく彼のところへ急いで駆け寄ってくる小人に出会った。
「トール!ようやく!」と小人は鼻から息を吐いた。「私はあんたの娘のトルード・トーシュドッテルを連れて家に帰ろうと思ってここに急いで来たんだ。アースゴードでの私の働きの褒美として彼女を嫁にもらえるという約束だから。さあ彼女をくれ!」
トールは嫌悪の表情で、突然彼の娘を要求しに来たその青白い、無骨な小人を仔細に見た。
「なんでお前はそんなに鼻が白いのだ?死人と一緒に寝たのか?」と彼は不機嫌そうに尋ねた。
「私は、、、」とその小人は話し始めたがトールにさえぎられた。
「お前はいったい誰なんだ?お前は背は低いけれど小人には見えない。巨人の仲間なのか?どうやってアースゴードに来れたんだ?」と彼はもごもご言ってハンマーをもてあそんだ。「巨人は絶対に私の娘に触らせないぞ。」
「巨人?私は小人アルヴィス(注:すべてを知るものという意味)だ。ニーダヴェリルに住んでいる」と小人は侮辱するように言った。「私はアースゴードの神々のために造った偉大な武器の報酬を得に来たのだ。さああ約束の娘をよこせ」と彼は息を吐きながら言った。
 トールの筋肉が彼の日に焼けた肌の下で動いたが、彼は努力して小人に飛び掛る気持ちを抑えた。神々の誰かが、もしかしたら彼の父が、この男にトールの娘をくれてやることを約束したらしい。この小人が造った武器というのは素晴らしいものだったに違いない。さあ今はどうにか面子をつぶさずにこの苦境を抜け出すことを考えねば。
「私は花嫁の父だが、結婚の話はまったく聞いていない」と彼は言い、ゆっくりと山羊車を降りた。「お前はまず私の了解を取り付けねばならないだろう。」
「あんたの了承だって?私はすでに約束をもらっているんだぜ」と小人は嘲笑的な笑いを浮かべた。
トールの青い鋼鉄のような視線がそのあつかましい小人に集中したが、その小人はトールがその途方も無い力を使わないことに確信を抱いているようだった。
「お前がちゃんとした名前を持っているのなら、、」と彼は言った。
小人は笑った。
「私はアルヴィスだ。この名はとてもよい名だ」と彼は満足げに言った。「私はあんたにいろんなことを教えてやることができる。なにか知りたいことがあるか?」
トールは小人の申し出を感謝を持って受け入れた。
「おお、それは素晴らしいことだ。私はたとえば九つの世界でいろいろなものがなんと呼ばれているかを知りたい。

北欧神話(66) 第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(3)

第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(3)

巨人は嬉しそうに彼の大きな握りこぶしをこすり合わせ、目を見開いて花嫁の首に光る飾りを見つめた。それから彼は歓迎の言葉を述べるために杯を掲げ、宴が始まった。
トリムが湧き上がってくる期待に胸を膨らませ、花嫁が毛深い腕を杯に伸ばし、鮭の八匹、雄牛一頭全部を食べ、その後もテーブルに並べられたいろいろなご馳走を平らげるのを眺めた。彼は付き添いの少女に向かってびっくりした目で囁いた。
「これはまるで、、こんなにむしゃむしゃいろいろ食べる花嫁は他のどこでも見たことが無い!」
愛らしい付き添いの少女は急いで、この宴会を良く楽しむために出発前の八日間、花嫁が何も食べなかったのだと語った。
トリムは満足げにうなずき、希望を持って予定されている花嫁をちらっと眺めた。彼は待ちきれずにちょっと身をかがめてヴェールの中をちょっと覗いて見た。けれどもびっくりして椅子に座りなおした。
「夫をあんなに鋭い燃えるような目つきで見るなんて今まで見たことも無いぞ!」と彼は囁き声で言った。
ずる賢い付き添いの少女は、花嫁の鋭い燃えるような目つきはこれから起きることにとても期待しているからだと秘密を暴露するかのように言った。
トリムは目を見開いて、ハンマーを直ちにもってくるよう命じた。婚儀を待つ理由はもはや何も無かったから。
命じるままに事が成された。ハンマーが持ってこられ、花嫁・花婿を祝福するために、花嫁の膝の上に置かれた。けれども巨人が自分たちのために杯を掲げる前に、ハンマーの周りに雷が光り、それは空気を伝って広間中に亀裂を入れて轟いた。
トールはテーブルから立ち上がり、戻ってきたハンマーを持って耳を劈く勝利の叫び声を放った。
トールのハンマーは救い出された。アースゴードにおけるローケの評判は今後とてもよくなるだろう。トールとローケは喜びに輝いてアースゴードに向かった。
今回はつまりローケは神々を助けハンマーを守ったのだった。自分自身の親類よりも神々のことを考えたのだった。翌日の全体会議のとき、オーデンは立ち上がって彼の義理の兄弟の大きな骨折りを称えたのだった。

北欧神話(65) 第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(2)

第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(2)

 金の首飾りの部品が床に転がったとき、広間は水を打ったようにしんとした。神々と女神たちは床をじっと見つめ、ヘイムダールはオーデンの息子ヴィーダルに言葉をいくつか囁いた。
 ローケは耳が良かったのでその言葉が聞けた。
「そう、そうすればいいんだよ!」と彼は叫んだ。「とにかくトリムに花嫁を一人送ればいいんだ。」
 フレイヤはローケを冷たい視線で見たが、彼はそのまま続けた。
「トールがその麗しい花嫁になればよいと提案された。彼は花嫁衣裳とヴェールに身を包み、印のためにフレイヤの首飾りをつければいいんだ」と、ローケはトールのたくましい方を激励するように叩いた。
「僕はヴェールをかけたお付きの少女になって付いていこう」と彼は付け加えた。
 トールは迷惑そうに振り返ったが、ハンマーを取り戻すにはこれしか方法が無いとローケが説得すると最後には合意した。
「婚儀の際にトールのハンマーに似たハンマーを花嫁の膝の上に置くのが習慣だから」と彼は言った。
 ローケの提案はオーデンを喜ばせた。彼はフレイヤが心配そうに床から拾い上げたばかりの首飾りをいじるのを見て少し微笑んだ。彼女はそれを貸し出したくないのだ。彼はどうやって彼女がそれを手に入れたのか知らなかったし、知りたくもなかった。フレイヤは欲しいと思ったものはどんなことをしても手に入れるたちだったから。飾りにしても男にしても。オーデンは耳をふさぎ、細かいことは聞きたくなかった。
 しばらく議論した上で、ローケの提案は合理的であると神々の意見が一致した。巨人は確実にトールのハンマーを自分自身の婚儀の宴会に出してくるに違いない。彼らは結婚が行われるようになるということを伝えるために直ちにヨートゥンヘイムへ使いを出し、情熱的にどうやって嫌がる花嫁と麗しい付き人の少女に化粧したらよいかの計画に取り掛かった。

 そしてフレイヤとトリムが結婚するときが来た。トールはいやいやながら彼の胸に一組の丸い石を取り付けることに同意した。そして苦虫を噛み潰したような顔をしながらも花嫁衣裳に身を包んだ。鍵を通した長い銀の鎖が花嫁衣装のブローチのひとつに結ばれた。そして最後に彼はフレイヤの大々的な首飾りを首の周りに巻いた。神々と女神たちはその結果にとても満足した。
 そのたくましい花嫁と彼の付き人の少女が巨人の国に着いたとき、トリムと彼の親族たち皆は彼らにようこそと歓迎の言葉をかけ、テーブルに案内し、トリムの両隣に座らせた。

北欧神話(64) 第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(1)

第十五章<トールのハンマーが盗まれる>(1)

 ある朝早くトールはトゥルンドヴァングの彼の家で、なんとなく何かがおかしいという不快な感じがして目を覚ました。彼が寝る前に寝床の横に置いておいたハンマーを手探りで引き寄せようとすると、それはあるべきところに無かった。
「ハンマー!」と彼は起き上がって周りを見回しながら叫んだ。ハンマーはまったく陰も形もなく消えうせてしまった。
 トールは寝床を飛び出した。皆を急いで招集しなければならない。彼のハンマーなしには巨人が襲ってきたときの神々の安全は保障できないから。
 トールと他の神々は速やかに会合を持った。そこでフレイヤの素早い鷹の羽で飛ぶことに一番慣れているものの一人であるローケが巨人国ヨートゥンヘイムに偵察に飛ぶことが決まった。
 ローケは鷹の衣装を取りに急ぎ、アースゴードの塀の上高く飛んだ。彼がヨートゥンヘイムに着くまでそれほど時間はかからなかった。ローケの鋭い視線は一人の太った巨人が異常に満足しているのをとらえた。それは金持ちの巨人トリムで、彼は自宅の庭で日向ぼっこをしながら自分の両手に惚れ惚れと見入っていたのだった。その両手には新しい金と銀の首飾りが巻かれていて、その太った巨人は太陽の光の中に座って、彼の所有するすべての美しいものを考えてニヤニヤしていたのだった。
 たかが庭に下りたのを見ると彼はその鳥を横目でずるがしこく見た。
「おやこれはなんとしたことか。借り物の羽を着たローケじゃないか!」と彼は言い、馬鹿にするように唇を突き出した。
「もしお前がハンマーを取り戻しに来たのだとしたら、神々と女神たち皆にそれは深く埋められて見つけるのは不可能だといってやれ。」トリムはその大きなおなかを満足げに掻いた。「そしてわしの富については、かねがね望んでいたとおりたくさんになったとな」と彼は付け加えた。
 ローケの鷹の目が彼をしげしげと調べた。
「多分、交換条件を、、、」と彼は言い始めたが、怒って手を振った巨人にさえぎられた。
「いいや、がらくたなんかは欲しくない。わしがハンマーを掘り出すのに値するものがあるとすれば、あの美しいフレイを妻に迎えるという約束だけだな」と彼は言い、ローケの気落ちした表情をみて満足して喘ぐほど笑った。
 彼がひどく咳きこみ始めたので、大きな犬達はキャンキャンほえて逃げ出し隠れてしまった。
 この伝言でローケは満足しなければならなかった。
 ローケが巨人トリムの提案を披露したとき、フレイヤは耳を疑った。
「なんで私が、女神の中で最も美しい私が、恥知らずな巨人と結婚するんですって!私が死んでからにしてちょうだい!」と彼女は鼻で笑い、息を早く深く吸ったので彼女の美しい首飾りの留め金がはじけてしまった。

北欧神話(63) 第十四章<バルデルが悪夢を見る>(3)

第十四章<バルデルが悪夢を見る>(3)

「もっとしゃべってもらわねばならぬ!」と彼は言った。「誰がヘーデルの後ろで糸を引いているのだ?」
「あんたの息子のヴァーレだよ!」と幻影はガアガアと声を搾り出し、大きな声で笑った。
「生まれるその日から彼は兄に復讐するのだ。もうこれ以上しゃべらさないでくれ。私の住居に戻らせてくれ、オーデン!私達はまたいつか再会するだろうよ、時が来ればね。」
 オーデンは一言もしゃべらずに会話が終了したことを示すために魔法の槍を引き抜き、幻影を地下に戻らせた。

「私の言ったとおりになるわ。すべての生きているもの、すべての植物にバルデルを傷つけないと約束させるのよ!」とフリッグは、オーデンがヘルで知ったことについて聞いたときに、いらいらして言った。
 オーデンは考え深くうなずいた。
「お前は正しい。ヘーデルは自分の意思で兄弟を殺害しようとするやつではない。誰か別に彼を操っているものが居るのだろう。あるいは彼に魔法をかけているのかもしれない。誰が後ろに居てもおかしくない。」
「ええ、誰ではなく<何>がかもしれないわ」とフリッグは言った。「すべてのものが誓いの言葉を言うように使いのものをすぐ派遣しましょう。」
 その妻と夫は広間の長いテーブルについて、長いリストを作った。そこには彼らの息子に害を与えうるありとあらゆる者が載っていた。巨人、小人、黒妖精、人間、石、世界中のすべての草までも、そのリストに載っていた。
 彼らがその作業に没頭している間、悪意を持って彼らの会話を盗み聞きしている生き物が居た。
 オーデンとフリッグは自分たちの仕事に心を奪われていたので、窓の外のかすかな音に気づかなかった。作業が終わり、オーデンが誓いの言葉を集める手伝いを頼むために出かけようとすると、広間の入り口にローケが座っており草を噛んでいた。
 オーデンは彼に挨拶をしてからヴァルハラに向かっていった。
 そのすぐ後で一人の女性がフリッグの扉のところにやってきて、ノックをした。家来が扉を開いた。
「親愛なる女王様」とフリッグのところまで案内されると、その見知らぬ女は挨拶した。「私達は愛する若きバルデルを助けることができるのでしょうか?女同士のよしみで、私にそのためにどのリストを使うのかをお知らせくださいな」とその女は言った。それは女装したローケ以外の何者でもなかった。
「私達はすべての生き物と物に私たちの息子に害を与えないように約束させるのです」とフリッグは言った。
「それは良い考えです」とその見知らぬ女は言った。「その約束を取り付けるには大変な時間がかかるでしょうね。誰もなにも漏らさないようにするには、、、」
 フリッグは満足しているように見えた。
「すべてのものに約束を取り付けるのは大変な仕事です。けれどもそれが成し遂げられたのなら私以上に喜ぶものは居ないでしょう。私はちょっと前に二階の箱の中にしまわれた小さな草を忘れていたことを思い出したのです。ヤドリギをね。けれどもそれは幼いし、やわらかいしバルデルに害を与えるとは思えないですから」とフリッグは微笑んだ。
 ローケは嘘の微笑を浮かべ、女王に幸運を祈ると言い、彼女のところを辞した。これはつまりバルデルの守りには弱点があるということだ。彼にはそれをどのように活用するかを考えるための時間がたっぷりあるのだった。 

北欧神話(62) 第十四章<バルデルが悪夢を見る>(2)

第十四章<バルデルが悪夢を見る>(2)

 神々のぐっと食いしばった顔の表情は彼らの不安を表していた。バルデルは彼らのあずかり知らない不安に脅かされているようだということが、彼らの勇気を阻害しているようだった。彼ら自身の王が自分で死の国へ行こうとすることは、彼らの感情をさらに暗くした。ヘルにはどうしてもというのでなければ誰も行こうとはしないのだった。
 会議が終わるやいなや、オーデンはスレイプネルにまたがり、彼の耳に、今回の旅は彼らが一緒にこれまで旅してきたどれよりも早く、賢く走らねばならないと囁いた。その灰色の牡馬はオーデンを乗せたまま待ちきれないように脚を踏み鳴らし、出発の掛け声を待っていた。
 スレイプネルはいつものように主人を速く確実に運んだ。彼らはほんの少しミーメルの国で立ち止まった。オーデンはそこでミーメルの頭にいくつかの問いを投げかけた。その後彼らはまっすぐに下に進んだ。その地域で一番ひどい場所、死の国ヘルへ。
 スレイプネルのひづめは、ニーフェルヘイムの粘土のような地面やジョルの凍るような水の上でも、それらに軽く触れるだけだけでその上を飛んで走った。そしてそのうちヘルの門の外にいるガルムの雄たけびが聞こえてきた。彼の赤い目が向かってくる神の王の目とあったとき、雄たけびは腰抜けのうなり声に変わった。
 スレイプネルは怖がりもせずにヘルの門を飛び越え、嫌な匂いがする茶色の粘土で覆われた墓の丘の前でオーデンが彼の手綱を引き締めるまで走り続けた。
 オーデンが彼の槍の柄を丘に突き刺すと、鋭く冷たい雨が彼らの上に降りかかり始めた。
「出てこい、魔女よ!」と彼は命じた。
「私の眠りを妨げるのは誰だ?」と甲高い声が不平を言った。
恐怖を呼び起こすような醜い姿が丘の上に現れ始めた。
「私は地下で横になっていたいのだ。雪に覆われ、雨に打たれ、露に濡れて。これまでずっとそうしてきたように。こんなふうに私を私の家から呼び出すなんて、あんたはなにが望みなのだ?」とそれはぶつぶつ言った。
 オーデンは反感を持ってその幻影を眺めた。彼は自分の本当の名を言わないようにしようと思った。
「私の名はヴェグタムという。あそこのヘルの広間の横を駆け抜けたとき、大事な客のために場所が用意されているのを見た。彼女は誰を待っているのだ?」
「あああ、、、あんたはその魔法の力で私にそれを言わせるのだね」とその魔女はため息をついた。「あんたの探している答はバルデルだ。もうこれ以上はしゃべらない。」
「まだ黙り込むことは許されない!バルデルに死をもたらすのは誰だ?」
「あんたはまた私にしゃべらすんだね!」と幻影はしゅっと息を吐きながら言った。「あんたの探している答はヘーデルだ。もうしゃべらさないでおくれ。」
 オーデンは身を堅くした。彼自身の息子ヘーデルが兄弟を殺そうというのか?

北欧神話(61) 第十四章<バルデルが悪夢を見る>(1)

第十四章<バルデルが悪夢を見る>(1)

 フェンリスが繋がれてからというものアースゴードの緑の景色に静かさが訪れた。ローケは神々が彼の子どもに対して行った仕打ちに憤慨して、アースゴードには近寄らなかった。
 オーデンは吟遊詩人の蜜酒に満足し、ティールの傷も癒え、トールは狼とローケを目にせずに済むことに喜びながら家に居た。
 けれども新しい心配事がゆっくりと広がっていたのだった。オーデンとフリッグの息子、皆から愛されている神バルデルがひどい悪夢にうなされるようになったのだ。神々はそれを深刻にとらえた。生命力溢れ、性格のよいバルデルがそんな不吉なことにみまわれるなんて。
 バルデルは日が経つにつれ、意気消沈し、消耗してきた。そしてオーデンまでも心配になってきたのだった。彼の息子は今やアースゴードの神々皆に、自分の未来がどうなるかわかる、もうすぐ死ぬのだ、と言っているのだ。
 神の国の雰囲気は前とは異なるものになってしまった。
 バルデルの不快な夢の原因について議論しなければならない、とオーデンは考えた。バルデルがなぜ悩まされているかがわかれば、全体が明らかになろう。
 悪夢についてのバルデル自身の言葉に耳を傾けるために運命の泉の周りに集まった神々は言葉も無く、重苦しい雰囲気だった。
 父と母と他の神々の前に立ったバルデルの顔は悲しげだった。
「私が自分自身の死を見ているというのは本当です」と彼は単刀直入に言った。「親愛なる友人たちの支持をありがたく思いますが、死はすぐそこまで来ていると感じます。毎晩自分が死んでいるのを見るのです。」
 フリッグは叫んで泣き出し、オーデンは身を固くした。バルデルは彼らにとって、いやアースゴード全体にとって、目に入れても痛くない存在だったから。
 フリッグは涙を拭いて立ち上がって、黙りこくっている神々を見回した。
 「これは単純に皆の宣誓を要求しなければなりません」と彼女はきっぱりと言った。「私自身この九つの世界中に生きているものすべてがバルデルを傷つけないように宣誓させようと思います。」
 フリッグは青白い顔でまた座った。
 オーデンは討議場の彼の場所にじっと座ったままで、深く思考に沈んでいた。しばらくすると彼は片方の手を上げ、互いにぶつぶつ言っている神々を鎮めた。
「私は実際にバルデルの夢がどうしてやってくるのかを知らねばならない!今日にでも私はヘルに旅立ち、彼が我らのもとを去るのか否かを尋ねてこようと思う。」

北欧神話(60) 第十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(3)

第十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(3)

「お前はまたそれをはずせると思うよ。でもできなかったら私たちがとってやるさ」と神達は嘘をついた。
「俺が解けなかったらあんた達が解いてくれるというのは信じられないな」と狼は言った。「でもあんたたちの一人が俺の口の中に手を入れることができたら望みどおりにしてやろう。」
神達は黙って互いに顔を見合わせた。どちらも手をなくすという危険にさらされたくはなかったから。
狼は鋭い犬歯を見せて軽蔑の笑いを浮かべた。
するとティールが進み出て右手を狼の口の中に入れた。
狼は涎を垂らしながら大きく口を開けて差し込まれた手の周りでそれを閉じた。
トールがその細いバンドを狼の周りに結ぶと、狼は背を丸めて筋肉を硬くした。彼が力を入れれば入れるほど、バンドはより強固に彼を締め付けた。フェンリスウルヴェンはだまされたと知り、顎を閉じた。
ティールは真っ青になり、一言も言わずに後ろずさった。
トールはバンドの端を岩に結びつけることに成功していた。そしてフェンリスウルヴェンが彼に襲い掛かろうとしたとき、大きく開かれたその口に剣を突っ込んだ。柄は狼の下あごに刺さり、切っ先は上あごに刺さった。フェンリスは口を開きっぱなしで居なければならなかった。
その日からずっと狼は遠方の島に繋がれたままになった。けれどもその開いた口からは涎は川のように流れ出ていた。そして勇気ある神ティールは片方の手が残っているだけだった。

北欧神話(59) 第十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(2)

第十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(2)

 トールとティールが狼のところまで縄を運んだ。ティールがその獣に食事を与えている間に彼らは地面に縄を置いてこう尋ねた:
「この縄切れを食いちぎられるかい?」
 フェンリスウルヴェンは軽蔑するような眼でその縄に視線を投げかけ、一撃でそれを食いちぎった。
 二人の神々は互いに顔を見合わせ、フェンリスの力を褒め称え、新たな集会を持つために運命の泉に戻った。
 鉄の鎖が良いだろうという結論となった。それでアースゴードで一番腕の立つ鍛冶屋が太い鎖を製造した。その鎖は縄の二倍の強さを持っていた。
 それが完成するとトールとティールは新たに狼に食事を与え、鎖の強さを彼に試させた。
 フェンリスウルヴェンは疑い深く鎖を見たが、神たちが彼の周りにそれをつけるのを許した。それから彼は背を丸め、鎖は砕け散った。
 狼は満足した。神々が彼の前に置いた太い縄を食いちぎってからさらに彼の力強さは増しているようだと狼は感じた。彼は明らかにとても強くなっているようだった。
 神々は今や狼をつなげるかどうかを心配し始めた。彼らはフレイヤの賢い家来スクリネルを小人たちのところへ送って魔法の持続力を持つ縄を鋳ることができるかどうか聞きに行かせた。
 スクリネルが小人たちの鋳物を持って戻ってきたとき、神々は非常に疑い深い視線でそれを見つめた。スクリネルが持ってきたものは縄ではなく、薄く平たいベルトだったから。それは絹のベルトに似ていたが、小人たちによれば鋼鉄より強いということだった。
 神々がベルトの材料について尋ねると、それは誰も見つけられないもの、また誰もそれに勝てないものだということだった。すなわち猫の歩みの音、魚の息、鳥の唾、岩の根だった。それら全部それからもう少し別なものも加えて熊の筋と一緒に縒ったのだ。
 神々はその威力ある材料にもかかわらず大丈夫かどうか不安に思った。けれども弱々しく見えるベルと以外に他に手段は無さそうだったから、彼らは小人たちの魔法にすべてをかけることにした。
 トールとティールは狼をうまくたぶらかして島に連れ出し、彼に食事を与え、地面にそのベルトを置いた。フェンリスウルヴェンは力比べを心待ちにしていた。
「この糸は何だ?」と彼はうなった。
「お前の力をまた試そうと思うのだよ」と神達は言った。
「こんな紐じゃあなんの誉れにもならないじゃないか」と狼は鼻を鳴らした。
「これは見かけより強いのだよ」と神達は正しく答えた。
 狼は疑い深くベルトのにおいをかいだ。
「なにか狡知で作られているかもしれないな。。。そうだとしたらどんなに薄く見えようと俺の体の周りにつけるのはいやだな。」

北欧神話(58) 十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(1)

十三章<フェンリスウルヴェンが縛り付けられる>(1)

 オーデンの賢さは吟遊詩人の蜜酒を飲んでからさらに大きくなった。そして彼は突然、ローケの子どもたちが危険だと言うトールが正しいということを悟ったのだった。最も急がねばならないのはフェンリスウルヴェンを縛り付けることのようだった。ミッドゴードの蛇とヘルは今のところアースゴードとは離れたところに居るが、フェンリスウルヴェンは彼らの中に居るのだ。彼はいつでも神々に襲い掛かることができる。
 オーデンは相談のための集まりを召集し、重要なことを決める会議場である運命の泉へと急いだ。
「トネリコの枝の数よりも多い蛇が居る。賢くない猿は気づかないが」と彼は皆が集まったときに苦々しく言った。
 神々と女神達は深刻な顔で座っていた。今のようにオーデンが謎かけの形で話すときにはとても気をつけて聞き入らねばならない。彼が言うトネリコの根の下に住んでいる蛇は確かに悪の種類だろうし、賢くない猿というのはその蛇を見てもその悪に気づかないものの事を指すのだろう。彼らはそのようにオーデンの言葉を解釈した。けれども彼は誰のことを話しているのだろう?
 泉の岸辺に立っていた三人の運命の女神達は、運命の糸をつむぎ続けながらオーデンの言葉を聞いていた。彼女たちはもちろん自分たちが知っていることは決して語らなかった、いつものように。彼女たちが常に織り続ける運命の織物は未来の絵を描き出すのだけれど、誰もそれを見てはいけないのだった、オーデンさえも。
 一羽の白鳥が泉の水面を滑ってきたが、それ以外は静かだった。
「我々は今日にもフェンリスウルヴェンを繋がねばならない」とオーデンが言った。
 ティールが話すために立ち上がった。
「今日でも早すぎることはない」と彼は言った。「日に日に狼は気まぐれになっている。命を危険にさらすことなしに彼に近づくことができないくらいだ。彼に食事を与えるときに私はかなり怪我をする。」
 ティールは片方の袖をめくり、彼の肘から下の腕全体にまたがっている、まだ赤い血の跡がついている三つの深い傷を見せた。
 神々はびっくりして彼を見た。
 ローケは他の神々がティールの傷を見ているうちにその場を逃げ出した。オーデンは以前と同じように彼を裏切ったのだ、と彼は考えた。あの義理の兄はいつもそうなのだ。彼はフェンリスになにが起こるかを聞かなくて済むようにそこから逃げ出さねばならなかった。
 神々の間でいろいろな解決策が協議され、少し経った後で、強力な縄をなわねばならないと言うことで意見の一致をみた。世界の果てに狼を繋ぎとめるだけの強さを持った縄を。
 神々はすぐにその作業に取り掛かり、直ちにとても太い縄を作り上げた。それはアースゴードでそれまで誰も見たことの無いような太さだった。

北欧神話(57) 第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(3)

第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(3)

バウゲはこの力持ちの巨人に逆らう勇気は無く、しぶしぶ彼を兄のスットゥングが蜜酒を隠した岩場まで連れて行った。彼らがそこに着くと、オーデンはベルトから岩用錐をはずした。
「穴をあけよ、バウゲ」と彼は命じた。「蜜酒が隠してある部屋に届くまで。」
 バウゲはオーデンを憂鬱そうに見つめたが、反抗する勇気は無かった。彼はしばらくがんばってから、穴に向かって不機嫌にうなずいた。
「さあ貫通したぞ」と彼はもごもご言い、その場を離れたがった。しかしオーデンは彼を放さなかった。
「そんなに急ぐな、バウゲ」と彼は怒鳴り、実をかがめて穴に向かってまっすぐ息を吹き込んだ。すると埃の雲が彼の顔をめがけて飛んできた。
「もう少し掘るんだな。」
バウゲは怒って鼻を鳴らしたが、また穴を開け始めた。そのうちに錐はまっすぐ岩の中の部屋に落ちていった。
 オーデンは、バウゲが貫通させた瞬間、「ほら、あの上の方を見ろ!」と叫び、岩山の頂を指差した。
 バウゲは目を細めて不安げに岩山の上の方を見た。彼が別の方向に頭を向けたので、オーデンは蛇に変身して開けたばかりの穴の中に入っていった。蛇が穴の中に消えるのを目に入れたバウゲは、怒りの叫びをあげ、鋭い錐をそのあとに差し入れた。けれどもオーデンはすでに岩の中の部屋に着いており、そこで見栄えの良い若者に変身していた。彼はグンレードと魔法の吟遊詩人の蜜酒を探した。
 岩の奥深く、三つの巨大な樽の横に、彼はみじめに孤独に座っている彼女を見つけた。
 グンレードは若者の姿を見ると目を輝かせた。彼らはすぐに話し始め、心優しく善良な若い女巨人であるグンレードは、その格好よい若者が彼女に語りかける美しい言葉に心を打たれた。彼女はその男に惚れたので、三日後、蜜酒を三口だけ味わってもよいと約束した。
 男は一口で最初の樽を飲み干し、二口目で二つ目の樽を、最後の一口で三つ目の樽を飲み干した。
 かわいそうなグンレードはびっくりして空の樽と裏切った男を見つめた。彼女の目の前で彼は巨大な鷲に変身し、岩山の秘密の抜け道から力強く羽ばたいて脱出した。
 グンレードはどうしてよいかわからず叫び始め、巨人スットゥングがとんできたが、そのとき鷲はちょうど秘密の出入り口を飛んで抜け出ていくところだった。スットゥングは急いで同じくらい大きな鷲に変身し、後を追った。
 そして前代未聞の追跡となった。
 鳥たちの力強い羽ばたきの音はアースゴードでも聞こえたほどで、そこでは神々は不安げに石塀の上で成り行きを見守っていたのだった。
 二羽の大きな鷲が近づいてくるのを見ると彼らは何が起こるのかを予想し、急いで塀の前に大きな器を用意した。
 鳥達は互いに近づいたが、最後に、最初の鷲は貴重な荷物を少し後ろに吐き出すことで速度を稼ぐことに成功した。そのおかげで鷲は塀の中に入ることができた。
 こうしてオーデンは、鷲の翼をついに休めることができたのだった。彼はほうほうの体で神々が据えた器の中に蜜酒の残りを吐き出した。
 追ってきた鷲は耳を劈くような叫びを残して追跡を諦め、塀のところできびすを返した。そして重い翼を翻してヨートゥンヘイムに戻っていった。
 オーデンは鷲の服を脱いで満足のため息をついた。さあこれから神々、女神たち、何人かの選ばれた人間たちが魔法の蜜酒を味わえるのだ。アースゴードの塀の外で、彼の口からではなく肛門から流された蜜酒はミッドゴードの湖に入った。吟遊詩人の蜜酒は残念なことに鳥の体の中で運ばれることに耐えられなかったらしく、その湖の水を飲んだ人間はまったくひどい詩人になった。今日でも水で薄めた蜜酒を飲んでしまう人間がいる。そのミッドゴードの湖の水があらゆる水路を経て広がってしまったから。

北欧神話(56) 第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(2)

第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(2)

 巨人は機嫌がよく、客を夕食の卓に招待した。少し話をしてからオーデンは不思議な光景に出会ったことを語った。
「私はあなたの農場の近くの大きな、良い畑で9人の男たちが草を刈っているのを見た」と彼は無頓着な表情を装って、なにも気づいていない巨人に言った。
「不思議なことに彼らは突然互いに不器用に鋤を振り回し、もう仕事ができないようになってしまったのだ。」
 バウゲは目を見開いた。
「なんだって!あいつらは皆互いに切り殺しちまったと言うのか?皆?」
オーデンは深刻な顔でうなずいた。
バウゲは腰を下ろして、自分の大きな手を握り締めた。
「ああ、ああ、ああ!これは本当に悪い知らせだ。畑をこれからどうしたらいいんだ。草は今刈らなくちゃならないというのに!」
「私はとても力があるから多分あなたの草刈りを手伝えると思いますよ」とオーデンは言い、背筋を伸ばした。
バウゲは疑い深く彼の食卓に座っている巨人を眺めた。
「あんたは確かにかなり大きいが」と彼はもごもご言った。「けれどもあの畑には9人も必要だったのだ。巨人だとしても一人だけで全部間に合わせることはできまい。」
 オーデンはバウゲの目を見据えた。
「私の力を試してみて損は無いでしょう。明日にでも。」
バウゲは同意した。
次の日、彼は客を畑に連れて行った。そしてその訪問者が9人と同じくらいすばやく鋤を使うのを見て驚いた。オーデンはびっくりしているバウゲに向かって微笑み、草を全部刈るまで居ると約束した。
少し経って仕事が全部終わると、満足したバウゲは寛容に言った。
「あんた自身で報奨を決めていいよ。9人分も働いたんだから。」
「では、あなたの兄さんのスットゥングが私に例の魔法のように旨い蜜酒を味わわせてくれることを望みます」とオーデンは気取らずに言った。
「うーん、それは無理だ!」と彼は両手を体の前に突き出した。「あの蜜酒は生きたものがその香りをかいではならないんだ。もちろんグンレード以外は」と彼は髪を掻いた。「スットゥングのかわいい娘さ。彼女は岩の下で蜜酒を守っているんだ、わかるだろう。」
オーデンの目つきは危険なほど鋭くなった。
「あなたはついさっきなんでも望むものを与えると約束したではないか。さあ、約束を果たしてもらおう。蜜酒まで案内しろ。」

北欧神話(55) 第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(1)

第十二章<オーデンが吟遊詩人の蜜酒を持ってくるのに成功する>(1)

 アースゴードでは大きなニュースが響き渡っていた。神々は魔法のように美味な酒、吟遊詩人の蜜酒がスットゥングという名の力持ちの巨人の岩室に隠されているということを知ったのだった。すべての神々はその魔法のように美味な蜜酒を巨人から救わねばならないということで意見が一致した。そして神々はオーデン自身がそれを救い出してくることを決めた。
 オーデンは、ヨートゥンヘイムへ向かって旅立とうするとき巨人に姿を変えた。巨人の姿をしていれば簡単に道を聞いてスットゥングにまでたどり着けるだろう。
 オーデンは他の神々に手を振ってから、巨人国の険しく、荒れた山に向かった。
 山を越えると彼はそのうちに9人の男が牧草を集めている大きな畑に差し掛かった。彼らはヨートゥンヘイムに良い収入の出稼ぎに来ている人間たちだった。
 オーデンが近づいてみると彼らはとても疲れていた。
「そんな大変な仕事を誰のためにしているのだ?」と彼は尋ねた。
「巨人バウゲのために草を刈っているんだよ」と一人が言い、疲れ果てて鋤に体をもたらせた。真っ青な空から太陽が無慈悲に彼らを焼き、彼は腕で額の汗をぬぐった。
「おやおや、バウゲかい。その名は聞いたことがある」とオーデンはゆっくりと言った。
「ああ、巨人バウゲは」とその男はうなずいた。「例の力持ちのスットゥングの弟なのさ。彼の仕事はきついんだ。彼は天気が変わる前に牧草を全部刈らなくちゃならないんだ。」
 オーデンは思慮深くうなずき、その男のぼろぼろの隙を見せてくれと近寄った。
「仕事を終えようと思ったらもうちょっと砥ぎ澄まされた鋤を使うべきだ」と彼は言い、ベルトに下げていた砥石を手に持った。「といでやろう。」
男は喜んで申し出を受け入れ、他の仲間を呼んだ。
一人一人、今までに見たことも無いような鋭く砥ぎ澄まされた鋤を手に入れた。彼らはこの見知らぬ男の砥石のおかげで残りの仕事は躍るように簡単に済むということを悟った。砥石は普通のものではないということがたちまちわかり、皆がこの砥石を買いたがった。彼らは互いにいくらで買うぞ、と口々に叫び始めた。
オーデンは彼らの喧嘩に肩をすくめ、砥石を空中に投げ上げた。そしてわきにどいて、何が起きるかをしかめっ面で眺めた。
 男たちは最初、投げ上げられた砥石を睨んでいたが、すぐに押し合いへし合いして砥石を手に入れようとした。しかし皆、自分たちの鋭い鋤を空中に投げたことを忘れてしまったので、そのうちにオーデン以外のものはすべて鋭い刃に当たって死んでしまった。
静寂が訪れるとオーデンは自分の砥石を拾い、畑に背を向けた。そして少し歩いてバウゲの農場まで行き、扉をたたいた。
扉を開けたのはバウゲ自身だった。オーデンが一夜の寝床を願うと、バウゲはうなずき、寝場所に案内した。

北欧神話(54) 第十一章<ローケが二兎を得る>(5)

第十一章<ローケが二兎を得る>(5)
 
 「全部だ!」とローケは叫んだ。
 「けれど、この指輪で金を作れるのはわしだけなんだ。お慈悲じゃ、わしにこれを残してくれ。」
 ローケは小人の願いを無視して、哄笑しながら彼の指から指輪を抜いた。
「金を残さしてくれないんだったら、わしは怒り狂う」と小人は言った。「兄弟が二人死に、8人の王子たちが戦いにいく羽目になるだろう。それを楽しむのはわしだけだろう。」小人は怒ってローケの前の地面に唾を吐いて、石の中に姿を消した。
 ローケがレイドマルの家に戻ると、神々はかわうその皮に金を満たし、それが立つようにした。そしてその後ほうほうのていでそのかわうその周りに金を積み上げて、かわうそが見えなくなるようにした。
 レイドマルは彼らの仕事を注意深く見つめていたが、それが終わると検査をした。
「ここ!」と彼は言った。「ここにわしの死んだ息子の髭が見えている。隠せ!」
 金はもう無かった。神々は意気消沈して見回した。髭を隠すくらいのほんの少しは金は無いものか。
オーデンは、ローケがこっそり彼の指にはめてくれていたアンドヴァーレの美しい指輪をしぶしぶ外した。これでもうウッテルの姿は見えなくなったので、レイドマルは神々を解放した。
ローケは立ち去るときに、傷跡のある唇をゆがめて意地悪な表情を浮かべて振り返った。
「アンドヴァーレは金に呪いをかけたぞ。お前にはなんの得も無いぞ。お前の友やまだ生まれていない子孫に不幸が訪れるのだ。」
「わしは金をうまく使うさ」とレイドマルは自信を持って答えた。彼は貪欲な二人の息子たちの顔に直ちに表れたずるがしこい表情に気がつかなかった。
 そう、レイドマルはそう言ったのだった。かれども彼はこの言葉を後悔することになるのだ。アンドヴァーレの金への呪いはこれから永遠に続くのだった。

北欧神話(53) 第十一章<ローケが二兎を得る>(4)

第十一章<ローケが二兎を得る>(4)

「高くつく、だと?!」彼は甲高い声で笑った。「お前達こそ、どんな高い代償を支払ってくれるのだ、わしの息子ウッテル(かわうそ)を殺したことの!」
神々は落胆して黙って互いを見交わした。
「ウッテルは昼間はかわうその姿で川で遊び、魚を食らうのが好きだったのだ。でも夜には普通の姿に戻って家に帰ってきたのだ」とレイドマルは鼻声でしゃべり、暖炉の炎の前に横たわっているかわうそを見つめた。
 ローケは笑い出しそうに見えたが、どうにか深刻な表情を保った。
「かわうそは旨い。かわうその姿で川を漕ぎまわるなんて、あまりにも危険で、、」
「ゴールドだ!」と小人は怒鳴った。「金で償ってもらおう。わしの二人の息子がウッテルの皮を縫い合わせたら、お前達はその中に赤金を詰めろ。生きているウッテルのように立つくらいに。それから、、、彼はもっともっと金で飾られねばならない。彼が見えなくなるまで!それができなければ死ね!」
 オーデンは状況が深刻なことを見て取り、ローケに小人アンドヴァーレのところへ行けと命じた。アンドヴァーレはそこから程近いネズの木の下の藪の洞窟に住んでいるのだった。
「彼は金を持っている」と彼は囁き、ローケを意味ありげに見た。ローケは小人が合意するか否かにかかわらず、彼の金を持ってくるのだということを理解した。
「まずエーギルのところへ行き、彼の妻ランに彼女の一番良い網を借りるのだ。その網で小人を捕まえるのだ」とオーデンは言った。
 ローケの縄は解かれ、彼は魔法の靴の力を発揮してできるだけ早くエーギルの広間へ向かった。ランはいやいやながらも彼女の一番良い網のひとつを貸してくれた。ローケはすぐさま地上に戻って、オーデンの言ったネズの木のところまで走った。
 地下深くにアンドヴァーレの住居があった。ローケは小人の洞窟に足を踏み入れ、周りを見回した。広間の真ん中に湖と大きな石があった。年取ったカワカマスが泳いでいたが、小人はどこにもいなかった。ローケは魚を良く観察し、魚の目を見た瞬間思わずランの網を投げかけ、飛び跳ねる肴を陸に引き上げた。
「水の中の小人を釣るのはもう飽きたぜ!」とローケはため息をついた。「元の姿に戻れ、小人よ。いろいろやらなくちゃいけないことがあるんだ!」
 魚はみじめに口を開けたが、乾いた陸の上では空気を十分に得られなかったので小人の姿に戻ることを余儀なくされた。
「お前達は自分以外の姿になる方が心地よいのだな」とローケは言い、ひどい匂いを放つ小人から後ずさった。「命が惜しかったらお前の金のところまで案内しな!」
 小人は魔法を使って湖のそばの石の中の扉を開けた。ローケは赤金の放つ輝きを見た。
 小人は何も言わず彼の宝を集めたが、ローケは小人が指にそっと指輪をはめるのを見逃さなかった。

北欧神話(52) 第十一章<ローケが二兎を得る>(3)

第十一章<ローケが二兎を得る>(3)

 「どうだい?」と彼はオーデンとヘーネルに向かって叫んだ。「一投げで獲物を二つ、というのは毎日起きることじゃないぜ!」
 オーデンとヘーネルは笑った。ローケは機嫌がいいときには周り中を良い気分にさせるのだった。
 オーデンはローケには実際良い面があると思った。彼はオーデンにあの素晴らしい馬スレイプネルをくれたではないか。オーデンはそのことにとても感謝していた。その上、ローケは皆を楽しませたり、どきどき心配させたりする。ローケ無しのアースゴードなど考えられるものか。オーデンはローケの悪さについてトールが言葉が彼の心にまいた小さな心配の種を考えないでおくことにした。
「まず、かわうその皮をはごう。それから暗くなる前に野営に適す場所を見つけねばならない」と彼は言った。
 彼らがまた歩き始めたとき、ヘーネルが大きな魚をぶら下げ、オーデンとローケが交代でかわうそを持った。
 彼らは黒い妖精の国と小人たちの国ニダヴェリルの境界までやってきて、地下への道に続く広い入り口を通過した。
「この下に農場がある」とオーデンは言った。「そこに泊めてもらおう。」
家の扉を開けた小人達は、すごいあごひげの年取った男でレイドマルだと名のった。
「われわれに一晩の宿を貸してはもらえまいか」とヘーネルは言った。「とめてくれるなら食料をたくさん提供できる。」
神々は皮をはいだかわうそと魚を小人に見えるようにかかげた。
レイドマルは硬直し、顔色を変えた。
「お入り」と彼は短く言い、彼らを大きな部屋に案内した。「ここで待っていてくれ。」
神々は獲物を床に下ろし、座った。彼らはとたんにとても疲れを覚えた。
 レイドマルが戻ってきたとき、彼は二人の若い男を連れていた。彼らは神々のところへまっすぐ進むと、何の説明もなく彼らを組み敷いた。神々は彼らの疲労感が普通のものではなく魔法によるものだと悟った。
神々が互いにつながって縛られたところで、レイドマルが口を開いた。
「お前たちはわしの息子を殺したんだ!」と彼は憎しみを込めた声で言った。「それに対してお前たちに償いをしてもらおう。」
神々はなにを言っているのかと問うような視線で彼を眺めた。小人はなにか勘違いをしているに違いない。
「お前は何か勘違いをしているぞ、レイドマル。その勘違いの代償は高くつくぞ」とオーデンは警告した。
レイドマルの目は怒りで真っ赤になった。 

北欧神話(51) 第十一章<ローケが二兎を得る>(2)

第十一章<ローケが二兎を得る>(2)

 飲み食いが一段楽したとき、トールは父の耳にローケが実際どんなやつなのかを見極めるときだと囁いた。度々、ローケの嘘とたくらみが彼らを窮地に陥らせ続けたではないか。トールは、オーデンが厳しく、ローケと彼のひねくれた子どもたちが、彼らが神々にとって危険になる前に、イグドラシルの世界からいなくなるようにすべきだと提案した。
「あの子どもたちがどうかはよくわかっているでしょう」とロールは言った。「フェンリスウルヴェンはとても大きくなり、その残忍さは他の狼の比ではなくなっています。彼に食事を与えるのはティールの役目で、もはや彼以外は誰もそばによろうとしません。ヘルについては、死の世界で無慈悲な女帝として大きな力を持ちすぎています。死後に彼女に会うものはかわいそうです。そして私がユートゴードに居たとき以来、ミッドゴードオルムがものすごい大きさに成長していることは皆に知れ渡っています。彼は明らかに世界の海を取り巻くらいの大きさです。それに彼は巨人たちと協定を結んでいるようです。ローケの悪の子ども達にとって状況が良すぎるようです。何か手を打つべきときでしょう。」
 オーデンはあまり気乗りのしない様子で興奮したような息子の話に耳を傾けたが、何も結論は出さなかった。ローケにはよい面と悪い面の両方がある、と彼は言った。そしてオーデンとローケは実際に義理の兄弟であるのだ。
 オーデンがトールの言ったことについて考えている間に、ローケが彼のところへやってきた。彼は焦れて後ろで足踏みをした。
 オーデンは後ろを振り返った。
「兄弟よ、調子はよいか?」と彼はローケに尋ね、トールの肩をぽんとたたき、彼らの会話の終了を告げた。
「ミッドゴードへの私たちのたびはいつ始まるのです?」とローケはいい、眉毛を上げた。
 オーデンは微笑んだ。
「明日だ、友よ。お前の意欲をうれしく思うよ。ヘーネルも一緒に来ると約束してくれた。出発の前にたくさん飲み食いしなさい。」

 翌朝早くオーデン、ローケ、ヘーネルはビーフロストの橋を下った。彼らがミッドゴードまで来たとき、魚釣りに適した流れを探し始めた。上流へと川をたどって数日行ったところに、鮭がたくさんいる流れの速い滝にたどりついた。滝の上には幅の広い平らな岩が横たわっており、川の水は静かにその上を流れていた。
 ローケはその岩の上で立ち止まり、輝く水面を眺めた。ちょうど、かわうそが大きな鮭を捕まえたところで、獲物を脚に挟んでうっとりと川に背面で浮かんでいた。かわうそは素晴らしい食事を始める前に日光浴を楽しんでいるかのようだった。
 ローケは釣竿を投げ出して、彼の魔法の靴で走り寄った。かわうそにできるだけ近づくと、彼は石を拾い、狙いを定めて投げた。それから彼は皮に飛び込み、気絶したかわうそを引き上げた。かわうそはまだしっかりと鮭を抱え込んでいた。

北欧神話(50) 第十一章<ローケが二兎を得る>(1)

第十一章<ローケが二兎を得る>(1)

 巨人ゲイレドへのうまくいった訪問を終えてトールとローケがアースゴードに戻ると、オーデンは大きな宴会を催した。ヴァルハラの椅子は金の甲冑で飾られ、壁には最も美しい壁掛けと金の盾が飾られ、テーブルの上にはたくさんの食べ物が置かれた。神々がトールの帰還を待ちうけるために集まる中、暖炉では炎が楽しそうにぱちぱち音を立て、長いたいまつが大きな広間を照らした。
 ローケは広間の一番末席に着かされ、真ん中で父の隣に座り、彼の業績に対する神々の賞賛の言葉に応える皆の注目を集めるトールを嫉妬に駆られて真っ白な顔で睨みつけた。
「さあ、わが息子よ」とオーデンは満足げに言った。「今回は何人の巨人の息を止めたんだ?三人か?」
トールはうなずいた。
「お前は自分自身の武器と他のものの武器を賢く使ったな。我々の中には残念なことに自分の武器を十分に使えないやつもいるのだが。」
オーデンは苦々しい視線をフレイに向かって投げた。フレイはまるで針の上に座っているかのようだった。
「なにかあったんですか?」とトールは尋ねた。
オーデンは難しい表情だった。
「想像できる以上のことがな」と彼はいい、杯からぐいぐいと酒を飲み干した。「よい子のフレイが、女巨人ヤードの愛を勝ち取るために自分の素晴らしい剣をやってしまったのだ。」
トールは頭を振った。
「それはよくないですね。あれはとてもよい剣だったのに。他のどれよりもずっと良い。」
オーデンはうなずいた。
「そして彼は見返りに何も得なかったのだ。彼の家来のシルネルの脅かしが功を奏しただけなのだ。悪いことを魔法で起こすぞという脅かしさ。三つ頭の巨人との結婚という呪いが鍵になったのだった」と彼はぶつぶつ言った。
トールはフレイを盗み見た。シルネルがフレイの杯に蜜酒を注ぐ間、フレイは恋しい思いに身を沈めてしまっているようだった。
「そしてフレイはまだ彼女を腕の中に抱くことを夢見ているようなのだ」とオーデンは言った。
オーデンはため息をつき、うなずいた。
「彼はヴァーナ神の一人なのだ。それは見ていてもわかる。彼の父がスカーデと結婚して山の上に行かねばならなかったときに、海を恋しがったことを覚えていよう。ニョードはいつも自分が何を望むかを知っていた。そしてできるだけ速くそれを手に入れようとしたのに。親子は似るものだ。。。」

北欧神話(49) 第十章<フレイが愛で満たされる>(2)

第十章<フレイが愛で満たされる>(2)

 シルネルは約束を守った。その危険な夜は道を見つけるのが難しかったが、彼は幸運にも羊飼いと出会って道を教えてもらうことができたのだった。羊飼いたちはどこに最も危険なだまされるところがあるかも教えてくれた。
 彼がついにその女巨人の家の扉をノックしたとき、召使の巨人が彼を中に招きいれ、火のそばに案内した。
「私の名はヤードです」と、火のそばに座って仕事をしていたその美しい女巨人は言った。「真夜中に私の居間を見に来るなんてあなたはどなた?」
「用事があるのです」とシルネルは答えた。「私の主人、フレイ神が、あなたに会いたがっています。もし彼の望みを聞いてくださるなら、私のリュックサックの中の11個の金のりんごをお礼に差し上げます。」
「私があなたの11個のりんごをとって、見たことも無い人の言うことを聞くの?」とヤードは笑い出した。「そんなこと絶対にしないわ!」
「ここにオーデンの魔法の腕輪のひとつがあります。毎晩同じくらい重い8つの腕輪が生まれてきます。これも差し上げます。」
「私は必要なだけの腕輪は持っているわ」とヤードは冷たく言った。
シルネルはため息をついた。
「刀を見てください。細身で、鋭く、美しく磨かれているでしょう。もしあなたが私の提案を受け入れないならあなたの喉を切りますが。」
ヤードは憎しみを込めて彼を睨んだ。
「強制されて、言うことなんかきくもんですか!必要だったら、私の父さんが私を守ってくれるわ!」
シルネルは光る剣を掲げ上げた。
「この鋭い剣は年老いた巨人も倒せるのです。これはとても素晴らしい剣です。あなたの気が変わったらこの剣をあなたに差し上げられます。でもあなたを手なづけるために私の魔法の枝を使いましょう。」彼はリュックサックの中を探して小枝を取り出した。
ヤードは疑い深く彼を見ていた。
「あなたがこの世からいなくなるように」と彼はつぶやいた。「死者の国へ向かうように。食物の味がしなくなるように。悲しみと無感覚があなたにまとわりつくように。」
シルネルはヤードの目を見つめながら、枝を振り回した。
「三つの頭をもつ巨人があなたの夫になるように。あるいはあなたの夫には誰もならないように。アーサの神々や他の神々もあなたを怒るようになるように。」
ヤードは不安げに見えた。
「さあ、これから!」とシルネルは言い、木の枝を掲げた。「私が言ったことが現実になります。まず三つの頭を持つ巨人からはじめましょう。。。」
ヤードは彼の手を押さえ、彼を制した。
「あなたの歓迎の杯を干してちょうだい、シルネル。あなたのご主人に会うわ、会いたくはないけど。9日後にバッレという名の美しい丘で待っていると言ってちょうだい。」
シルネルがアースゴードに馬をかって入ってくるやいなや、フレイが急いで彼を迎えた。
「さあ、言ってくれ、シルネル。ヨートゥンヘイムのたびの首尾を」と彼は言った。
シルネルは難儀した説得と合意に至った経緯について話した。
「9日後まで会えないというのか?」とフレイは額にしわを寄せてぶつぶつ言った。「一晩でも長いというのに、二晩以上も、」
賢いシルネルは主人に向かって頭を振り、フレイの馬に草を食べさせるために外に出た。フレイはいてもたってもいられず、それは周りでも良くわかった。愛に関しては皆、我慢ができなくなるものだから。
イグドラシルの世界においては、違いがあっても愛には影響が無いと言うことがわかっただろう。でもわしはまた悪者の話に戻らねばならない。アースゴードの出来事ほとんどに影響を与えた悪について。

北欧神話(48) 第十章<フレイが愛で満たされる>(1)

第十章<フレイが愛で満たされる>(1)

 そう、巨人と神の間に愛が生まれるのはそれほどまれなことではなかった。ニョードとスカーデの結婚で息子として生まれたフレイは、そのことについてどうしてそうなったのかをずっと考え続けた。神と巨人はほとんどの場合互いに嫌いあっていたから。
 トールとローケが巨人ゲイレドのところから戻ってきたとき、フレイはオーデンに彼の玉座フリズカヤルフを貸してもらえるかどうかききにいった。そうすれば彼はどこでも見渡せるようになり、自分の姿は見られることなく、巨人たちをもっと良く観察することができるようになるから。
 フレイがオーデンの許可を得て玉座に座ったとき、彼は岩だらけのヨートゥンヘイムに目をやった。まったく美しくないところだ、と彼は最初に思った。そしてそれから彼は視線を滑らせて、巨人たちの家や庭を眺めた。ゲイレドのところでトールがめちゃくちゃにした跡を見たけれど、彼はそれには関心を示さず、さらに奥のほうに視線を移した。庭に出ている男巨人たちはまったく醜かった。女巨人たちもほとんど同じだった。けれども彼の視線はふと一人の女巨人に止まった。
 フレイは心臓がいつもの二倍の速さでどきどきするのを感じた。彼がこれまで見たことのある最高の美しさを持つ女性のうちの一人だ!彼女の裸の腕、彼女の肌、そして彼女の長い髪は太陽の光の中できらきらと光っていた。フレイは息が止まりそうになった。彼は彼女に会わねばならない!けれどももちろんそれは不可能だった。僕たちは絶対に互いを手に入れることはできない、と彼はがっかりして考えた。
 フレイはため息をついてオーデンの玉座から降りて、彼の父の砦ノアトゥンにいき、孤独に膝を抱えた。それから数日は彼の姿は見えなかった。
 ニョードは彼の息子の陰気な表情を心配した。彼はフレイの優秀な家来であるシリネルをよんで、感じやすい彼の息子に何が不足なのかを注意深く調べるように頼んだ。
 ある晩、シリネルは彼の主人と二人きりだったので機会を捉えて聞いた。
「ねえ、フレイご主人様、なぜ一日中一人きりで座っているんです?」
「なぜ、お前に私の悲しみを話さねばならぬ?いかに太陽が力強く輝いているとしても、私の気持ちほどではないに」とフレイは燃えるように熱心に言った。
「ああ、わかりました。愛ですね!」とシリネルは言った。「私たちは一緒に育ったんですから、全部話してくれたっていいっていうことはあなたにもわかっているじゃありませんか」
フレイはうなずいた。「ある女性を見たんだ。でも私達は絶対に一緒になれないんだ。」
シリネルは意を決したように立ち上がった。
「あなたの馬と、あの自分で自分を振り回すことのできる刀を貸してください。私は夜を徹して駆け、彼女と話をつけてきましょう、彼女がどこに住んでいるとしても」
「彼女はヨートゥンヘイムにいるんだ、友よ」とフレイは暗い表情で言った。
「それでも私は行ってきますよ」とシルネルは勇ましく答えた。

北欧神話(47) 第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(4)

第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(4)

トールの頭に不安になる速さで天井が迫ってきた。トールは急いでグリードの魔法の杖を取り出し、天井の梁に押しつぶされないように支えた。彼が下に押し返すと椅子の下からうなり声と何かが床との間でつぶれた音が聞こえた。
トールは椅子の座席を覗いた。ゲイレドの二人の娘が気を失ってのびていた。
そのときゲイレドの家来の一人が入り口にところに姿を現した。彼は打ちのめされて伸びている娘たちに恐怖の視線を当てて震えながら言った。
「ゲ、ゲイレドが、お、お話したいとのことです」と彼は早口にしゃべって、すぐに大きなウサギになったかのごとく走り去った。
トールとローケは庭を横切って下入れるの家の中の広間に入っていった。ゲイレドは暖炉の前の高い椅子に座って彼らを待っていた。
トールが広間の真ん中に近づくと、巨人は突然前に飛び出し、マントの中に隠していたペンチを使って火の中から真っ赤に燃えた鉄の棒を持ち上げた。
「さあ、これでもくらえ!」と巨人は叫び、トールに向かって赤く燃えた鉄の棒を投げつけた。
トールはすばやくグリードの鉄の手袋をはめ、飛んでくる棒をつかみ、槍のようにそれを投げ返した。
ゲイレドは目を見開いて鉄の柱の後ろに隠れたが、燃える鉄の棒の飛んでいく勢いがものすごかったのでそれは鉄の柱も巨人も貫いてしまったのだった。
ローケは言葉も無くその様子を見ていた。しばらくしてから彼が目を上げると、トールはすでに庭を過ぎ家に向かって歩き始めているところだった。
イグドレシルの世界ではこのようにことが運ぶのだ。女巨人が神を愛し、自分の仲間に立ち向かう彼を助ける。愛は諍いより大きいものだからね。

北欧神話(46) 第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(3)

第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(3)

「あなたがなぜハンマー、ベルト、手袋なしに旅をするのかがわからないけれど、それはまったくばかげているわ!」と彼女は強調して言った。「さあ、私のベルト、私の鉄の手袋、そして私の魔法の杖を持ってって。緊急のときに使えるように」と彼女はトールに申し出た。あなたのような美しく若い男が死ぬのは見たくないわ。ゲイレドは多分あなたをだますつもりよ!」
トールは女巨人に向かってあたたかく微笑んで、彼女の申し出を受け入れ感謝した。
ローケは静かに歯軋りした。もちろんトールはまだ若いけれど、、美しい?アーサ神への女巨人の愛と、彼女が彼を助けようとしている熱情を見て彼は気分がよくなかった。
翌朝トールは雄山羊をグリードのところに残し、彼らはヨートゥンヘイムの森を通り抜け、大きな強い流れの川のところまで歩いていった。大きな川は突然森の松の幹の間から現れたのだった。
トールは首をかしげて渦を巻く流れを見つめた。そして川に踏み入る前にグリードが貸してくれた力ベルトを引き締めた。ローケはトールが何をしようとしているかを知ってあわてて前に進んだ。彼はグリードのベルトにつかまり、イガのようにトールの腰にぶら下がった。自分だけだったら彼はとてもそこを越えられそうになかったから。
トールはグリードのベルトにもかかわらず、足場が不安定なことに気づき、流れを鎮めるために女巨人の杖で渦をかき回した。
けれども彼が流れの真ん中まで来ると、突然水の量が増えた。水はすぐにトールの肩のところまで届き、足場を確保するのが難しくなった。
ローケは喘いで、トールの肩にしがみついた。彼の腕はトールの頭に絡みついた。
突然目隠しをされたトールは、ローケの腕を振り払おうとした。また目が見えるようになると、流れの上流にゲイレドの娘の一人が立って、川の岸に脚をかけ、膀胱を空にすることで水の量を増やしているの見た。
トールは怒って水の中に身をかがめ、大きな岩を拾い上げ、巨人の娘に向かって投げた。彼の投石は狙いが確かで、女巨人は叫びながら森の中へ消えていった。水の量は直ちに少し減り、トールは岸に近づこうと努力した。ついに彼は前に進むことができるようになり、岸辺に生えていたナナカマドの木をつかみ、川から出ることができた。
ローケはトールの頭にしがみついていた手を離し、ずぶぬれの息も絶え絶えの固まりになって岸にドスンと落ちた。
しばらく休憩してから彼らはゲイレドの家までの最後の行程を進んだ。ゲイレドの家では彼らは尊厳ある出迎えを受けなかった。ゲイレドは習慣に従って、ローケとトールに寝床を提供しなければならなかったが、家ではなく、山羊小屋に泊まれといった。
山羊小屋の中には大きな椅子がひとつあるだけだった。トールはそれに座った。けれどもトールが座ったとたん、その椅子は空中に浮き始めたのだ!

北欧神話(45) 第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(2)

第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(2)

 「わしはヨートゥンヘイムのすべての巨人の中でも最も強い巨人の一人だぞ。そしてわしはいつもあのうとましいトールを殺そうと望んでいた。お前がここにやってきてわしの家に迷惑をかけたんだから、少しは役に立ってもらわんとな。お前はトールをだましてここに連れて来い。そうすればわしがあいつの巨人狩りを止めてやる。わしたちの誰もあいつを止めることに成功しなかったからな。でもあいつがここにあのいまわしい力のベルト、手袋、ハンマーなしに来るのだったら、どうにかなろうさ。お前はそれができるか?できないんだったらまた箱の中に入れるだけだ。さあ?」
 ローケはあわててうなずいた。彼はなにかを食べねばならなかった。すぐに。そうでなければ彼は鷹の羽を食べ始めていたことだろう。
 ローケはまずすっかり満腹になるまで食べてから、アースゴードに向かって飛んで帰った。彼はそのときすでにどうやって無防備のトールをゲイレドのところまで連れて行くかの算段をしていた。それは難しくはなさそうだった。

 トールは柔らかい朝の太陽を浴びながら膀胱を空にしてるところだった。彼は自分がひとりではないことに気づき、いらいらした。すぐ近くの木の陰のところにローケがいて、彼を観察していたのだった。
「あんたが知っておくべきことを聞いたぞ!」と彼は言った。
トールは眉をひそめ、咳払いをした。
「じゃあ、言ってみせろよ」と彼は疑心暗鬼で言った。
「巨人のゲイレドが、トールは男と男の戦いのできないやつだと言いふらしているのさ。つまり巨人相手の戦いのことだが」とローケは訂正した。「ハンマー、ベルト、手袋の助けなしにはね」
トールは自分のごつごつした手を見つめた。
「おお、あいつはそんなことを言っているのか、、、」と彼はもごもご言った。
 ローケが考えたとおりに、激情家のトールは直ちに自分の車に向かい、それに雄山羊を繋いだ。ローケはそのすぐ後にぴったりとくっついて、ゲイレドがこんなことも言っている、あんなことも言ったと言葉をついで、トールの怒りを増幅させた。
 トールは嫌がったが、ローケに説き伏せられて彼を一緒に車に乗せた。
 ヨートゥンヘイムへの彼らの旅の最終日である三日目の夜に、彼らはグリードという女巨人のところに泊まった。グリードは美しい巨人で、ローケはアース神が彼女に話しかけるのを見たとき、彼らは互いに知り合いだというばかりでなく、互いに好ましく思っているのだなとみてとった。
 女巨人が彼らに夕食をご馳走したとき、二人は今回の旅の目的について彼女に語った。トールがゲイレドを訪ねにいくと知ったとたん、彼女は急にまじめな顔つきになった。ゲイレドは異常にずるがしこく、悪意に満ちていると彼女は説明した。彼女はトールが武器なしに彼の手に落ちるのは見たくない、と言った。

北欧神話(44) 第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(1)

第九章<ローケが巨人ゲイレドに捕まる>(1)

 ローケは、トールのハンマーや、折りたためる舟やその他の小人達が作った神々への魔法の贈り物を提供したおかげでオーデンにほめられたので満足していた。一目置かれるということは気持ちが良いものだ。彼は自分自身に褒美をやろうと、フレイヤの鷹の羽を盗んでちょっと空を飛んで楽しもうと決めた。彼はこれまで何度も鷹のしたくを借りていたので、そこに忍び込み、着替えるのはたやすかった。
 アースゴードの岩壁の上を何度も飛んだ後、彼は昔の故郷が恋しくなり、ミッドゴードを過ぎ、ヨウトゥンヘイムの高山をめざした。彼は巨人の息子であり、特に巨人の国を懐かしむ気持ちが残っていたのだ。
 ローケが年取った巨人ゲイレドの家の庭の上を飛んだとき、彼は館の扉が開いているのに気づいた。けれども庭には誰もいなかった。彼は持ち前の好奇心に刈られ、窓穴のひとつに着陸した。彼が中を覗き込むと、ゲイレドが暖炉の前に座って食事をしていた。
 そのときゲイレドは鷹が目に入った。
「皆の衆!」と巨人は叫んだ。「鷹だ!窓穴のところの高みにいる。捕まえろ!」
 ローケは楽しい鬼ごっこが始まるみたいだと思って、鷹の衣装を着たまま笑った。
 ゲイレドの家来の一人が困難を極めながら、窓穴に向かって壁を登り始めた。ローケは彼がもうちょっとで届くというときまで待つことにした。彼が捕まえようと手を伸ばしたときに飛び立つつもりだった。
 けれどもローケが考えるとおりにはことが運ばなかった。彼が捕まる直前に馬鹿にしたように飛び立つために羽を開こうとしたとき、彼は前につんのめってしまった。彼の鷹の爪が穴に埋まってしまっていたのだ。
 ローケはくちばしを壁にひどくぶつけたので彼の目には星が輝いた。そしてその場所に彼はさかさまにぶらさがったままになってしまった。ふらふらして動くことができずに。
 人々は簡単に彼を捕まえ、ゲイレドに手渡した。
 ゲイレドは捕まえられた鷹の目を見るとすぐ、これは普通の鳥ではないということがわかった。
「わしの魔法の力を計算に入れていなかったな」と彼は言った。「お前は誰なんだ?」
 ローケは黙っていた。彼は自分のいたずらを公開したくなかったのだった。
「もう一度だけチャンスをやろう」とゲイレドは通達した。
ローケは黙っていた。
 ゲイレドはすると捕まえた鳥を小さな箱の中に閉じ込めた。その中で鷹は、つまりローケはじっと座ったままでどんどん空腹になっていった。
 3ヵ月後、彼はとてもおなかがすいた。
 ゲイレドがやせ細った鷹をつまみあげたときには、鷹はとても饒舌になっていた。
「おやまあ、お前はローケだったのか?」と巨人は無愛想にうなった。「なんでお前は自分の仲間に悪さをするんだ?」
 答えは無かった。

北欧神話(43) 第八章<占い師グローアがトールの頭から砥石のかけらを取り除こうとする>

第八章<占い師グローアがトールの頭から砥石のかけらを取り除こうとする>

 トゥルンドヴァングにある家にトールが戻ったとき、彼はちょっと頭に痛みを感じた。額に指を這わせて見ると、フルングネルの砥石のかけらが頭に食い込んでいるのだとわかった。
シフはそれをみて夫のことが心配になり、巫女のグローアに家に来て石を取り除く魔法の歌を歌ってくれと頼んだ。
 トールは高座に座り、グローアの単調な歌を聴くことになった。石が表面に浮きかかるとトールは彼女の巧みさがうれしくなり、彼女がますます調子がよくなるようなことを言おうと思った。
 「ねえ、グローア」と彼はやさしく言った。「お前は歌がうまいね、よい夫を持っているし。」
 グローアは歌を途中でやめ、トールを見つめた。彼女は夫が旅の途中で死んでしまうのではないかと心配していたのだった。
 「お前の夫は生きているよ」とトールは請け負った。「私自身が助けたのだから。凍えるヨートゥンヘイムで怪我をしていたので、そこから担ぎ出してやったんだ。ひどい寒さで彼の足の親指の片方は凍っていた。彼をたたえるためにその痛んだ親指を折り取って空に投げ上げてやった。それは今、小さな星になって、巨人チャツセの目の星の隣にある。お前は彼が生きていることを喜んでよいのだ。」
 グローアはトールの言葉にとても胸を打たれたので、頬を伝う涙が止まらなくなり、もはや歌うことなどに心を集中することはできなくなってしまった。
 だから砥石のかけらはトールの頭に食い込んだままになってしまったのさ、ずっとね。でも傷跡は治ったから外から見ただけではわからないんだ。
 フルングネルとの戦いの後、トールはトゥルードヴァングの家にとどまり、休養した。静かな日々が続いたのだけれど、午後遅くになると彼は戦地に行くことが多かった。そこではミッドゴードからアースゴードへきた、死んだ勇者達が毎日戦いの練習をしていたのだ。彼らはアースゴードではエインヘリヤルと呼ばれていた。戦いが終わるとトールは彼らとともにヴァルハラについていった。底にはいつもうまい豚肉と蜜酒が長いテーブルの上にいっぱい供されていた。
 そうなのじゃ、予想がつかないローケがいなければアースゴードの毎日は平穏に流れていったのさ。けれども彼はそこにいたし、なにかが起これば必ず彼が一枚かんでいたのさ。まったく彼のせいではないときもあったし、彼のせいとしかいえないときもあったのさ。

北欧神話(42) 第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(5)

第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(5)

「お前はオーデンの息子、雷神トールと話しているんだぞ」と彼は脅かすように言った。「お前の名前を言え。そしてすぐに舟をここに漕いで来い」。
「私はハルバードだ」とはっきりと向こう岸から聞こえた。
それからなんの動きも無かった。トールは岸の端から歩み進んだが、氷のように詰めたい水に触れて後ずさった。
「ひゅう!これは水浴びをするにはひどい水だ。でも私はここをわたらねばならないのだ。そして哀れなお前に仕返しをしてやるぞ!」
「あんたは渡してもらうような良いことをしたのかい?」と渡しの男は尋ねた。
トールは考え込んだ。
「巨人かな。私はいっぱいやっつけた。西の方に二人大きな巨人が倒れているのが見えるだろう。あれは力持ちの巨人チャツセの目だ。私は怒りを覚えたときに彼らを天蓋にほうり投げたのだ。お前はなにか役に立てたことがあるのか?」
「もちろん、私は戦い、平和のために貢献したさ。ところで、あんたが本当にトールなのだったら、オーデンが死んだ戦士や偉人を得るということを知ってるはずだな。トールは奴隷の類しかもらえないと聞いたぞ。彼は誰もが知っている力持ちだけれど、心は無いそうだぞ。そして頭も弱いってな。巨人スクリメルの手袋の中で不安げに縮こまってたこともあったんだってな。で、あんたが巨人たちをやっつけたんだって言うんかい?」
「ハルバード、この豚め!」トールは怒りくるって叫んだ。「水が間にあることはお前にとって幸運だったな。そうじゃなければ打ち殺してやったところだぞ!」
「あんたはここをわたる手段が無いもんな」と男は笑った。「トールの妻シフは夫が留守の間に誰かを連れ込んでるっていう話だぜ。あんたはそいつに会いたいだろうさ。もしあんたがトールだったとしたらな」と彼は付け加えた。
「嘘をつくな、このならずもの!」とトールは叫んだ。
「南の方を見なよ」と私の男は動じずに言った。
「あの遠くの木が群生しているところまで行き、それをすぎて大きな石のところまできたら左に折れれば、そのうちにあんたの家に着くさ」と彼は慰め、焚き火に火をつけるために背を向けた。「もし小人か巨人が途中であんたをやっつけなかったとしたらな、もちろん!」と彼はつぶやき、彼のだまされやすい息子に向かって鼻で笑った。
トールは背を向けたその頑固な渡しの男を睨むと、とぼとぼと岸を南に向かった。あの男のまなざしはどこかで見たことがあるような気がしたが、どこで見たのかは思い出せなかった。
オーデンは、時にはトールにストップをかけたほうがよいと考えたのだった。そして彼の背に視線を投げたのだった。
そう、こういう結末。トールがその強力をからかわれることもあったのさ。それしか能がないと。けれどもトールは力が強いばかりではないということも、後で話して聞かせよう。

北欧神話(41) 第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(4)

第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(4)

 チャルヴェがマグネをつれて戻ると、マグネは簡単に巨人の足を取り除けたのだった。
 巨人達はそれを心配げなまなざしで見つめると、直ちに恐ろしい知らせを持って家に走って帰った。フルングネルとメッケルカルヴェは倒れ、雷神の上に倒れ掛かったフルングネルの脚を神の赤ん坊がいとも簡単に取り除いたという知らせを!ヨートゥンヘイムの住人にとってその日は暗い日となった。ハンマーのミョルネルはトールをさらに恐ろしい敵にしたのだ。そして彼の息子はさらに恐ろしく育つだろう。
 
 戦いが終わると、チャルヴェはトールの車に小さなマグネを乗せてアースゴードに急いだ。マグネは赤ん坊だからおなかがすいて空の高みで泣き叫んだのだった。チャルヴェはトールの重いハンマーももった。トールは少し心を落ち着かせるために歩いて帰りたがったのだった。トールがヨートゥンヘイムとミッドゴードの間を分ける瀬戸まで来たときには冷えた夜となり、北のほうに霧が濃厚に立ち込めた。トールはいつもとは違ってとっても疲れ、家の中の心地よい火が恋しくなった。彼の頬をくすぐるシフの金の髪、熟成した蜜酒の入った杯。
 瀬戸の向かい側には舟があり人がその脇に立っていた。トールには彼は渡しに見えた。もし彼がそれに乗れたら家まではそう遠くなくなる。
「あんたはだれだ?」と彼は叫んだ。「渡しかい?」
 瀬戸の向こう側の男はトールの方を振り返った。
「そんな大声をかける男の中の男、あんたは誰かね?」
「瀬戸を渡してくれたら、ちょっと早いが私のリュックサックの中の朝食をご馳走してやるぞ」とトールは彼の気を引こうとした。「とても立派で旨いぞ。保証する」
「あんたの朝の大仕事は朝食を用意することなのかい?」とその男はからかうように言った。
 トールは男の無礼な物言いが気に入らなかった。彼は男がさらに彼に口をきいたときに、いろいろはっきりと教えてやろうかと思った。
「追放された暴れ者のように素足だな!」と彼は叫んだ。「迎えに行くほど金持ちには見えないぜ」
 トールの怒りがふつふつと湧き起こってきた。
「ここにお前の小舟を運んでこい!」と彼はどなった。「そうしないとその舟の所有者に言いつけるぞ」
「じゃあ、そうしろよ。彼は料金を払えるものだけを渡せと言ったんだ」と彼は動じず言い返した。
トールは黙った。はっきり言い渡すべきときのようだ。

北欧神話(40) 第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(3)

第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(3)

 その巨大な粘土細工を目にした者は、彼がまったく優しい顔などしていないことにすぐ気づいた。
 トールは、フルングネルと戦うためにアースゴードを出たとき、人間の息子チャルヴェを介助人として供にした。チャルヴェはいつものように先に走ってゆき、フルングネルとメッケルカルヴェの姿を見ると、あることを思いついた。彼は怖がりもせず進み出てフルングネルの耳にこう囁いたのだった。
「トールはね、地下の近道を取ったんだよ。あんたを驚かすためにね。彼は地下から現れるんだよ。」
 フルングネルは最初ぽかんとした表情でチャルヴェを睨んだが、その後賢そうにうなずいて、盾を構えた。
 その瞬間、雷の嵐が吹き荒れ、チャルヴェと巨人のまわりに稲妻を落とした。
 トールが森の入り口から走り出てきた。彼は猛々しい視線を雄山羊に投げかけ、彼らをフルングネルに向かわせた。
 粘土の巨人メッケルカルヴェは、大きさは勇気や力と必ずしも関係があるわけではないということを証明し、すぐにズボンをぬらした。一騎打ちを見に来た巨人達は、そのぬれたしみを失望して見つめた。粘土の巨人はなんの助けにもならないだろう。
 けれどもチャルヴェは冷静に自分を保った。彼は良く狙って粘土の巨人に矢を放った。矢に当たって粘土の巨人は倒れ、こなごなになった。チャルヴェはそれから彼らに向かって轟音を発して向かってくる彼の主人を手伝いをするために準備した。
 トールの新しいハンマーが、彼を乗せた雄山羊の引く車が止まる前にフルングネルに向かって飛んでいった。巨人は身をかがめ、彼の砥石を投げた。
 ハンマーと砥石はものすごい音を立てて空中でぶつかり合った。フルングネルの砥石の大部分は砕け散って、地面に落ちた(それらは今でもミッドゴードの浜の岩となって残っているのじゃ)。けれどもほんのわずかの部分が残って、空を飛んでトールの頭に当たった。かれどもトールは戦いに夢中になっていたのでそれに気づかなかった。
 ミョルネルにはまったく傷がつかず、そのまま稲妻の速さでその目標に向かって飛んでいった。フルングネルはそれに当たり、トールがようやく彼のところに着いたときに、松の木のように地面に倒れた。
 彼の脚の一本はトールの喉にかかり、トールがどんなに身をよじってもそれをはずすことができなかった。
 巨人達は息もつかせない戦いの様子を眺めていたが、近寄る勇気は無かった。
 チャルヴェはトールの雄山羊車に飛び乗った。彼は急いで助けを呼びに行かねばならなかったのだ。彼には誰を呼んでくればよいかがわかっていた。トールの力持ちの息子マグネは生まれてからまだ3日目だったけれど、その赤ん坊はとても力が強かったので、トールを助けることのできる唯一の神なのだった。

北欧神話(39) 第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(2)

第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(2)

「こっちに来い!」と彼はフレイヤに向かって叫び、酒のお代わりを要求した。「わしはヴァルハラを家に土産に持っていこうと思う」と彼は馬鹿のような笑いを浮かべて言った。「ここはきれいな広間だ。これをヨートゥンヘイムに移そうと思う」と彼は言って、音を立ててゲップをした。「しょれからわしゅはここに戻ってアースゴードを海に沈めるのじゃ
!神々を皆殺してな!」と彼ははしゃいで言った。「それは、、ヒック、、とっても良い行いだ。」
フルングネルはフレイヤの服をつかもうとした。「けれど、まず、そうだな、美しいフレイヤと、ヒック、そこの金の髪の美しい女神を家に連れて行こう!」
シフは心配そうに後ろずさった。
広間に座っていた神々はいらいらして酔っ払った巨人の叫びを聞いていた。ヘイムダール神はとーるをつれてくるために立ち上がった。
トールの青い視線は、彼の父の広間に巨人が広がっている様子を見て暗くなった。
「ここ、神の王の部屋に座って飲み食いできるのは誰なんだ?」
巨人は目を細めて、誰が彼にそんなぶっきらぼうな発言をするのかを見極めようとした。
「わしはオーデンに許可をもらったんだ」と彼は不機嫌に言った。「そして武器なしの相手を殺すのは不名誉なことだぜ」と彼は付け加えて、トールの手がハンマーの周りを探っているのをにらんだ。「わしの砥石と盾はヨートゥンヘイムに置いてきたんだ。ここではなくグルヨートューナで一騎打ちすることにしたらどうだ?」と彼は提案した。
 トールの目は輝いた。一騎打ちを従っている巨人!こいつはいい。
 フルングネルはよろめきながらヴァルハラを出て、馬に拍車をかけて家に戻った。彼がヨートゥンヘイムの家に戻るころには酔いもさめ、会うものたち皆に彼がトールに一騎打ちを申し出たことを話した。その勇気のうわさは瞬く間に広がった。
 フルングネルは巨人の中で最も大きなものではなく、また最も賢い者でもなかった。けれども彼は自分が最も強いと信じていたのだったのだろう。
 フルングネルはもしかしたらトールに勝つかもしれないとヨートゥンヘイムの者達は互いに囁いた。彼は力持ちには違いないのだから。フルングネルの友人達はグルヨートューナでの戦いを心待ちにしたが、最後の瞬間に、機転を利かせて正しいものが勝つのを確かなものしようとしたのだった。
 トールとその介助人を脅かすために、彼らは粘土でフルングネルの介助人を作ることを決めた。それは90キロメートルの高さで、胸の厚さは30キロメートルだった。その粘土の巨人のための心臓を見つけるのは大変だったが、最後に彼らは巨大な雌馬の心臓を埋めた。粘土の巨人は砥石を武器とし、大きな盾を持った。巨人たちはその粘土の巨人をメッケルカルベと名づけた。

北欧神話(38) 第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(1)

第七章<オーデンが追いつきトールが巨人フルングネルと一騎打ちをするはめになる>(1)

 神々の集会は終わった。ローケは走り去ってアースゴードの深い森の中に身を隠した。シフは満足して金の髪を手ですいていたし、トールは手の中で新しいハンマーを試すがめつしていた。彼はできるだけ早くトロルか巨人に向かってその新しいハンマーの力を試そうと思った。
 オーデンも彼がもらった贈り物を使ってみたくてしょうがなかった。彼は、新しい槍を持って自分の馬スレイプネルにまたがり、ヨートゥンヘイムへ用足しに出かけていった。
 彼がミッドゴードとヨートゥンヘイムの間の岩だらけの国に着くと、一人の巨人が彼を呼んだ。
「お前はだれだ?金のかぶとをかぶって、槍を掲げて、不思議な動物に乗って空中を飛んでるやつは?」
と巨人はいらいらして言い、オーデンと8本脚の馬をにらみつけた。
 オーデンは馬の手綱を引いた。
「私はオーデンだ」と彼は言い、そのむくむくした巨人に冷たい視線を投げかけた。「私のスレイプネルに匹敵する馬はこの九つの世界のどこにもいない。だから感心して眺めよ。お前がなんという名であろうと。」
 巨人は厚い唇を突き出して口を尖らした。
「わしはフルングネルだ」と彼はぶつぶつ言い、スレイプネルの観察を続けた。この変な馬だったら彼自身がもっている速い馬が勝つかもしれない、と彼は確信した。その変な馬は脚が多すぎてもつれるのではないかと思われたから。
 巨人は競争しようと望み、自分の馬を口笛で呼んだ。その馬が到着すると同時に彼は馬に飛び乗った。
 巨人が叫び、馬の競走の始まりの合図をするとオーデンはため息をつき、スレイプネルに向かって振り返った。彼は自分の馬をより速く走らせようと努力を続ける巨人のずっと先を走り続けた。巨人はオーデンとの競走に夢中になっていたので、彼らがアースゴードの石垣の背後に入ったことに気づかなかった。
 オーデンはヴァルハラの前の庭でスレイプネルの手綱を引き絞った。
「さあ、これで勝負がついたな!では私は先を急がねばならぬ」と彼は言った。「お前は家に戻る前に私の広間で蜜酒で喉の渇きを癒すと良い。」
 けれどもオーデンはフルングネルのひどい喉の渇きを計算に入れていなかったのだった。フルングネルはオーデンの言葉どおり家の中に入り、オーデンの広間に座った。フレイヤやシフやその他の女神達が彼に一杯、二杯、三杯と酒を振舞った。そして彼はずんずんと図に乗って叫びだし、どんどん行儀が悪くなった。最後は彼のそばにいる勇気があるのはフレイヤだけとなった。

北欧神話(37) 北欧の神々の物語

「北欧の神々」
               
<北欧とは>
 北欧という言葉をきいたことがありますか?「欧」というのはヨーロッパという意味で、「北欧」というのはそのヨーロッパの北の方の地域、具体的にはヨーロッパ大陸の最北端にあるスカンジナビア半島とその周辺にある国々を指します。通常、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランドが北欧に含まれます。地球儀で見ると北の最果てにあり、どんなに寒い国々だろうかと思われるでしょうが、実際はメキシコ湾流という暖流が流れているために緯度が高いわりには気温が低くなりません。北欧各国の首都では、日本でいうと大体北海道の札幌の気候に似た気温となります。
 北欧を特徴付けているのは気温や地形よりもその緯度の高さによる日照時間の移ろいです。地球が傾いて自転しているために夏と冬で日照時間が変わるのは日本でも同じですが、地球儀の天辺に近い北欧では日照時間の差が非常に大きく、特に北部地方では真夏は太陽が一日中沈まない白夜になり、真冬は太陽が一日中あがらない極夜になります。けれども人々はそのような厳しい自然条件の中で自然と共生する生活をしながら高度な文化を作り上げました。

<北欧神話*>
 日本の「古事記」に相当する北欧神話は、北欧にキリスト教が普及するのが比較的遅かった(紀元一000年頃)ため保存状態が良く、古代の風習や考え方を現代に伝える良い資料となっています。中でも一三世紀ころにアイスランドの詩人スノッリ・ストルルソンがまとめた「スノッリのエッダ」が有名です。
エッダというのは歌謡の形の北欧古代詩を意味します。
 ギリシャ神話、古事記に出てくる神々のように北欧神話の神々も「人間臭い」いろいろな性格を持っています。北欧神話に特徴的なのは世界がどう構成されているかの詳しい説明があることです。神、巨人、人間、鍛冶が得意な小人等、それぞれ住む場所が決まっていました。彼らは一種の「種族」のように考えられていて、別の種族の住む集落に行き来することもでき、結婚して子どもをもうけることも可能だったのでした。
 
<天地創造>
 北欧神話では天地創造は以下のように説明されています。
 世界に最初にあったのものは深い大きな裂け目でした。それはジヌンガガープと呼ばれていました。その裂け目のはるか南には、ムスペルヘムという何もかも焼き尽くす炎と光の地がありました。裂け目のはるか北には氷と闇の国ニフェルヘムがありました。ムスペルヘムから飛んできた炎と、ニフェルヘムから転がってきた氷の塊がジヌンガガープで衝突して、巨大な蒸気がもうもうとあがりました。そして溶け始めた氷のしずくから世界の最初の生き物である邪悪な巨人イーメルが生まれました。イーメルが氷の上に寝ていたとき、彼の右の脇の下から巨人の男の子が、左の脇の下からは巨人の女の子が生まれました。そしてイーメルの脚からは次々に巨人が生まれていきました。巨人達は霜の巨人と呼ばれました。
 溶けた氷からはまた大きな牝牛エードフムラが生まれました。エードフムラが氷を舐めているとき、ブーレという名の一人の男が氷の中からでてきました。ブーレは神々の祖先となる人だったのでした。 
 ブーレは三人の息子をもちました。オーデン、ヴィーレ、ヴェーという名前でした。
 三人の神々は乱暴なイーメルと巨人達に愛想をつかし、イーメルを落とし穴に落として殺してしまいました。そしてイーメルの死体から流れた青い色のおびただしい血は、世界を囲む海になりました。舟に乗って逃れた一組の巨人夫婦だけを残し、巨人達は皆死んでしまいました。三人の神々はイーメルの肉から大地を、骨から山脈や岩を創りました。そして頭蓋骨を持ち上げ天空にし、天空を支える四つの角に「東」、「西」、「南」、「北」という名の小人達を配しました。そして南から飛んでくる火の粉で太陽と月と星を創りました。太陽と月の後ろから狼に追わせて彼らが軌道を正しく移動するように教え込みました。
 イーメルの体にわいていた蛆虫は地中に潜って鍛冶の上手い小人になりました。
 三人の神々は霜の巨人の子孫のために一角を与え、ヨーツンハイムと名づけました。陸地の内部にミッドゴードと名づけた心地よい平野を創りました。ある日三人がミッドゴードを散歩していると木が二本倒れているのに出くわしました。彼らはその木から最初の人間の男女を創りました。そして彼らは彼ら神々の住む土地としてアースゴードを創りました。アースゴードには万物の父となった長老オーディンのほかに一二人の男神と一二人の女神が住むようになりました。

<神々の世界>
 オーデン達が創った世界は円盤のような大地に乗っています。イグドラシルという名のトネリコの大樹がその世界の地下から地上までを貫いています。イグドラシルの木には三本の太い根があって、一本の根は地下深くもぐっており、一本は地上に這い、一本は空中のイグドラシルの木の葉が茂りの中に延びていました。地下の一本は地下に住む邪悪な龍に常に齧られていました。地上に這う根は知恵の巨人ミーメルの頭の脇の知恵の湖のところに伸びていました。
 女神イドウンが庭で丹精込めて世話をしている林檎の木にたわわに生る林檎を毎日食べるおかげで、アースゴードの神々は永遠の若さを保っていました。イドウンがさらわれてしまうという事件が起きたときには神々はどんどん老いてしまいましたが、彼女が奪還されるとまた若さを取り戻したのでした。 
 神々を率いるのはオーデンでした。もともと頭の良かったオーデンは、さらに知恵を手に入れたくて知恵の巨人ミーメルの知恵の湖の水を飲むために左の目をささげました。
 アースゴードで一番力持ちの神はトールでした。トールはチャンピオン・ベルトのようなベルトをしっかり締めて腹に力が入るようにし、ハンマーを持ち歩き、それで巨人や山さえも砕くほど強かったのです。トールが二頭の雄山羊に繋いだ車に乗って空を翔るときには地響きがし、雷を伴いました。
 フレイは雨と太陽の輝きの神でした。フレイは収穫を司る神でもあり、また平和の神でもありました。フレイの双子の妹のフレイヤは美しい女神で愛の神でした。フレイヤは猫に引かせた車に乗って、戦いで死んだ戦士を迎えに行きました。
 巨人の息子でオーデンの養子であるローケもアースゴードに住んでいましたが、彼はずるがしこく、ことごとく神に迷惑をかけるような事件を起こしました。トールの妻シブの自慢の金髪をいたずらして全部刈り取ってしまったり、最もハンサムな神であったバルデルを、目の見えない神ヘーデルが誤って殺してしまうような悪巧みもしたのでした。
 ローケの子どもは神々に災いを及ぼす三匹の魔物でした。フェンリスウルベンという名の狼の魔物、ミッドゴード蛇、そしてヘルという地獄の魔女でした。
 オーデンの館の一つはヴァルハルという名で、そこでは死んだ戦士が夜な夜な酒盛りを繰り広げるのでした。ヴァルハラでのご馳走は脂肪がいっぱいの豚肉と甘いビールのような味のミョードというお酒でした。セリムネルという名の特別の豚の肉が最高の料理になりました。セリムネルは毎夕屠られましたが、食べつくした後骨を綺麗に並べておくと朝にはちゃんと生きた豚に戻っていたのでした。

<終末戦争>
 あるとき夏はまったく訪れず、一年中厳しい冬が三年間続き、そしてラグナロクと呼ばれる終末戦争が起こりました。巨大な狼達が太陽と月を飲み込みました。星星は地に落ち、大地は揺れ、岩は砕けて小石になりました。フェンリスウルベンが自由に飛び回り、海からはミッドゴード蛇が大きな津波を大地に向かわせました。巨人達が集まって神々との最終対決、ラグナロクの準備をしました。
 オーデンはフェンリスウルベンに飲み込まれてしまいました。トールはミッドゴード蛇に打ち勝ちましたが、蛇の毒が体中に回って死にました。フレイヤは地獄の門番である巨人スルトと戦って死にました。皆戦いで死んでしまい、最後は巨人スルトだけが残りました。スルトはムスペルヘムの炎を大地に放ちました。すべてが燃え、すべてが海に落ちました。そして世界に終わりが来ました。
 すべてが燃え尽きた後で、新たな大地が海の中からせりあがってきました。それは草が生え、風が香り、鳥が飛ぶ緑の大地でした。
 ただ二人生き残った人間の男女が新しい次の世界で生き始めました。

<後の世界への影響>
 北欧神話はその後の世界にも音楽や演劇などにかぎらず大きな影響を残しています。
 北欧では紀元一000年ころにキリスト教が普及し、北欧神話の世界を色濃く残したそれまでの土着の信仰はだんだんと姿を消していきました。けれども遠雷が聞こえてくるときに「トールが空を駆けているのだ」と北欧の人々は今でも口にします。
 北欧の神々というのは、人間の自然に対する畏怖、憧憬の象徴だったでしょう。

(By Pricken、2004 Nov)                           

*「北欧神話」の根幹を成すのは「スカンジナビア神話」ですが、「ゲルマン神話」と共通の部分が多いといわれます。また、サーメ神話、ケルト神話、フィンランド=ハンガリー神話の影響もあるのだそうです。つまり地理的な「北欧」と言語的な「北欧」にズレがあるため、「北欧神話の境界」は多少、曖昧です。

北欧神話(36) 神々のリスト

一番最初に掲載すべきだったのを忘れてしまいました。。

~北欧の神々リスト~
北欧神話には神様がいっぱい出てきます。
神にもエライ神とそうでない神があったり、巨人族と間に養子関係があったり、いろいろ複雑で面白いです。
多神教の神というのはギリシャにせよ、日本にせよ、それぞれになにか人間と同じような欠陥があって親しみが持てますね。

<神の国に住むアーサの神々リスト>

オーデン=戦争と賢さの神。神の王。フリッグと結婚しており、ヴァルハラ砦に住む。
トール=気性の激しい力自慢の雷神。オーデンの息子。シフと結婚しており、トゥルドゥヴァング砦に住む。
ローケ=狡賢く陰険。本当は巨人の息子であるが、オーデンの義兄弟となり、アーサの神々と共に住む。シジーンと結婚している。
ヘイムダール=オーデンの息子。天の砦に住み、そこからアースゴードにあるビフロスト橋を厳しく監視している。
バルデル=オーデンとフリッグの最も美しい息子。その柔和と賢さのために愛されている。ナンナと結婚しており、ブレーダブリック砦に住む。
フリッグ=オーデンと結婚している。母の愛に富む女帝。
イドゥン=神々の永遠の若さを保つ秘密である魔法の林檎の木の世話をしている。ブラーゲと結婚している。
シフ=トールと結婚している。髪が長く自惚れが強い。
ティール=オーデンの息子。母は誰かわからない。巨人ヒーメルの養子。戦いを好む。
ヘーデル=オーデンとフリッグの息子。バルデルの兄弟。盲目。
ヘルモード=オーデンの息子。母は誰かわからない。とても勇敢。


北欧神話では神々の国は大きな木の上にあります。ど真ん中にゴッドヘイム=アーサゴードがあり(つまり一番エライ神様たちの国)、その上の枝先の方にヴァーナヘイムとアルフヘイムがあります(枝分かれして先っぽに置いちゃう感覚)。地上の遠くの方には山々があり、そこには巨人の国ヨートゥンヘイムがあります。地上の真中=神々の国がある大きな木の根元=には人間の国マンヘイム=ミッドゴードがあります。そして地上と大きな神々の木を支えているのはドラゴンで、地下には地獄ヘルヘイム=ヘルがあります。

<ヴァーナヘイムに住むヴァ-ナの神々リスト>

ニョード=海と風の神。フレイとフレイヤの父(母は未知)。アースゴードのノアトゥン砦に住む。
フレイ=豊穣の神。ニョードの息子。フレイヤの双子の兄。シルネルという名の優秀な家来がいる。巨人の娘イェルドと結婚する。光の川の国アルフヘイムに住む。
フレイヤ=豊穣の神。ニョードの娘。フレイの双子の妹。アースゴードのフォルクヴァング砦で夫オッドと住む。

<アルフヘイムに住むライト・エルフ、ノルノル(女神)、ディーセル(女神)>
ウルド=運命をつかさどる。アスゴードのウルドの泉の辺で、運命の織物に織りこむ糸を紡いでいる。

<マンヘイムに住む人間>
チャルヴェ、レスクヴァ=貧しい農民の子ども達。トールの冒険の供を許される。

<ヨートゥンヘイムに住む巨人達>
トリム、フルグネル、ユートゴーダローケ、ヒーメル=トールと喧嘩をする強い巨人達。
ゲイルレード、ジャルプ、グレイプ=ローケとトールと喧嘩する巨人とその娘達。
スットゥング、グンレード、バウゲ=オーデンと喧嘩する巨人とその娘と巨人の弟。
グリード=トールをとても好きな女巨人。
ヴァヴトゥンドネル=賢さで知られる巨人。
チャステ、スカーデ=悪賢い巨人とその娘。
イェルド=フレイが恋する美しい女巨人。
エーギル=海をつかさどる。海の妖精ランと結婚している。

<ニーダヴェリルに住む小人、ダーク・エルフ>
ドヴァリン=上手な魔法の鍛冶で有名な小人。
エイトレ、ブロック=鍛冶の上手さでドヴァリンと並ぶ腕を誇る小人の兄弟。
アルヴィス=異常に賢く悪知恵が働く小人。
アンドヴァレ=金持ちで、魔術が得意で、カワカマスに変身することを好む小人。
レイドマル=ケチで魔術が上手い小人。イタチに変身することを好む息子がいる。
ミーメル=ミーメルの泉を守る巨人の王。とても賢い。
ヘル=死の国ヘルを統治する恐ろしい女王。

北欧神話(35) 第六章<トールの妻シフが髪を失う>(5)

第六章<トールの妻シフが髪を失う>(5)

 皆が直ちにその美しさをほめ、シフは声も立てられずに目を見開いて、彼女の前にさしだされたその新しい輝く髪を受け取った。
 それから他の宝物が分けられた。オーデンはドヴァリンがシードブラドネルと名づけた金の舟をフレイの神の手の中に置いた。神々はフレイがその小さな金包みを広げていくうちに大きな威厳溢れる舟になったのを見て感動させられた。
 オーデンは満足そうに頷き、残っている贈り物を調べた。大きな槍と鎧は彼自身のためにとっておくつもりだった。
「舟はお前にやろう、フレイ。でもこの雌豚もお前に似合う。これはお前が監督する肥沃な土地に属すものだから」
フレイは目を細めて金色に光るその雌豚をみやった。
「どんな闇ももはや私の前進を妨げることは無いでしょう」と彼は微笑んだ。
 オーデンはうなずいて腰をかがめて彼の前に置かれた槍と鎧をためすがめつした。
 ローケはご機嫌をとるような声でそれらの特性を説明し始めた。
「あなたに役に立つ槍ですよ、オーデン」と彼は言った。「的をはずすことの無いものす。鎧は王のためのもので・・」
オーデンは鎧を身につけ、ハンマーを手に持ちエイトレに視線を投げた。
「この使いやすいハンマーの特徴はなにか説明してくれ」と彼は言った。
エイトレは立ち上がった。
「親愛なるオーデン、これはどんな巨人やドラゴンでも倒すことのできるミョルネルですじゃ。倒した後新しい仕事をするために自分で主人の元に戻ってきますのじゃ」
 オーデンは黙ってハンマーを手にとって重さを量った。柄はとても太くそれを握るためにはとても大きな手でなくてはならなかった。
「トール、わが息子よ」と彼は言った。「さあ、このハンマーはお前のものだ。今まで使っていたのは脇に置くが良かろう」
神々が、それらすべての宝物の中で何が再降下について意見を同じくするのに長い時間はかからなかった。ハンマーが最高だった。それは神々を強くし彼らの敵-巨人から神々を守ることのできるものだったから。
とても強いトールは勝利の微笑を浮かべてハンマーを掲げた。
エイトレとブロックは自分たちの鋭い刀の刃をうれしそうに触った。神々は彼らの贈り物を最高だと思ったのだ。ローケは約束したのだから、今、彼は頭を失うのだ!
ローケは小人の兄弟を恐怖に打ち震えて見、魔法の靴を履いて空に飛んで逃げようとした。彼は嘘をつくことも、姿を変えることもできるほかに空飛ぶ魔法の靴も持っていたのだった。
けれどもトールが空飛ぶ馬車ですぐにおいかけてくるだろう。
でもローケが神々の集会の真ん中に立たされたときには彼の恐怖は打ち払われていた。
「親愛なる兄弟姉妹達よ」と彼は唇に馬鹿にするような微笑を浮かべて話し始めた。「私の頭に関しては、、、血に飢えた小さな地中人たちにやってもいい。けれどももちろん喉はだめだ」
 ローケは大声で笑った。
 エイトレとブロックはしばらくその意味を考えていたが、刀を脇にしまった。エイトレはそのかわり針と糸を取り出した。
「お前の頭にあるぺらぺらと良く動く唇の皮は少なくとも私のものだ」と彼は叫んだ。「さあそのうるさい唇と閉じれば気持ちいいだろうな!」
ローケはしぶしぶ彼の口に手でふたをした。
神々はローケを取り囲み運命に従わせた。そしてローケは最後に笑うものが勝つと言うことを学んだのだった。二人の小人たちはその後まったく以前とは変わってしまった縫い合わされたローケの唇を見て大声で笑ったのだった。

北欧神話(34) 第六章<トールの妻シフが髪を失う>(4)

第六章<トールの妻シフが髪を失う>(4)

 兄弟はもっと別の贈り物を作り始め、ローケはまた姿を消した。ハエがまた姿を現し、今回はブロックのほっぺたの真ん中を刺した。
ブロックは顔をしかめ「いてっ」と言ったけれども、そのまま続けて一所懸命ふいごを押し続けた。
 二番目の贈り物が出来上がったときにはローケはまた鍛冶場に姿を現していた。
「この腕輪は大きな力を持っている。9夜ごとに、新しい、同じくらいすばらしい、金の腕輪がこれから生まれてくるのだ」とエイトレは満足したように言い、炎の光がそれに反射してきらきら輝くように、その美しく輝く腕輪を高く掲げた。
「さあ、それでは、ローケ」と彼は威厳を持って続けた「本当にすごい名人技を見せてやろう!」
兄弟は大きな意欲で三番目の贈り物作りに取りかかり、ローケは鍛冶場の外に急いだ。ローケの代わりにあの良く刺すハエが羽音高く入ってきた。そのハエはどういう風に攻撃を開始するかちょっと考えていたようだったが、空中を横切ってブロックのまぶたの上にとまり、そこを思いっきり噛んだ。
ブロッケは大声で叫び、ハエを追い払った。でも彼はすぐにふいごに戻り精魂込めて空気を送り出した。
それから少し経って、三つ目の贈り物も完成した。
ローケが息を切らせながら鍛冶場に入ってくると、兄弟が腰を下ろして額の汗をぬぐっているのが見えた。
エイトレは勝ち誇ったように彼のほうを振り向いた。
「さあ、これが」と彼はうれしそうに言った。「巨人や他の悪さをするものを振り飛ばしてしまえる雷ハンマーだよ。ハンマーは攻撃が終わると自ら主の手に戻ってくるのだ。これは主にものすごい力を与えるんだ」。
ローケは気を取り直し、ハンマーを調べた。それは疑いも無く力強く、立派だった。けれども柄がほんの少し短いようだった。
ローケにはそれがどうしてかわかっていた。ハエが-つまり彼自身が-柄が作られるまさにそのときに刺したからなのだ。
ローケはいやいやながら、神々に判定をしてもらうときだと言うことに兄弟に同意した。

ローケと小人の兄弟の到着のニュースはすぐにアースゴードに広まり、神々は運命の井戸の周りに急いだ。彼らが整列して座ると、ローケと小人の兄弟が彼らの前の草むらに取り出して並べたそれらの美しい金細工に驚かされた。
オーデンは立ち上がり、集まった神々に、これらはローケのおかげで神々が小人たちからもらった魔法の贈り物であると宣言した。彼は腰をかがめてドヴァリンがつむいだ金の髪を取り上げ、太陽にかざした。

北欧神話(33) 第六章<トールの妻シフが髪を失う>(3)

第六章<トールの妻シフが髪を失う>(3)

 ローケは満足して槍を手に取り、折りたたんだ船がちゃんと中に入っているかどうか皮袋を手でぽんぽんとたたき、金の髪を肩に投げかけた。そして彼はドヴァリンに別れを告げ、アースゴードへの帰路についた。
 彼がニーダルベリルの地下の道までたどり着く前に、彼は小人の兄弟エイトレとブロックに出会った。彼らはローケが手に入れた宝物について声高く自慢する荷を興味深く聞き入った。
「神々にとってこれほど特別の贈り物はないさ、」とローケはずるがしこくニヤニヤ笑っていった。そしてローケは突然エイトレとブロックも鍛冶屋だということに気がついた。彼らからもなにか贈り物をもっと掠め取ることができるかもしれない。
「ドヴァリンより腕の立つ鍛冶屋はいないね。僕の頭を賭けてもいいさ!」と彼は請け負った。
 小人の兄弟はすぐにその賭けに乗った。彼らはローケが神々の会議で見せるものをなにか作りたかった。ローケがドヴァリンからもらったものよりももっとwすばらしいと神々が感心するようなものを。
 エイトレとブロックはわくわくしてお互いを見た。もし彼らが賭けに勝てばローケの頭が吹っ飛ぶのだ。そうしたら彼らに感謝するものたちはいっぱいいるだろう。
 ローケは小人たちの喜んでいる様子をいぶかしげに横目で見た。もしかしてわれを忘れて馬鹿なことをいってしまったのだろうか。いくつかの贈り物をもっと彼は欲しかったのだけれど、それは彼がすでにもらったものよりも良いものであってはならないのだ。それは危険な賭けだった。彼は自分の頭を賭けてしまったのだから。
 エイトレとブロックは彼らの良く設備の整った鍛冶場にローケを案内した。彼らがその強い力できっぱりと仕事を始めるのをトー家は不安げに眺めた。ブロックはふいごを使い、エイトレは鍛冶に力を込めた。
ローケは彼らの仕事にちょっと割り込まなくてはならないと考えた。
兄弟は自分たちの仕事に没頭していたので、ローケは鍛冶場から静かに後ずさりで去った。ローケは姿を変えることが得意だった。
少し経って異常に大きい馬ハエが現れ、ブロックの手を刺した。
ブロックはぴくっと動いたがそのままふいごに空気を送り続けた。空気を送り続けなければならなかったのだ。仕事が途中で止まってしまったら、魔法の製品にはならないからだ。
最初の贈り物が完成したとき、ローケは鍛冶場に戻った。
「ローケ、これは魔法の空飛ぶ雄豚だ」とエイトレは誇らしく言った。「彼の黄金の剛毛はきらきら輝いて暗闇の中でも道を照らしてくれるだろう」
 ローケは困惑してうなずき、唾を飲んだ。

北欧神話(32) 第六章<トールの妻シフが髪を失う>(2)

第六章<トールの妻シフが髪を失う>(2)

 さあ、困った状態になった。トールをなだめなければならない。彼はそのために誰に相談すれば良いかを思いついた。
 ローケは人知れずアースゴードを後にしてミッドゴードを通り抜けて小人達の地下の国、ニーダヴェリルに続く秘密の道のある山に向かった。彼が小人の国に行くのはこれが最初ではなかったので、小人の国への曲がりくねった道への入り口は簡単に見つけることができた。
 長いひげを生やした小人のドヴァリンは、どんなに変な仕事でもこなせると良く知られた鍛冶屋であった。彼がシフのための新しい髪を作れるだろうということはローケには確かだった。
 ドヴァリンはローケを歓迎して、ローケが無邪気な表情でトールの妻と彼女の不幸なハゲ状態について語るのに耳を傾けた。
 ローケが語り終えると、小人は考え深そうにうなずいて援助を約束した。ローケはその代わりいつかドヴァリンにお返しをするということになった。
 ドヴァリンの鍛冶釜は熱く燃えていて、彼は直ちに純金でトールの妻のための新しい髪をくるくるひねって紡ぎ出しはじめた。それはきらきら輝く美しさを持つばかりでなく、伸びることもでき、頭の皮膚にちゃんと本物の髪のように根をはることができる、と媚とは請け負った。
 髪の毛が完成したとき、金が余った。釜がまだ同じように熱かったので、ドヴァリンは仕事を続けて船を作った。
 ローケはその船がとても壮麗なものであることがすぐにわかった。それは華麗な長船で、へさきに神々しいドラゴンの頭が着いていた。
「これは操るのが簡単な美しい船になるのさ」とドヴァリンは請け負った。「どんな方向に向かおうとちゃんとそのために最適な風が吹くのだ。そしてこれは神々全部が乗ることもできるし、小銭入れのようにも小さくすることができる」
 彼の言葉を証明するために媚とは完成した船を畳んでみせ、ローケのベルトについた皮袋の中に入れた。
 ローケの目は光った。それこそ彼が必要としたものだった。怒り狂った神々をなだめるためには贈り物が多いほうが良い。
 ドヴァリンはもう一度鍛冶に戻り、残っていた金で槍を作った。
「この槍はグングネルという名にしよう!」と彼は叫んだ。「つかみ心地が良いぞ!ほら試してごらん。それにいい姿だ。そうじゃないかい?でもこれのすごいところは絶対に狙ったものをはずさないということなのさ」

北欧神話(31) 第六章<トールの妻シフが髪を失う>(1)

第六章<トールの妻シフが髪を失う>(1)

 トールと彼の妻シフ、そして彼らの二人の子どもである力持ちのトルードと勇ましいモーデは、オーデンの家からあまり遠くないトルードバングの大きな家に住んでいた。シフと子どもたちはたいてい家の周りのさまざまな農作業で忙しかったが、トールはしばしば戦争に出かけていき巨人と戦った。
 ある朝、トールがトルードバングの家にいたとき、不快な耳を劈く音で目を覚まされた。ひらひらとした白い下着を着た、ほとんど髪の毛の無い生き物が、叫びながら彼の寝床へまっすぐに押し寄せてきたのだった!
 トールは一瞬迷ってから、それが彼の妻だとわかった。
「トーーーールーーー!」と彼女は鼻声でしゃべった。「だれかが私の髪を切り取ってしまったの!」
 雷の神はむげに起こされるのは好きではなかったので、すぐ不機嫌になった。彼はシフのつんつん頭に目をやって、彼女の目を見つめた。
「こんなことをしたやつをやっつけてやる」と彼はちょっと考えた後で約束し、急いで服を着た。
 痛烈な泣き声から離れて、家の外に出るのは気持ちが良かった。トールは、泣き声と歯軋りを聞いているよりは、犯人を追いかける方が良かった。彼は誰がそんなことをしたのかを薄々気づいていたからだった。
 トールは少し前から一族の仲に一人信頼できない者がいるということに気づいていた。けれども彼の父、オーデンは彼の言葉に耳を傾けようとはしなかったのだった。彼がトルードバングの良く葉の茂った茂みの中を進んでいくと、ローケが頭を木の幹に傾けて芝の上に寝ているのが見えた。トールはひそかに彼に近寄り、彼の服をしっかりとつかんだ。
「このちっぽけな恥知らずめ!」と彼は怒鳴り散らして、寝ぼけているローケを揺らした。「なんていうことをしたんだ!妻は髪の毛一本も残っていないじゃないか!」
ローケは体をひねってトールの手を逃れ、息をついた。
「ああ。もう気がついたのか、、つまり、君の妻のきれいな髪を切るほうが良いと考えたのは僕だけじゃなかったんだよ」ローケはおもねるようにうなずいて、服を直そうとした。「あのねえ、トール。アースゴードのほとんどの住人がシフにちょっと宿題が必要だと考えたんだ」と彼は続けた。「彼女は自分の髪のことばかり考えてるし、、」
 トールは彼の腕を高く掲げ振り下ろそうとしたが、ローケはトールの影にしゃがんだ。
「だめだよ!ぶつなよ」と彼は泣き声で言った。「ちゃんと元に戻すと約束するからさ!」
「最初から何もしなければ良かったじゃないか」とトールの氷の目をしてうなった。
「まあそうだけどね、じゃあちょっとどうにかしてくるさ」とローケは愛想よく言って、何歩か後ろに下がった。後ろを向いて走り去る勇気が出る前に。

北欧神話(30) 第五章<巨人スカーデが足を選ぶ>(2)

第五章<巨人スカーデが足を選ぶ>(2)

数人の神々がぴんと張られた麻の布の後ろに彼らの足だけが見えるように立たされた。
 一番左に大きな力強い足があるのがスカーデに見えた。続いて指が異常に長いとんがった足が見えた。スカーデはそれは気に入らなかった。三番目は腫れたように短く幅広で、それから、すばらしく良い形をした足が見えた。スカーデは魅入られたようにその足に見入った。そしてこの足はバルデル以外の神のものではないと思った。彼女は残りの足にもチラッと視線を走らせたが、どれも彼女が今見たばかりの足にかなうものは無かった。
 スカーデは彼女が望む足を指差し、覆いが下げられた。
 神々の姿が現れるとスカーデは息を呑んだ。彼女が選んだのはバルデルの足ではなくて、ニョードの足だったのだ!バルデルほどには美男子ではなかったがs、ニョードは優しそうで見ていて心が和んだ。だからスカーデは満足し、数日後アースゴードでは結婚式が行われた。
 ニョードの家、つまり彼の愛するノアトゥンの砦は海に突き出した岩の半島の先にあった。そこに彼は花嫁を連れて行った。けれども、時々夜に狼の遠吠えが聞こえるだけの静かな山の頂上に慣れているスカーデは、湿気とかもめの叫ぶような鳴き声に我慢ができなかった。彼女が元の家を恋しく思う気持ちがどうしようもなくなるくらい大きくなるまでに数週間もかからなかった。彼女はニョードにトリムヘイムにある彼女の家に一緒に来ない?と誘った。彼がそこで居心地良く暮らせるかどうかを試すために。
 ニョードは出発したときには機嫌が良かった。彼はヨートゥンヘイムの山岳地帯に向かった日、彼の花嫁がそんなに幸福そうな様子であるのを今まで見たことが無かったのだった。けれども彼はそこの厳しい寒さが好きではなかった。そして滑りやすいスキーに彼の足をくくりつけると、彼の力やすばやさが消し飛ばされてしまうように感じた。スカーデのために彼はトリンヘイムへ向かったが、彼が後にした海から遠く離れれば慣れるほど彼の気持ちは暗くなった。
 スカーデは夫が悩んでいるのに気づかなかった。彼女は冬ウサギや雷鳥を嬉々として撃った。彼女の頬は新鮮な山の空気で桃色に染まった。
 トリムヘイムで数週間過ごしただけで、ニョードは山に閉じ込められるように感じたので、広い青い海に戻らねばならないと説明した。
 何度か両方の家を行ったり来たりしてから、二人は仲のよいまま別れることにした。
 そうさ、アースゴードでもうまくいかない結婚もあるのさ。けれどもつらい事件にもかかわらずうまくいく場合もあるのさ-トールとシフの場合のようにね。

北欧神話(29) 第五章<巨人スカーデが足を選ぶ>(1)

第五章<巨人スカーデが足を選ぶ>(1)

 巨人チャツセの娘スカーデは、トリムヘイムにある自分の家で父の死を悼んだ。彼が殺されてしまうのは不当だと彼女は思い、アーサの神々に償いをしてもらいに出かけることにした。ヨトゥンヘイムの最高峰地域で育ったスカーデは素早く滑るスキーの名手であり、今彼女は、戦いの目をしてスキーを履きアースゴードへ向かった。
 神々の国に着いたとき、彼女はあたたかく迎えられ、会議場に案内された。そこで神々は彼女への弁償の言い分を聞いた。
 その若い女巨人は弁も立ち、美しかったので、オーデンは彼女の言葉に真剣に耳を傾けた。彼女が話し終わると、彼は、和解のために神々の中の誰かと彼女が結婚してはどうかと提案した
スカーデは怒ったかのように見えたが、オーデンの提案を受け入れ、そこに集まっていた神々を横目で探るように見た。そこには彼女がとても素敵だと思う若い男性がいた。
「顔で選んではいけない」とオーデンは彼女の考えを読んだかのように言った。「どの髪になるかは運命なのだよ」と彼は微笑みながら頬を染めたスカーデに言った。
「彼らの足で選ぶといいわ!」とフレイヤが楽しそうに言った。彼女もまたスカーデが何度もバルデルの方に視線を投げるのに気づいたのだった。
バルデルの体はまるで冗談であるかのように完全な形に近いものだった。けれども彼の足がどうなのかは誰も知らなかった。フレイヤは我ながら良い考えを思いついたと思った。
神々の多くはフレイヤの提案に笑って、それは正しいと言った。スカーデは草の上で最高で美しい足を持つ男を選ぶべきだ。
スカーデはむずかしい顔をしてふざけ半分の神々の顔を見、神々がます彼女の苦しみを受けた感情を軽くしてくれることができるのなら、多分その提案を受け入れることができると思うと言った。彼女はそのような試験の前に気分を良くしたかったのだった。
イードゥンを連れ去ってからというもの神々に完全には許してもらえないでいるローケは、スカーデのためにふざけて飛び回った。彼は走って跳んで、彼女の前でおどけておじぎをし、できる限りうまく歌を歌った。草の上に細い日もが落ちているのを見つけると、彼はズボンをするすると脱ぎ、歌いながら紐の一方の端を自分の陰嚢の周りに結び、もう一方の端を雄山羊のひげに結んだ。雄山羊はまったく気づかず近くの木の下の草の中を引っかいた。縛られているのがわかると雄山羊は周辺を角で突きまわり頭を振って紐を解こうとした。スカーデの顔が緩んで大きな笑い声が上がるまで、ローケは叫びながらその後を追って飛び跳ねた。彼女は引き下がって協定を受け入れた。
オーデンはスカーデが神の一人と結婚すること以外に、彼女の父を称えるためにチャツセの目を空に上げて二つの大きな星にすると言った。
スカーデは満足して脚を選ぶ準備ができた。

北欧神話(28) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(6)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(6)

巨人チャツセが庭に出て見ると、イードゥンが消えていた。そして一羽のたかが爪に木の実を挟んで飛び去っていくのを見て、魔法に長けた彼は何が起こったかを一瞬のうちに悟った。怒りに燃えて彼は家の中に戻り、復習の言葉をわめき散らした。彼はその鷲の衣装の羽根をざわざわいわせ、できるだけ早くローケの後を追うべく、自分をその中に押し込んだ。
神々はアースゴードの外壁の上で行方を見守っていた。そしてローケが大きな鷲に追いかけられながら飛んでくるのを見て、ヨートゥンヘイムで何が起こったのだろうといぶかしんだ。
「私の鷹の羽をつけたローケだわ!」とフレイヤは叫んだ。
「チャツセがすぐ後ろにいる!」とティールが言った。「外壁にたどり着く前につかまっちゃうだろう!」と彼は警告した。
「焚き火の用意を!すぐに!」とオーデンは命じた。
 鷹のローケがアースゴードの上を過ぎると同時に神たちは大きな火を燃やした。炎はめらめらと空に立ち上り、追いかけてきた鷲はさらに高く飛んでそれを避けようとした。けれども炎は高く立ち上って鷲の尾羽が燃え始めた。
 巨人チャツセは困惑して叫び地面にぶつかり落ちた。
 鷲は地面にぶつかりもう飛び立つことはできなかった。ローケはイードゥンの木のそばに木の実を落とした。イードゥンはすぐにもとの自分の姿に戻ったので、アースゴードの空に歓声が上がった。神々はよろよろ、躓きながらりんごの木の庭まで急いだ。彼女のりんごをもらって食べるために。
 ローケはフレイヤの鷹の羽を脱いでほっとため息をついた。彼は混乱を正したのだ、今回ばかりは。

北欧神話(27) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(5)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(5)

ローケが今回に限り本当のことを言ったのは、イードゥンがいなくなれば彼自身も歳をとるのだということに思い至っていなかったからだった。彼は今やチャツセにイードゥンを届けたのを後悔していた。
神たちは立ち上がってそれぞれに自分の刀の柄をつかんだ。
「座って、座ってください」とローケは言った。「聞いてください。提案があります!」
神たちは敵を見るように彼をにらんだが、おとなしく座った
「僕にフレイヤの鷹にならせて偵察に行かせてください」と彼は願った。「僕はそれを前に借りたことがあってうまく乗りこなせますから。でもまだ僕に力が残って得いる今のうちに急がねばなりません。イードゥンをつれて帰ってきますから!僕にはそれができるとわかるんです!」と彼は保証した。
 フレイヤの鷹港に座ったものは鷹になった。そのような鷹はすばやく、静かな偵察者だった。
 神たちはローケがしばしばフレイヤのその鷹港を借りるのを知っていた。彼はアースゴードの上を自由に飛び回り、死と向かい合わせになるかのような急降下をするのが好きだったのだ。
オーデンが手を掲げた。
「われわれは賢くこのことを見定めねばならぬ。チャツセは卑怯にもお前ローケに魔法を使って惑わしたのだ。しかしお前が引き起こしたことを正すのに成功しなければ、お前の青あざだらけでしわしわになったすぐに死体のようになってしまうことだろう」

 ローケがチャツセの城の上を滑るように飛んでいると、柵を周りにめぐらしたトリンヘイムの庭にイードゥンが自由に歩き回っているのが見えた。彼は老いで弱くなった自分に腹を立てていたし、鷹としては彼はそれほど強くなかった。彼はイードゥンをつかみ挙げることはできないだろう。
チャツセの姿は見えなかった。ローケはイードゥンが中に閉じ込められてしまう前にすばやく立ち回らなければならないとわかった。僕は魔法を使わなくちゃ、と彼は意気消沈して考えた。魔法!
ローケの頭の中をいつもは使われない言葉が駆け巡った。彼の口から熱狂的にぺらぺら最初の魔法の言葉がしゃべりだされたが、下の庭には何の変化も起こらなかった。二回目の魔法の言葉も同じように効果が無かった。けれども三回目に彼はイードゥンを木の実に変えることに成功した。
ローケは心の中で歓声をあげ、急降下し、その鷹の爪に木の実を挟んだ。そして彼は方向を変え、できる限りの速さでアースゴードへ向かった。

北欧神話(26) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(4)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(4)

 翌日イードゥンが会議場から家に戻ったとき、ローケは彼女のりんごの木の庭で彼女を待っていた。
「ローケ、私より先にここに戻っていたなんて!」イードゥンはうれしそうに叫んだ。彼女はローケのところまで歩み寄って彼のぐたぐたに傷ついた顔をそっとなでた。「どうやってこんなに青あざを作ったの?どんなことにまきこまれたの?」
「別になんでもないさ」とローケは言い放った。「この間アースゴードの外壁の外の森の中で道に迷ったんだ。とげのある藪やなんかが行くてを阻んだのさ。ところで、ちょっと平らになったところですばらしいりんごがなっている木が生えているのを見つけたんだ。想像できる?君の木になっているのと同じくらい素敵なりんごだぜ。君はあれを見にいかなくちゃ!」
 イードゥンはその青い目を見開いた。
「同じくらい美しいりんごだというのね。私、それをみたいわ!」
彼女は嬉々としてローケに続いた。ローケは彼女の手をとってアースゴードの外壁の入り口まで連れて行った。
彼らが外壁の外に出るや否や、ざわざわいう音が聞こえた。大きな鷲が彼らの上に襲い掛かるように舞い降りてきたのだった。イードゥンはそれが彼女をつかみ上げたとき、恐怖の叫び声を上げた。彼女は痙攣するかのようにりんご籠を抱きしめた。
ローケは一人取り残され、鷲がその爪にイードゥンをつかんでヨートゥンヘイムの最高峰に向かって高い空を飛んでいくのを見つめていた。

イードゥンの夫ブラーゲはもちろんすぐにイードゥンがいなくなったのに気づいた。アーサの神たちは彼女を探し始めたが、どんなに探しても彼女を見つけることはできなかった。
りんごの効果がなくなったのを彼らが気づくのに数日もかからなかった。オーデンのひげは白くなり、トールのたくましい筋肉は弾力を失いへなへなと垂れ下がり始め、フレイヤのお尻はずんずん大きくなり、バルデルはその金髪が大きく抜けた。
神たちは互いを恐怖の目で観察した。彼らが一山の弱々しい老人に変わってしまうまで何日もかからないだろう。オーデンは緊急会議を運命の泉の脇で開いた。
しわしわのヘイムダールが悲しみの満ちた声でこのところ目も耳も悪くなったが、イードゥンがいなくなる前にローケが彼女の庭でうろうろしていたのに気づいていたと語った。
ブラーゲと他の神々は威嚇するようにローケを見た。ローケは不安げに自分の老人のような手を見つめてつばを飲みこんでいた。
「僕は彼女がどこにいるかを多分知っていると思う」と彼は告白した。

北欧神話(25) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(3)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(3)

「うわあ!ぎゃああ!あああ!弁償するから許してくれ!」と彼は叫んだ。
「どうやって?」と鷲は尋ね、情け容赦ないぶつかり飛行を続けた。
打撃がすぐにローケをぐたぐたにした。彼はほとんど意識を失うほどだった。
「わ、私にあなたになにか償わさせてください」彼は枝の彼の側でぶらぶら揺れながら再びぐしゅぐしゅ言った。
鷲はその大きな翼を滑らせ、緩々と下降した。
「イードゥン」と彼は言った。「私にイードゥンと彼女のりんごをよこせ。そうでなければ私はもう一度お前を空の踊りに連れて行くぞ。私は巨人チャツセなのだからな」
それから彼はぐたぐたになったローケを放し、ローケは地面にどすんと落ちた。ローケはそのまま山の草の中に頭がくらくらしたまま横たわっていた。
ローケに力が戻ったとき、彼はよろめきながら歩いて、オーデンとヘーネルが焚き火のそばに座っているのを見つけた。彼らはローケが苦しんでいる間、静かに楽しみながら食べたり飲んだりしていたのだ。
ローケは黙って彼らを観察し、その姿を目に焼き付けた。彼の中に復讐の炎が燃えた。けれどもものには順番がある。今は彼はチャツセが彼に与えた難しい使命を解決しなければならない。

 次の日、オーデン、ヘーネル、ローケはアースゴードに戻ったとき、ローケはイードゥンの庭に忍び込んだ。イードゥンは歌いながらりんごの木の仕事を続けていた。ひとりぽっちで、ローケの思惑などまったく知らずに。アースゴードに一本しかな古いりんごの木に魔法のりんごがなっていた。そしてその木に常に花を咲かせ、実をつけさせられるのはイードゥンだけだった。毎日イードゥンは腕に籠を抱え神々の会議場に手をかけて育てた果実をもっていくのだった。一日ひとつのりんごだけで神たちは若さを保っていられるのだ。イードゥンのりんごのおかげで神たちは永遠の命があるのだった。
 会議が開かれる時間が近づくと、ローケは庭を出て走り去った。イードゥンは悲運の源泉の会議場にローケのすぐ後に着いて、りんごを配り始めた。
 ローケは彼女を仔細に観察した。彼女は柔らかにまったく何の疑いも持たずに皆が彼女に話しかけることすべてを聞いていた。彼女は子ども膿瘍に穢れの無い感情を持っているのだ、と彼は思った。
 イードゥンが自分の庭に戻るとき、ローケは彼女のあとをつけ、彼女が新たにりんごの木の世話に没頭するのを見つめた。りんごは彼女にとってすべてであるに違いない。イードゥンはオーデンの息子たちのうちの一人であるブラーゲと結婚しているのだが、彼女の関心は夫にではなくりんごの方にあるのだとローケは考えた。

北欧神話(24) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(2)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(2)

ローケは弓を取り出し牡牛を一頭仕留め、その後皆で助け合ってそれを解体した。焚き火がうまく燃え始め、誘うように炎をぱちぱち吹き上げたので、彼らは火の中に入れておいた石の上に肉を並べた。
しばらくたってからヘーネルは肉を見てそれが依然としてまったく生のままだったのでびっくりした。彼はしばらく考え込んで人差し指を舐めていたが、手を差し伸べてそれを石のひとつにくっつけた。灰色の石の表面に唾が触るとじゅっという音がした。ヘーネルはなぜ肉が調理されないのかが理解できなかった。
皆がちゃんとした食事をまだかまだかと待ち受けていた。ヘーネルは忍耐強く少しでも熱を増すために石を炎の中で移し変えた。肉は新たに火の中に置かれたが、ヘーネルが取り出してみると元のように生のままだった。
「どうしたのだ?」とオーデンはぶつぶつ言い、思案気に炎を見つめた。「魔法に違いない」と彼は断言した。「でも誰が何のためにこんなことをするのだ?」
そのとき彼らの頭の上の木の葉の茂っているところで音がした。神たちは探るように見上げ、緑の葉の中に鷲がいるのを見つけた。
鷲は彼らを観察しているように見えた。
「私に牛をくれるなら調理は成功するだろう」とそれは突然言った。
神たちは互いに見つめ合った。つまりはあそこから魔法が来たのだ。
彼らはとてもおなかがすいていたので肉を分け与えるのに同意した。火の中にあるのはとても大きな動物だから、鷲の分もあるだろう。
わしは合意の後で木から地面に舞い降りてきて食事ができるのを待った。肉が焼けたとたん、鷲は飛びついて貪欲に食らいついた。
ローケは、一番いい部分を不安になるほど速くどんどん食べ続けていく鷲を憤慨してにらんだ。彼は草の上に落ちた枝を見つけ、それを取り上げて鷲がよろけるくらいにひっぱたいた。
「ちょっとは残しておけよ!」と彼は叫んで、もう一度ひっぱたけるように枝を引き戻そうとした。
けれども彼は枝がわしにくっついて取れないことを発見した。
鷲は怒りの叫び声とともに舞い上がった。ローケは枝が彼の手から離れないことも発見した。枝は鷲とローケのどちらにもしっかりくっついてしまったのだった。その大きな鷲が翼の下に空気を抱え込むのにあわせて、ローケはそのまま空中についていくしかなかった。
いらだった鷲は叫び、ローケが彼の無謀な試みを償うべく、ローケが近くのすべての枝や岩にぶつかるようなコースをとって舞い上がった。ローケはぶつかるたびに大きな声でわめいたので、そこらじゅうが騒音でいっぱいになった。

北欧神話(23) 第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(1)

第四章<ローケが巨人チャツセとけんかをする羽目になりイードゥンが誘拐される>(1)

 今日の全体会議はすべての神々が、トールが家まで引っ張って持ってきた巨人ヒーメルからの大鍋に感心することから始まった。そしてそれからトールとティールはその嵐の目を持つ巨人のところまでの旅の様子を皆に語った。
 ローケ自身がここで討議される問題にたびたびかかわってくることから、彼は静かに座って耳を傾けるだけなのは果てしなくつまらないと思った。トールが彼がローケの息子、つまりミッドゴードの蛇をもう少し捕まえるところだったけれど結局失敗したというところまで来ると、アーサの神々は失望してざわめいた。
 毎日の会議は終わって、すべてはいつもどおりだった。アースゴードではわくわくするようなことは起こったためしがない、とローケは意気消沈して言った。
 あどけなく明るく可愛いイードゥンが野原を横切って家に帰る途中彼に手を振った。彼女の籠は軽くからっぽまで、彼女の脇にぶらぶら揺れていた、いつものように彼女は会議に参加した神々にひとつずつりんごをあげたのだった。それは毎日繰り返される光景だった。アースゴードの住人はイードゥンの魔法のりんごのおかげで若さを保つことができるのだった。だれも歳をとらずずっと若いときのままだった。
 すべてが予定通りのまま進むつまらなさだった。アースゴードのだれもいたずらをしないし、意地悪もしなかった。ローケは草花をけり散らしたが、大人の声を聞いて立ち止まった。
「ローケ、青年よ、どこに行くのだ?」
オーデンと彼の弟のヘーネルが道に立って彼を注意深く見ていた。オーデンは夏の暑さの中で暑さに参っているようにみえた。
ローケは挨拶代わりにうなずき、それから肩をすくめた。
「まあ、ききなさい」とオーデンは言った。
「ここでじっとしているには今日は暑すぎる。わたしたちと一緒にミッドゴードの山に遠足に行かないか?涼しい山の空気を吸うのは心地よいだろう。準備ができたらビフロストのところで落ち合おう」
ローケはたちどころに賛成して、家に走り戻って担ぎ袋に荷物を詰め始めた。
三人の神々が集まり、炎に包まれた橋へ降りていった。その炎のために神以外のものはアースゴードとミッドゴードの間の行き来ができないのだった。ミッドゴードに着いた彼らはその国の爽やかで涼しい高山に向かった。
三日後、彼らは山々のずいぶん深いところまで進んだ。そこは美しい谷で、二つの幅広い山の背に囲まれた湖の脇で家畜が草を食んでいた。
荷を解いて寝場所を作り食事をすべきときだった。しかし彼らが持ってきた食料はそろそろ底をつき始めていた。それで、三人の神々たちはそばで草を食んでいた雄牛の一頭を射ることにした。 

北欧神話(22) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(6)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(6)

 ヒーメルは目を見張って力持ちの若者を見つめ、彼の後ろを熱病にかかったかのように考えながらとぼとぼと歩いていった。どうやったらあの鍋を借りたいといっているこの客を穏便に追い出すことができるだろうか?彼の嵐の目の力が失われている限り、彼を追い出すことは無理かもしれない。
けれどもヒーメルは足を速めた。彼は突然最も強いものでも阻止できるようなことを思いついたのだ。
彼らが農場に上りついたとき、彼はトールにこわばった笑いを向けた。
「君はなかなか強いな、、、」とかれは努力して冷静を保って言った。「けれどもわしはちょっと君の力を試そうと思うのだよ。君がわしの大きな鍋を持って帰れるかどうかを試すために」
 彼らが家に入るとティールの優しいお母さんは手を振り絞って大きな鯨の釣果を褒め称えた。ヒーメルは急いで家の奥へ入っていった。
 「さあ、これだ!」と彼は戻ってきてトールに言った。「わしの水晶の酒杯を壊せるのだったら君は鍋を持ち帰っても良い」と彼は言った。
 トールは酒杯を調べ、それから力いっぱい石の柱に投げつけた。柱は粉々になったがトールが身をかがめて酒杯を探すとそれはまったく壊れていなかった。ティールのお母さんはトールが石のかけらを拾うのを手伝いながら助言を囁いた。
「彼の額を試してごらんなさい。あれは石より硬いから」と彼女は聞こえないくらいの声で言った。
トールは酒杯をしっかりつかむと立ち上がって後ろを振り向きヒーメルの額に酒杯を投げつけた。
 酒杯は二つに割れ、やぶにらみの嵐の目にびっくりした表情を浮かべて、よろよろと後ずさった。トールは彼のその嵐の目にまだ力が戻っていないことを喜んだ。
「あああああああああ!」ヒーメルはわめいた。「鍋を持って消えてくれ!お前なんかもうここにいてほしくない!」
 トールとティールはその大きな鍋のところへ急いだ。ティールはそれを少しも動かすことができなかったので、トールは自分でそれを持ち上げた。彼をそれを持ち上げることに成功し、頭の上に乗せた。そしてゆっくりと家に向かった。ティールは彼の横を歩いた。
 彼らが少し歩み進んだときに、ティールは彼らが後をつけられているといった。トールはううっとうめいて鍋を放り投げ、彼らの後ろの道をにらんだ。
「こんどはなんだっていうんだ?!」
 何人かの巨人が道の遠くのほうに見え隠れした。トールは腰のベルトからハンマーを取り出し大きな叫び声とともにそれを投げつけた。巨人たちは互いに倒れ掛かり道に伏してしまった。
そうさ、お前さんたちが想像するように、海の神エーギルはこの冒険以来すべての神々に蜂蜜酒を振舞えるほど大きな鍋をもつことになったのさ。そしてこれ以降、彼は毎年神々を宴会に招かねばならなくなったのさ。

北欧神話(21) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(5)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(5)

翌朝、朝食をとってから、トールは巨人の家畜牧場に出て行き、一番大きい雄牛を捕まえて屠った。そして雄牛の頭を腕の下に抱えて舟のところへ降りていった。
「餌」と彼は言い、ヒーメルに向かって微笑んで船に乗り込んだ。
ヒーメルは不機嫌にぶつぶつ言った。このやせっぽっちの若者はまたさらに一頭彼の雄牛をなくしてしまったのだ!
 トールはそんなヒーメルには無関心に舟に座り、力を込めて漕ぎ出した。ヒーメルの舟のへさきの方に座って彼も漕いだ。
 海の中にちょっと漕ぎ出したときにヒーメルはトールに止まれ、と叫んだ。
「ここはヒラメの良い場所なんだ」と彼は言い、漕ぐのをやめた。
「おや、そう?」とトールは言い、不屈に漕ぎ続けた。
ヒーメルは静かに座って漕ぎ続けるトールの首をじっと見つめた。
「わしは一番良い釣り場所を知っている」と彼はがんがん響く声で言った。「そして、そこはミッドゴードの蛇のいる危険な水域ではないのだ!」
 トールは聞こえなかったかのように漕ぎ続けた。
 彼がようやく漕ぎやめたときには、ヒーメルは二頭の鯨を次々に釣り上げていたので気分が和らいでいた。彼は獲物を調べてとても満足した。
トールは雄牛の頭を釣り針にかけ、底に沈めた。ほとんどすぐ引きがあった。舟は強く引っ張られ始め、トールは彼の足がとうとう舟底を破るまで引き戻しを続けた。
 水面からぎらぎら光るうろこに満ちた大きな頭が現れた。あの忌むべきミッドゴードの蛇が釣り針にかかったのだった!
トールはほんの少し蛇の頭を引き上げることに成功し、ハンマーでそれを打った。
奈落の叫びが空気を満たした。
ヒーメルは恐怖に打ち震えて、痛みに苦しんでのた打ち回り、舟の水を縁からはね散らかす蛇を見つめた。
「なにをするんだ!」と彼は叫んだ。「世界の怪物の中の一番の怪物を引き上げるなんてできっこない!離せ!鯨を分けてやるから!」
ヒーメルは揺れる舟の前の方に飛び込み、すばやくトールの釣竿の綱を切った。
ミッドゴードの蛇は彼らの目の前でゆっくりと深みへ沈んでいった。いくつかの大きな水面の気泡がトール釣り針に今まで何があったかを証明するだけだった。
トールは切られた綱の端をがっかりしながら見つめた。
「お前は命と舟の両方を危険にかけたんだぞ!」と巨人は叫んだ。「岸に着いたら釣り旅の礼にお前は鯨を家まで運ぶか、舟を陸に引き上げるかにかどちらかしろ!」
彼らが陸に着いたときにはトールはいっぱい漕いだ後で大変のどが渇いていた。彼は舟に水を満たし、必要なだけ飲み干した。それから彼は舟と鯨の両方を農場まで運んだ。

北欧神話(20) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(4)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(4)

醜い、怒り狂ったヒーメルがドアを開けて入ってきたとき、彼のひげに覆われた顔にこびりついたツララがガラガラ、がちゃがちゃ音を立てた。
「山の上は寒かったのね?」とティールの母は言った。「狩りはどうでした?あなたの留守中にあなたの義理の息子が尋ねてきてくれたのよ。お友達を連れて。あそこ、柱の向こうにいるわ。見える?」
ティールが見知らぬ友を連れてやってきたと知っただけで嵐の目を持つヒーメルはいらいらし、彼の視線は一瞬にして鋭くなり、彼の妻が指差した柱を見つめたときには、その柱が乾き腐った薪のように粉々になったほどだった。家中が揺れ、女巨人の8つの鍋が、かけてあった壁から、がんがんと大きな音を立てて落ちた。一つを除いて全部の鍋が壊れた。壊れなかったのは一番大きい鍋で、トールはそれをエージルのところへ持っていこうと思っていたものだった。
ヒーメルの嵐の目の力はもうなくなっており、彼の美しい妻が、ごちゃごちゃになったところを嘆いているのを見る視線はやさしくなっていた。彼は妻におべっかをつかいはじめ、農場の下働きのものたちに雄牛を3頭屠らせ彼の義理の息子たちの帰還をきちんと祝おうと大げさに言った。
ヒーメルは急いで外に出ていき、それから自分自身で肉を用意し、それらはすぐに食卓の上に乗った。
トールとティールはようやく隠れ場所から出て、食卓につくや否やおなかのすいていたトールは雄牛の二匹分を大満足で平らげた。
ヒーメルはそのほっそりしているのにものすごい食欲の客を見つめた。
「おやおや、これからしばらくわしたちは魚と野生動物を食べて過ごさなくてはならないかもしれないなぁ」とシュッと息をはいて言った。
ティールの母は彼の言葉が聞こえない振りをした。彼女は息子が尋ねてきてくれたのがうれしくて、議論なんかしたくなかったからだ。
トールは彼のひげをぬぐうとヒーメルの方に向きを変えた。
「もしあなたが魚釣りに行くなら私もついていきます」と彼は言った。
「ああ、君もついておいで。もっと食料を手に入れなくちゃならないんだから」と巨人は不機嫌に言った。「けれども君自身が家畜牧場でえさをみつけてこなくちゃいかんよ」
トールはうなずいた。
「もし私があなたの釣りを手伝ったら、多分あなたは私に一番大きい鍋を貸してくれるでしょう。エージルが宴会のためにそれを必要としているんです」
ヒーメルは肉をかむ間に何かもごもご言ったが約束はしなかった。

北欧神話(19) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(3)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(3)

トールは父をよく知っていた。彼はエージルに宴会を開けと押し付けたのだ。見つけられないような大きさの鍋をくれというのはエージルの仕返しなのだ。
 「10キロメートルくらいの深さのところにある、とエージルは言った」とオーデンはもごもご言った。
トールはいらいらしてうなずいた。彼はあのまったく予想もつかないローケの子どもについて、また、ミッドゴードの蛇が彼らにとって危険な存在になっていることを父に話に来たというのに。けれども会話の時間は終わってしまったのだった。トールは適当な蜂蜜酒用鍋を見つけるために全力を尽くすことをオーデンに約束して、別れを告げた。
 外の陽光の中に出たとき、トールは彼の異母兄であるティールにぶつかった。ティールはトールが彼らの父がトールに与えた課題のことを聞くと大変興味を示した。ティールはちょっと考えてから、彼の養父である巨人のヒーメルが十分な大きさと思われる鍋を持っていると言った。
 トールは目を輝かせた。それは良いニュースだ。巨人のヒーメルが長い時間釣りをするために海に出ることは良く知られていた。そして海にはミッドゴードの蛇がいるのだ。トールはヒーメルの鍋を見ることと、彼を釣りに誘うことを決めた。
 二人の異母兄弟はヒーメルのところまで一緒に行くことにした。ティールは長い間あっていない彼の母に会いたかったからだ。出発前にトールは、巨人の国で不必要な注目を浴びないように、ほっそりした若者に姿を変えた。
 二人の兄弟は互いに気が合って、何の問題も無くとても気分良く旅を終えた。彼らがヒーメルの大きな農園に着いたとき、ティールの父方の祖母に出会った。
 ティールは頭を振って挨拶をしたが、トールは魔女を気味悪そうに見つめた。彼女は数え切れないほどの頭を持っていて、見るからにぞっとするのだ。
「ティールと小さなお客さんだね、、お客さん、、お客さん、、お客さん」と頭たちがシュウシュウ囁いて前後に揺れた。
トールはハンマーを指で探ったが、美しい女巨人がこちらに向かってくるのを見てそれをやめた。彼女は頭がいっぱいある魔女の手にバケツを渡して、農園の物置から小麦粉を少し持ってきてくれないかと頼んだ。
「ティール、わたしの待望の息子!そしてお客様、ようこそ」と彼女はトールに向かって微笑んだ。「蜂蜜酒を一杯いかが?でも残念ながらそれからあなた方を隠さねばならないの。もうすぐ夫が帰ってくるから。彼はお客さんが嫌いなの。物入りだからって。それですぐに怒り出すのよ、ティールは知っているでしょ。彼のとっても危険な嵐のような目つきもわかってるでしょ。彼が目の最初の力を失ってからならあなた方は安全だわ。そのときにまた出ておいでなさい」
トールとティールは女巨人が出してくれたおいしい蜂蜜酒を味わった。彼らが飲み終わると彼女はいくつかの大きな鍋の下に彼らが隠れるのを手伝った。

北欧神話(18) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(2)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(2)

「かわいい狼の子ではありませんか」と彼女は言った。「繋いでここアースゴードにいさせることはできませんか?」
オーデンはそれについて長い間熟考した。 
「しかし蛇の赤ん坊については私自身が海に沈めるつもりだ」と彼は厳しく説明した。
ローケはオーデンの言葉に聞き入っていた。熱い復讐の渇望が彼の血管の中をほとばしったが、彼の顔にはなんの感情も表れなかった。
それ以降ローケは彼の養兄オーデンがわかる以上に危険になった。
トールはユートゴードを後にして家に向かう途中で、チャルヴェとレスクワの父に預けた彼の雄山羊たちを受け取るために最初にミッドゴードに立ち寄った。農園についてみると、嬉しいことにびっこの雄山羊は治っていて以前のように元気になっていた。トールは満足して雄山羊が飛び跳ねるのを見ながら、チャルヴェとレスクワが彼らの両親にユートゴードの冒険を語るのをなんとなく耳半分で聞いていた。けれどもチャルヴェが真っ赤になって胸を張ってユートゴードの岩にトールのハンマーが穿った3つの穴の話を語ったときに、トールは彼の肩をたたいて旅の間の彼のすばやさと機転を褒め称えた。農民とその妻は彼らの子どもたちがその新しい緊張感に溢れた生活とうまがあっていることがわかった。
雄山羊たちが荷車にくくりつけられたときには、チャルヴェとレスクワがトールについてアースゴードに行くことが決まっていた。
トールがアースゴードに帰ってくると、彼はすぐに父の部屋に向かった。ヴァルハラの540のドアはすべて閉じられていて、彼はオーデンが一人でフリドスカヤルフの上で考えにふけっているのを見つけた。彼は、トールがユートゴードローケの魔法とミッドゴードの蛇との出会いについて語るのを聞きながら放心しているようにみえた。
「あなたが海に投げた蛇の奴はそこで繁栄したに違いない!」とトールは言った。「ユートゴーダローケによれば世界の盤全体を巻けるくらいに長くなっていて、それなのに自分の尻尾をくわえることができるのだから」
「わたしは 別に驚かないよ」とオーデンは言っただけだった。「それでお前はまた東に旅立ちたいというのか」
トールは不満そうに父を見あげた。常にトール自身よりもよくトールのことをよく知っていて、次に彼が何をするのかも知っている父を。
「まあ、それならついでにわたしのためにちょっと手伝ってくれないか」とオーデンは言った。「湖の神エージルが宴会をすると約束したのだ。彼は蜂蜜酒の鍋が必要だ。彼がわれわれすべてに蜂蜜酒を振舞えるくらいの大きさの鍋を誰が持っているのかを調べてくれ。それから鍋を集会場に持ってきなさい。皆がそれを見てからエージルにそれを与えよう。彼自身のは小さすぎると彼が言うのだ。あのろくでなしは適当な大きさの器がなければ宴会にわれわれを招きたくないというのだ」

北欧神話(17) 第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(1)

第三章<トールが巨人ヒーメルを訪れ魚釣りをする>(1)

トールも巨人達もお互いの力のほどがわかって、納得してもいいころだと思うだろう?でもそうはならなかったのさ。ユートゴードからの帰り道でずっと、トールは自分の考えにふけってぶつぶつ言っていた。ミッドゴードの長い蛇だとわからずに巨人猫を抱きしめたなんて。もし蛇だとわかっていたら、あっという間に首をひねってやったのに。本当に惜しいことをした。そのとぐろを巻く惨めなやつを殺す良いチャンスを逸したなんて。彼はオーデンに、ローケの子どもだったその蛇がどんなに大きくなっていたかを語りに急がねばならなかった。
ああ、そうなのさ。ローケは何人かの奇妙な子どもを得たのだ。そのうちの一人がミッドゴードの蛇だったのだ。アースゴードでは、ローケがアンゲルボーダという名の気味悪い巨人の女との間に3人の子をもうけたことはよく知られていた。神々にとっては、美しいローケがそんな不快な生き物と何かしたがったなどと考えるのはまったく理解に苦しむことだった。けれども彼のルーツがそうさせたのかもしれないと彼らは納得しようとした。ローケは、シグユンの女神と結婚していたのだが、巨人の女のところへ足しげく訪れていたのだった。アースゴードの神々のすべてはそれをよく知っていた。
ローケとアンゲルボーダの子どもたちがヴァルハラにやってきたとき、オーデンは、彼らにとってよくないことが起こるだろうとすぐにわかった。彼の前には、最も硬い皮膚の者も脅かすような打撃を与えられる一団が立っている。そのうちの一人は女の子だった。ローケが彼女をヘールだと紹介したときに、彼女の目は冷たく黒い石のように光った。彼女の皮膚を見るだけでオーデンは気分が悪くなった。彼女の半分桃色の肉、半分青みがかった腐った皮膚を嫌悪を持って観察した。
ローケがフェンリスだと紹介した中の息子は外見はそれほど気味悪くはなかったが、彼は子どもではなく、怒りのこもった引っ込んだ目をした目をした、もごもごとうなり続ける狼の子だった。
一番小さい子もまた神の子ではなく、目をきょろきょろさせてばかりいた。それは黄色い目をした蛇の子で、部屋の中にとぐろを巻きながら入ってきたときに彼の裂けた舌は不安そうにひらひらした。
オーデンはローケに苦々しく目をやって、気取り無くすぐに決定できた。
ヘールは地下の死の国は行き永遠にそこですごさねばならない。彼女の視線は彼に彼女がどこに属すかを示したのだ。
「そしてフェンリスは」とオーデンは続けた。「遠くの地域につないでおかねばならない。彼が何か悪しきことをしないように」
ローケは何の表情も見せずに黙っていた。
女神の一人が部屋に座ってオーデンの厳しい判定を聞いていた。彼女はローケをかわいそうに思い、恐る恐る問いを発した。

北欧神話(16) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(11)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(11)

翌朝、トール、ローケ、チャルヴェ、レスクワは慇懃に別れの挨拶をされた。トールは依然として頭をたれていた。誰も彼の敗北をからかったりしてはいなかったのだが。
ユートゴーダローケは客人たちにちょっと着いてこないかと誘った。かれらがすこしはなれたところまで進んでいくと、彼は突然トールを褒め称え始めたのだった。
「君の敗北をあまり真剣に受け取らないほうが良い、トールよ」と彼は言い始めた。
トールは顔をしかめ、いらいらして道を急いだ。ユートゴーダローケへの遠足は彼にとっては前代未聞の失敗だったのだ。彼は今望むことは一刻も早くそこから立ち去ることだった。
「あそこの山の傷が見えるかい?」と彼は聞いた。「あれは君がスクリメルを3回ハンマーで打ったときの傷だ。スクリメルは実際、わし以外の何者ではなかったのだが、君が打ったのは岩山だったのだよ。わしは幻影を作り出すのがとてもうまいのだ」と彼は説明し、トールの目をしっかりと見つめた。
「スクリメルの弁当の袋を覚えているかい?」と彼は続けた。
トールは疑いぶかそうにうなずいた。
「あれは普通の紐で結んでいたのではなくて、魔法の鉄ロープで縛られていたのだよ。あれはどこに手をかけるかを知らなければ絶対解けないのだ。どんなに力持ちであったとしても」ユートゴーダローケはトールの力溢れる手を調べた。
「そしてローゲ、あのローケが競った相手はわしの家来、何もかも飲み尽くす炎なのだ」と彼は言った。
ローケは憤って巨人をにらみつけた。
「チャルヴェが早足を競った相手のヒュージは、わしの思考だった。わしの思考は一番に来るのだ」
チャルヴェは理解できないというように大きく口を開けた。
「そして君が飲むときに使った角は、トールよ、他のと同じように見えたかもしれないが、海が満たされていたのだ。あのあと海面がずいぶん下がったと聞いた」と巨人はもごもご言った。
トールは頭を上げて、少しなだめられたかのようにユートゴーダローケを盗み見た。
「猫は?」と彼は尋ねた。
「君が見た猫は世界の海の長い蛇以外の何者でもない。あの蛇はどんどん成長して、今では世界の盤に絡み付いても身が余るほど長くなっているのだ」とユートゴーダローケは続けた。「そして君が取っ組み合った老人は老齢それ自身なのだ。あれには誰も勝てない。しかし君は良いところまで言った。それは認めねばならない!」
巨人はトールを尊敬の目で見た。
「さあ、ここでお別れだ。そしてもう二度と会わずに済めばよいことを願う。君はとても危険な相手だった」
トールは以前の自分を取り戻し始め、ベルトにつけたハンマーにそっと手を下ろし始めた。ユートゴーダローケはその動きを見て、人差し指をあげて警告した。
「わしの魔法の知識を忘れるでない!わしはわしのものであるものを守るためには手段を選ばないからな」
そして彼は突然消え、囲いも砦もすべてが消え去った。
ローケ、チャルヴェ、レスクワは何も無い野原の周りを見回した。少したってから彼らは互いに口の中でもごもご言い始めた。どの道が一番はやく彼らをそこから連れ去ることができるかということについて話し始めた。すぐに立ち去らねばならない、と彼らはトールの説明した。トールはまだ立ち去りがたくハンマーに手をかけていた。

                         (第二章完)

北欧神話(15) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(10)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(10)

トールはその問いかけにすっくと立ち上がり、うなりながら力のベルトを締め、ユートゴードローケの前の床に足を幅広く開いて立った。
 ユートゴーダローケは彼の意欲をからかうように冷笑し、部屋の隅で寝ている灰色の猫を指差した。
「あの猫を持ち上げるのは子どもだってできることだろう」と彼は言い、耳の中を掻いた。
「だが、君の大きさを考えるともしかしたら、、」
 トールの目は怒りで大きくなった。彼はその大きな猫の尻尾を引っ張り、猫の腹の下に軽蔑するように手を突っ込んでその獣をつかんだ。
けれども彼が猫を持ち上げようとすると、猫は背中の毛を逆立てたのだ。トールが高く持ち上げようとすればするほど、猫は毛を逆立てるのだった。それが天井に届くまでになっても、トールは猫を持ち上げることはできず、前足をわずかに持ち上げることができただけだった。
ユートゴーダローケはトールに同情するように言った。
「そら、わしの言ったとおりだろう?君がそんなに小さくなかったらきっと持ち上げられていただろうに」
小さい!その背の高い雷の神は向こう見ずな怒りが力強い雷のように体の中にそびえ立ってくるのを感じた。
「ああ、君はレスリングが好きだと言ったな」とユートゴーダローケは冷静に言った。「君のようなものにも簡単な課題を思いつける。エッレを連れてこい!」と彼は叫んだ。
そして年老いてびっこを引いている背中の曲がったおばあさんが部屋の中に入ってきた。
「ようこそ、親愛なる小さな養母よ」とユートゴーダローケは微笑んで、醜い歯を見せた。
難しい試練を受けているトールは声を失って老婆を見つめた。巨人の老婆は今にも死にそうだった!彼は老婆とレスリングをすることを拒否しようかと思ったが、そのとき老婆にぐいとつかまれてびっくりした。彼女はとても強かった。トールが強く引こうとすればするほど彼女はしっかりと立ち続けるのだった。
けれども老婆もトールを押さえ込むことはできなかった。彼女はため息をついていらいらして突然トールに足払いをして、彼を跪かせた。
ユートゴーダローケは満足して頷き、レスリングの終わりの合図をした。
トールはもはや目の輝きをまったく失っていた。彼の地に落ちた面目は際限が無かった。彼がそのとき望むことはユートゴーダローケの恐ろしい部屋を去ることだけだった。けれどもユートゴーダローケはトールの不機嫌に気づかないかのように、煌々と照らされた部屋の外はもう暗くなっているので、客人たちは一晩泊まっていくように強く勧めた。

北欧神話(14) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(9)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(9)

自分が速く走れるのを知っていたチャルヴェは、トールがどう答えるかと思いながらトールを見上げた。トールはやってみろ、というように頷いた。ユートゴーダローケは、部屋の端の方で、顔いっぱいにあざけり笑いを浮かべて立ちあがったヒューゲという名の巨人の子どもを呼んだ。チャルヴェはトールにほめてもらいたくてたまらなかったので、競争するために急いだ。
スタートの合図がなされたが、チャルヴェが部屋の半ばまで行く間に、ヒューゲはもう部屋の端まで行って戻ってくるところだった。
それから2回失敗してから、チャルヴェは顔を赤くして汗を掻きながら自分の席に戻った。トールは彼に向かってウィンクをして、別に怒らずに肩をすくめた。
ユートゴーダローケはトールに向き直り、柔らかな口調で、多分彼自身何か好きなスポーツがあるのではないかと尋ねた。
トールは少しの間考えた。
「レスリングが好きだけどね」と彼は考えながら言った。
「それに私は重いものを持ち上げたりするのも得意だ。一気飲みなどもできる」
ユートゴーダローケはその答えが気に入ったようだった。彼はすぐに手をたたいてすべての客人の前に濁り酒の入った角の器を置くようにと命じた。
トールは彼の手の中に角の器がたちまち置かれたのにびっくりした。ユートゴードローケ自身が多分彼と同じくらい酒を飲むのが好きなのではないかと思えた。
トールは満足して自分の器を調べた。それは彼自身のものと似ていたが、もっと背が高く下の方がつぼまっていた。
ユートゴーダローケの合図で、客人たち全員が大きな音を立てながら酒を飲み干した。
トール以外のものは皆。
トールは困惑して自分の器を見つめた。彼が思いっきり飲んだのに、濁り酒の量はほとんど減っていなかった。
「多分、次は飲み干せるのではないかな」とユートゴーダローケは慰めるように言った。
トールは器を口に持っていき、息が切れるほどに飲んだ。けれどもそれにもかかわらず彼が中を覗き込むと器の中の濁り酒はほとんど減っていなかった。
ユートゴーダローケはトールにウィンクした。「ああ、三回目のために飲み残したんだね」
トールは最後の努力をしたが、それで諦めた。この器を彼は干すことはできなかったのだった。
まさに完全にうまくいかない日だ、今日は!トールは部屋の中の巨人たちが大量の酒を飲んだ後で、おくびをしたり休んだりしたりしている間、苦々しく考え込んだ。
ユートゴーダローケはしばらくしてから機転を利かせて、トールに、もし力があるのならその力を見せて、名誉挽回したいのではないか、ときいた。

北欧神話(13) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(8)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(8)

彼らが入り込んだその部屋はとても大きかった。彼らはすぐ、威厳溢れる、ごてごてに飾りつけた高座にとまっているように座っているのはユートゴーダローケ自身だということがわかった。彼の両側には多数の大きな巨人の仲間が座っていた。スクリメルほどには大きくなかったが、トールが背が高くたくましいのに、彼らに比べると成長途中の男の子に見えるほどだった。
二人の長髪の巨人が「若者と小さな子どもたち」を歓迎すると言い、ご馳走の並んだ長いテーブルに着くようにと勧めた。トールと、ローケと子どもたちはとてもおなかがすいていたので、すぐに食べ物にかぶりついた。
ユートゴーダローケは最初、客人たちが目に入らないかのように振舞い、自分の家来たちを声高にたたえた。
「さあ、皆の衆、きいてくれ!いろいろなスポーツにおいて、君たちは一番すばらしい結果を示している。そしてわれわれはそれを喜んでいる、そうではないか?」
そして彼はその中の幾人かの功績を褒め称え、長い間自慢話をした。
「そして、さあ、私の客人である若者たちよ」と彼は突然言って、トールとその仲間を振り返った。
「われわれは君たちがなにかをもたらすことができるのかどうかと思っている」
ユートゴーダローケが自分の味方だと知っているローケは、満腹で騒がしい巨人たちに聞こえるように声を張り上げていった。
「私はものを食べるのがうまいのだ!皿をあっという間に空にすることができる」と彼は言った。
「けれどもスポーツはあまり得意ではない、親愛なるユートゴーダローケさん」
ユートゴーダローケは部屋中に響き渡るような大きな笑い声を立てた。
「は、は、は!ではテーブルで君の前に座っているローゲと良い勝負だな」
ローケはびっくりしてユートゴーダローケを見た。ローケ自身が力比べにさらされるというのだろうか?それはトールではなかったのか。ローケはこっそり赤毛を振りたてているローゲという名の男を見た。
ユートゴーダローケは召使をよび、大きな肉の塊がいっぱい盛られた皿をローケとローゲの間に置かせた。
ローケは皿の上の食べ物がおいしそうに見えたので、合図なしにすぐ食べ始めた。彼が皿の半分の肉を食べ目を上げてみると、ローゲは食べつくしていたばかりでなく、骨を全部飲み込んでいたばかりか、皿の半分も食べてしまっていた。
ユートゴーダローケは寛大に気落ちしたローケに向かって微笑み、手をたたいた。そして彼はトールに、彼の召使について尋ねた。あの小さい人間の子どもは早く走れるだろうか?彼は速そうに見えるが?

北欧神話(12) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(7)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(7)

彼らが横になったとき、トールにいつも訪れる良い眠りはやってこなかった。彼は勇敢に寝入ろうとしたが、あの寝ているスクリメルからやってくる大風にからかわれてしまうのだった。とうとう彼は起き上がって力のベルトを腹に締めた。彼が第二の打撃を与えたときには、力が彼の体の中にみなぎった。それは最初のよりずっと強かった。
「どんぐり。ちっちゃなどんぐり」と巨人はため息をついて、いびきを掻き続けた。
トールの目玉は怒りで顔から飛び出しそうだった。第3撃に彼は渾身の力を込めた。
巨人は手をこめかみに当てて、目を覚ました。
「なんだ?、、わしの眠りを覚ますのは鳥の糞か?」と彼は言い、目覚めて周りを見回した。
「もう起きたのかい、トール?じゃあ、旅を続けなくちゃな」
彼らがまた歩き始めたとき、トールの目は怒りで真っ赤に爆発しそうだった。ローケ、チャルヴェ、レスクワは不安げに横目で怒り狂った雷の神を盗み見たが、賢いことに口は閉ざしたままだった。
 孤立した冷たい岩山を過ぎるのにあまり時間はかからなかった。岩山の向こうには、荒々しく削られた松の幹でできた高い囲いがあった。囲いの中に垣間見える砦は、オーデンのヴァルハルと同じくらい大きく見えたが、底までの長い道はあまり美しくはなかった。
 巨人は旅を続ける準備をした。
「ここがユートゴードだよ」と彼は言った。「最後の忠告をしてやろう。ユートゴーダローケの部屋の中で元気を出しすぎてはいけない。そうするとまずいことになるから。本当はあんたたちは家に帰ったほうが良いんだけどね。その方が賢い選択だよ」
 巨人が亜趣味を続けるときに、また会おう、という言葉はきかれなかった。

 巨人が見えなくなるとすぐに、トールは高い囲いに向かった。
 彼は力の限りそれを引っ張ってみたが、それをあけることに失敗した。
 ローケは落胆した表情で、自分で調べてみるために囲いのところへ行った。そして彼は戻ってきて、囲いの正面から少し東に行ったところの二本の横木の間に隙間を見つけたと報告した。
 雷の神はいらいらして彼の後に続いて、その囲いの小さな隙間のところへ行った。彼はつまりユートゴードの中に「もぐりこまねばいけない」わけだ。神々の中の最も強いものにふさわしいとはいえない方法だ。
 トールは隙間を大変な思いをして通り抜け、反対側で服を直した。ローケ、チャルヴェ、レスクワは簡単に潜り抜けた。
 トールは怒りで頭を振り、その小さなグループを引き連れて彼の目に入った一番大きい建物に向かった。

北欧神話(11) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(6)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(6)

巨人は彼らの弁当を横目で見た。
「あんたたちの小さな袋の中には大して入ってないね」と彼はもごもご言った。
「わしのをとっていいよ」
トールは彼の明るい赤い色のひげをこすって巨人の皮袋の中の中身をすばやく覗き込み、その申し出を受けた。
彼らが食べ終わると、巨人は無意識のうちにトールのお弁当を彼自身の袋の中に入れ、袋を肩にかけた。
「わしがあんたたちにユートゴードまでの道案内をしてやろう」と彼は言い、ヨートゥンヘイムの平地を歩き始めた。
トールとその仲間たちは巨人の大股歩きについていくために大きな努力を払わなくてはならなかった。彼らは夕方が来るまでにとても疲れてしまった。
「なにか食べるものをとってもいいよ」と巨人は言った。「わしはこのまま寝てしまうから」
巨人は横になるとすぐ寝入ってしまい、彼の開いた口からは前の晩と同じように恐ろしいいびきが聞こえ始めた。
トールは早歩きの一日のあとで空腹だったので、大風と騒音は気にしなかった。彼は巨人の袋を持ち上げ、紐を解こうとした。けれどもどんなにがんばっても結び目を解くことができなかった。汗が彼の額からぽたぽた落ちて、彼のおなかはもっとぐうぐういった。結び目が彼の前進の邪魔をするのはそれが初めてだった。
「なんてこった、、!」と彼は顔を真っ赤にして激しく息を吐いた。彼は炎の燃えるような目で寝ている巨人をにらみ、巨人の頭をハンマーで殴った。
巨人は眠ったままで微笑んだ。
「その葉っぱをどけておくれ」と彼はもごもご言ってそのままいびきを掻き続けた。
トールはびっくりして目を見張った。それから彼は怒りに溢れた額にしわを寄せた。いつものようにことが進まないのだ。
ローケとチャルヴェとレスクワの視線は不安げに寝ている巨人と怒り狂っているトールの間を行き来した。チャルヴェは彼の主人が新たな一撃を加えようとする前に、彼のところへ駆け寄った。
「暗くなりすぎる前に野営の場所を見つけるべきではないでしょうか」と彼は注意深く提案した。
トールはもごもごと賛成し、チャルヴェと一緒に、巨人が寝ているところからは少しはなれたところに立っている大きなカシワの木に向かった。
チャルヴェとレスクワは自分たちの担ぎ袋を置き、焚き火で暖を取れるように薪集めに出かけた。

北欧神話(10) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(5)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(5)

トールは怖がらずに急いで前に進んでその巨大なものを調べ始めた。
それはまさに一人の巨人で、寝ているようだった。巨人のいびきが地面を揺らし、彼の吐き出す息で森の木々が折れるばかりに曲げられていたのだった。トールはその嵐のような大風を吹き返し、立っていることができるように巨人のマントの端を握った。 
 トールは本来は寝ているものをやっつけるというようなことはしなかったのだが、規則的にパタパタ揺れている巨人の鼻毛を見ているうちに、彼はその原則を崩しても良いような気がしてきたのだった。この大風と騒音を止めたら気持ちが良いだろう。未来永劫。
 トールはベルトからハンマーをやっとのことで取り出したが、巨人が目を開け、はっきり覚めた目でトールを見つめる前にそれを打ち下ろすのは間に合わなかった。
「お前は誰だ?」とびっくりしたトールは攻撃をやめてたずねた。
「スクリメルだ」と巨人は答え、トールの掲げられたハンマーを眺めて続けた。
「お前の名を尋ねる必要は無いな。お前はトールだ」
この時、ローケ、チャルヴェ、レスクワが目を覚まし、トールはいったいどこに行ってしまったのかと探しに出てきた。
巨人は体を起こし座りなおして、困ったような表情を見せた。
「わしの手袋の片方がなくなってしまった」と彼はぶつぶつ言った。
「ふむ。わしはどこかに置いたはずなのだが」
彼は突然満足した表情になり、腕を伸ばした。
「ああ、あそこだ!」
ローケ、チャルヴェ、レスクワは、恐ろしいことに彼らの寝床が建物ではなかったことに気づいた。それは巨人の手袋だったのだ。彼らが寝た横の廊下は親指だったのだった。
 巨人はあくびをして、手袋を取り出し、手にはめた。
「お前たちはユートゴードに行くところなのか?」と巨人はもごもごときいた。
「ユートゴーダローケに会うんだったら気をつけたほうが良いぞ。あいつはわしよりずっと荒っぽいやつだからな」
 ローケはその大きな巨人を見つめ、彼らの旅を続けるのが賢いことかどうか迷った。彼はトールに向かって振り向いて、引き返したほうが良いかもしれないね、とささやいた。けれどもトールは彼の言うことを聞かなかった。ユートゴードで彼を待ち受けている挑戦は、とても見込みがあるもののようだ。
巨人は静かに彼らの前の地面に座り続け、彼の古い皮袋の紐を解いてその中身をむしゃむしゃ食べはじめた。
トール、ローケ、チャルヴェ、レスクワは、その巨人の焼肉のにおいをかいで、空腹であることに気づいた。彼らは、ユートゴードに向かう前に何か口にするために、巨人からちょっと離れたところに座った。

北欧神話(9) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(4)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(4)

 彼らの前に巨大な人間に似た形のものが地面にいる輪郭が垣間見えた。そのそばに立っている木はまるで藪のような小ささに見えた。それはとてつもない大きさの巨人が地面に寝ている姿だった。
突然、彼らの足の下の地面が揺れはじめ、ひっかくような音が空気を満たした。ゆれと騒音は短い合間を縫って規則的に聞こえてきて、彼らの後ろの森の木の先端が大風にあっているかのように揺れた。
トールの旅仲間達は不安げに周囲を見回した。
トールは目を凝らして前の方を見ようとしたが、今ではもう横たわっている巨人見えなくなっていた。霧が濃くなっていたのだ。
「ちぇっ!」と彼は落胆して毒づいた。
「ついさっきまでそこに巨人がいただろう?あいつはどこに行っちゃったんだ?」
「巨人なんか気にしなくていいよ」とローケは神経質に言った。
「地面が落ち着いて霧が晴れさえしたら、また彼が見えてくるだろうさ。彼は見つけにくいことはないからね」
ローケがユートゴーダローケから計画を伝えられたときには、ローケがトールを連れてヨートゥンヘイムに足を踏み入れたときに何が起こるかの詳しい説明は無かった。ローケにわかっているのは、ユートゴーダローケ自身が処理する、ということだけだった。
ローケは地面の不気味な揺れが気に入らなかった。そして今や彼は一所懸命にトールを窮地に陥れたことを後悔し、計画の細部は無視することにした。
 霧は彼らを包み、瞬く間に暗闇が彼らを覆った。野営のためにどこか適当な場所を見つけ出すべきときだった。ローケは目を凝らし、少し先に何か建物があるように思った。
「あそこ、ごらんよ!」と彼は言い、うれしそうに指差した。
「宿泊所に最適だよ!」
彼はトールをその奇異な建物に一緒に引き入れた。建物の入り口は大きく開かれていた。
「ここは乾いていて暖かい」
と彼は満足して言い、家の大きな玄関の横の廊下を寝場所を求めて歩いていった。
 森の中の長い強行軍に疲れたチャルヴェとレスクワはローケの後についていき適当なところで横になった。
 トールはこの宿泊所が良いところだとは考えなかった。彼は彼が見てその後消えてしまった巨人のことが心にひっかかっていたのだった。彼は建物の入り口にもたれて、暗闇の中からの音を探った。
 トールが、揺れと大風を引き起こしたものは何だったのかを何時間も考え続けているうちに、夜が明け始めた。灰色の朝の光が景色を照らし始め、トールに大きな足が見えてきた。彼はしっかり目を覚まして目を見張った。それこそが彼が昨夕見た巨人だった!

北欧神話(8) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(3)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(3)

食事が終わるころには皆おなかがいっぱいになり眠くなってすぐ寝てしまった。
翌朝早くトールは目を覚ました。腹にしっかりベルトを締め手袋をはめハンマーを取り出した。彼のハンマーの祝福により中身のない皮が元の雄羊に戻るのだ。トールはこのようにして空腹のときに雄羊をほふって食べつくしたのだった。
トールは雄羊が生き返るようにハンマーを皮の上で振った。けれどもなにかがおかしい。雄羊のうちの一頭が突然びっこを引き始めたのだった。トールが脚に触って見ると足が折れていた。
農民とその家族はトールの怒りの叫びを聞いて何が起こったのかを見るために飛び出してきた。
トールは彼らを怒りの目で見据えてびっこを引いている雄牛を指差した。
「これはなんだ!?」彼は怒鳴った。
 農民の息子チャルヴェはトールの言葉を忘れて、髄を食べるために骨の一本を追ってしまったのだった。おびえた農民は怒り狂っている神と真っ青になっている息子の間に立ち困惑しながら、寛大な償いのためのいろいろな提案をひねりだして、次々にぺらぺらしゃべった。
トールは怒りに包まれたのと同じくらいの速さでなだめられた。農民がほとんど大人になっている彼の息子チャルヴェとレスクワを召使いとして差し出すと提案したときに、トールはすぐに同意した。農民は脚が治るまでトールの雄羊の世話もすると約束した。
 怒りで真っ赤だったトールの顔はもとの明るい色に戻り、彼の機嫌はとてもよくなった。彼はハンマーで武装し、ローケと、トールのお供をすることを喜んでいるチャルヴェとレスクワと一緒に出発した。ユートゴードで巨人たちと力比べをするために。すべてのことが再び輝きに満ちているようだった。
 ローケはヨートゥンヘイムの高い山の先にユートゴードの平地があると言った。そしてそこが彼らの目的地だと。ユートゴードにたどり着くためにはヨートゥンヘイムの高い山を越え、深い森を通ってゆかねばならないのだった。
 トールとその旅仲間達がヨートゥンヘイムの森までたどりつくまでにかなりの時間がかかった。彼らは高い松の木々にさえぎられた常に半暗闇状態になかなか慣れなかった。この小道も無い森の中には目を留めるべき美しいものは何も無かった。荒々しく太い幹の間には何の緑も無かった。地面を覆うのはじゅくじゅくした灰茶色の苔だけだった。
 ローケはあっちだこっちだと指差したが、トールはすぐに彼がどっちに向かって良いのか良くわかっていないということに気づいた。トールは自分で方角を確認し始め、すばしこい若者であることを示したチャルヴェが倒れた木やつるつる滑る根の肥えて進める道があるかどうかを一歩先に確かめる水先案内となった。
 彼らはそのつまならい景色の中を5日間右往左往しながら進んだ。そしてようやく森はだんだん明るくなり始め、とうとう終わりになった。彼らが森の端に立ち、夕方の霧の中で息をついているとき、彼らのうちの一人を喜ばせるような何かが見えた。

北欧神話(7) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(2)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(2)

「われらがトールをここに連れてきさえすれば、ほんの少し手伝ってもらえば私が手がけられるだろう」
と彼はにっこり笑った。
「あなたたちは私の魔力を知っているだろう。私は私が亜麻色の髪の小さな妖精の子どもと誰にでも思わせることができる。あるいはこの部屋の外の藪が魔法の杖の集まりだと」
ユートゴーダローケの客人たちは頷いて互いにずるがしこい視線を交わした。彼は知恵ものだ、あのユートゴーダローケは。彼は確かにどうやったらトールと立ち向かえるのかを知っているだろう、ローケがトールをこのユートゴードにつれてきさえすれば。
巨人たちの顔色はいまやずっと良くなって彼らは濁り酒のコップを勇んで握り締めた。これはとても良い考えなのだから。
ユートゴーダローケと彼の巨人の友人達がローケに彼らの提案を受け入れあせるのは難しくは無かった。そしてローケがトールにユートゴードまで一緒に来るように説得するのも簡単だった。トールはできるだけ早くユートゴードで力比べをすべきだという提案にまったくそのとおりだと賛成して、すぐに旅の準備をするために家に戻った。ローケは彼の後を小走りに追って、自分が道案内をするといった。
「私はヨートゥンヘイムの深い森を私の手のひらのように知っているのだから」と彼は叫んだ。
トールはローケの提案など気にも留めずフンと鼻の先で笑って、自分の砦であるトルードヴァングへ急いだ。
家で彼は腹をしっかり締めるベルト、鉄製の手袋とハンマーを取り出した。それから彼はいつものように自分の力強い雄山羊を馬車につないで、空いているところに座った。
ローケはトールの横ににかにか笑いながら飛んで乗り込んだ。
「ユートゴードへ!」と彼は叫んだ。
トールは彼にしょうがないなぁという視線を投げかけ、雄山羊に進め!と声をかけた。
彼らはすぐにアースゴードを後にし、ミッドゴードに向かって走り続けた。もうすぐ日が暮れようとするときに、彼らは小さな農場のところまで来ていた。
トールが一夜を過ごすべく選んだ農場は貧しいところだった。農場の主人が出してくれた食物はローケのおなかでさえいっぱいにしなかった。ローケはあっという間に貪欲に食べてしまった。トールはその一家の料理なべの中の貧しい内容に目をやると頭を振って、暗い庭に出て行った。必要に勝る法律は無い。彼は自分の二頭の大きな雄山羊を屠って夕食が満足の行くものにした。
トールは家に中に入ると、あるだけの鍋に肉を入れ、火の前に山羊の皮を置いた。魅惑的な湯気が新たに煮られた肉から立ち上り、トールは農場の主人、彼の妻、その二人の子どもたちに肉を分けてやった。彼はまた彼らに注意深く、食べているときに骨を傷つけてはいけないと言った。骨はそのまま傷つけずに火の前に置かれた皮の上に投げられねばならないのだと。

北欧神話(6) 第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(1)

第二章<トールが自分の力を魔術に優れる偉大な巨人ユートゴーダローケに試す>(1)

アーサゴードに戻ってきたとき、トールは異常な強さの気性の激しい若い神に育っていた。彼の巨大な力はすでにイグドラシルのすべての世界中に知れ渡っており、巨人たちは彼の力を恐れていた。
ある雨の日、偉大な巨人ユートゴーダローケはトールのハンマーがいさかいの中で彼のいとこに向かって使われたと聞かされ、この若い神にまつわる将来の不安に業を煮やし、巨人のうちで最も強くもっとも賢い者たちがこの問題を協議すべく招集をかけた。
ユートゴーダローケの友人たちがヨートゥンヘイムの広大な生い茂った松の森の蒸気のたった水に沈んだ苔の上を歩んで集まってくるまでに時間はかからなかった。
ウートゴードの大きな集会場のベンチが余すところ無く埋まったとき、ユートゴーダローケは立ち上がり、両腕を高く上げ、来客たちを静かにさせた。
「いまこそわれわれはトールの力についてこれを最後として確かめるべきである、そうではないか?」と彼は威厳を持って問いかけた。
薄暗い灯りのついた部屋の中の巨人たちは不安になって、もごもご言ったり、ふんふん言ったりして、目をきょろきょろとさせた。彼らのうちの最も強いものさえ、その若い雷神のことを考えると黙ってしまったのだった。
ユートゴーダローケは部屋を埋めた臆病な顔の表情にがっかりして、もじゃもじゃの髪の毛を掻いた。ここでは助けを得るのは容易ではないようだ。
けれども彼は突然ニコニコした。
「ローケに手伝ってもらおう!」と彼は叫び、ほっとして集団を眺めた。
巨人たちはひげを引っ張り、納得いかないように互いの顔を頭をかしげながら見合った。
「ファルバウテスの息子のローケに、力試しのためにここにトールをよんでもらおう」と彼は決定した。
彼の考えはけっこう良い考えかもしれない、とみなは理解した。ローケは嵐と雷をつかさどる巨人ファルバウテの息子のうちの一人であったが、神の王オーデンがイグドラシルの民の間の仲の良いパートナーを替えてからというもの、アースゴードに住んでいたのだった。ローケはすべての神と知り合いであり、トールを連れ出すことも確かにできるであろう。
問題はトールがヨートゥンヘイムにやってきたとして、誰がトールの力を試すかということだった。
ユートゴーダローケは彼のすばらしい提案にすっかり満足して、自分の大きな鼻をなでた。今こそ彼はみなの視線を一身に集め、今こそ計画を練るときなのだ。彼は口の端を引き上げ、にかっと笑い、茶色い歯を見せた。お客たちに彼の偉大な魔法の力について思い出させるときだった。

北欧神話(5) 第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(5)

第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(5)

賢きオーデンは常に悪しき時が来るのを予想していた。だからこそ世界の平和を保つためにずっと以前にイグドラシルの世界のさまざまな民族との間に、友好を示す担保を交わしていた。
すべての親戚、ヨトゥンヘイムの巨人たちでさえ、彼にそのような担保を喜んで与えた。その上アーサの神々とヴァーナの神々は自分の唾液を混ぜて魔術の助けを借りてそれで一人の知恵者を作った。彼にはクヴァステルという名がつけられた。
巨人の王はある頭の働く若い男がアーサゴードに住むことを許可した。その男、ローケはその見かけほど賢い良い男ではなかった。けれどもオーデンは彼のことをとても気に入っていたので、それに気づかなかった。そしてオーデンは彼を自分の養い弟にしたのだった。
オーデンは当時巨人の友人であり、美しい巨人の女性との間にティールという息子をもうけた。オーデンが巨人の国で息子を得るのはそれが初めてではなかった。彼の息子トールも巨人国で育っていたのだ。トールの母であるヨードとオーデンはトールがある巨人の夫婦に世話をしてもらうようにした。というのはトールはとても大きな子どもでその力を御することが難しかったからだ。
だから雷の神トールの幼いころの様子はほとんど知られていない。彼が目を見張るほど力強く、ついに養父母をハンマーで殴り殺したこと以外は。なぜ彼がそんなことをしたのかは今でもわかっていない。もしかしたら養父母が彼のあまりの強さに恐れをなして危険だと思い込み彼を殺そうとしたのかもしれん。
オーデンの有効の担保は多分良いアイデアだっただろうが、トールがヨートゥンヘイムの養父母を殺してしまったために、信頼関係が崩れたとみなされた。それはそれから以後ずっと長い影を投げかける出来事だったのだ。 

北欧神話(4) 第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(4)

第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(4)

神々がミッドゴードやヨートゥンヘイムや地下の世界での用事をするためにアーサゴードを去ることも時々ある。彼らはそのようなときにはよく、地下の盤からアーサゴードまでずっと続いているビフィロストの橋を使う。お前さんたちの誰か、それを見たことがあるかい?その橋は地下の世界の端から上に伸びて、ミッドゴードとヨートゥンヘイムを過ぎてアースゴードまで、やわらかい弧を描いて続いていて、もう一方の端でまた地下に戻ってくるのだ。なんでそれができるかというと地下の盤の方がミッドゴードとヨートゥンヘイムを抱く盤より大きいからなのだ。お前さん達ミッドゴードに住む人間は、時々その橋を、多分雨の後でいろんな色の霞として見るだろうよ。橋の赤色は神々が望ましくない訪問者を追い払うための炎なのだ。その炎は必要なのだ。だって古代から地下には信用できない親戚がいっぱい住んでいるからね。
ミッドゴードに一時期住んでいたヘイムダールの神のことを話したっけね?彼がお前さん方人間の国を後にしてアースゴードに戻ったときに、彼は自分の砦を作った。ヒンメルスボリエン、つまり天の砦だ。ビフロストがアースゴードに届く際のところにね。オーデンにそうすると彼が約束したのだ。
 オーデンがヘイムダールにビフロストに住んでほしいと思ったのは、別に不思議ではない。彼は鳥のように少ししか眠らず、彼の視力と聴力はききしに勝るものだからだ。彼は1000キロメートルのかなたを見ることができ、夜も昼も彼は何でも聞くことができて、草が伸びるのや羊の毛が長くなるのが直ちにわかるのだ。
ヘイムダールの敏感な五感を潜り抜けてヘイムダールの砦を過ぎることは誰もできない。それにもかかわらず橋の端まで攻めてきた敵には、ヘイムダールは角笛、ヤッラホーネット、を吹き、世界中に知らしめるのだ。
イグドラシルと9つの世界の私の話を知らなかったかい?別に気に留めなくても良いんだけれどね。お前さんたち人間には世界の中心にあるイグドラシルの木とその永遠の緑を見ることもできないのだから。そしてほかにもお前さんたちに見えないものはいっぱいあるからね。
 私の話を注意してお聞き。ヘイムダールの神のずっとずっと後の息子と娘たちよ。
 私は時間そのもののように歳をとっている。そして我らの世界が、もっとも熱きものと最も冷たきものの間の何も無い穴から生まれ出たときの夜明けを覚えている。古代にはイーメという名の巨人が造られた。熱気と冷気が出会うところで。彼は他の巨人の父となり、大巨人と呼ばれる巨人族の父となった。太陽と月が軌道を回り始めたのはそのころのことだ。季節が交互に来るようになり、時間がちゃんと動くようになった。
 ずっと後で、オーデンと、彼の父と二人の息子が現れ、彼らはイーメを殺し、ほとんどすべての彼の親族を殺した。けれども残ったものと取るに足らない一族はだんだんと増えていった。彼らの血管の中には強力な戦いの意気がふつふつたぎり、それは時が来れば溢れ出てくるものだった。

北欧神話(3) 第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(3)

第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(3)

 南にあるのだけれど、ニーダル山脈により近い、それほど熱くないところに、ミーメルの巨人国がある。そこは適度に暖かく、豊穣で、心地よいところで、そこにはミーメルの王自身の泉がイグドラシルの大きな根のうちの三本目の下に湧いていた。ミーメルの清らかな泉の水には比類の無い力があった。すなわちその水はそれを飲むことを許された卓越した者に大きな知恵を授けたのだ。少しでも賢いものはそのような飲み物の価値がわかるだろう。ミーメル自身は、許されぬものが泉に近寄って水を飲まないように泉のほとりでそれを守っている。ああ、つまり、ミーメルの頭がじゃよ。不思議に聞こえると思うが、その頭は、ヴァーネルの親類達がそれを胴体から切り離してから、イグドラシルの根の元で生きているのだ。
 アーサとヴァーネルという二つの神の派が、イグドラシルの王冠の元に、両立して存在するということが、戦争につながらなくても良かったのだが、結局そうなってしまったのだ。そしてその争いが終わってアーサ達がミーメルを講和のための人質としてヴァーネル達に差し出したときに、その恐ろしいことが起こったのだ。ミーメルの頭が切り落とされてアーサ達へ送り返されてきたのだ。それは関係したすべてのものが立ち止まってそれについてよく考えて見るべきひどいことだったのに、そうはならなかった。
 オーデンはすぐ切り落とされたミーメルの頭の処置をして、薬草をすり込み魔法の歌を歌って、それに命を与えた。そして彼は頭をその国に戻し、知恵の泉の脇に置いた。今でも彼がミーメルの泉に知恵を借りに行くことがある。難しいときなどに。彼自身、とても賢いにもかかわらず。
 オーデンはミーメルから泉の水を少し飲んでも良いと許されたわずかなもののうちの一人だ。そしてその数滴の水のためにはたくさんの見返りが必要だった。彼はまず彼の犠牲心を示さねばならなかった。
 オーデンがしたことはとても風変わりなことだった。彼は自分の目をひとつ取り出し井戸において担保にしたのだ。そのあとでミーメルは彼に飲んでも良いという許可を与えた。
 お前さんたちは古い生贄の習慣を聞いたことがあるかい?昔人々が神にささげるために動物を殺し、木につるしたことを知っているかい?
 もうお前さんたちにも良くわかっていると思うけれど、オーデンは、知恵を得るためには常にどんなに大きな犠牲もいとわなかった。一度などは、彼は自分自身をささげたのだ。彼は自分の体を槍でめちゃくちゃに突かせ、イグドラシルの木に9夜の間吊るさせたのだ。片目で、死にかかって。彼は吊るされている間は飲み食いもしなかった、最後に足元から上がってきた魔法のルーンの歌に包み込まれ、それが彼に新しい力を与えるまで。その行為により彼の知恵は以前よりももっと増したのだった。

北欧神話(2) 第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(2) 

第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(2) 

一番下の土地の円盤は一番下の世界だ。そこには入り込むにはとても注意しなくてはならない3つの国がある。来るものを拒む急な傾斜の岩を持つ大きなニーダ山が円盤の真ん中に帯のようにまたがっている。そして、それは、その山脈の北と南でまったく違う様子にしているのだ。
北にはニーフェルヘイムという名の恐ろしい、霧に包まれた、どろどろとした国がある。そこはいつも暗く冷たい。そこからイグドラシルの三本の根のうちの一本が泉の周りに伸びているのを見ることができる。その泉からは大きな沸きこぼれるヤカンのようにいつも水が吹き零れ流れ出している。その泉、ヴェルゲルメルからミッドゴードのすべての川や滝の水がきているのだ。
ニーフェルヘイムの一番下の忌まわしい部分はヘルと呼ばれていて、ヘルには国の中で最も恐ろしい女神が住んでいる。ヘルに降りていったもので戻ってきたものはいない。それにもかかわらず彼女の恐ろしい姿のうわさはイグドラシルの9つの世界に知れ渡っている。ヘルの体は半分は死体のように青く腐り、半分は桃色を帯びて生きているようだ。そのうわさには私は文句をつけることができない。
わたしの言葉は、お前さんたちにとって努力して覚えておく価値があるのだよ。だって嘘と裏切りに生きた人間は、死んだらヘルに行かねばならないんだからね。彼らは長い、長い、気の進まない旅を続けるのだ。下へ、下へ、地下の深い、暗い谷を通って、ヨールと呼ばれる氷のような広い河にたどり着くまで。彼らがその河を渡りきったとき、燃え盛るヘルの門の前で立ちすくんで震えながら、門が開いてヘルの国に迎え入れられるのを待つのだ。彼らがそこに立っているとき、ガルムが突然後ろで斧を振るうのだ。すると彼らはそこにとどまってはいられなくなるのだよ。ガルムは番犬のようなものだけれど、よだれをたらした、気の狂った狼のように見える。彼の役目は、ヘルの扉の中でこれから彼らを待ち受けていることに恐れおののいている彼らが引き返さないようにすることなのだ。その恐怖に震える人々の中でだれも、血に飢えたガルムの口から逃れられたものはいないのだ。
ヘルの扉の中はどうなっているのかだって?そんなことを知りたい人間はいないよ。けれども、死んだ者たちがヘルの女神の裏切りの躓き敷居を越えて転がり込んでくると、ヘルの家来たちが空腹の皿と飢餓のナイフを供するといわれている。そして彼女の住居のj壁は生きている、編みこまれた蛇で作られていて、彼女の部屋に座るものたちに強力な腐り毒を彼らに滴らせるといわれている。私はそれを否定することはできないよ。
ニーダ山脈の反対側、南の端に灼熱のムスペルスヘイムがある。その世界が一番初めに生まれたのだ。そこには炎の巨人以外のものは住むことができない。彼らの中の覇者はいじわるな巨人スートで、彼は来るべき不安な時代に向けて、炎の剣を抜いて待ち構えている。  

北欧神話(1) 第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(1)

第一章<巫女がイグドラシルの9つの世界とその住人について語る>(1)

 さあ、私の話をしっかりお聞き、ヘイムダールの遠き子孫の息子や娘よ。
 お前さんたちはイグドラシルの木とその9つの世界についていったい何を知っている?お前さんたちはその中のひとつに住んでいるのだから、そこについてできる限りたくさんのことを知りたいに違いない。巫女の中でも最も歳をとっている私は、このすごい木の周りで起こったことをすべて覚えている。私は起こったことを覚えており、今起こっていることを知っており、これから起こることもわかるのだ。私はなにもかも知っている。それをこれからお前さんたちに語って聞かそう。
 お前さんたち、人間は美しい世界に住んでいる。けれども、イグドラシルの世界の中で最もすばらしいのは疑いも無くアースゴードだ。神々と、勇ましい人生を雄々しく生きた人々の魂が住んでいるところ。お前さんたちも天空のアースゴードの世界がどんなに美しいところか聞いたことはあるだろう。けれども、トリネコの木の永遠の緑の葉が真っ青な住んだ空に踊るその壮麗な景色は、想像することもできないのだよ。
 アースゴードの統治者がオーデンだということは多分お前さんたちも知っているだろう。彼は他の神々に先んじて存在していて、彼らのうちの多くの父でもある。お前さんたちに言っておくが、彼は森の動物と同じくらいたくさんの名と姿を持っているのだ。けれども彼の真の姿を前にすれば、人はすぐに誰に向かって立っているのかを悟るのだ。オーデンは比類なく荘厳で賢く、彼の氷のように青白い目つきは刃のように鋭い。その上彼はまたいろいろな見方をできる。ワタリガラスのフーギンとムーニンが常に彼のところへ飛んできて、その真っ黒なよく働く目で見たことを報告に来るのだ。そしてオーデンが彼の金の王座、フルドスカヤルフに座れば、魔術によって彼はすべての世界のすべてのことを見るのだ。彼にはお前さんたち人間も見えるし、巨人も見えるし、小人も、妖精も見える。彼には未来に起こることの多くも見えるのだ。
 オーデンに見えることについてたくさん語ることができるけれど、彼の目を逃れたこともまたたくさんあるのだ。
 イグドラシルの大きな幅広い王冠の下を見ると、幹と根の周りに二つの地面の円盤が見える。王冠に近い方、アースゴードには4つの族が住んでいる。一番外側、岩と森に囲まれたヨートゥンヘイムには巨人が住んでいる。円盤のもっと中の方には、良く注意して見ると小人とダークエルフの地下の国、ニーダヴェリルにつながる穴が見える・円盤の真ん中には大きな世界海があって、そこにはお前さんたち人間が住む肥沃なミッドゴードがある。
 ところで、お前さんたちはヘイムダールの神がずいぶん前にお前さんたちと一緒に暮らしていたことを知っているかい?彼は人間の一人生の間ミッドゴードに住んで、神聖なるルーン文字やその他の知っておくとよいことを教えたのだ。その間に彼は奴隷、農民、金持ちの族長それぞれの父になった。つまり彼はお前さんたちのずっと前の祖先だ。

バイキングの娘(19) バイキングの家の造り方

引き続き、ビルカ島。
バイキングの家の作り方特集。

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バイキングの娘(18) ビルカ島続き

引き続いてビルカ島の写真。
#虫に刺された痕がまだ痛痒い。。

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バイキングの娘(17) 再びビルカ島へ

ビルカ島に行ってきました♪
つい最近、ヴァイキングの家の作り方や鍛冶屋や手工芸の実演部門も出来て興味深かったです。ヴァイキングの家は最初に細い小枝で骨組みを作ってそこに粘土を貼り、一番外側は太い丸太で囲うというものでかなりしっかりしていました。
#ちなみにこの建物プロジェクトはゴットランド大学の教育課程に含まれるものなのだそうです。
ストックホルム市内にあるスカンセン野外ミュージアムにある中世の農家よりずっと立派で「なんで~?」と思いました。まあ、ヴァイキングの貴族の館だったのかもしれませんが。。

それにしても暑かった。。

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バイキングの娘(16) バイキングの神々

北欧神話(50)にもちょっと出てきていますが、ヴァイキング時代の信仰にはアーサの神々だけではなくヴァーナの神々というのもあったのだそうです。ニョードとフレイとフレイアはヴァーナの神々の子孫です。ヴァーナの神々はもともと豊饒と魔法の神々なのだそうです。
 で、アーサの神々とヴァーナの神々は世界で最初の戦争をした(ヴァーナの神がアーサの神に毒を盛ったのが発端)のですが、最後は互いの唾を混ぜてクヴァーセルという名の新しい神を作って和平を結んだのだとか。

 巨人と戦う前に神同士で戦ってたんですねぇ。それにしても、いろいろ魔法が使えるのに、神々が老いたり、死んじゃったりするとか、唾を混ぜて神様を作るとか、なんとなく古事記にも通じるものがあって面白いですよね。

バイキングの娘(15) にんじんパンケーキ

ヴァイキング時代にも多分あったと思うので、強引に「ヴァイキング娘」にまとめてしまうのだけれど、「にんじん入りパンケーキ」。
#にんじんを入れるのはすでに中世からあった、とどっかで読んだ気がするので。。

専用の「ちびパンケーキ用フライパン」を使いましたが、普通のフライパンでも大丈夫です。

<材料~4人分~>
卵2個
牛乳8㎗
小麦粉4㎗
塩少々
ベーキングパウダー少々
砂糖0.5~1㎗
焼くときにフライパンに敷く油・バター・マーガリン適宜
にんじん大1本

<作り方>
卵2個をボールに割りいれ牛乳の半量を入れて混ぜる。
小麦粉を入れてダマができないように混ぜる
塩、ベーキングパウダー、砂糖を加える
残りの牛乳を入れてのばす
#牛乳全量入れてしまうとうまく小麦粉が混ざりません
#タネはこんなゆるゆるでいいの?!と思うくらいのゆるさです
摩り下ろした(細かく刻んだ方が歯ごたえが残ってて却って良いかも)にんじんを加え、よく混ぜたタネを薄く油を敷いたフライパンで両面焼く(中火~弱火)。

一般的にはホイップした生クリームとジャムで食しますが、シンプルに砂糖を振っただけで食べても美味です♪

にんじんの代わりに林檎などでも試してみましたが、にんじんの方がおいしかったです。

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バイキングの娘(14) 葬送

ヴァイキングの偉い人達が亡くなると、舟に乗せ、馬や食料、装飾品、小さな小屋までを乗せて土に埋めたり海に流しました。
海葬でも陸葬でも、火をつけることもあったそうです。

指輪物語の映画にそんなシーンがあったような。。

写真はフィンランドの民族博物館のヴァイキング舟(ぼけちゃってますが。。)。

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バイキングの娘(13) 世界の呼び名

ヴァイキングはいろいろなところに行ったわけですが、各地にそれぞれ独自の呼び名をつけていました。

1.ロシア=ゴーダリーケ(Gardarike)
2.アラビア=セルクランド(Sarkland)
3.コンスタンチノープル=ミクラゴード(Miklagard)
4.北イングランド=ダーネラーゲン(Danelagen)
5.北アメリカ=ヴィンランド(Vinland)

ヴァイキングの娘は、旅から戻ってきた荒くれ男たちが蜜酒を飲みながら語る異国の話をきいて、エキゾチックなその土地の名を覚え、その不思議な夢の国にいつか行ってみたいと思いをはせたかもしれませんね。

バイキングの娘(12) 中世のおまじない

~蜂を追い払うおまじない~

蜂よ、蜂よ、大きな釘よ
悪魔のもとから来たお前
お前は悪魔にとっても似ている
石を刺しな、脚は刺すなよ
丘を刺しな、首は刺すなよ
灰を刺しな、腹は刺すなよ
僕を刺したら、殺されちまうぞ

   (北欧伝承-中世-)


~歯痛を治すおまじない~

麦畑をかすめていく波のように、去って行け
この歯痛が地獄で燃えちまうように
石や砂に乗り移ってしまえ
でももう人の歯には来るな!
悪魔よ、悪魔よ、あっち行け~!
   
   (北欧伝承-中世-)

バイキングの娘(11) おまじない~痛いの痛いの飛んでいけ~

~痛いの痛いの飛んでけー~

「ママー、けがしちゃったよぉ…」
「どしたの?!どこ、怪我したの?なーんだ、指か。かすり傷じゃない?ちちんぷいぷい。痛いの、痛いの、飛んでけー!…治った?」
「治らない。まだちょっと痛い…」
「じゃあ、パパのところに行って治してもらいなさい」
「はーい」
「どうした?なになに。怪我か。じゃあ、パパが歌をうたってあげよう」
連れ合いの膝に抱っこされて次男は神妙な顔をする。
「もみの木の枝にリスが座っていました♪
 松ぼっくりの皮をむこうと思っていたのです♪
 するとそのとき子ども達の声が聞こえました♪
 リスは驚いて急いで逃げようとしました♪
 松の木に飛び移った時に、つまずいて小さな足にけがしてしまいました♪」
連れ合いの歌声に力がこもる。
「リスはおうちのお母さんのところまで走りました♪
 緑の野原の上を♪
 そしてすぐにベッドに飛びこみました♪
 苦いお薬をもらって♪
 小さな足の上にバンドエイドを貼りつけてもらって♪
 そしてふさふさした尻尾には大きな包帯を巻いてもらいました~♪♪
 治った?」
「うん、治った」
次男は満足して父親の元を去る。この歌の前半はスウェーデンの有名な作詞家アリス・テグネルによる、スウェーデンでは誰でも知っている童謡である。後半はどこかの保育所の保母さんが作った替え歌で、あるときあっという間に子育て中の家庭に伝播していったものらしい。長男が保育所に行っている時に長男が覚えてきて父親に教えたのである。4年遅れで次男が保育所に入った時も歌われていた。
実に良く効く「癒しソング」なので家ではいろいろに使って重宝している。
「今日は仕事がきつくってめちゃくちゃに疲れちゃったわ…」
「じゃあ、もみの木に座ったリスの歌を歌ってあげよう!もみの木の枝に~(中略)~包帯を巻いてもらいました~~♪治った?うーん、まだ元気がなさそうだねぇ…。じゃ、もう一回歌ってあげよう!」
「な、治った!治りました!」
そうだろ、そうだろ、とうなずきながら、最後まで歌詞を忘れずに歌える数少ない歌を歌いきった満足感に酔いしれながら、彼は去っていくのである。

バイキングの娘(10) おまじない~神様許してノック~

~神様許してノック~

連れ合いの属す武道クラブの仲間が家に遊びに来ている。私は食物を供した後は談笑の輪から外れて自分の好きなことをしている。台所に飲み物を取りに行った時に誰かが何かを言って、それから木のテーブルを三回コンコンコンと叩いた。皆の笑い声がいっそう高まった。
なにか「身分不相応」というか「神様に対して生意気な」口をきいてしまったときに木製のものを三回叩くのだそうだ。
「神様、私はあなたに対して暴言を吐きました。お許しください」というサインなのだという。これはこちらの大学に留学している時に偉い教授がゼミの議論の最中にやったのを見たのが最初だった。彼自身のゼミだったのでリラックスしていらっしゃって日常の習慣がそのまま出てしまったのかもしれない。わたしはわけがわからずひそひそと隣のギリシャ人の学友に
「彼は今何をしたのか?」
ときくと、彼女もひそひそ声で
「学者らしくない論理の飛躍をして強引に結論に持っていこうとしたことについて神様に許しを請うたのである。あれはスウェーデン古来からの習慣である」
と説明してくれたのだった。もちろん偉い教授は議論の過程で一つの考え方としての例を示しただけで、学術論文においても神様とモールス信号の交流をしていらっしゃったわけではない。

バイキングの娘(9) おまじない~しゃっくりの止め方~

~しゃっくりの止め方~

「ひっく…うっぐぐ…」
変な音が聞こえるなと思ったら、長男がしゃっくりをしているのだった。毎朝、洗面所の鏡を占領して家族中から文句を言われるほどカッコウを気にするようになってきたティーン・エージャーの長男は、登校前にしゃっくりなどという色気のない状況に陥ってしまったことにまるで打ちのめされているかのように見える。
「息を止めてお水飲んだら?」
「飲んでもなおらない…ひっく…」
「うーん。困ったね。じゃ、びっくりさせてあげるからちょっとお部屋で待ってなさい」
と言ったところで連れ合いが台所に入ってきた。
「どうした?しゃっくり?じゃ、水を飲めばいいよ」
「私もそう言ったんだけど、ダメなんだって」
「飲み方にコツがあるんだよ。コップの反対側から飲まなくちゃ意味が無いんだ」
「えー?なにそれ…?そんな変なこと聞いたことがない…」
「知らなかったの?じゃ、教えてあげよう」
連れ合いは家族全員が注目する中、おもむろにコップに水を入れ、その水入りコップを持った右手の手首をくいっと内側に曲げて親指側から飲むのだと説明する。
そして。
わくわくして続きを待つ皆の前で水を飲もうとして、彼は見事にTシャツの胸にコップの中の水の大半をこぼした。家族の爆笑にもめげず、連れ合いは長男にこの飲み方をすればしゃっくりが止まるのだ、と飲むことを強要した。パパっ子の長男はもちろん逆らわず父親の言うとおりに飲んでみた。
すると!
彼のしゃっくりは止まったのだった。次男は目を丸くして父親を尊敬のまなざしで見上げた。でも私は今でも長男は父親への愛情でしゃっくりを自力で止めたのか、まったく無関係にしゃっくりがそろそろ止まる頃合だったのだろうと思っている。

バイキングの娘(8) おまじない~不幸の鍵~

~不幸の鍵~

「あちゃあ、またやってしまった…」
家の近くの市民プールから帰ってきた私は手提げの中をごそごそ捜して、鍵を持って出るのを忘れたことに気づき途方に暮れた。アパートの入り口は午後9時に閉まってしまい鍵なしには入ることができない。つまり私はしめだされてしまったのだ。プールに行くだけのための外出なので水着と着替えのほかはなにも持っていないから、電話をかけて家族にあけてもらうこともできない。
「どうしよう…」
と溜息をつきながら入り口と反対側の中庭の方に回ってみると幸運なことに1階の住人がベランダで煙草を吸っていた。彼女は私がドジで締め出されたのを一目で見てとって、入り口に回りなさいというジェスチャーをしてくれた。
「ありがとう」
「よくあることだからね」
「おやすみなさい」
という会話をしてから2階の自宅に戻り、ゆっくりとくつろいでテレビを見ていた連れ合いに
「可愛い妻の苦境にのほほんとテレビを見ているなんて、あなたは私を愛してないのね?!」
と文句を言った。もちろん窓の下でどんなに叫んだところでテレビの音で外から呼ぶ声はかき消されてしまうし、今回は彼の名を呼ぶ前に喫煙家の救世主に助けられたのだけど。
「で、鍵は?」
「どこかしら?」
台所のテーブルの上に置き去りになっていた鍵を見て連れ合いが言った。
「ああ、テーブルの上に鍵を置くから良くないことが起こったんだよ」
「ああ、そうかもね」
と私も納得する。鍵をテーブルの上においてはいけない、というのはたしか彼の両親に教えてもらったのだと思う。
「どうして?」
ときいても
「うーん、そういうことになっているから…」
という答しか返ってこなかったけれど、まあ普通に考えても出しっぱなしにしておいた鍵は盗まれたり床に落ちてどこかに消えてしまったりするかもしれないから、ちゃんと閉まっておくべきなのだ。

バイキングの娘(7) おまじない~金貨の歯~

スウェーデンのおまじないについて昔書いたものを見つけたので、ヴァイキング時代にあったかどうかは知らないけれど、強引に「ヴァイキングの娘」カテゴリーにアップ。

~金貨の歯~

(ねえねえ。面白いもの見つけたからちょっと来て)
(ん?なんだい?どれどれ?)
居間にいた連れ合いをそっと台所に呼ぶ。
台所の作業台においてあるジュースのビンの後ろにガラスのコップが隠されているのを見つけたのだ。さっき次男の歯がまた抜けて洗面所で口をゆすいでいたのを知っている私には、すぐにピンと来た。抜けた歯を水の中に入れて一晩置いておくと小人がそれを金貨に変えておく、というスウェーデンの慣習が背景にあるのだ。次男は「金貨」を心待ちにしながらも、実は小人ではなく親が入れておくのではないかと疑っているのだ。次男が思いきって父親(つまり私の連れ合い)を問い詰め、父親がはぐらかしていたのは、次男の別の歯が抜けた数週間前のことだった。
連れ合いは隠されたコップを一目見て、声を立てずに笑いながら、自分の財布の中から金貨の代わりの10クローナ貨(#金色をしている)をとってきてコップの水の中の歯と交換した。自室でそのまま寝てしまった次男は翌朝起きたとたん台所に急いで入ってきた。そして「金貨」を見つけると残念そうな嬉しそうな表情を浮かべたのだった。家事をしながらその様子を横目で見ていた私は笑いをこらえるのに一苦労だった。童話のようなこんな慣習は楽しい。

バイキングの娘(6) バイキング時代の犬と猫

ヴァイキング時代にも犬と猫がいたそうで、特に犬は大変尊敬され大事にされていたのだそうです。少なくとも5種類くらいが確認されていて、愛玩用の小型犬から、狩猟用・悪者撃退用の中型犬大型犬まで。愛玩用の小型犬は冬は湯たんぽの代わりに使われていたのだそうです。犬は繋がれておらず自由に動き回っていたのだそうです。デンマーク&スウェーデンでネズミを取っていた小型犬はこちら
猫は「ノルウェーの森猫」だったでしょう、多分。猫を飼うのは裕福な人々だったようです。

バイキングの娘(5) 「豚肉リンゴ煮込み」

ヴァイキング時代のご馳走♪

<材料>
薄切り豚肉(生肉あるいは塩漬け肉) 400g
バター 小さじ1
玉ねぎ 2個
林檎 2~3個
ラードあるいはバター 大匙1
コショウ(白、あるいは黒)
2~3 クローブ(丁子)

<作り方>
玉ねぎの皮をむきスライスする。
林檎の種をとり小口切りにする。
中火で肉を焼く。
2~3回ひっくり返して焼く。
肉を焼いた後に玉ねぎと林檎を入れ、弱火で焼き色がつくまで焼く。
肉と玉ねぎ・林檎スライスをフライパンの中で重ねて良く火を通す。
コショウとクローブを振り掛ける。

焼きたてパンと一緒に供する。

*豚肉と林檎という組み合わせは意外に良く合います。まあチャツネみたいな感じでしょうか。多分、北欧ではあまり香辛料が無かったため、草の実や果実が味を深めるためにいろいろ使われてきたのではないかと思われます。クローブはなくても全然かまいません、ワタクシ的には。

バイキングの娘(4) 「煙突掃除人=ニシンの炭火焼」

ヴァイキング時代の食事♪

<材料>
小ニシン 1kg
水 1ℓ
塩 1㎗
バター 大匙1

小さいニシンのはらわたを取る。背骨は残す。
ボールの中に水をれ塩を入れる。
良く洗い塩水に1時間漬ける。
1時間後ニシンを取り出しよく水気を切る。
フライパンで両面を2,3分焼く。あるいはグリルする。
バターを両面に塗りフライパンに日を入れてフランベールにするかあるいはグリルする。

バター、パンとともに直ちに供する。

*バルト海産の小さなニシンを使いますが、日本で作るとすれば鰯でしょう。現代でも夏に時々街のレストランのメニューに載ります。焦げ目のついた魚の香ばしい匂いが食欲をそそるのですがレモン&溶かしバターかディル・バターで食べるようになっているので、お醤油と大根おろしが欲しいよ~っと悶えます。Sotare(煙突掃除人)とよばれる「料理」です。

2010年7月10日 (土)

バイキングの娘(3) 猪のステーキ、ブルーベリー・ソース添え

ヴァイキング時代の食事♪

1.猪ステーキ
<材料>
猪肉 1kg
バター
玉ねぎ 2個
にんじん 2本
ショウガ 一かけ
蜂蜜 大匙2
塩・コショウ
ブイヨン 2㎗

<作り方>
肉の塊を塊のままフライパンに入れ表面をよく焼く
鍋に入れる
玉ねぎとにんじんの皮をむきスライスする
鍋の中に玉ねぎ、にんじん、ショウガ、蜂蜜、ブイヨンを入れる
蓋をして弱火で1時間煮る

2、ブルーベリーソース
<材料>
煮汁 5㎗
生クリーム 1㎗
小麦粉 大匙3
ブルーベリー 1㎗
おろしショウガ 大匙1
塩・コショウ

<作り方>
1の煮汁を漉して量を測る
不足の場合はブイヨンを足して5㎗にする
生クリームを加え煮立たせる
冷水で小麦粉を溶き、上記の中に入れる
3~5分煮立たせる
ブルーベリーをその中に注意深く混ぜる
ショウガ、塩、コショウで味付けする

猪肉をスライスしてソースとともに供する
付け合せには根菜のグリルなど 

(色と味のコンビネーションがちょっと不気味だけれど実際には食べられないこともないと思ふ。。)

バイキングの娘(2) 身近なバイキング

北欧の人々がヴァイキングに寄せる思い、というのは外国人には良くわかりません。。
今私達が住んでいるところに、1000年前まで確かに存在していた人々に現代人はどんな思いをはせるのでしょうか?
日本に置き換えてみれば、奈良や平安時代の人々に今日の人々はどんな感情を持つのでしょう?
万葉集とか源氏物語には細やかな普通の人の日常の感情が写されています。平安時代の建物や細工物を見ればその精巧さにびっくりします。古代・中世の人達はきっと今とは違う「時間」概念をもっていたことでしょう。一生に数個の細工物を仕上げれば本望だったのかもしれません。
ヴァイキングに話を戻せば、もっと現代人に近い感覚で生活していたのではないかと想像したりします。服地はきめが粗く厚いけれど、ブロンズや金銀の装身具は今でも使えそうだし、冬に火の周りで語られただろう武勇伝の伝統は、現代の祭りにも続いているような気がするし。
海外に出て行く「ビジネスマン」であったわけだし。

夏になると北欧各地でヴァイキング村が開かれ、当時の格好をした人々が訪れる人々に当時の生活様式の一部を垣間見せてくれます。毛糸の作り方、パンの焼き方など現代でもそのままできそうです。
誇り高きヴァイキングの子孫達は先祖をどのように見ているのか、についていつかまとめてみようとも思うのですが、その前に、私自身がイメージの世界で会いたいと思っている「ヴァイキングの娘」についてもっともっと知りたいです。彼女の周りには犬や猫はいたのでしょうか?好きな人ができたときには、誰に一番最初に打ち明けたのでしょうか?改まった日にはどんな髪形をしたのでしょうか?一つ一つ確かめていかねばなりませんが、楽しみな作業でもあります。

バイキングの娘(1) 「バイキングの娘」

「ヴァイキングの娘」

 いつの頃からか北欧に住んでいるからにはヴァイキングのことをもっと知りたいと思うようになった。日本人が時代劇や時代小説を通して当たり前のように侍や公家などの昔の人々になじんでいるように、北欧の人たちは自然にヴァイキング的な考え方になじんでいて、それが今日の彼等の考え方にも反映しているのではないかと感じるようになったからだ。
 チャンスをみつけては各地のヴァイキング遺跡を回ったり、博物館に行く。博物館ではヴァイキング関連グッズを販売しているので、行くたび少しずつ買ってくる生活用具、装身具、書籍が私の部屋に溜まっていく。一番のお気に入りは歴史博物館で買ったヴァイキング時代の娘の指輪のレプリカでほとんど毎日のように職場にもはめていく。
 けれどもずっとなんとなくよくわからないなぁ、と思っていた。私が一番知りたいのはヴァイキングの男達がどんな経路をとって略奪、あるいは商業の旅に出かけたか、どんな船に乗っていたか、というようなことではなく、女達、娘達が毎日どんなことを考えて生きていたかということなのだ。ヴァイキングの女達は北欧の現代の女性のように強かったのだろうか、どんなものを食べ、どんな夢を抱き、どんな男に惹かれたのだろうか。
 いろいろな本を読み齧った結果、ヴァイキング時代には王、騎士(貴族)、農民、奴隷がいたことを知った。博物館には遺跡から発掘された王族あるいは貴族の娘の骨が展示されている。綺麗な玉が小さな胸の脇に散らばり、彼女が送っただろう裕福な生活を偲ばせる。また手を縛られて生贄として埋められた「木苺の女の子」の骨も見た。彼女は死ぬ前におなかいっぱい木苺を食べたらしくその種が一緒にあったのでそう命名されているのだそうだ。多分奴隷の女の子だったろう。
 けれどももっと切実に知りたい庶民(農民)の娘達の墓は残っていない。イメージをどこから得ればよいか途方にくれていたのだが、最近ようやくアイスランド古詩の自由奔放な古代の女神達に彼女達のイメージに重なるものを発見した。アイスランド古詩はヴァイキング時代が終わってからまとめられたものなのでキリスト教の影響が色濃く出ているが、詩で歌われるアーサとよばれる古代の神々は今でも北欧の人々に非常になじみが深く、たとえば神々の名前を子どもにつける人も多い。アーサの神々はまるで古事記の神々のように、それぞれ個性的で人間的だ。たとえば力の神トールの妻である女神シフは金髪の美しさを誇っている。あどけない女神イードゥンは神々の永遠の若さを保つ魔法の林檎を育てている。ヴァイキングはアーサの神々を信じていた。口承文学であったアーサの神々の伝説には彼等の身近な女たちの性格や生活が反映されていただろうと考えるのは無謀だろうか?
 ようやくたどり着いたヴァイキングの娘への端緒をさらにたどるべく、私は今日も古い詩を少しずつ楽しみながら読み進んでいる。 

カレワラ(32) カレワラ<第四の歌>の8

カレワラ<第四の歌>の8

けれど流れが地に着いたとき
三つの広い川になった
罪の川だ、純粋の
涙でできた水の流れ
目尻から溢れ出てきた
後悔いっぱいの母からの

そしてこれらの三つの流れが
とめどない三つの滝に
そしてそれら各々に
三つの小島が隆起してきた
小島の各々
金の丘でき
そしてその丘の上
金の三本白樺生えた
そしてその枝一番上に
三羽の金のカッコウが座った
普通のカッコウより良く鳴くカッコウ

一番目は「愛!愛!」と鳴いた
「花婿!花婿!」と二番目鳴いた
「幸福!幸福!」と三番目が鳴いた

「愛!愛!」と鳴いた鳥は
三ヵ月鳴き続けた
愛のなかった娘のために
海に冷たく寝ている娘に

「花婿!花婿!」と鳴いた鳥は
途切れもせずに半年鳴いた
取り残された花婿のため
深い悲しみ持って座った

「幸福!幸福!」と鳴いた鳥は
一生ずっと鳴き続けた
不幸になった母のために
永久に泣き続ける彼女のために

それを聞いた母は言った
カッコウの鳴き声に応えて
「かわいそうな私はもはや
 カッコウなんぞに耳を貸すまい
 カッコウ鳴くたび
 心が揺れる
 私の目には涙が溢れ
 私の頬の上を伝い
 筋なすじゅず球
 豆滑るよう
 私の人生一腕分も短くなってしまったのだ
 体は真っ二つに年取り割れて
 体中が傷に苦しむ
 春のカッコウ鳴くのを聞くとき!」

カレワラ(31) カレワラ<第四の歌>の7

カレワラ<第四の歌>の7

そして彼は走り始めた
ベルトのように地面の上を
長い前脚、前に突き出し
すべての力で全力疾走
森の中を一直線
アイノの家にたどり着くまで

彼はサウナに向かって行った
敷居のところでしゃがんで待った
そこに居た娘はみんな
枝を振って彼を脅した
「このごろつきめ、お前は選べ
 茹でられたいか、焼かれたいか
 家長のための晩餐に
 あるいは母の朝食に?
 おやつになるのか娘のために?
 それとも息子の夕食か?」

兎はじっとにらみ返した
そして答に罪は無かった
「煮込みになりに来たのではない
 私は他の用事があるのだ
 私は知らせを持ってきたのだ
 言わねばならぬことがあるから。
 彼女は死んだ、綺麗なアイノ
 彼女は居ない、溺れてしまった
 銀の飾りをつけて死んだ
 錫のベルトを締めて死んだ
 彼女の海の底に沈んだ
 入り江の波の下のところに
 魚といっしょにくらすために
 魚すべての愛を受けて」

すると母は嘆き始めた
頬の上を涙が洗った
苦しみの中、嘆いて泣いた
「かわいそうな母、気をつけよ
 あなたの娘をだますんじゃない
 あなたの娘を説得するな
 たとえ世界だどうなろうとも
 意思に反して結婚させるな
 私がやってしまったように
 私が娘を育てたときに
 私の小鳥を育てたときに」

嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
彼女の青い目から次々
彼女の白い頬を下った

嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
彼女の白い頬を下り
右の乳房を伝っていった
嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
右の乳房を伝っていった
彼女の綺麗なスカートにまで

嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
彼女の綺麗なスカート伝わり
彼女の赤い靴下にまで

嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
彼女の赤い靴下伝わり
金の靴紐まで下りた

嘆きの涙は止まることなく
涙の後に涙が流れ
金の靴費もどっぷり浸した
彼女の足元水溜りができ
近くの地面にまで下りて
他の水分と混ざり合った

カレワラ(30) カレワラ<第四の歌>の6

カレワラ<第四の歌>の6

 私は体を洗いに来たの
 広く開けた海の中へ
 そしてそれが私の崩壊
 小さな鳩を死が捕まえた
 私の兄弟これからずっと
 世界のほかのどこかはともかく
 彼等の馬に水をやらない
 ここの岸辺では絶対に!

 私は体を洗いに来たの
 広く開けた海の中へ
 そしてそれが私の崩壊
 小さな鳩を死が捕まえた
 私の姉妹はこれからずっと
 世界のほかのどこかはともかく
 ここの水で顔洗わない
 この入り江の桟橋の上!

 私の心の鼓動の如く
 深みにたゆたう魚たちは
 私の遊び相手の一部
 岸辺のとげとげ枝の各々
 私の壊れた胸の骨
 そこに生えた草は各々
 私の髪が抜け落ちたもの」

そして彼女は生を終えた
そうして綺麗な小鳥は逝った
けれど誰がそれを知らせる?
そこで起こった悲しい出来事
近しい者へのその知らせ
綺麗な娘の家の者に?

熊が知らせを持ってゆくのか
近しい者に伝えるのか
けれど熊はそれを望まず
家畜の群れに向かって去った
だったら誰がそれを伝える?
起きてしまった悲しい出来事
近しい者に伝えに行くのか
綺麗な娘の家族の家へ?

そこでそれは狼になり
悲しい出来事伝えるものは
でも狼は望まなかった
彼は羊の群れへと去った

それでは誰がそれを伝える?
そこで起こった悲しい出来事
けれども狐は望まなかった
彼はガチョウの群れへと去った

それでは誰がそれを知らせに
そこで起こった悲しい出来事
近しい者に伝えに行くのか
綺麗な娘の家族のところへ?

そして兎がその役ついた
悲しい出来事伝えるための
小ざかしげに兎は言った
「本件うまく処理してこよう」

カレワラ(29) カレワラ<第四の歌>の5

カレワラ<第四の歌>の5

「おお、おお、私の心が痛いわ
 おお、おお、頭が爆発しそう
 痛いなんてもんじゃないわ
 こんなにひどい痛みはないわ
 かわいそうな小さな私
 悲しみ全てに打ちのめされて
 この人生から引き剥がされて
 人生悲劇に引き裂かれて
 でも今がそのとき、私は思うの
 この世にさよなら、手を振って
 死者の国へ旅立つときだと
 私を地下にもぐらせるのよ
 パパは悲しむことなぞ無いわ
 ママも多分悲しくならない
 小さな妹泣くかもしれない
 あるいは私の兄さん泣くかも
 湖の中私が入れば
 湖水に私の身を任せ
 水面のずっと下深みまで
 水底深く黒い泥まで」

そして彼女は一日二日
三日の晩まで歩き続けて
海の岬にたどり着いた
イグサの生えたそこの岸辺
そこで暗い夜が訪れ
彼女の上を暗闇覆った

娘は夕べに嘆き続け
夜を通して泣きじゃくった
水辺にあった岩の上で
広い湾の深まったところ
翌朝とても早い時間
彼女は岬の外を眺めた
そこには三人若い女
海の波にもまれて浮いて
娘アイノは四人目に
そして五人目柳の枝が

彼女は肌着を柳にかけてた
ハコヤナギにはスカートかけて
地面の上に靴下置いて
平らな岩に靴を置いて
砂の上に真珠を捨てて
岸辺の岩に指輪を投げた

入り江の真ん中岩礁あって
ぴかぴか輝き光っていたのだ

娘はそこまで泳いでいこうと
そこの上に乗ろうとしたのだ

彼女はそこへたどり着いて
そこに座って休もうとした
いろんな形の岩の上で
金に輝く平らな岩板
けれどそのときそれは沈み
岩礁全部が底まで沈んだ
そして娘アイノも一緒に
岩に座った彼女も一緒に

こうして哀れな小鳥は消えた
こうしてアイノは地下へ行った
間近に近づく市を見た彼女
こんな言葉をつぶやいてみた
「私は体を洗いに来たの
 広く開けた海の中へ
 そしてそれが私の崩壊
 小さな鳩を死が捕まえた
 パパは多分これからずっと
 網の漁などしないはずよ
 たとえ世界のどこだとしても
 ここの入り江では絶対に!

 私は体を洗いに来たの
 広く開けた海の中で
 そしてそれば私の崩壊
 小さな鳩を死が捕まえた
 ママは多分これからずっと
 たとえ世界のどこだとしても
 ここからパンの水を汲まない
 なじみのここの入り江からは!

カレワラ(28) カレワラ<第四の歌>の4

 カレワラ<第四の歌>の4

 私自身はとっても暗い
 思いにとらわれ
 日がな一日
 茂みに這い込み
 草葉にもつれ
 枝葉に転がり
 私の心はタールの如く
 松脂よりも真っ黒で

 そうよ、昔はもっと良かった
 もっと運命幸福だった
 もしも生まれていなかったのなら
 もしもすぐに生き止めたなら
 こんな命節約できた
 悲しい現世に居なくて済んだ
 もしも一週間で死んだとしたら
 もしも八日間だけ生きたら
 そんなにいろいろ要りはしない
 ほんのちょっぴり麻が要るだけ
 地面に掘った小さな穴だけ
 ママはちょっとめそめそするかも
 パパも多分、でもママほどでなく
 兄さんなんか全然泣かない」

その日一日また次の日も
彼女は泣いて嘆き続けた
だから母はこう尋ねた
「なぜに泣くの、可愛い娘
 なにがそんなに悲しいの?」
「私、不運な娘だから
 とってもそれが悲しいの」
 私をお嫁に出してしまって
 あなたの娘をあげてしまった
 ぶるぶる震える年寄りなんぞに 
 自分の足で立ってられない
 私は杖になりにいくの
 お年寄りの世話するために
 海に投げてもらった方が
 ずっと良いわ、魚の中に
 コクチマスも喜ぶはずよ
 魚みんなの人気者
 年寄りなんかに嫁ぐよりは
 おじいさんの妻になるより
 靴下はこうと躓き転んで
 棒のように鼻で立つ奴」

それから彼女は坂の方へ
食糧倉庫の中に入った
それから一番良い箱を開け
鍵をはずして蓋を開けた
そこに彼女は服を見つけた
六つの金の飾り帯
スカート七枚そこにあった
彼女はそれらを身に着けてみた
ひとつひとつ試してみたのだ
額に金の飾りをつけて
銀で髪を飾ってみて
青い絹の紐を結び
赤いリボンもつけてみた
そして全部着終わってから
彼女は野原を渡っていった
草地を過ぎて湿地を越えて
荒野を越えて未開の地へ
小さな声で歌口ずさみ
歩みとともに鼻歌歌った 

カレワラ(27) カレワラ<第四の歌>の3

カレワラ<第四の歌>の3

 ねえ、私自身が若いときに
 そうよ、私も女の子だった
 木苺摘みに行ったときに
 森の中の坂のところで
 手仕事している音を聞いたの
 太陽の娘と月の娘
 離れた森の暖かなとこ
 坂が青みを帯びてるところ
 
 そこに行ってそっと見たの
 とても近くによってみたの
 それから彼等にお願いしたの
 ささやかな夢、言ってみたの
 お姉さま方、太陽と月の
 金と銀をくださいませんか
 私はとても貧乏なので
 贈り物が欲しいのですが

 月の娘は金をくれた
 太陽の娘は銀をくれた
 金は私の額にかけた
 太陽の銀で私を飾った
 小さな花となって私は
 喜び勇んで家に戻った

 そして一日、二日が経った
 そして早くも三日目にして
 私は飾りを取ってしまった
 金も銀も両方ともに
 すべてを卓の上に置いた
 それから箱の中にしまった
 そうよ、そこに入ったままなの
 再びそれを取り出すことなく
 額に絹の紐を結び
 金で自分を飾りつけて
 首の周りに真珠をまとい
 金の十字架胸にお飾り
 一番綺麗な麻を着なさい
 一番素敵な麻のブラウス
 厚い生地のスカート選んで
 絹のベルトを結びなさい
 指に金の指輪をはめて
 それから地面を越えて歩いて
 私達のところへおいで
 家族みなの目の楽しみに
 そうよ、親戚中のために
 お前は花のように輝き
 木苺同様赤みを見せて
 前よりずっと綺麗になって
 誰よりもっと立派になるのよ!」

母はそうして娘を慰め
楽しい考えわきたてようと。
娘は助言に従うことなく
耳の中を素通りさせて
涙のままに庭を歩いて
さらに泣いて嘆き悲しみ
空に向かって叫んでみたり
声に出してつぶやいた:
「元気でいたってそれでどうなる?
 幸福なんて忘れてしまった
 そうよ、元気な人の考え
 楽しい、幸福、そんな気分
 それは波の音のようで
 池の中の泡のよう
 悲しい気持ちはどんなだった?
 世界が沈むような気分は?
 そうよ、それは影の雪
 深い井戸の水のよう。

カレワラ(26) カレワラ<第四の歌>の2

カレワラ<第四の歌>の2

家の中の彼女の姉さん
金の胴着を編んでいたが
「あら、かわいそう、可愛い妹
 なんでそんなにひどく泣くの?」

「ええ、泣くことのほかなにもできない
 これには深いわけがあるのよ!
 ねえねえ、姉さん、聞いてちょうだい
 私が悲しいそのわけを
 すべてのきんをなくしちゃったの
 私の銀の櫛までも
 青い絹のスカーフもまた
 髪の赤いリボンもみんな」

クリーム作りをしていた母は
台所の段に座って
「でもまあどうしてそんな
 ことになったの、可愛い娘よ
 なんでそんなに泣いてるの?」

「どうにもこうにも、母さん、母さん、
 私を生んでくれた母さん
 私の悲しみ耐え切れないほど
 なんとも大きな心配事なの!
 ねえねえ、きいてちょうだい、母さん
 なんで私が悲しいのかを:
 私は森で枝を切ってた
 サウナの中で使うための
 一つの束は父さんのため
 それから一束、母さんに
 そして三つ目、束ねたの
 私の愛する兄さんのため
 それからお家に帰ろうとして
 野原の中の近道とったら
 カレヴァの息子のオスモが居たの
 狭い谷間の焼畑のわき
 そして彼はこう話したの:
「かわいそうな娘よ、お前
 お前は誰のためにでもなく
 私のために飾りをつける
 首の周りに真珠をつけて
 胸には十字架
 三つ編みに絹」

 そのとき私は十字架ちぎり
 首から真珠を引きちぎったの
 額の青いスカーフとって
 髪の赤いリボンも取って
 みんな落ちるままに任せて
 そのまま林の中に置いて
 私は彼にこう答えたの:
 あなたにでもなく誰にでもなく
 飾りをつけろと言われはしない
 髪を結ぶこともしない
 綺麗な服など見向きもしない
 美味しいお菓子なんぞ食べない
 擦り切れ服を身にまとって
 残り物のパンを食べるわ
 私の優しい父さんと
 優しい母さんの居る家ならば」

すると母は口を開き
娘を慰めこう言った:
「もう悲しむでない、私の娘
 私は若くてお前を生んだ
 バターを食べれば丸くなれる
 他の誰よりもふっくらと
 次に豚肉食べ続ければ
 他の誰よりも重くなれる
 そして三年濃い牛乳で
 他の誰よりも綺麗になれる
 道にたむろの若者達の
 一番良い人にぴったりの

 そこには宝がいっぱい溢れ
 宝石箱が数々並ぶ
 一番大きな箱を開けて
 一番立派な蓋がついてる
 そこには金のベルトが三本
 青いショールが七枚入ってる
 太陽の娘が縫ったものなの
 月の娘が織ったものなの

カレワラ(25) カレワラ<第四の歌>の1

カレワラ<第四の歌>の1

ヨウケハイネンの妹アイノ
あるとき森で枝を折ってた
サウナの中で使うために
最初に彼女は父のために
それから母へ枝を束ねた
三番目のは勇者の兄へ

それから彼女は家路を急いだ
茂みをかき分け道を拓いた
そのとき我等がヴァイネモイネン
林の中のアイノを見かけた
緑の中でとても綺麗な
そして彼は話しかけた
「娘さんよ、小さな娘よ
 他の者ではなく私のための
 装いなのだといっておくれ
 飾りに喜ぶあなたは素敵だ
 首には真珠の首飾り
 胸に十字架、編んだ髪には
 絹のリボンが綺麗に結ばれ」

娘は応えて言うにはこうで:
「あなたでもなく他の誰でもなく
 飾りをつけろと言われてないわ
 髪にリボンをつけることも
 私は綺麗な服は要らない
 美味しいお菓子も食べたくない
 擦り切れちゃった服で良いの
 残り物のパンで良いの
 優しい父さん、優しい母さん
 揃っている私の家なら」

そして彼女は十字架ちぎり
指から指輪を抜いてしまい
首から真珠をはずしてしまい
赤いリボンを取ってしまい
それら周りに落ちるままに
林の中に残していった

涙ながらに彼女は家へ
泣きじゃくって庭へ入った
窓辺で斧の手入れをしていた
父は娘に話しかけた
「おやおや可愛い娘よなぜに
 そんなにひどく泣いているのだ」
「わけもなしに泣いてはいないわ
 父さん、きいて、涙のわけを
 私の飾りを落としてしまった
 ベルトの飾りも失った
 銀の十字架胸から落ちて
 銅のかがり腰から落ちた」

門の近くに座った兄は
くびきの部品を作っていたが
「おやおや可愛い妹なぜに
 そこでそんなに泣いているんだ」

「ほかにできることなぞ無いわ
 わけがあって嘆いているの!
 でもねえ、兄さん、聞いてちょうだい
 私がとても悲しいわけを:
 指輪は私の指からすべり
 首の飾りは落ちてしまった
 金の指輪も銀の真珠も
 どちらもなくしてしまったの」

カレワラ(24) カレワラ<第三の歌>の8

カレワラ<第三の歌>の8

ヨウケハイネン自由になった
顎が泥から浮き上がって
髭はヘドロを捨てて光った
馬は岩から飛び上がり
橇は木山の中から解かれ
鞭は岸の草から見つかる

よろよろ彼は橇に這いずり
床に背中をひしっと押し付け
悲しい気持ちで旅立った
鉛のように心重たく
かあさんのところへ戻っていった
優しい両親待つところ

例えようなく飛んでいった
不思議な、奇妙な彼の旅
橇は蔵にぶつかり砕け
小屋に柵が当たって砕ける
彼の母さん、変だと気づき
とうさん様子見に外に出た
「お前が自分で橇を壊した
 柵をわざと砕いてしまった
 自分の家に戻るというに
 なんとひどいやり方するのだ!」

若いヨウケハイネン泣いて
とどめなくも流れるほどに
悲痛に見るに忍びないほど
帽子も頭もがっくり落とし
唇二重に折りたたまれて
鼻は口まで垂れ下がって

最初の問いをしたのはかあさん
彼を生んだ優しいかあさん
「どうして泣いてるかわいい坊や
 私の息子、何があったの?
 何で口が曲がっているの?
 鼻が口まで下がっているの?」

若きヨウケハイネン答えて
「ああ、ああ、かあさん、ぼくのかあさん
 これには大きなわけがあるんだ
 ひどいことが起こったんだ
 だから僕は嘆いているんだ
 涙のほかにはしようがないんだ!

 僕が悲しむことはこうだ
 これからずっと死を迎えるまで
 僕は妹を売ってしまった
 かあさん愛する若きアイノを
 歌の名手のヴァイネモイネンに
 彼を世話する妻として
 もうろくじじいのよぼよぼじじい
 太陽の娘を凍える爺に」

彼の母はなんとしたか?
握り手をして喜び勇んだ
そしてこう若者に言った
「ねえ、ねえ、かわいい私の坊や
 こんなことで泣くなんて!
 これはちっとも悲しくないこと
 嘆くことなどありはしない
 私はずっと前から望んだ
 思い出せるほどずっと前から
 お近づきになりたいあの方
 子孫に彼の血を与えたい
 彼を娘婿にできたら
 偉大な知恵者親類にできたら」

若きヨウケハイネン妹
心底動揺、激しく嘆く
毎日毎日涙を流し
心の底から悲しみ溢れ
困って惑って涙に暮れた

母は娘に尋ねて問うて
「なんで泣くの?かわいいアイノ
 そんな素敵な婚約者得て
 名前を知られたお金持ち
 お前は窓辺に座っていられる
 お屋敷の中、おしゃべりをして」

涙ながらに娘は答えて
「私を生んだ優しいかあさん!
 私が悲しむ理由はないと?
 私の三つ編みなくさなければ
 薫り高いたっぷりの髪
 太陽のごとく金に光る
 それを隠さなければならない
 妻の頭巾の中に押し込み

 恋しさやめることはできず
 家を照らす太陽のよう
 暗きを照らす月のごとく
 ここにあるものみんな素敵
 若き日々の真っ只中に
 とうさんの窓の下にある
 私の兄の作業の坂で」

母は娘に言って聞かせて
「気が狂うほど泣いてるお前

 そんな涙はどこかにおやり!
 悲しむことなどありはしない
 神は世界の別のところで
 太陽輝くようにもしたのさ
 とうさんの窓の下だけでなく
 柵のところの兄だけでなく
 藪と実をもつ坂があるよ
 野いちご溢れる焼畑あるさ
 お前のように雀も見つける
 私たちのところから遠く
 とうさんの焼畑からずっと遠く
 お前のにいさん焼いたばかりの
 新たな焼畑の遥か遠くに」

カレワラ(23) カレワラ<第三の歌>の7

カレワラ<第三の歌>の7

前と同じくヴァイネモイネン
「お前のお馬ちゃんなんぞもらって
 私が喜んだりなんぞするか
 そんなのなくてもまったくかまわぬ
 私自身の馬もたくさん
 厩の棚をけっぽり続ける
 すべての入り口立ち続け
 手入れの済んだ輝く馬さ
 腹と背にはまだらの模様の」
若きヨウケハイネン、ただただ
地面深くで歌えるだけだ

ヨウケハイネン、「おお」と呻いた
「おお、おお、賢きヴァイネモイネン
 あなたの言葉の力を弱めて
 言葉の鎖をどうぞ弱めて
 かぶとに金貨をいっぱい詰めて
 銀の帽子を差し上げるから
 すべて父がお届けするから
 戦い済んで、戻ってすぐに」

ヴァイネモイネン、いつものごとく
「私は銀など無くても済むのだ
 惨めな奴め、金とて同じだ
 そんなものはいくらでもある
 重みで板がしなるくらいだ
 綺麗な箱とて同じことだ
 金は月のごとく古く
 銀は同じく太陽のごとく」
若いヨウケハイネン、さらに
地面の中に沈んでしまった

若いヨウケハイネン続いて
「おお、賢きあなた、ヴァイネモイネン
 私をここから助けてください
 私に再び自由をください
 収穫すべてを差し上げますから
 私の頭の代わりに砂地を
 私を生かし続けてください」

ヴァイネモイネン、少しも揺るがず
「お前の収穫なんぞ要らぬわ
 大馬鹿者め、砂地だとは!
 私はそんなものは要らぬ、
 畑なんぞ、そこら中にある
 収穫なんぞ山を成してる
 もっと良い畑ばかりだ
 大きな大きな収穫の山だ」
彼はさらに歌い続けて
ますます深くヨウケハイネン 
地面の中に沈んでいった

若きヨウケハイネン悟った
事態はかなり悪化している
あごの半ば泥に沈んで
髭はひどくぴしゃぴしゃいってる
苔が口の中に入り
古い流木口に刺さる

ヨウケハイネン悲嘆にくれて
悲痛な声で大きく叫んだ
「おお、おお、賢きヴァイネモイネン
 比類の無いほど見聞広き
 逆の歌を歌ってください
 ちっぽけ命を救ってください
 沼の底の泥から出して!
 脚の間に水が流れる
 砂が私の視野をさえぎる

 言葉の力をやわらげてくれ
 縛りを緩めてくれるのだったら
 私の妹アイノを贈ろう
 母の愛する娘を送ろう
 あなたの家の掃除のために
 床を掃いて、器を洗い
 寝具を整え、織物織って
 あなたに黄色い上着を作ろう
 蜂蜜菓子もあなたに焼こう」

それをきいたヴァイネモイネン
とってもびっくり喜んだ
ヨウケハイネン妹来れば
秋の金の輝きとなろう

彼は喜び、岩に座った
歌に響きを与えた岩に
しばらく歌って、ひとつ、ふたつと
そして三つ目、彼は歌って
魔法の歌の力を抜いた
以前の縛りを緩めて解いた
 

カレワラ(22) カレワラ<第三の歌>の6

カレワラ<第三の歌>の6

若きヨウケハイネン悟って
はっきり十分理解した
自分が入り込んだ道を
自分が進み込んだ旅を
彼があの偉大な詩人に
挑戦状を突きつけたために

彼は足を引き抜こうとした
まったくそれは成功しない
彼は再び試みたけれど
靴が石になったようだ

若きヨウケハイネン困って
こういう状態不快の一言
まったくほかに言いようが無い
鈴の中で新たな音が
「おお、あなた様、ヴァイネモイネン
 誰にも負けない見聞の広さ
 あなたの言葉の力を弱めて
 あなたの鉄の握りを軽くし
 どうしようもない状況救って
 私を再び自由にさせて
 そのためだったらなんでもします
 いっぱいご褒美差し上げますから」

我らがヴァイネモイネン答えて
「おお、何の褒美をくれるというのか
 もし私が力を緩めて
 鉄の握りを軽くしたなら
 お前を救ってやるとしたら
 どうしようもない状況救って
 解き放って自由をやれば?」

若きヨウケハイネン答えて
「私の弓は二つの宝
 とても価値ある武器であり
 一つは遠くを射るために
 けれども狙いを定めたいなら
 もう一つが適している
 どれでもよいからあなたの好きな
 方をどうぞとってください」

ヴァイネモイネン答えていわく
「大馬鹿者め!薄ら馬鹿!
 お前の弓なぞ欲しがるものか
 お前の惨めな湾曲小枝!
 私自身もっと良いのを
 壁という壁にかけているのさ
 突き出たところすべてにさ
 私自身が狩りする弓は
 射撃主なしで獲物を得るのだ」
若きヨウケハイネン歌った
地面深く沈みながら

若きヨウケハイネン呻いて
「私の二隻の帆船はいかが!
 こんな綺麗なものは希少
 一つは軽く競うに向いてる
 一つは荷物を積むためのもの
 あなたのお好きな方をどうぞ!」

ヴァイネモイネン鼻で笑って
「お前の帆船わしには無用
 私はどちらもとる気はあらぬ
 私自身の船はより良い
 すべての岸に引き上げられて
 すべての湾に停泊している
 嵐の中で揺れない船々
 逆風の中進んでゆく船」
またまた沈んで地面の中から
若きヨウケハイネン歌う

苦痛に震えて若者言うに
「けれども私の二頭の馬を
 見るだに綺麗な馬を持ってる
 風のように速い一頭
 なんでも牽引できる一頭
 あなたのお好きな方をどうぞ!」

カレワラ(21) カレワラ<第三の歌>の5

カレワラ<第三の歌>の5

我らがヴァイネモイネン応えて
「勇気があるかどうかだって?
 ちゃんちゃらおかしく涙が出るぞ!
 お前の剣とお前の考え
 お前の知識とお前の言い草
 けれどお前とちゃんばらするのは
 多分私の有利になるぞ
 惨めな腰抜け、哀れな阿呆
 お前はまったく取るに足らない」

若きヨウケハイネンめそめそ
頭を振って声を詰まらせ
黒いひげの中から呻いた
「剣と交えることを避ける
 奴は臆病ものじゃないか
 戦う勇気がないのなら
 俺が豚に変えてやろう
 豚の鼻と蹄で歌え
 そんな英雄ぶん投げてやる
 俺の思いのままのところに
 堆肥の中に浸けてやろう
 家畜小屋の泥の中に」

恐るべきはヴァイネモイネン
侮蔑されて怒りに震え
歌をたくさん歌い始めた
彼の得意な魔法の歌を
子どもの耳には入れたくない歌
女子どものためではない歌
そうさ、それは髭の男の
戦いの歌
子どもの喉には熱過ぎる歌
若者にさえ相応しくない
求婚旅行で聞くはずないもの
我々自身の惨めな歳に
終わりの時を直前にして
我らが賢きヴァイネモイネン
なんとすごいその才能のほど
湖煮え立ち、地面は揺れる
銅山ぐらぐら、波立つごとく
固い岩盤ごろごろ割れて
轟音立てて岸壁崩れ
石がすべての岸で砕けた

かわいそうなヨウケハイネン
生きた葉っぱが肩木に走り
肩木は柳の茂みになった
挽き紐伸びて猫柳
金の橇で木が作られて
沼がそれで黒くなった
瘤が付いた鞭は変わって
岸の葦草の長葉となった
額に星持つ馬も変わって
滝の中の石となった

金柄の剣、天の稲妻
飾りの付いた柄の弓型は
水の上の虹に上がった
羽の付いた矢は飛んだ
滑空する鷹の如くに
嘲笑いのあごを持った
犬は魔法をかけられて
地に埋められた石となった

かの若者の頭の上の
帽子は雲に変えられた
塔と頂付きの雲に
手袋変わって湖沼の中の
蓮の葉となり、青服の
上着は天に空にかかり
飾り帯は薄暗闇の
ぼんやりとした星になったとわかる
ヨウケハイネン自身が歌われ
深く、腰まで沼に埋まり
腿は低地と同じくらい
脇の下まで稜に沈んだ

カレワラ(20) カレワラ<第三の歌>の4

カレワラ<第三の歌>の4

 最も古い薬は水さ
 滝の泡は塗り薬
 作るは賢き男達
 治すものすべての神だ
 
 岩から水が溢れ落ちた
 炎の家は高い天空
 鉄は赤い錆であった
 銅は岸壁の山から出てきた
 
 塚は早春雪解けの土地
 最初に出てくるのは柳
 松の根元は最初の家に
 石の岸壁最初の煮込み」

生きる字引のヴァイネモイネン
次の問いかけ投げかけた
「お前はもっと記憶があるのか
 それともそれで終わりなのか」

若きヨウケハイネン続けて
「いいやまだまだ思い出すぞ!
 俺はもっと思い出せる
 俺が海を掘り起こしたとき
 濡れた岸を形作って
 魚の隠れ場所を作った
 一番大きい深みを沈め
 真水の出口のところに満たした
 尾根と丘を運んで集めて
 土から大地を捻り出した

 俺は6番目の仲間だ
 多分6か7だと思う
 国を引っ張り上げた一隊
 高い天をより高く
 柱の上に置いたように
 空に虹を掲げたごとく
 月を軌道に置いたのさ
 日の出の太陽手を貸して
 小熊座の星の位置を決めて
 空の星に光を与えた」

我らがヴァイネモイネンぶつぶつ
「私を嘘を言う奴を知ってる
 誰もその日にお前を見なんだ
 海のための場所が鋤かれて
 入り江の岸が襞刻まれて
 魚の隠れ場所が作られ
 最も大きい深みが埋められ
 真水の出口に満たされて
 尾根と丘を運んで集めて
 大地を土から捻り出したとき

 同じようにお前を見なんだ
 見ないばかりか声も聞かない
 すべての土地が持ち上げられて
 地面の上に天を掲げて
 果てに柱が据え置かれて
 空に虹が掲げられて
 月の球が軌道に乗せられ
 太陽の日の出に手を貸して
 小熊座の星の位置を決めて
 空の星がともされたとき」
 
若きヨウケハイネン悟った
さらに言い募らねばならぬと
「もしも俺が十分知らねば
 剣に言葉を与えてやりたい
 つまりは老いぼれヴァイネモイネン
 お前は口では大きなことを
 言うが今は剣に聞こう
 お前に俺と一戦交える
 勇気がもしもあるのだったら」

カレワラ(19) カレワラ<第三の歌>の3

カレワラ<第三の歌>の3

若きヨウケハイネン答えて
「一つ、二つと俺は覚えた
 もちろんたくさん俺は知ってる
 それらをいくつか披露しよう
 天井に穴、煙を出すため
 かまどもふつふつ火の周り

 海でアザラシ楽しく暮らし
 水の犬達、親指子牛
 鮭は静かに泳いで待ってる
 鱒はわきで伸びをしている
 鱒の領地はすべすべ平らか
 涎あごのスズキは春の
 冷たい悪天卵を産みつけ
 せむしの小鱸秋は潜り
 夏の時期は岸で遊ぶ
 ぱちゃぱちゃ水をはね散らかすので
 水がきらきら飛沫を飛ばす」

 もっと語れと言われるのなら
 まだまだ才は空ではないぞ
 確かに知ってることといえば
 北で鋤を引っ張るトナカイ
 けれども南は牝馬になって
 ラップランドはヘラジカになる
 ピーサの山のすべての樹木を
 俺は知ってるホーナの松も
 ピーサの山の木々は高い
 ホーナの丘の松は高い

 三つの河が国を流れる
 湖からのきれいな三河
 他に先んじて三河は流れる
 澄んだ空の丸天井の下
 タバストの国、ヘレヴルヴェルン
 カレリアの国、カートラの河
 ヴォクセンは比類なき河
 イマトラこそは最強のもの」

我等がヴァイネモイネンいわく
「お前はそれを知識と呼ぶのか
 女子どもならばまだしも
 妻ある大人の男に不足だ
 かわりに知恵の歌を歌え
 ただひとつだけの問いについての」 

若きヨウケハイネン再び
できる限り答えを試み
「すずめがいかに生まれたかを知ってる
 すずめは鳥の一種であって
 マムシは緑蛇の一種だ
 だるま鱸は淡水魚で
 鉄は棒では脆いと知ってる
 黒い腐植土酸っぱい味で
 煮えたお湯は大変危険
 治らぬ類の火傷を与える

カレワラ(18) カレワラ<第三の歌>の2

カレワラ<第三の歌>の2

彼は親の言うこと聞かずに
鼻から火を噴く馬を引き出し
火花巻き散る脛持つそれを
金の色した橇につないだ
それから彼はしっかり座った
素晴らしきかな彼の乗り物
去勢馬に鞭を振るった
しっかり編まれた鞭の一発
馬はそれで速さを増して
冬の道を軽々走った

彼が行くところ皆道譲り
彼は一日、二日、三日と走った
三日目の夜、彼はついに
ヴァイノの村にたどり着いた
カレワラの高い荒地の中の

まじめな男ヴァイネモイネン
すべての年月予言するもの
彼は自身の道を行く
従来通りしばしば通う
ヴァイノの村の荒地の上を
カレワラの高い荒地の中の

そこに来たのはヨウケハイネン
道の向こうをやってきた
彼らの長柄は互いに打ち合い
手綱が互いに絡まりあって
馬が互いにぶつかり合って
へさきの棒が曲がってしまった

そして彼らは立ち止まって
どうしたものかを考えた
馬から汗が流れ落ちて
長柄のところに湯気がこもった

我等がヴァイネモイネン問うて
「道の半分占領するとは
 お前は誰の子孫であるのか?
 私の馬は最高なのに
 お前はそれをだめにした
 ごらん、橇は粉々になり
 残骸ばかりに歪んでしまった」

若きヨウケハイネン短く
「俺は若きヨウケハイネン
 お前はいったい誰なんだ」

まじめな男ヴァイネモイネン
彼に自分の名前を告げた
そして言葉を付け加えたのだ
「さあ、若きヨウケハイネン
 お前が道を譲るべきだ
 お前の方が若いのだから」

けれども若きヨウケハイネン
自分自身の見方を述べた
「若いかどうかは問題ではない 
 これについてはどうでも良いこと
 知識において勝るものが
 ほとんどすべてを知るものだけが
 道の真ん中残るべきだ
 ほかのものが退くべきだ
 お前が例のヴァイネモイネン
 すべての時代の歌い手ならば
 歌を競って芸を競おう
 聖なる戦い男は愛する
 多くのものに勝利は甘い」

生きる字引のヴァイネモイネン
少し考え、こう口にした
「確かにわかりきったことだ
 私は歌を競うのが好き
 私はずっとここに生きた
 この同じ荒地でずっと
 畑の端を歩いていっても
 聞くのはカッコウの鳴き声ばかり
 なにはともあれ、私は聞きたい
 お前の心の中にあるもの
 おまえ自身が知っていること
 他人に勝るお前の何かを」

カレワラ(17) カレワラ<第三の歌>の1

カレワラ<第三の歌>の1

生きた字引のヴァイネモイネン
彼の時を長く生きる
ヴァイノの焼いた畑の土地で
カレワラの荒野の高原
彼の長い歌を歌う
詩に紡いで囀り歌う

毎日暮れまで彼は歌った
夜を通して彼は続けた
賢い歌の長い切れ端
旧い時代に現れしもの
ほとんどすべてに知られていない
追いも若きも皆に未知の
我等の惨めな日々において
時の終わりに近づいてゆく

噂の広い羽に乗って
歌の知らせは遠くへ届く
ヴァイネモイネンの賢き歌の
なんと素敵な、素晴らしきかな
南においても良く知られ
北の果てでも同じく知られ

一人の男、ヨウカハイネン
若く元気なラップランド生まれ
ある日村に寄ってみると

皆が口に上らせるのは
なんと偉大な歌の数々
なんと不屈の詩の数々
ヴァイノの焼畑にまで来た
カレワラの荒野の上高く
彼が父から学んだものより
ずっと気品が溢れる歌を

それは彼の忍耐を超え
彼の心に嫉妬が生まれた
歌の大家ヴァイネモイネン
すべての人が誉めそやすので
彼はすぐに家に戻って
愛する父母に訴えかけた
単刀直入彼らに言った
彼が何をするつもりなのかを
ヴァイノの村に下りていって
ヴァイネモイネンに挑むのだ

彼らはどちらも賛成せずに
父も母もだめだと言った
「お前は絶対行ってはいけない
ヴァイネモイネン、計り知れない
お前はそこで歌に惑い
身動きできず魔法にかかる
口も頭も歌で覆われ
空気のように小さな手が
動かなくなってしまう
そしてお前は麻痺してしまう」

すると若いヨウカハイネン
「とうさん、あなたはとても賢い
かあさんと同じくらい賢い
けれどもぼくが一番賢い
僕が競ってみると思えば
僕の本当の力を見せるさ
僕があいつを打ちのめすのさ
僕を邪魔するやつは許せん
一番だと思われてるのを
そうではないと証明するのさ
彼の靴は石になって
服は板のようになって
胸の上には碇の石を
肩の上には大きな丸石
手袋までも石になって
丸い芝のかぶとになるのさ」

カレワラ(16) カレワラ<第二の歌>の7

カレワラ<第二の歌>の7

 目覚めよ、土地よ、眠りを覚ませ、
 まどろみ去って収穫せしめよ
 わらの茎を確かに保て
 よりよき草をかばいたまえ
 われらの萌芽を千倍にせよ
 数百倍に枝わけせしめよ
 耕夫と種まき人に報われたまえ」

高みにおわすウッコの神は
天の神の中の大神
世界を支する神なるもので
雲を御する力を持つもの
すべて今呼ばわれ整う
天の上で御心決して
東の空より雨が到来
北西からはもっと多くが
暗い雲が天に分け入り
西も南も同じように
ウッコはそれらを一緒に集め
それらを互いにぶつけ始めた
するとやさしい雨が降った
蜂蜜液のように降った
新たに芽吹いた草の上に
地面の新たな緑の上に
種はとんがりどんどん伸びて
緑の先が地から顔出し
柔らか畑の盛土の中から
ヴァイネモイネン作った土から

ほんの数日経ったあとで
たぶん一夜か二夜のうちに
あるいは多くて一週間か
我等がヴァイネモイネン行った
種まきうまくいったかどうか
あんなに大変だったのだから
それをちゃんと見なけりゃならぬ
滋味の豊かな土を与えた
伸びた種を彼は見つけた
六つの草が並んで生えてた
結び目三つ茎にできてた
そして我等がヴァイネモイネン
あちらこちらへ歩いてみたのだ
彼の所有の新たな畑で
カッコウ畑に飛んで入り
残った木を見てこうきいたのだ
「この白樺はどうしてここに
 残っているの、畑の真ん中」

我等がヴァイネモイネン答えて
「この白樺は私が残した
 ゆっくり空に伸びてくように
 あなたが枝で叫べるように
 カッコウらしく喉を誇れ
 カッコウ、カッコウと歌えるように
 銀の喉で、錫の胸で
 木の頂で叫べるように
 夕に朝にあなたは歌う
 昼間もどうぞ歌っておくれ
 私の畑の幸を願って
 私の森の喜びのため
 私の岸の平穏のため
 新たな実りをもたらすために」

カレワラ(15) カレワラ<第二の歌>の6

カレワラ<第二の歌>の6

枝の上でヤマガラ歌った:
「オスモの種は芽を出さない
 カラス麦は来ないカレワラ
 もっとよい土運んでくるまで
 もっと多くの木々が切られて
 種のために焼かれるまでは」

すると我等がヴァイネモイネン
とっても鋭い斧を作らせ
それで木々を切って倒して
広い地面を耕したのだ
森の全部をきれいにしたのだ
けれども白樺一本残した
鳥が羽を休めるために
カッコウとまって叫べるように

鷲が大きな羽を広げて
空を飛んで作業を見ていた
「どうしてあなたは白樺残すの
 ひらけた原の真ん中なのに」

すると答えてヴァイネモイネン
「鳥のために残しておくのさ
 あなた方の空の砦だ
 そこで四方を見られるように」

空の気高き鳥は答えて
「それはとても良い考えだ
 慈悲を持って白樺残し
 我ら鳥の居場所を作る
 あなたはとても賢い人だ」

鷲は最初の火打ちを放った
切られた木々に火をつけた
北風吹いて炎を煽った
涼しい風が北東から来た
炎が木々の上を掃いて
すべてを灰と墨に燃やした

それから我等がヴァイネモイネン
ずっと持ってた種を出した
テンの皮の袋の奥の
赤いリスの財布の中の
イタチの足の袋の中の
畑の中にそっと置いて
言葉と共に灰に埋めた:
「地面にかがんで我は埋めたり
 我らの芽よ芽吹きあらん
 創造神の指の間で
 最高神の御手に守られ
 ここの我らの畑の中で
 我らのよりよき耕地において

 地下に住まえる我らが母よ
 耕地と芝地の下の母よ
 今こそ畑の力を上げよ
 土地の中の力を放てよ
 土地の力は裏切ることなく
 減りもせずに疲れも見せず
 祝福受けた命の業なれ
 地の娘達の望むままに

カレワラ(14) カレワラ<第二の歌>の5

カレワラ<第二の歌>の5

風に乗って北へ幾つか
ポーラゴーデンの小さな女中
麻の処理をしていたところ
頭巾洗いに取り掛かっていた
水面に突き出た岩の上で
岸からずっと遠くのところで
水の上の葉っぱの先を
彼女は集めて籠に入れて
そしてそれを持って帰った
病を治す細工のために
魔法の棒を削るために

お化けカシワが除かれたとき
日の輝きが取り戻されて
月は夜を照らし始めた
雲が空を流れ始め
岬の薄い霧の上で
天の虹がアーチを描いた
荒地は再び緑になって
森が急いで芽吹き始めた
草が生えて枝が葉をつけ
鳥が歓喜の歌を歌う
樹の頂でツグミが唱和し
一番上でカッコウが鳴く

藪の枝が地面を覆い
野原は花の色で染まる
すべての種類の植物が生え
すべての綺麗な草が溢れた
穀物だけがそれを拒んで
地表に出てはこなかった

我らが賢きヴァイネモイネン
深く深く考え込んだ
大海原の際まで下りて
旅の岸を歩きながら
すると彼は見つけたのだ
砂の中の六つの種と
七つの小さい穀物の種を
大海原の際のところで
砂の覆う岸のところで
テンの皮の袋の中の
赤リス製の財布に隠した

彼がしようとしたのはつまり
それを地面に植えてみること
カレワ独自の茶色の土に
オスモの坂の畑のところに

カレワラ(13) カレワラ<第二の歌>の4

カレワラ<第二の歌>の4

それから彼は斧を研ぎだし
刃をせっせと研ぎ始めたのだ
六つのやすりを鈍らにして
七つの砥石を使い果たした
それから彼は仕事にかかった
きっぱりしっかり前に進んだ
力強く這い進んだので
彼のズボンは避けてゆれた
最初の一歩で岸から遠く
次の一歩は茶色の地面
三歩目にはもう樹の前に

急いで彼は斧を取り出し
幹に向かって振り下ろしたのだ
最初の一撃、次の一撃
三度目も彼は続けた
斧の刃はぎしぎしいって
木っ端は赤い炎を発した
樹はもうぐらぐらし始め
幹ははっきり傾き始めた

それでもう十分だった
お化けカシワは坂で傾き
音を立てて倒れていった
根っこの端は東に残り
樹の頂は北西に
葉っぱは南に向かって散って
北の遠くに枝が落ちた

カシワの枝を切った者は
ここの命に幸をもたらし
樹の頂を落とした者は
常に愛に恵まれた

すべての葉先と藁と屑が
海の入り江に、波のかなたに
風に運ばれ、波に揺られ
波の上の玩具のごとく
波動に乗った舟に変わった

カレワラ(12) カレワラ第二の歌(3)

カレワラ第二の歌(3)

そんな英雄どこにもいない
世界のどこを探してみても
カシワのお化けの中に入って
上に登ることさえできぬ
われらが賢きヴァイネモイネン
以下のごとく言葉をつむいだ
「高貴な乙女、聞き届けたまえ
 私に命をくれたあなた
 海から助けを送りたまえ
 そこには多分居るかもしれない
 カシワの巨木を倒せる人が
 伸びた枝を落とせる人が
 月も日も隠されている
 世界は闇になってしまった」

波の中から何かが上がった
波の上から岸に上がった
大きなものではなかったけれど
小さすぎもしなかったけれど
立派な男の親指くらい
あるいは女の手の幅くらい

銅のかぶとをかぶった彼は
銅の靴で歩き始めた
銅の小手を静かに振って
銅の飾りに飾られて
ベルトもやはり銅でできてて
銅の斧をぶら下げていた
斧の柄は指の長さ
斧の刃は爪の大きさ

われらが賢きヴァイネモイネン
沈思黙考、考え続けた
そうだ、多分これが英雄
まさに私が待っていた者
私の指より長くはないし
牛の蹄より小さいけれど

ヴァイネモイネン、語りかけた
考えながら問いを発した
「お前がまさか兵士なのか
 取るに足らない小人なのに
 死人とほとんど変わらないのに
 溺れた者より役に立つのか?」
海の国の小人は答えた
「私は男の中の男だ
 私の家は海の中だが
 私はカシワを切りに来たのだ
 伸びた枝を落としにきたのだ」

まじめな男、ヴァイネモイネン
思ったことを口に出した
「お前は背が足りないじゃないか
 カシワを切るには適していない
 枝を落とす者には向かない」

けれども彼がそう言ったとき
小さな小人を見下したとき
小人は姿を変え始めたのだ
そして小人は巨人となった
足は地面をしっかり踏みしめ
頭は雲まで届いてしまった
ひげは膝までどんどん伸びて
髪は踵につくまでになった
目の大きさが両腕の長さ
斧の大きさも同じくらい
膝のとこまで届くくらいに
腰の周りの2倍くらいに

カレワラ(11) カレワラ第二の歌(2)

カレワラ第二の歌(2)

そのうち森が芽吹いてくるのだ
深い緑が地面の中から
杉は若葉を枝に伸ばし
松の冠、広がってゆく
樺は濡れた窪みで喜び
緩んだ土地にはハンノキが
湿気に育つウワミズザクラ
綺麗な実をたわわにつけて
ネズは痩せた土地にあって
素敵な木の実をたくさん作る

まじめな男、ヴァイネモイネン
サンプサの成功、見に行った
ペレヴォの男の子たちの種まきが
どうやって芽を吹いたのか
多分森はとても上手だった
だけど聖なるカシワだけが
まったく根を下ろさなかった

彼は抗う樹を抱きかかえ
望むままに我をはらさせる
そして彼は三夜待って
同じだけの昼も待った
けれども次の週になっても
も一度彼が戻ってみても
いや、まだ、カシワは育っていない
神の木は拒み続ける

そのとき見えた四人の乙女
海の乙女の五人の中の
朝露光る飼葉を収穫
草を刈る干草の原
長い岩のはるか外側
彼女たちが前に刈った
熊手で飼葉を弦に並べて

そこに出てきた海のトロル
深い底から飛び出た海獣
彼は草に火を放ち
大きな火事をもたらした
飼葉は明るい炎の中で
飼葉にしかできないくらい
激しく燃えて燃え尽きた

収穫全部が台無しになり
すべてが煤と灰と化した
けれども愛の葉一枚、どんぐり一つ
ぬかるみの中で芽吹き始めた
そしてそこで若葉が出てきて
元気に強く育っていた
まるで野苺の垣のように
フォークの形に先が伸びて
太い枝にどんどん育つ
そして葉っぱが豊かに広がり
木の冠が空を満たし
緑は宇宙に膨らんでゆく
空の境が堰となって
雲が木を止め置いた
太陽でさえ陰に隠れ
もはや月も光らなくなる

ヴァイネモイネン、よくよく考え、
解決方法を捜し求める
どこにいったらみつかるだろうか
この高い木を切れる男が
だれも生きる元気がなくなり
海の魚もいなくなった
太陽の照らない昼間と
月のない夜の中で

カレワラ(10) カレワラ第二の歌(1)

カレワラ第二の歌(1)

そうしてつまりはヴァイネモイネン
足の下に台地を見つけた
入り江の中の小さな小島
海の上の森のない島

そこで彼は長らくとどまり
幾数年の居住地にした
冷たい沈黙岩の上
まったくだれもいない島に

彼はしばしば座って思った
かしげた頭を両手で包んで
彼の土地を植えるのは誰か
誰が地上に種をまくのか

畑の息子自身がそれさ
男子、ペッレヴォイネン、サンプサ
そうさ、種をまくのは彼の仕事
地上に彼が種をまくのさ

熱意と勤勉種まくサンプサ
野原と湿地に種をまいた
荒野と苔の上にまいた
岩の上まで種をまいた

彼は高地に松をまいた
傾斜の地には杉をまいた
乾いた荒地にヒースをまいた
谷あい、森も忘れることなく

浅い溝には樺をまいた
適度にこなれた土地にはハンノキ
湿った地面を掘って返して
湿ったくぼ地にネコヤナギ
神の土地にはナナカマド
沼には彼は柳を植えた
痩せ地の岩地はネズを植えた
水路の横にはカシワを植えた

カレワラ(9) カレワラ <第一のうた>の9

カレワラ <第一のうた>の9

真面目な男、ヴァイネモイネン
母のおなかに留まり続けた
30もの長い夏
同じだけの長い冬
静かに続く広い原で
霞のかかった海の上で
ずっと彼は考え続けた
生きるというのはどういうことか
とわの闇に隠され続け
小さすぎる小屋の中で
そこでは彼には月も見えず
増してや太陽は言うまでも無く

ついに彼は話し始めた
沈黙破り言葉を発した
「月よ、月よ、助けておくれ
私を放て、太陽よ
小熊の星よ、教えておくれ
このおかしな扉の開け方
奇妙な門の開け方を
私はこの部屋から出たい
ここは狭くなりすぎたから
さまよう男に道を示せ
人の子どもを世界に出して
彼は天の月を見たい
日の清らかさを拝んでみたい
小熊の星なら知っているだろ
空の上から見ているのだから」

けれども月はそれを欲せず
日には荷が重かった
彼はそのうち怒りを覚え
幽閉生活に飽き飽きしてきて
城の鍵を壊してしまった
薬指を動かすだけで
門の骨の鍵を蹴った
左足の親指で
敷居に爪たて
玄関開けた

頭のはちが海に出てきて
彼は瞬時に飛び出した
海の移り気耐え忍び
男らしく波を超えた

5年の間彼は濡れて
5年が過ぎて6年になって
7年が過ぎて8年になった
ついに彼は岬を見つけた
木の無い、名も無い岬だった

そこで彼は陸に上がった
四つん這いになって上がった
そこで彼は月を眺めた
そして太陽を惚れ惚れ眺めた
小熊の星を見上げながら
星の世界を探り続けた

そうだ、これがヴァイネモイネン
歌の英雄の誕生の話
乙女の初産婦イルマタールが
彼に命を与えたのだ

カレワラ(8) カレワラ <第一のうた>の8

カレワラ <第一のうた>の8

いつものように時は過ぎ行き
一年、一年また過ぎた
若い陽光を浴びながら
柔い銀の月光の中
人魚は休むことなく泳いだ
水の母なる天空乙女
静かな広い海の中
霧が覆った海の上
彼女の前には濡れた広野
彼女の後には綺麗な青空

すでにもはや9年経った
そして今は10度目の夏
小さな頭が海から突き出た
彼女の頭の高みに向って
胎児がそうして生まれ始めた
ようやく枝から木の実が離れる
外の海の広野の中で
遥かに連なる広い海で
彼女が腕で掴んだところは
いつも突き出す岩だった
彼女が足をついた所は
魚の墓場とあいなった。
彼女が泡の息をついたら
海の底に穴が出来た

彼女は陸の近くに横たわって
平たく綺麗な海岸のところ
海岸に向って足を突き出す
鮭の引き網螺旋の如く
けれども頭を預けたところは
その後広い入り江になった

彼女は岸から離れて泳いだ
それから入り江で立ち止まり
小島に体を支えかけて
水面の下の浅瀬を作った
多くの船の座礁をもたらす
海の民の死の原因

小島はそういう風にあった
浅瀬はあるべき場所にあった
天の支柱が建てられて
すべての石にはっきり刻印
岸壁には縞模様
まだ生まれていないのはヴァイネモイネン
世界で一番の歌い手

カレワラ(7) カレワラ <第一のうた>の7

カレワラ <第一のうた>の7

渡り鳥は空を飛んで、渡り鳥は海を滑り
膝頭の丘に身を休めた
そこではもうすぐ巣ができあがる
そろそろ可愛い卵が孵る
六つの卵が巣におさまった
でも七つ目は皮の卵

渡り鳥は温め始めた
膝頭の丘で温かく保って
一日、二日、三日と経って

その時、海の母は気づいた
人魚で天女の彼女は感じた
肌がいかに熱くなったか
膝は燃える、石炭のように
炎の中のように熱い
血管が熱さで溶け始める

人魚は膝をすっと蹴飛ばし
すべての筋をすっと伸ばした
卵は水の中に飛ばされ
海の手に委ねられた
千のかけらに破壊されて
粉々に砕かれた

底の泥は飲みこまなかった
ずっとそれらは水の中
かけらはそして綺麗な宝石
きらきら光る貴重なものに
殻の下部は姿を変えて
下の我らの母なる大地に
殻の上部は姿を変えて
高い天の空のふたに
黄身の上部は太陽になった
毎日我らを照らしてくれる
白身の上部は月になった
弱い光で夜に輝く
けれども卵の荒ぶる中身は
千の星に姿を変えた
そこに見えてた黒い部分は

カレワラ(6) カレワラ <第一のうた>の6

カレワラ <第一のうた>の6

悩みの時間がしばらく続いた
奇跡のときが浪費されるうち
生みの痛みがつぼにはまった
素早い翼に乗ってきたかに
どこを突つけば殻が割れるか
これから住む地はどこから行くのか

東に西にゆらゆら飛んで
北西にも南にも流れて
でもどこにもその場は無かった
とっても粗末なところでいいのに
彼女が住めるだけでいいのに
危急の未来に備えるために

渡り鳥が空を滑る
頭の中で考え続ける
風の間に間に巣を作ろうか
それとも水面に憩おうか
風は巣を飛ばしてしまうし
波は家を荒らすだろう

そのとき人魚が現れた
海の母なる天の乙女
水面に膝を高く掲げ
水を肩まで押しのけて
鳥がそこにいられるように
海に家を作れるように

痛みは飛んで、鳥も飛んだ
鳥は水面に近づいてきて
乙女の膝を目に入れた
青く膨らむ海の中
鳥はそれを塚だと思い
豊かな土地だとほっと信じた

カレワラ(5) カレワラ <第一のうた>の5

カレワラ <第一のうた>の5

もちろんそれはとっても重く
膨れたおなかはどうしようもなく
700年も待たされたのだ
人の一生の九倍もの間
すべてがずっとそのままに
胎児は生まれてくるのを拒んだ

人魚になった乙女はずっと
東に西に泳ぎ続けた
北の西にも南にも
世界のすべての方角に進むあいだ
おなかはずっと痛み続けた
すべてがずっとそのままに
胎児は生まれてくるのを拒んだ

彼女はずっと涙を流し
声をあげてうめき続けた
「不幸な私、酷い運命
とわにさまよう、終わりなく
私を襲ったことをごらん
雲や空から引き離されて
風の間に間に波に揺られ
荒ぶる海にもてあそばれる
終わることなく濡れそぼって

確かに私はもっと良かった
あたかも天の乙女のように
それがこんなに振りまわされる
人魚の如くあちらこちらに
ここでは私は寒さに震える
ぶるぶる、がたがた、震え続ける
波浪の中に住むのは辛い
水の中で常に転がり

高みにおわすウッコの神よ
天のすべてを支える神よ
ここにいらして、どうぞ、いらして
ここではあなたが必要だから
あなたの娘を罠から出して
この陣痛から子を解き放って
すぐにいらして、今すぐに
あなたがいなくてはいけないときの
今ほど危急な時はないから

カレワラ(4) カレワラ <第一のうた>の4

カレワラ <第一のうた>の4

多くの知恵が歌に存する
歌が私に教えてくれる
夜はいつも独りで訪れ
昼は個々にやってくる
ヴァイネモイネンは独りで生まれた
一番の歌い手、世に現れる
イルマタールという名だった
ヴァイネモイネンの母になった乙女

聖なる乙女、天の娘
創造の娘、清く貴く
すべて、なんの傷も無く
とわに続く豊穣の
高い天空の農場に
長くまっすぐ続く煉瓦

生きる時は徐々に寂しく
生き続けるのがつまらなくなり
すべての時に雲がかかる
誰にも手が出ぬ聖なる乙女
高い天空の農場の
広い広い空の下

彼女は下りて歩みを運ぶ
水の波に自身を沈める
海の自由な入り江に下りて
広い海の無限の水面に
その時襲う巨大な突風
東の台風の如くいきり立って
大きな海の道を切り立ち
水を上下にひっくり返す
乙女は風にゆらゆら飛ばされ
波の飛沫に包まれる
入り江の波にもてあそばれて
白く泡立つ波に飲まれる
風はするべきことをやった
彼女は海にも身ごもらされた

カレワラ(3) カレワラ <第一のうた>の3 

カレワラ <第一のうた>の3

寒さが私の歌を見つけた
雨が私に文字をくれた
他のは天の風に運ばれ
海の波に洗われて
鳥と一緒に結びつき
森の木々からさわさわ下りた

いくつか私は自分で綴った
怒りが捲いて縺れに縺れた
糸の玉を手押し橇に乗せて
私は縺れを箱橇に投げた
手押し橇は家に引っ張り
箱橇は倉へ運んだ
残りは物置の中の
大きな胴の箱に並べた

長い間置かれたままに
私の歌は隠されていた
寒さの中から取り出すべきか
氷の中から取ってくるのか
小屋の中にそれをおいて
歌の束を椅子にだして
天井までの湯気の中で
不思議な綺麗な綴りを出そうか
私のすべての縺れを正すか

壮麗な節を取り出そうか
快い塊を伸ばしてみようか
ライ麦パンができるかしれない
美味しいビールが出てくるか
ビールに味が無かったとしたら
単なる飲み物だけだとしたら
私の力は弱まるだろう
水の味しかしないのだったら
今夕皆が楽しむというのに
今日はとても大事な日なのに
夜中ずっと唄うというのに
明日の栄誉を向えるために

カレワラ(2) カレワラ <第一のうた>の2

カレワラ <第一のうた>の2

親父さんの唄を聞いた
斧の柄を削りながらの
かあさんからも教えてもらった
糸巻き棒をまわしながらの
私がまだとってもちっちゃく
床の上を這ってた頃だ
ミルクの漏斗にそっくりな
ミルクのヒゲを顎にこさえて

サンポの話はいっぱいあった
ロウヒもまたいっぱい読んだ
サンポは話の中で老いた
ロウヒは狂うまで読んだ
ヴィプネンは節に死んで
レミンケイネンは遊びに死んだ

私は別の準備をしていた
覚えた読みを持っていた
溝の淵から引き上げたもの
荒地のヒースに埋もれていたもの
低い草で怪我をしながら
若芽を摘んだ
私のために選んだアネモネ
草の耕地の中から抜いた
私はまだ小さい頃で
牛を野原にいざなう途中
蜜のような塚の間の
黄金色の丘の上を
黒いムウリッキと
暴れん坊のキンモと共に

カレワラ(1) カレワラ <第一のうた>の1

カレワラ <第一のうた>の1

我らが何を為すべきか
私が何をしたいのか
君にはとんとわかるまい
古い歌を唄うのだ!
祖先の至宝を見せようぞ
彼らの歌を歌おうぞ
言葉が口の中を潤し
至言が集まり消えてゆく
舌の上を急流流れ
歯の間から転がり落ちる

愛する兄弟、聖なる男子
我ら共に育ちしものよ
来れ共に唄おうぞ
我らの声を共に編みこみ
私と君と共に共に
いつもの一人、一人ではなく
近頃あまり会えなくなった
一緒に腰を下ろすこともなく
我らの痩せた耕地の丘で
北の最果てこの痩せ地にて
私の手をとれ
指を絡めよ
それから二人で唄うのだ
我らの長い綺麗な歌を
若い者に向って唄う
彼らが知るべきすべてを唄う
我らの中で育ちゆく
新たな仲間となる者のため
言葉は我らが受け継げしもの
我らが見つけた唄い語り
ヴェイネモイネンの帯の下で
イルマリネンの炉の下で
カウコミエリの剣の先で
ヨウカハイネンが射た場所で
ポウヤの耕地の周りにおいて
カレワラの荒地の上高く

北欧の詩(117) 「将軍」

「将軍」

そこに将軍が重々しく座っている
働いてきた年月に体を曲げて
樫の幹に寄りかかって休息している
そして時が過ぎ行くのを見ている。
彼は一人の沈黙のナポレオン
そのすべての栄光はここに
野に谷に埋められ
もう目を開くこともない。
そして平原の地には武器が散らばっている
ほら、地面は錆びた鋼で光っており
流された血でびしょびしょになっている
戦車が燃え盛った地面。

けれど春、花が咲くときには、ヒースと砂利に混じって
ぶんぶんとアブが老人の足元に飛ぶ、
そして彼は日の光に目をくらませ
木の根に崩れ落ちる。
そしてそのとき彼の心臓が破裂する、そしてすぐに暗くなる
彼の成した偉大なすべてのことに思いをはせる暇も無く
彼は冷えていく体でしかなく
春の花の中の死体でしかない
私は彼が誰だか忘れた-誰もそれを書き残さなかった
彼の偉業-それを判定する神はいなかった

 ダン・アンデション(Dan Andersson、スウェーデン、1888-1920)、‘Generalen’

北欧の詩(116) 「病気の娘の歌」

「病気の娘の歌」

過ぎ去った日々の沈黙の記憶
心の奥深く文句を言う
あなたが言いたいことを私は多分わかると思うわ
ああ、あなたは小鳥のように歌っている
冷たい11月に
彼は自分を北の森に置き忘れてしまったのだわ

彼が凍えた翼を震わせるのなら
彼の切なる思いが南に向かうのなら
霧から遠く、雪から遠く
もうだめよ。旅立つにはもう遅いわ!
もし彼が飛び去るのなら
凍える雨の下で死んでしまうだけだわ

おお、なにもあなたを助けられないのなら
黙ってあなたを寝かせる方が良いわ
小枝の下に、やっと、静かに
鳥よ、胸を寄せて
苔に包まれるように、目を閉じて
そして歌うように息を吐いて!

カール=ダーヴィッド・アフ・ヴィルセーン(Carl David af Wirsen、スウェーデン、1842-1917)、“Den Sjuka flickans sång”1882

北欧の詩(115) 「少女の夢」

「少女の夢」

(ドイツ語より)

子どものときはよく泣いたわ、
なぜか知らずに、
今はしばしば笑わなければならない、
今もなぜか知らないけれど。

私の琴の糸をつかむ
神秘的な見知らぬ手、
別の手が私を導く
遠くの見知らぬ国へ。

とてもおかしな考え、
あなたが何かなんてわからないわ、
私には言葉も無い、
私の周りに金色の柵を作る
魔法で私はその中に閉じ込められる。

私にはあなた、人生がわからない
わからないわ、
どんなにがんばったって、
私の一日の目的がどこにあるるかなんて。

子どものときはよく泣いたわ、
なぜか知らずに、
今はしばしば笑わなければならない、
今もなぜか知らないけれど。

カール=ヨーハン・ガブリエルソン(Karl Johan Gabrielsson、スウェーデン、1861-1901)、Flickodrömmeri, 1900

北欧の詩(114) 「おお、クリシュナ。。。」

「おお、クリシュナ。。。」

おお、クリシュナ、道をただただ前進している
あなたが示したとおり、あなたの民達がいる、
けれどあなたの苦い涙は癒されることなく
悲しみと罪はどこにある?
わたしにはあなたの教えは難しすぎるから、
あなたの高貴な忠告は誇らし過ぎるから。
私がずっと前から担っているあなたの重荷は、
忠告によって軽くなるから。

ダン・アンデション(Dan Andersson、1888-1920、スウェーデン)、’O, Krishna…’、1919-1920

北欧の詩(113) (修正再掲)「聖歌」

「聖歌」

一日が空の端に立つ、明確に、
目覚めよ、目覚めよ、我が美(うま)し国!
主の力がお前の塀を囲む。
お前の道を歩め、公正に、
そしてお前の入り口を正しき道に!

春が立ち上がる、暗闇と氷より。
目覚めよ、神を讃えよ、心より!
主よ、主よ、苦しむもの全てを慰めたまえ。
我等の悲しみの涙を乾かしたまえ、我らを運びたまえ、貴方の愛へ
目覚めよ、精神よ、太陽と春へ!

ザハリアス・トペリウス (Topelius, Zacharias 、1818-1898、フィンランド)
‘Hymn’1894年5月16日

******************

#No65で既出の詩ですが、脚韻を踏ませてちょっと古風に訳してみました。
#脚韻を揃えるのってすっごく大変。。

北欧の詩(112) 「私の父へ」

「私の父へ」

村の上の星達の輝きも美しくはない、
緑の谷の上の月の美しさも、
年取った灰色の眉毛の下の貴方の目の中の光のほどには-
天の広間からの二つの蝋燭の光。

私は貴方と貴方の薄くなった髪を歓迎する:
貴方は100の悪意ある運命を航海した。
小さき者達のための何年にも渡る貴方の戦いは
私には悪魔と死に立ち向かう聖者のように思える。

至福の中で貴方の額は何度も明るくなった、
私達にすべてのパンを与え、私達が満足するのを見たとき。
貴方が倒れて痛みに体を曲げるとき、貴方の心は歌になった
手を高く上げて貴方を天に運ぶ歌に。

私は貴方の血でできている、おお、私は苦悩に包まれる!
どうやったら私への遺産を浪費しないようにすればよいのか!
貴方の星が薄れる夜に私はヴァイオリンに歌う
もはや平穏を得られない私の心のために

ある日、特別な日に、おお、父よ、人々は貴方を運び出してしまうだろう
松の森の荘厳な広間を通って。
立ちすくむ私をどこか遠くへ行かせてほしい、貴方がもう存在しなくなるとき
緑映える谷が私を感動させることはもうない

ダン・アンデション、Dan Andersson(スウェーデン、1888-1920)、‘Till min far’ 1922

北欧の詩(111) 「待つ者。」

「待つ者。」

母は家事をしている、
妹は湖のところにいる、
そして兄は狩に行った、
僕自身は頬杖をついて
ここで夢見ている。
おお、愛する者よ、君はどこにいるのか、
占うこともできないし、わからない。
とっても恋しい、ずっと待ってる?

 ヨハン=ルードヴィグ・ルーネベリィ、Johan Ludvig Rumeberg(フィンランド、1804-1877)'Den väntande' 1870

北欧の詩(110) 「ハデスに到着」

「ハデスに到着」

見て、ここが永遠の岸辺、
ここで流れは音を立てて通り過ぎ、
そして死が草むらで奏でる、
その単調な旋律を。

死よ、なぜ黙ってしまったの?
私達は遠くから来たのよ、
そして聴きたがっているのよ、
私達は乳母をもてなかった
あなたのように歌えるような乳母は。

私の額を飾ることの無かった冠を
私は静かにあなたの足元へ置く。
あなたは私に素晴らしい国を見せるのよ
そこには柱が高々とそびえたち、
そして柱の間に
切望の波が行くの。

エディス・セーデルグラン Edith Södergran (フィンランド、1892-1923)
 'Ankomst till Hades' i ''Landet som icke är" 1925

************

(訳注)ハデスは死の国の名

北欧の詩(109) 無題

無題

今晩
僕はまた
君の夢を見て
君の唇からの
言葉をきく
今までもこれからも
決して発せられない
言葉を:
君が僕を愛しているという

 ヘンリー・パーランド Henry Parland (フィンランド、1908-1930)、i ’Atersken’ 1932

北欧の詩(108) 「星」

「星」

あなたは何を知っているの?何を知っているの?
口に出すのは危険ね。
私は手の中に幸福を感じるの、幸福そのものを。
私は運を持っているの、とても大きな幸運を、私の指の間に。

おお、素晴らしい幸運!
私は自分の星を信じる者に属しているの、
運命の秘密の力をつかむことなのよね。
運命の秘密の力だって、捕まえてしまえば何もできないのだわ、
真実で力強くなった手で。

破壊的な言葉、破壊的。
でも私の星は否定していないわ。
立ちはだかっているような私の星の前では、
私は至らないと感じるの。

私は剣を握る重い手をどこに得るのかしら?
誰も私に問うことはできない、と私の星は言う。
人の子よ、理解できぬものに向かってお前の顔を上げよ、
自分の、自身のものがお前に力を与えよう。

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran (フィンランド、1892-1923)
 'Sjärnan' i ''Framtidens skugga' 1920

北欧の詩(107) 「別れの言葉」

「別れの言葉」

私の心は頑固に、冷酷になり
それから私はあなたの愛撫をまた欲しくなった。
私の姉妹達はまだ気づいていない
彼女達がもう私の目に入っていないことに。。
私はもう誰とも話をしない。。
私はどんなにしばしば
私の胸の上で眠る小さな子猫に接吻したかわからない。
私はもう少しだけ悲しい方が良いと思うのだけど
私の心は幸せですべてが楽しくて笑う。
私の姉妹達、私は以前には絶対望まなかったことをする
私の姉妹達、どうぞ私を引き戻して-
私はあなた達から離れていきたくない
目を閉じると彼が私の前に立つ
私は彼についていろんなことを思い、他の人々については何も考えない。
-‐‐
私の人生は嵐の天のようにおどろおどろしいものとなってしまい
私の人生は照り返す水のように偽りのものとなってしまい
私の人生は空中高く渡る綱のようになってしまった:
私はそれを見る勇気がない。
私が昨日持っていたすべての望みは
椰子の幹から最も離れた葉のように萎れ
私が昨日送った祈りはすべて
流されてしまい、答を得られなかった。
私はすべての言葉を引っ込め
持っていたすべてのものを私は貧しい者に与えた。
私に幸運を願ってくれる者に。
きちんと考えてみると
私の黒い髪のほかに私自身に残っているものは無い
蛇のようにのたうつ私の長い二本の三つ編み
私の唇は燃える石炭のようになってしまった
いつから燃え始めたのかを私はもう覚えていない。。
私の青春を灰の中に置いた大火事は残酷だ。
ああ、避けられないことが剣の一打ちのように起こるだろう
私は別れの言葉も無く見つからずに去る。
私は立ち去り、もう決して戻ってはこない。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Avsked’ i ''Dikter' 1916

北欧の詩(106) 「ヘシオドスのアドバイス」

「ヘシオドスのアドバイス」

もろ手を挙げての祈りは十分ではない、
農民よ、お前が土からの収穫を望むならば。
お前の鋤に手をかけよ!
そうすれば祈りの力がお前の骨折りを祝福するだろう。

 ヴィクトル・リードベリィ(Rydberg, Viktor 、スウェーデン、1828-1895)、‘HESIODOS’ RAD’ i “Dikter”1914

北欧の詩(105) 「神の母の薔薇」

「神の母のバラ」

神の母のかいなにはバラが一本ある。
その中の一枚の葉が
壊れた心を治す。
神の母のかいなにはバラが一本ある。
突き刺すような目をした者が微笑む-
燃える心を治してもらいたいのは誰?

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Guds noders ros' i ''Septemberlyran'' 1918

北欧の詩(104) 「エロスへ」

「エロスへ」

エロス、すべての神々の中でもっとも無慈悲なあなた、
なぜあなたは私をこの暗い国に送り込んだの?
女の子が成長して
光から締め出され
暗い部屋の中に閉じ込められる。
私の心は幸福な星のようには空中をたゆたうことはない
あなたの紅い指輪の中に引き込まれる前は、
ねえ、私は手足を縛られているの、
触ってみて、私はいろいろ考えるよう強いられているの。
エロス、すべての神々の中でもっとも無慈悲なあなた:
私は逃げないわ、私は待たないわ、
私は獣のように苦しむだけ。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Till Eros i ''Landet som icke ar'' 1925

北欧の詩(103) 「タンタロス、お前の杯を満たせ」

「タンタロス、お前の杯を満たせ」

これは詩だろうか?いや、これはぼろきれだ、パンくずだ、
日常の紙切れだ。
タンタロス、お前の杯を満たせ、
不可能、不可能だ、
死を迎えながら、私はもう一度私の髪から一房をとりお前の永遠の空虚に投げる

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Tantalus, fyll din bagare' i ''Framtidens skugga' 1920

北欧の詩(102) 「不思議な海」

「不思議な海」

見たこともない魚が深みをゆっくりと移っていく、
見知らぬ花が海岸で輝いている;
私は赤、黄色、そしてすべての他の色を目にした、
けれど一番危険なのはこの美しい、美しい海、
この海は人に渇きを与え、来るべき冒険に目覚めさせる:
物語で起きた事柄が、私にも起きるのだ!

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Det underliga havet' i ''Dikter'' 1916

北欧の詩(101) 「言葉」

「言葉」

温かい言葉、美しい言葉、深い言葉。。。
それらは夜の花の香り
人には見えないもの。
それらの後ろで空っぽな宇宙が嘘をつく。。。
多分それらは巻きつく煙
愛の暖かい暖炉からの?

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Ord' i ''Dikter'' 1916

北欧の詩(100) 「どうしてあなたは野原に来たの?」

「どうしてあなたは野原に来たの?」

―どうしてあなたは今夜ここに来たの、ねえ?
あなたに会うためにここにきたのだよ
―今夜また帰ってしまうの、ねえ?
いいや、あなたから離れていってしまったりしないよ!
一晩中ここに残ってくれるのね、ねえ?
あなたのところに一晩中いるよ。

さあ、私たちは干草の山を積みましょう。
野原にはこれより心地よい干草を持っているものはいないわ。
草かきで一番紅いバラを集めて、
それを寝床にしましょう。

私の手をとって、
そう、そうして、運んでいきましょう!
これより心地よい手は野原でほかの誰も持っていないわ。
いえ、いえ、もっとゆっくり、
きれいに摘むのよ!

草を全部きれいに並べてー
その上で私たちは
ダンスをしましょう、
ダンスを!

 カール=ヨーナス=ローヴェ・アルムクヴィスト(Carl Jonas Love Almqvist 、スウェーデン、1793-1866)

北欧の詩(99) 「大きな、誇り高い愛」

「大きな、誇り高い愛」

大きな誇り高い愛、紅いバラの海のよう、
そんなに懸命に、熱く愛しちゃだめだよ、君は泡のように疲れてしまうから!

野原の白樺はもうすぐ緑になって、そこの草も柔らかくなる。
そこに行くなよ、小さなリーサ、だって春はここにあるのだから。

五月の夜のざわめきの中の歌とともに春は心地よく、
人の祈りのように思慕は高く、長く、熱い。

春の空気と夜の秘密の中に滑っていくなよ、
小さなリーサ、誰も知らない歌を歌うなよ!

 ダン・アンデション Dan Andersson,(スウェーデン、1888-1920)、’Stora, stolta karlek’ i ”Efterlamdade dikter”

北欧の詩(98) 「おお、天の清澄よ」

「おお、天の清澄よ」

おお、子どもの額に写る天の清澄よ-
その天使は天の父を見る。

そして聖人の目から流れだす光は
子どもの額に憩う平和の傍の暗闇、天の平和。

そして聖人の額の周りに輝く栄光は
それほどはっきりもしていなく大きくもない、
乳児のときに人の子が冠る王冠ほどには。

そして地面と花々と石たちが語る
子どもに彼らの言葉を、
そして子どもは喃語で答える
創造の言葉で。

そして神は一番小さな花の中に隠れており
物は彼の名を公表する。
けれども父によって拒絶された人の子の心は
どんなに近くに彼が住んでいるのかを知らない。

(1922年9月)

エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'O himmelska klarhet' i ''Landet som icke ar'' 1925

北欧の詩(97) 「権力」

「権力」

私は命令する力だ。私についてくる者はどこにいる?
最も偉大な者でも夢の場所では盾を持つ。
私の目の中に狂喜の力を見る者はいないのか?
理解する者はいないのか、私が低い声で近しき者に軽い言葉を投げるときに?
私はどの法にも従わない。私自身が法である。
私は奪う人間である。

エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Makt' i ''Framtidens skugga'' 1920

北欧の詩(96) 「病気の日々」

「病気の日々」

私の心は幅狭い裂け目にぎゅうぎゅうと保存されている
ずっと遠いところに私の心はある
誰も居ない島に。
白い鳥が行ったり来たりして飛んできて
そして私の心がまだ生きているという情報を伝える。
私は知っている-それがどのように生きているかを
石炭と砂によって
鋭い岩の上で。

私は一日中寝ていて夜を待っている、
私は一日中寝ていて昼を待っている、
私は天国の庭園で病気で寝ている。
私は私が治らないことを知っている、
切望と肺病は絶対によくはならない。
私は湿地の植物のような熱がある。
私はベタベタした葉のように甘い汁の汗をかく。
私の庭園の底には眠たい湖がある
地球を愛する私
水ほどにもものを知らない。
水に私のすべての思考は沈む
誰もそれを見たことはない。
私の思考は誰にも見せたことがないから。
水は秘密で溢れている!

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Sjuka dagarna' i ''Landet som icke ar'' 1925

北欧の詩(95) 「星々が這い昇る」

「星々が這い昇る」

星々が上がる!星々が這い昇る。不思議な夜。
千の手が新しい時代の顔から覆いを取り除く。
新しい時代は地上を見下ろす:溶かすばかりの熱いまなざし。
ゆっくりと人間達の心に狂気が心に流れ入る。
黄金の愚行が人間達の敷居を若い蔓植物の激情で囲む。
人間達は新しい切望のために窓を開く。
人間達は地上の全てを忘れる、天上で歌う声を聞くために:
星の一つ一つが勇気ある手でかけらを地上に投げる:
カチンカチンと音を立てるコイン。
星の一つ一つから創造物へ感染が降りかかる:
新しい病気、大きな幸福。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Stjarnorna vimla' i “Framtidens skugga” 1920

北欧の詩(94) 「ペシミズム」

「ペシミズム」

私は死について夢見た、鼓動が燃え尽きて
血が呻いて泣いた時に-
死ぬというのはどんなに心地よいだろう-飽き飽きした者にとっては、
傷ついて、希望を失った者
彼の友と神は地上に住まう-
それは私だ。

私のように憎しみをもってきた者は死ねばよいのだ、
それは感じることを終えるための休息なのだ。
音の無い湖の中の目のない生き物
輝く神聖な星々の下で
私は死体だ。-

 ダン・アンデション (Dan Andersson、スウェーデン、1888-1920)
 ‘Pessimism’

北欧の詩(93) 「11月の朝」

「11月の朝」

最初の雪の結晶が舞う。
波が川床の砂にルーン文字を書いたところを
私達は心のままに歩く。
そして岸は私に言う:
ねえ見て、ここをあなたは子どものときに歩きまわったの、
私はいつもここにいた。
そして水辺に立つハンノキの木はいつもこのままだった。
ねえ、語って、あなたが異国でどこを放浪してきたのかを、
どこで傷つける者たちの習慣を学んできたのかを?
それであなたはなにを勝ち取ったの?
まったく、なにも。

あなたの足はこの地面を踏むべきなのよ。
ここに魔法使いの円陣がある
ハンノキの尾状花序から、
あなたの賢さと謎の答がもたらされる
そしてあなたは神を称賛する、
あなたを自分の神殿に立たせてくれた神に
木々と石の間の
そしてあなたは神を称賛する、
山を崩した神に
あなたの目から
すべての無意味な知恵が鳴りだすのを注意してね
だって今は松とヒースがあなたの教師なのだから
ここに偽の預言者を連れてきなさい
嘘つきの本を持ってきなさい
水辺の小さな谷で楽しく炎を上げる焚き火をしましょう

(1922年10月)

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Novembermorgon' i “Landet som icke ar” 1925

北欧の詩(92) 「秋」

「秋」

裸の樹が貴方の家の周りに立っている
そして空と空気を終わり無く取り入れる
裸の樹は岸辺にまで下りて
水に映る自分を見る
秋の灰色の煙の中でまだ子どもが一人遊んでいる
女の子が手に花を持って歩いていて
空の境には
銀色に輝く白い鳥達が飛んでいる

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Host' i “Dikter” 1916

北欧の詩(91) 「不可思議」

「不可思議」

おもちゃは皆人間。
私自身が昨日玩具だった。
今日は私は不可思議を開く者。
皆に私のところに来てもらいたい。
皆に私の心臓がどのように鼓動を打つのかを聞いてもらいたい。
火と血と未来の塗油を貴方は私の手から受け取る
人間性の全体を私は未来に捧げたい。
炎をあげて燃える私の行を未来の子ども達一人一人が読むのだ。
私は全てをより神聖な神に転換させる。
全ての副産物は音のしない箒で私が皆掃いてしまい、
全ての矮小さは哂いながら殺してしまう。
貴方の大きな蛇に私は這い登り;彼の頭に私の剣を突き刺す。
おお、お前、天から私に下された私のよりよき剣よ、私はお前に口づけする。
お前は休息するのだ
地上が、神々が素晴らしい杯を手に夢見る中庭になる前に。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Mysteriet' i “Framtidens skugga” 1920

北欧の詩(90) 「私は勇気をもっている。。。」

「私は勇気をもっている。。。」

私は人々に出会う勇気をもっている、
身動きせず、悲しみにくれる弱々しい人々
彼等は、静かに苦しみに耐えている
重い、秘密の、熱き苦しみ。
私は愛をもって見つめる勇気がある
彼等の怯えた目の中を、
私は彼等を慰める勇気をもっている、けれど
私自身は癒しも休息も無く、
暗闇に向かって一歩一歩足を引きずっている

 ダン・アンデション (Dan Andersson、スウェーデン、1888-1920)
 ‘Jag har mod…’

北欧の詩(89) 「秋の青白い海」

「秋の青白い湖」

秋の青白い湖
重い夢がまどろむ
水に沈んだ
春の白い島について

秋の青白い湖
どうやって波は隠しているのか
どうやって鏡は忘れているのか
やがて死ぬ日々のことを

秋の青白い湖
高い空を軽やかに静かに支える
生と死が一瞬
眠い波の中で互いに口付けを交わすように

  エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Hostens bleka sjo' i “Dikter”1916

北欧の詩(88) 「発見」

「発見」

私の愛が私の星を暗くする-
月が私の人生に昇る。
私の手は貴方のところには無い。
貴方の手は欲望-
私の手は切望。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Upptackt' 1916, i “Septemberlyran”

北欧の詩(87) 「囚われの身」

「囚われの身」

虜、虜、、、私は私の足枷を引き千切りたい。
痛く歪められた唇とともに私は人生を進む。
私の奈落、私は貴方達を求める、貴方達、名を持たずに済むもの。
銅が精錬されて人になり、
人々は心に鉄を持って歩く。
けれど、額の上のこの恐るべき輝きは銅が稲妻の神にもらったもの?
私は私の心を途中で捨て去る、ハゲタカがそれを分ければ良い-
満月が私を新たに産むのだから。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Fangenskap' 1919年2月, i “Landet som icke ar”

北欧の詩(86) 「雷」

「雷」

雲に包まれているあなた、雷
青い稲妻が私には見える
いつ姿を現すの?
雷、祝福されたあなた、
雷鳴を充電した、豊饒の、清めるもの
私はあなたを待ち焦がれている
私の体はぼろ布に似て横たわる
かつて電気の手に捕らえられたもののように
地上のすべての鉱物よりも硬く
ねえ、雷を送って

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド、1892-1923)
 'Blixten' i “Alvdrottningens spira och andra dikter” 1920

北欧の詩(85) 「私は歌ってきた。。」

「私は歌ってきた。。」

私は歌ってきた、けれど彼等のために歌ったのではない、
死のときまで喜んで生きているようなものたちのためには。
私は地上に家を持たぬものとして歌う、
必要なときの寝場所の無い。
私は恋人や友のところに居ることができない、
私が愛するものたちのところには、
私はすべてのものに恐れられ
そして星あかりに照らされた木々の間を彷徨うときにしばしば、
長い、息の詰まる、重い涙が落ちるのだ。

私の心は砕けることを望んでいる、なぜならそれは平穏を得られないから、
それは誰も道を知らぬところを彷徨いたがっている。
地と天の間に橋を架けたがっているようだ。
そして私はもうすぐその半分開いた入り口に立ち、
名前の無い国々に入る。
おお、主よ、私が犯してきた罪を許し給え
私のこの重い震える手でなしてきたものを。

 ダン・アンデション Dan Andersson (スウェーデン、1888-1920)
 'Jag har sjungit...' (1920) i "Efterlamnade dikter"

北欧の詩(84) 「滝」

「滝」

私の心を締め付ける創造の苦しみ
私の周りに雲がかかり、私は口でそっとキスをする
雲は私から出て行こうとするなにかなのかしら

今日、占い師のところへ行きたい
あなたの手を挙げ、私の未来を見せて
あなたの二つの目は鉄のようだわ

ああ、あなた、轟々と溢れる意欲の滝
あなたの岸を流れる泡は圧迫された思考
轟々と、押し寄せる滝、あなたは問いかける必要もない
永遠に変わらない賢さが何千ものとんぼ返りをうつ
陰鬱な賢さ、あなたは魅惑的であり、過剰だわ

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Vattenfallet', i “Framtidens skugga”(1920)

北欧の詩(83) 「秋について」

「秋について」

今は秋 そして 金色の鳥たちが
皆 深い紺色の水の上を 家に向かって飛んでゆく
私は海岸に座って その華麗な輝きを見つめている
そして 別離が枝の間をすばやく通り抜ける
別離は大きく、離婚は目前だ
けれども 再会は確かだ
だから 私が頭の下に腕を組んで寝るとき 眠りは軽やかなものになるのだ
私は母の息をまぶたの上に感じ
そして 心に母の唇を感じる
眠りなさい わたしの良い子、お日様は行ってしまったから 

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド1892-1923)
 'Om hasten', ur ”Landet som icke ar”
 

北欧の詩(82) 「夕闇」

「夕闇」

夜がその毛糸のような髭の中でずんずんとやってきて
半ばベールがかかっているのに対して大きな微笑を浮かべる。
無言のライラックから形無く巨大に
夕闇の中で公園の輪郭が育っていく。
覆われたライラックは眠い耳を持ち、
彼等は太陽が地面の下に沈むのを夢見る。。。
夢のような夕闇は覚めているすべての思考に対してなにができるのだろう
目に留められることのないものがそばをすり抜けて行くように。。。

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Skymning' 1916, i “Septemberlyran”

北欧の詩(81) 「四つすべての風に向かって」

「四つすべての風に向かって」

どんな鳥も私の隠れ家に飛んでくることは無い、
熱望をもたらす黒鳥も、
嵐を引き起こす白い鴎も。。。
岩々の陰で私の野生は保たれている、
ほんのちょっとの音、近づいてくる足音で飛び立つ準備はできている。。
音の無い、青いのが私の世界、祝福された世界。。。
私は四つのすべての風に向いた扉をもっている。
私の東の扉は金色-絶対にやってくることの無い愛のための、
私は一日のための扉と、悲しみのための別の扉を持っている、
私には死のための扉がある-それはいつでも開いている。

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Mot alla fyra vindar', i “Dikter”(1916)

北欧の詩(80) 「私の造花」

「私の造花」

私の造花を
あなたのおうちへ送ってあげる。
私の小さな青銅のライオン達を
あなたの玄関のところに置いてあげる。
私自身は下の階段のところに座るの-
落し物の東の国の真珠
大都市のざわついた海の中の。

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Mina konstgjorda blommor', i “Rosenaltaret”(1919)

北欧の詩(79) 「縞の海」

「縞の海」

天の端で、
灰色に鈍く光る縞の海
地面に似た
紺色の壁を持つ、
そこに私の郷愁は憩う
私が家に飛んでいく前に

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'En strimma hav', i “Dikter”(1916)

北欧の詩(78) 「夜の聖母」

「夜の聖母」

黒い雲が天を覆うとき
母は起きて座っていて、赤ん坊は寝ている。
そして夜の静寂の中で天使の声が
世界中の称賛を歌う。

そして若い母は木霊のように
自分の身体の中の最も深いところで夜の静寂の称賛を聞く:
おお、なんて世界はすべての方向に大きくなっていくのかしら
このちっちゃな赤ちゃんが寝ているときに!

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Nattlig Madonna', i “Landet som icke ar”(1925)

北欧の詩(77) 「窓に蝋燭が一本」

「窓に蝋燭が一本」

窓のところに蝋燭が一本
ゆっくりと燃えている
そして中で誰かが死んでいるよと言う。
靄の中の墓地の
全く止まってしまった小道の周りで
エゾマツは黙り込む。
一羽の小鳥が鳴く-
中に居るのはだあれ?

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'I fonstret star ett ljus', i “Dikter”(1916)

北欧の詩(76) 「旧い家」

「旧い家」

新しい目はどのように旧い時代を見るのか
心を持たぬ見知らぬ人のように、、
私は私の旧い墓を懐かしむ
私のもの悲しい威厳は苦い涙を流して泣く
誰にもそれは見えないけれど。
私は旧い日々の楽しさの中に生き続ける
天の端に届く青い丘に
新しい都市を作る見知らぬ人々の中で、
私はゆっくりと囚われた樹に語りかけ
時々彼等を慰める。
いかにゆっくりと時間が物事の大本を使い切ってしまおうと、
そして運命の固い踵が音もなく踏みつけようと。
私は穏やかな死を待たねばならない
私の魂に自由をもたらすものを!

 エディス・セーデルグランEdith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Det gamla huset', i “Dikter”(1916)

北欧の詩(75) 「自分の庭の王国から出たことのないあなた、、」

「自分の庭の王国から出たことのないあなた、、」

自分の庭の王国から出たことのないあなた、
垣根のところに立って切望しながら
夢見る小道で
夕方が蒼く染まっていくのを見たことはなかった?

あなたの舌を炎のように焼いたのは
流れる前の涙の前触れではなかった?
あなたが歩いたことのない道を
血のように赤い太陽が消えたときに

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 'Du som aldrig gatt ut ur ditt tradgardsland..', i “Dikter”(1916)

北欧の詩(74) 「泡」

「泡」

人生のシャンペン
真珠のようにわれらは飲む
泡のように軽く
透明
シャンペンの心

シャンペンの目
空はもうひとつ約束を瞬く

シャンペンの足
星の後から歩く

シャンペンの精神
グラスは貴方の手の中で酔っている

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 Skum, “Septemberlyran”(1918)

北欧の詩(73) 「未来の影」

「未来の影」

死の影を感じる
私たちの運命が
ノルノルのテーブルの上で山をなしているのを私は知っている
永遠の時間の本に書き込まれないものは、
雨一滴も土にしみこまないことを私は知っている
私は太陽が昇るのが自明であるように、
彼女が天頂に立つ、その行き詰る瞬間を
私は絶対に見ることができないことを知っている

未来は私に幸福な影を投げかける
それはあふれる太陽以外の何者でもない
光に突き抜かれて私は死ぬだろう
間違って私の足で踏みつけてしまったら
私は微笑んで人生に背を向けるのだ

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド, 1892-1923)
 Framtidens skugga, ur ”Framtidens skugga”

北欧の詩(72) 「月の秘密」

「月の秘密」

月は知っている・・・血が夜にここで注がれることを
湖の上に架けられた銅の軌跡に一つの英知が進んでくる:
死体は美しい岸のハンノキの間に横たえられると
月はその一番綺麗な光をその類希な岸に投げかける
風は起床の角笛の如く松の間を走る:
この孤独の岸でなんと地上は美しいことか

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド1892-1923)
 ”Manens hemlighet” ur ”Septemberlyran”(1918)

北欧の詩(71) 「海辺のヴェランダで」

「海辺のヴェランダで」

影をもたらす漣の溜息を覚えているかい、目的地に到達したとき、
地上の岸にすぎなかった、永遠の海岸ではなく?
空の危険な星の哀愁の輝きを覚えているかい?
ああ、退廃の運命籤に対して彼等は最後に税を課すのだ。
沈黙を覚えているかい、すべてが永久への希求のために捧げられた時、
岸と空と海、すべてが神を感じさせるものとして?

ヴィクトル・リードベリィ Viktor Rydberg (スウェーデン、1828-1895)
’Pa verandan vid Havet’ i ”Dikter” 1914

北欧の詩(70) 「望み」

「望み」

陽光溢れる私達の世界の中
私がただ望むものは庭の長椅子
そこには猫が日向ぼっこをしていて
私はそこに座る
手紙を懐に抱いて
小さな手紙だけを
それが私の夢

エディス・セーデルグラン Edith Sodergren(フィンランド, 1892-1923)
'En onskan’, i “Dikter”

北欧の詩(69) 「帰郷」

「帰郷」

私が子どもだったころからある木が、私の周りに歓声をあげて立っている:おお、人よ!
そして、芝が私に見知らぬ国からようこそお帰りと挨拶をする
私は頭を芝に傾ける:ただいま、とうとう家に帰ってきたのよ
さあ、今、私は過去のすべてに背を向ける
私の唯一の仲間は森と海岸と湖だけ

さあ、今、私はジュースが満たされた隣人の王冠から知恵を飲む
さあ、今、私は白樺の乾いた幹から真実を飲む
さあ、今、私は小さな生まれたばかりの草の葉から権力を飲む
偉大なる保護者が私に慈悲深い手を差し伸べる

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran(フィンランド 1892-1923)
 Hemkomst, 1922, ur “Landet som icke ar”

北欧の詩(68) 「太陽」

「太陽」

私はこの上ない至福の中の雲であるかのごとく立っている
縞をなす雲は赤く燃えている。太陽だ
太陽が私にキスをした。こんな風にキスをするものは地上にはない
この瞬間を見極めるために永遠に生きるべきか
いや、そうではない、縦割りに差し込む光のために起き上がるのだ
彼女に近づく
もう一度
琥珀の中の蝿のように太陽に私の身を紡ぎ入れるべきか
後世にとってはそれは宝石にはならないだろう
けれども私は至福の燃える釜の中にいたのだ
ああ、私の額を照らす冠よ
彼らがあなたを見るときに何を知ろう

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergren(フィンランド, 1892-1923)
 Solen, ur “Framtidens skugga”

北欧の詩(67) 「山の夏」

「山の夏」

山の夏は単純:
野原は花咲き、
古い庭は微笑む
そして小川の薄暗いせせらぎは見つけた幸運を語る

エディス・セーデルグラン (Edith Sodergran、フィンランド、1892-1923 )
‘Sommar i Bergen’ i“Landet som icke ar”(1925)

北欧の詩(66) 「薔薇」

「薔薇」

私は美しい、なぜなら私は愛するものの庭で育ったから。
私は春の雨の中で憧憬を飲み込んだ、
私は太陽の中で炎を飲み込んだ-
そして今私は開いて待っている。

エディス・セーデルグラン (Edith Sodergran、フィンランド、1892-1923)
‘Rosen’i “Landet som icke ar”(1925)

2010年7月 7日 (水)

北欧の詩(65) 「聖歌」

「聖歌」

一日が空の端にはっきりと立つ
目覚めよ、目覚めよ、私の美しい国!
主の力がお前の塀を囲む。
お前の道を公正に歩め、
そしてお前の入り口を正しき道へ!

春が暗闇と氷から立ち上がる。
目覚めよ、心よ、神を讃えよ!
主よ、主よ、苦しむもの全てを慰めたまえ。
我等を貴方の愛へと運び、悲しみの涙を乾かしたまえ、
目覚めよ、精神よ、太陽と春へ!

ザハリアス・トペリウス (Topelius, Zacharias 、1818-1898、フィンランド)
‘Hymn’1894年5月16日

北欧の詩(64) 「エピローグ」

「エピローグ」

おやすみ-良い夢を、
貴方達、放浪するものよ。
私達は歌い終え、別れる-そしてもう
再び会うことは無い。
私はなにか小さな貧しい言葉を語った
私の中で燃えていたもの、もうすぐ燃え尽きるものについて、
けれどもそこに在った愛については語らなかった、
堕落が知らなかったものについては-
おやすみ-良い夢を。

ダン・アンデション(Dan Andersson、スウェーデン、1888-1920)’Epirog’ i ”Efterlämnade dikter’

北欧の詩(63) 「大きな庭」

「大きな庭」

私達は皆家無き放浪者
そして私達は皆姉妹。
ほとんど裸でぼろをまとう
けれど私達に並ぶ王子達は何を持っているというの?
空気を通じて宝が私達に降り注ぐ
金の重さでは測れないもの。
歳をとれば取るほど
私達は姉妹なのだとわかる。
私達は他の創造物を作り
それに私達の心を与えることより他に何も持たない。
もし私に大きな庭があったなら
私はすべての姉妹達をそこに招く。
一人一人が皆大きな宝をひとつ持ってくる。
私達には祖国が無いから皆でひとつの国民になれる。
私達は庭の周りに垣根を作り
世界の音が私達に届かないようにする。
私達の静かな庭から
私達は世界に新しい命を与える。

 エディス・セーデルグラン (Edith Södergran、フィンランド、1892-1923)‘Den stora trädgården’i “Älvdrottningens spira och andra dikter”) 

北欧の詩(62) 「危険な夢」

「危険な夢」

あなたの夢に近づきすぎてはいけない
夢は煙であり、霧散してしまうものなのだから
けれども夢は危険であり、存在し得るものでもあるのだから

あなたがもし目の中に夢を見たのだとしたら
夢は病気であり、なにも理解していないのだ
夢は自分自身の思いを持っているだけだ

あなたの夢に近づきすぎてはいけない
夢はまやかしであり、そのまま過ぎ去っていくべきものなのだ
夢は狂気であり、あなたのところにとどまりたがっているのだ

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran(フィンランド 1892-1923)
 'Farliga Drömmar' ur ”Landet som icke är”

北欧の詩(61) 「私」

「私」

私はこの国の異邦人
重い海の下深くに沈んで横たわっている
太陽が光の環を成して差し込んでくる
そして空気は私の手の間に漂っている
ある人は私は囚われの中に生まれたと言った
ここには私の知っているはずの顔は無い
私はその人が底に向かって投げた石だったのかしら?
私は枝には重すぎた果実だったのかしら?
私はここ、さわさわいう樹の根元に隠れて横たわっている
どうやったら滑る幹を上っていける?
あの上の方ではゆらゆらする枝先が出会うのよ
私はあそこに座って目を凝らして探したい
私の祖国の煙突からの煙を

エディス・セーデルグラン(Edith Södergran、フィンランド、1892-1923)'Jag', "Dikter" 1916

北欧の詩(60) 「私の将来」

「私の将来」

気まぐれな瞬間が
私の将来を盗んだ
束の間丸太で組んだだけの将来を

私はもっとずっと快適なのを作るのだ
初めに考えていたように
私はそれをしっかりした地面の上に築く
私の意志という名の地面に
私はそれを高い柱の上に建てる
私の理想という名の柱の上に
私はそれに秘密のナナカマドの入り口をつける
私の心という名の入り口を
私はそれに高い塔をつける
孤独という名の高い塔を

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran(フィンランド 1892-1923)
 Min framtid, i ”Landet som icke är”

北欧の詩(59) 「春の時」

「春の時」

死者がかわいそうだね
この春の時、太陽の下で
温まることができないなんて
この光、素晴らしい花の丘で
けれども多分、死者が囁いたんだろうね
スミレと桜草にさ
生きている者にはわからない言葉を

死者は物知りだから
多分、太陽が昇る前に
夜の影の中で、春より喜んで
墓場だけが知っている秘密の考えをめぐらして

 ヴェルネル・フォン・ヘイデンスタムVerner von Heidenstam(スウェーデン、1859-1915)
 Vårens tid(Nya Dikter 1915)

北欧の詩(58) 「病気見舞い」

「病気見舞い」

私はあなたのために只一つ花咲く小枝を持ってきた
春の大きな森の中から
あなたは黙って見つめている
病気の深い瞳で
クリスタルにきらめく光の反射を
あなたは黙って微笑む
この春はあなたの心臓を追い抜いていくだろうから
私たちはそれ以上なにも言うことが無かった

 エディス・セーデルグレン Edith Södergran(フィンランド、1892-1923)
 Sjukbesök, “Dikter”(1916)

北欧の詩(57) 「地獄」

「地獄」

地獄って素敵!
地獄では誰も死について語らない
地獄は地殻の中に塗り込められていて
燃え上がる花で飾られている
地獄では無意味な言葉を語るものはいない
地獄では誰も飲んだり寝たりしないし
誰も休んだり、ゆっくり座っていたりしない
地獄では誰も話さないけれど、誰もが叫んでいて
そこでは涙は涙でなく、すべての悲しみは力を持たない
地獄では誰も病気にならないし、だれも疲れない
地獄は不変で不滅だ

 エディス・セーデルグレン Edith Södergren (フィンランド、1892-1923)
 Helvetet, ”Dikter”(1916)

北欧の詩(56) 「夢見る者。」

「夢見る者。」

「どこから来た?疲れた見知らぬ人よ?」-彼は答えない。
「休むがいい!冷たい飲み物を楽しめ!」-彼は歩み続け、
黙って行き過ぎ、不実に手招きする遠方をいつまでもじっと見つめ続ける。

ヴィクトル・リードベリィ(Viktor Rydberg、スウェーデン、1828-1895)
‘Drömmaren.’ i “Dikter”

北欧の詩(55) 「北欧の春」

「北欧の春」

私の空想の城はすべて雪のように溶けてしまった
私のすべての夢は水のように流れていってしまった
私が愛したもののうち残っているのは
青い空と薄れていくいくつかの星だけ
風がゆっくりと木々の間を通り始める
なにもない。静かな水面。
古い松の木は目覚めたまま、ゆっくりと思いをはせる
彼が夢の中でキスをした白い雲のことを

 Edith Södergran エディス・セーデルグラン (フィンランド、 1892-1923)
 'Norsidk Vår' i "Dinkter"(1916)

北欧の詩(54) 「戦時下の新年の祈り」

「戦時下の新年の祈り」

優しい父よ、私達の声が聞こえますか、
この手に負えない時を統治する貴方!
私達の人生はこれからなのです、
私達がこの道をつつがなく進めるよう;
私達がこの手に負えない時を免れるよう。
高貴な行為の宝:
美徳、希望、心の平穏が
私達が年老いる日々まで続きますように!

私達に祈らせてください:「地に平和を、
人間に神聖な心を」、
北欧に隷属無く、
あの青い波の上には決して!
逃れた人々より、さらに良い時を、
同じ勇気を、もっと多くの幸運を!
ちっぽけな小屋に繁栄を、
高みの城に美徳を!

エサイアス・テグネール、Esaias Tegner (スウェーデン、1782-1846)。‘Ny årsbön under kriget’1808

北欧の詩(53) 「動物の賛歌」

「動物の賛歌」

赤い太陽が昇る
なにも考えることなく
すべてのものに平等に
私たちは太陽を子どものように喜ぶ
いつの日か、私たちの遺骨が粉々になるときが来る
その時も同じ
太陽は今私たちの心の最も内側の端を照らす
すべてを思考無しに満たす
森、冬、海のように強く

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran(フィンランド, 1892-1923)
 'Animalisk hymn' i ”Framtidens skugga”(1920)

北欧の詩(52) 「出会い」

「出会い」

三人の乙女が手に手をとって広い野原を歩いていた
彼女達は鎧兜にしっかり身を包んだ騎士に出会った
一人目の乙女は腕を伸ばした:愛よ、来て!
二人目の乙女はひざまずいた:死よ、私を見逃して!
三人目の乙女はきびすを返した:町へ続く道は右の方よ

 エディス・セーデルグラン、Edith Södergran(フィンランド、1892-1923)
 Ett möte, i ”Landet som icke är” (1902)

北欧の詩(51) 「私は夢見ていた。。。」

「私は夢見ていた。。。」

私は夢見ていた、私が感じるままを歌うことを
いかに私が嫌うか、いかに私が愛するか、いかに私が憤るか、いかに私が懇願するか
いかに私が血迷って友から走り去るか
そして暗闇の中で見知らぬものに祈りをささげるか

私は夢見ていた、私が歌を歌うことを
すべての星の戦慄について、すべての天の光について、
すべての世界が踊り揺れるのを私が見ることについて
そして気狂いのような騒々しさの中で震えるのについて

私は夢見ていた、すべての星が光輝くことを
囁く荒野の上に、孤独の中で起こることに、
小さな湖のほとりにざわめくすべての風が、
私が感じること埋没するのを私に教えることを

私は夢見ていた、小さな、小さな女性が、
私に子守唄を聞かせてくれることを、笑いで私を撫でてくれることを、
そして私が建てたものすべてが燃えなくてはならないときに、
火の洗礼の夜に私についてきてくれることを

私は思っていた、すべての駆け足の年月が、
私が愛するものを殺した年月が、私が得たものを盗んだ年月が、
私に春の歌を教えるだろうと、
私のところに住み、私を焼き、そして行ってしまった春についての

私は信じていた、降りかかってきたすべての嵐が、
私の心の中で荒れ狂った嵐が狂気の歌に練り上げられるだろうと
私が躓き恐れた地獄で
私がそれらの歌を一時に学ぶことを

けれども私の日時計は正午に向かってゆっくり進んでゆく
そして私は私の心が請うたことを歌えずにいる!
私は死の影がやってくるときにはじめて歌うのだろうか、
私が見た終わりの無い暗闇が来るときに

私は私が鍛え打つことを学ぶまで生きねばならないのか
すべてのバラを、すべての恐怖を、生命ある鎖にするまで
酔ったように震え、静かに忍び寄るもの
死の闇の中に響く弦楽器の音のように迫りくるもの

 ダン・アンデション Dan Andersson(スウェーデン、1888-1920)
 Jag har drömt…, ”Svarta ballader” 1917

北欧の詩(50) 「死んじゃうほど疲れているのかしら」

「死んじゃうほど疲れているのかしら」

死んじゃうほど疲れているのかしら、
かなり疲れた、
とっても疲れた、
病気で、疲れてて、そして、悲しい。
道は長かった、私がこれまでたどってきた道、
平らな道ではなかった、
私は疲れた、
かなり疲れた、
病気で、疲れてて、そして、悲しい。

ねえ、どうなるの?小さな友よ、
優しい友よ、
唯一の友よ
広い世界はどうなっちゃうの?
心は強くたわめられて、
来る、来る、あなたが再び、
小さな友よ
優しい友よ
広い世界で?

神のために私を助けて、
私のために、
あなたのために、
あなた、それができる唯一のあなた!
世界には悲しみが溢れていて、
輝くものすべてが金じゃない。
神のために、
私のために、
私を助けて、それができるあなた!

ハリエット・レーヴェンイェルム (Hariett Löwenhjelm、スウェーデン、1887-1918)、‘Är jag intill döden trött’i “Dikter”1946

北欧の詩(49) 「夜想曲」

「夜想曲」

銀の薄絹をまとった月光の夕
夜の青いうねり、
輝く波は言葉を交わすことなく
互いの後を追う。
小道に影が落ち、
岸辺の草むらがゆっくりと涙を流し、
黒い巨人が岸辺の銀色を見守る。
真夏の宵、静寂深く、
眠りと夢、
月が海の上を滑ってゆく
白く、優しく。

 エディス・セーデルグラン、(Edith Södergran、フィンランド、1892-1923) 
 ’Nocturene’ i “Dikter”1916)

北欧の詩(48) 「三人の小さなおばあさん達」

「三人の小さなおばあさん達」

三人の小さなおばあさん達は
ある日ノーラの市場に出かけて行くところだった
さあ楽しんでくるよ!と小さなおばあさん達は言った
楽しんでくるよ、ねえ、あんた達もわかるよね
メリーゴーラウンドに乗ってさ
飴を舐めてさ
一日中ノーラの青い空の下で楽しいときをすごすのさ

(↑通常はこちらだけ)

************

(↓オリジナルはこちら)

三人の小さなおばあさん達は
ある日ノーラの市場に行くところだった
ノーラの市場は一日中続くのさ
子どもも大人も楽しむのさ
さあ、楽しんでくるよ、ねえ、あんた達もわかるよね
メリーゴーラウンドに乗ってさ
飴を舐めてさ
一日中ノーラで楽しむのさ

だけどお弁当はどうしよう?
おばあさん達はお互いに言った
市場では食べ物が高いからね!
お金は別のことに使わなくちゃならないからね!
だってあたし達は楽しむんだからさ
と小さなおばあさん達は言った
そういうのってお金がかかるからさ、ねえ、あんた達もわかるよね
メリーゴーラウンドに乗るのとかさ
一日中ノーラで楽しむんだからさ

そうだ、血のプディングがいいよ、とヴェスタンノルの母さんが言った
血のプディングは美味しいからさ
いいえ、卵、とスティーナが言った、
いいえ、ニシン、とイエルケルの母さんが言った。
そして彼等は喧嘩を始めた
お弁当を持っていかなくちゃ
とおばあさん達は言った、ねえ、あんた達もわかるよね
メリーゴーラウンドに乗ってさ
飴を舐めてさ
ノーラで一日中楽しむのさ

彼等は何時間も喧嘩した、三人のおばあさん達
血のプディング!卵!ニシン!持って行くのはどれ
彼等は日が西に沈むまで喧嘩した
もうノーラに行くには遅くなった
もうノーラにはいけなくなった、ねえ、あんた達もわかるよね
市場に行くには遅くなった
と小さなおばあさん達は言った
メリーゴーラウンドに乗って
飴を舐めて
来年、ノーラの市場に行こう

 アンナ=マリア・ロース Anna Maria Roos (スウェーデン、1862-1938)
 ‘Tre små gummor’ (スウェーデン童謡)

*三人の女の子と三人の男の子(元女の子&元男の子でも可)が掛け合いでタップダンスのように床を踏み鳴らして踊ります。

北欧の詩(47) 「敵意ある星」

「敵意ある星」

敵意ある星が昇る
永遠に未知の、永久に彼方に
互いに微笑み、人間の信仰に裏切られて
一つ一つの星は凍りつく視線を持ち
一つ一つの星は孤高に自分の力によって孤独
星のきらめきなど信じていない
一つ一つの星は彼女がすべてだと思い込ませようとする
一つ一つの星は世界に比類ないほど幸福
一つ一つの星はその燃えさかる光線で世界を炎に包みたいと願う
一つ一つの星は彼方からの紅い光で行進してくる
破壊し、食べ尽くし、焼き尽くし、その力を振るうために

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド、1892-1923)
 'Fientliga stj’rnor' i “Framtidens skugga”(1920)

北欧の詩(46) 「娘の季節。」

「娘の季節。」

冬の朝、娘が出かけた
霜が降りた林の中へ、
萎れたバラを見かけて話しかけた:
悲しんじゃだめよ、悲しんじゃだめよ、かわいそうなお花さん、
あなたの素敵な時が去ってしまったことを!
あなたはちゃんと生きたのよ、あなたは人生を楽しんだんだわ、
あなたにはあなたの春と喜びがあったはずよ、
冬の寒さがあなたに届く前に。
私の心の運命の方がもっと大変なのよ、
春でもあるし冬でもあるのよ:
彼の目は春の日だし、
かあさんの目は冬なのよ

 ヨハン=ルドヴィグ・ルーネベリィ (Johan Rudvig Runeberg、フィンランド、1804-1877)、’Flickans arstider.’ i “Samlade skriftyer”1870

北欧の詩(45) 「フリッガへ。」

「フリッガへ。」

あなたの笑い声などに私は惹かれない、アフリカの黄金の河よ!
私はあなたの真珠を探しているのではない、輝く大洋よ!
私が惹かれるのはフリッガの心、
溢れる涙の滴に洗われた。

おお、国境の無い世界は私にとってなんて狭いのだろう、
これらの黄金の太陽、ダイヤモンドの輝き、
彼女と一緒の私の世界
閉じられた腕の中にうっとりと隠れた!

彼女はなんの化粧粉を借りたのだろう、天から授かったもの、
私達の夏の空でも、私にはそれがわかる
なんと綺麗に夕べが彩るのだろう
あるいは朝の花の手?

思考も視界もくらくらする、その視線に出会うとき、
はかり知れない深みを見るが如く、
私が眠りから解き放たれるときまで
紫の口のキスによって

ねえ、あなたはどこで育ったの、微笑む天使よ、言っておくれ、
あなたが腰を下ろして、バラの茎を食べてしまうまで
フリッガの姿を与えたのは、
私の放浪にここで彩を添えるため?

道は時に遮られ、障害物が差し込まれる、
一回ため息をついて、足枷に阻まれ、
おお、なんと幸運な痛み
愛するものの腕の中で!

春風のように軽く、地面が私の足を撫で、
人生の束縛の重みは泡のように感じられる、
そして落ち着いてきた鼓動が
精神を神の安息へと揺らすのだ

ヨハン=ルドヴィグ・ルーネベリィ(Johan Rudvig Runeberg、フィンランド、1804-1877)、’Till Frigga.’ i ”Samlade skrifter” 1870

北欧の詩(44) 「ある新年の歌」

「ある新年の歌」

だれもが悲しみを抱えていて
ぼくも悲しみを抱えていて、
そして毎年みすぼらしさがやってくる
ミミズによる腐食、
雨によるそぼ濡れ、
僕達の納屋を空っぽにしてどっかに行ってしまった太陽。
けれど、悲しがってはいけない、愛しい娘よ、
また良いときがくるだろうから、
新しい年には、次の新年には、
新しい年には、小さな友よ!

そして農場は燃え
幸運は森へと逃げ去った
そこに彼女は隠れたままだ
困窮はひどく
なにも持たないものを
救える者はいない。
けれど飢えなど無視しなさい、愛しい娘よ、
僕たちは新しくやり直せるだろう、
新しい年には、次の新年には、
新しい年には、小さな友よ!

 グスタフ・フレーディング (Gustaf Fröding,、スウェーデン、 1860-1911)
 'En nyårslåt', 1894 i ”Nya Dikter”

2010年7月 6日 (火)

北欧の詩(43) 「皇帝達の知恵」

「皇帝達の知恵」

社会生活のスフィンクスが置いていった謎
できるなら想像してみよと残されたもの
スフィンクスの重々しい調子で
けれども彼らが知っていたものは
飢餓のパンの要求、知性の歓喜の要求こそが
権力が計算に入れていた力

それからこのつまらない知恵さえ忘れ去られてしまったようだ

 ヴィクトル・リードベリィ Viktor Rydberg (スウェーデン 1828-1895)
 'Cesarernas visdom' i“Dikter”(1914)

北欧の詩(42) 「森の明るい娘」

「森の明るい娘」

あれは昨日のことではなかった?
森の明るい娘の結婚式があって、みんなが喜んだのは?
彼女は軽やかな鳥であり、軽やかな泉だった、
彼女は秘密の小道であり、くすくす笑う藪だった
彼女は心地よく酔った、恐れることのない夏の宵だった
彼女は恥ずかしそうではなく、際限なく笑った
だって彼女は森の明るい娘であったから
彼女はカッコウの楽器を借りて
湖から湖へと演奏して回った。

森の明るい娘が結婚式を祝うとき
地上に不幸なものは居なかった
森の明るい娘は切望からは自由であり
彼女は金髪で、すべての夢を満たした
彼女は青白く、欲望をかきたてた
森の明るい娘が結婚式を祝うとき
モミの木は砂地の丘で満足し
松は傾斜地で胸を張り
ネズの木は日の当たる斜面で嬉しそうだった
小さな花は白い襟でおしゃれをした。
そのとき森は人の心に種を植えた
輝く泉は目の中で泳いだ
白い蝶は絶えずパタパタしながら飛び去っていった

 エディス・セーデルグラン (Edith Södergran フィンランド、1892-1923)
'Skogens ljusa dotter' i "Dikter" 1916

北欧の詩(41) 「黒か白か」

「黒か白か」

川が橋の下を流れてゆく
花は道で輝いている
森はさわさわと地面に頭を傾げている
でも私にとっては高いか低いかの違いしかない
黒か白かということだけ
白い服を着た女性を
私の愛する人の腕に見てからというものは

 エディス・セーデルグラン、 Edith Södergran (フィンランド、1892-1923 )
 'Svart eller vit', ur “Dikter” (1916)

北欧の詩(40) 「苦悩」

「苦悩」

僕をもっと強く押さえておくれ
貴女の丸い腕で
強く捉えておくれ、貴女の心の下に
まだ血と暖かさは残っている

もう少しで、僕らは遠く離れてしまう
台の上の鋳塊のように
もう少しで、僕らは互いを失ってしまう
沢の泡のように

 エーミル・オーレストロープ Emil Aarestrup (デンマーク、1800-1856)
 Ångst

北欧の詩(39) 「ベツレヘムの星」

「ベツレヘムの星」

海と岸の上の輝き
遠い国からの星
汝、東国において
神によって灯されしもの
幼子と羊飼いは
汝に続くことを望む
ベツレヘムの星よ

ユダヤの国の夜に
シオンの上の夜に
西の淵の際で
オリオンが消える
丘の上に疲れて眠る羊飼い
テントの中の可愛い寝顔の幼子
素晴らしい一斉の声に目覚め
綺麗に澄んだ空を見上げる
東に輝く星を
羊と家から離れて
エデンを求めて
ベツレヘムの星が
彼らに道を示す
妨げの地上の囚われを解き放ち
光の国への煌く門へと導く
腕を彼らに広げ
唇には囁き
彼らに明るく爽やかな言葉を与える
「ベツレヘムの星は遠くへではなく
我らの家へ我らを導くのだ」
子どもと羊飼いは
汝に従うことを望む
光り輝く星よ

   ヴィクトル・リ-ドベリィ (Viktor Rydberg, スウェーデン、1828‐1895)

北欧の詩(38) 「三姉妹」

「三姉妹」

三姉妹の一人目は甘い野いちごが好きだった
三姉妹の二人目は赤いバラが好きだった
三姉妹の三人目は死者の冠が好きだった

三姉妹の一人目は結婚した
人々は彼女を幸福だと言う

三姉妹の二人目は彼女の全身全霊をかけて愛した
人々は彼女を不幸だと言う

三姉妹の三人目は聖者となった
人々は彼女が永遠の生命の冠を得ると言う

 エディス・セーデルグラン (Editrh Södergran, 1892-1923, フィンランド)
 'Tre systrar' i "Dinkter" (1916)

2010年7月 5日 (月)

北欧の詩(37) 「インドラの娘への最後の言葉」

「インドラの娘への最後の言葉」

さあ行かなければ、、お別れの時だ、、
友と別れる時、好きな場所から去る時
愛するものから引き離される時
怒りが湧き起こってくる時
ああ、私は今すべてのものの悲しみを感じる
人は皆そういうものなのだ
以前は気にもとめていなかったものにさえ
懐かしさを感じる
怒りなど覚えなかったものにさえ
去りたくもあり、、留まりたくもある
心の半分はそのように引き裂かれる
思いは二頭の馬の間で擦切れる
背反の思い、、不決断、、不調和、、

  オーガスト・ストリンドベリィ (August Strindberg, 1849-1912,スウェーデン)
  ”Ett Dromspel”、1902

*戯曲の最後に登場人物の詩人が詠じる詩です

北欧の詩(36) 「トムテン」

「トムテン」

真冬の夜の寒さは厳しい
星は輝き瞬いている
ぽつんと建ってる農家の中で
皆が寝ている真冬の真夜中
月は沈黙の軌道を移り
雪は白く杉松に光り
雪は白く屋根に輝く
トムテンだけが起きている

家畜小屋の扉のところで
白い吹き溜まりに灰色に立つ
これまでの多くの冬と
同じように半月を見上げる
森に目をやり、
農家の庭をぼんやり取り巻く
塀のような杉松を見る
ずっと考え続けているのだ
けれども沈みこんでいるわけではない
奇妙ななぞなぞに取り組んでいるのだ

ひげと髪に手をやって
頭を振って帽子を揺する
「だめだ、これは難しすぎる、
だめだ、わしには解けやしない」
彼のいつものならいのごとく
そのうち思考を放り出す
なにかをするのだとしたら
自分の為すべきことをしよう

食糧倉庫と道具庫に向かい
すべての鍵に触ってみる
牛は月光の中に眠り
囲いの中で夏を夢見る
忘却の手綱と鞭と馬具
厩のポッレはそれでも夢見る
彼のかいば桶の中が
良い匂いのクローバーでいっぱいだったら

羊とヤギの囲いへ向う
彼らが眠っているのを見る
鶏のところへ行って
雄鶏が一番上の枝で胸を張っているのを見る
犬小屋のカーロは藁の上で元気
目を覚ましてちょっと尾を振る
カーロはトムテンの知り合いで
親しい友人でもあるから

トムテンは最後に
農場の人々のところへ忍びこむ
昔から彼がよく知っている人々
彼らも勤勉なトムテンを名誉に思っている
それから彼は子ども部屋を
爪先立ちで歩く
小さな可愛い顔を覗く
だれにもいじめさせないぞ
からの最大の幸福なのだから

こんな風に彼は見てきた
父と息子、多くの繋がり
うたた寝する子はどこから来るのか?
祖先と子孫と親戚だらけ
栄えて年取りそして去る
でも、どこへ?

謎は深まり
謎は解けない!

トムテンは屋根裏に上がる
そこに彼の住処があるから
干草置き場の最上段
白鳥の巣の近く
今は白鳥は留守だけど
春には花と葉と一緒に
彼女はまた戻ってくるだろう
可愛い夫を後に従え

彼女はいつもさえずって
旅の思い出を語る
けれどもそれはなぞなぞではなく
トムテンの意識には残らない
小屋の壁の割れ目から
月がトムテンのひげを照らす
ひげの一本がきらりと光る
トムテンは考え込んで思考をめぐらす

森も下界もすべて沈黙
外の命は凍りついてる
遠くの滝から来る音が
ゆっくり微かに聞こえてくるだけ
トムテンは耳を傾け半分夢の中で
時の流れを聞いた気になる
どこに流れていくのだろうか
どこに源があるのだろうか

真冬の真夜中の寒さは厳しい
星は輝き瞬いている
ぽつんと建ってる農家の中で
皆が夜明けを前に寝ている
月は沈黙の軌道を移り
雪は白く杉松に光り
雪は白く屋根に輝く
トムテンだけが起きている

   ヴィクトル・リ-ドベリィ (Viktor Rydberg, 1828-1895、スウェーデン)

*トムテンというのはサンタクロースも意味しますが、ここでは多分小人の意味でしょう。

北欧の詩(35) 「手を握って-抱いていて-そっと撫でて」

「手を握って-抱いていて-そっと撫でて」

手を握って-抱いていて-そっと撫でて
ほんのちょっとのあいだ、私をそっと抱いて
少しだけ涙を流して-このうんざりする事実のために
私が目をつぶって寝るのを優しく見守って
私から離れないで-あなたはここにいたいのでしょう
私自身が去らねばならなくなるまでここにいて
あなたの愛しい手を私の額において
ほんの少しだけ私たちはまだ一緒にいられるのだから

今夜私は死ぬ-炎が揺らめく
友が私のそばに座り私の手を握っている
今夜私は死ぬ-誰に、誰に聞けばいいのかしら
私はどこへ旅立つの-どこの国へ?
今夜私は死ぬ-どうやってその勇気を見つけたらいいの?

明日になれば、空の上に飲み込まれるべく
最後のたびに運び出される
哀れむべき、どうしようもない、かわいそうな体が残るだけ

 ハリエット・ロウエンイェルム (Harriet Löwenhjelm, スウェーデン、1887-1918)
 Dikter (1919)

北欧の詩(34) 「乙女の死」

「乙女の死」

薔薇色の乙女の心は決して失われない
彼女は自分のことすべてを知っていた
彼女はもっと知っていた、他者について、海について
彼女の目はブルー・ベリー、彼女の口は木苺、彼女の手はワックス
彼女は秋のために黄色に染まったじゅうたんの上で踊った
彼女は崩れ落ちて、くるくる回って、倒れて、気を失った
彼女がいなくなったとき、彼女の死体が森の中に残り続けていることを誰も知らなかった
人々は長い間、海岸のレディ達の間に彼女を探した
彼女たちは赤い殻の小さな貝について歌っている
人々は長い間、コップの際の男たちの間に彼女を探した
彼らは公爵の台所から持ってきたぴかぴかのナイフでけんかしている
人々は長い間、鈴蘭の原の間に彼女を探した
そこには最後の夜からずっと彼女の靴が残っていた

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran (フィンランド 1892-1923)
 'Jungfruns död', 1916年のクリスマス・イヴ i “Septemberlyran”(1918)

北欧の詩(33) 「花ひとつ」

「花ひとつ」

彼女は十字架の足元から発芽した
見捨てられた墓の
ざわざわいう心臓が彼女の根に
命の液を与えた

彼女は甘く視線を投げかけ、彼女は頷く
夜ごと涙を流させる石灰に覆われた風に
彼女のドレスの色褪せた紫は
かつてはある娘の頬に光った色だった

若い乙女の視線の中の謎は解かれた
もうすぐ遺骸になる
墓のそばの若者は回答を得たのだ
花の香りの中に

 ヴィクトル・リードベリィ Viktor Rydberg (スウェーデン、1828-1895)
 'En blomma', ur ”Dikter” 1914

北欧の詩(32) 「小さなラッセ」

「小さなラッセ」

世界はね とっても とっても 大きいの
小さな 小さな ラッセちゃん
あなたが 思うより ずっと ずっと 大きいの
小さな 小さな ラッセちゃん

暖かいところもあるし 寒いところもあるの
小さな 小さな ラッセちゃん
でも どこにも 神様が いらっしゃるのよ
小さな 小さな ラッセちゃん

そこには たくさんの人が 生活しているの
小さな 小さな ラッセちゃん
神様に 愛されて
小さな 小さな ラッセちゃん

神様の天使が あなたと一緒に歩いてくれるときには
小さな 小さな ラッセちゃん
蛇なんかに 噛まれることはないのよ
小さな 小さな ラッセちゃん 

でもねえ、どこが一番良いと思う
小さな 小さな ラッセちゃん
遠くもいいけれど 一番いいのはおうちなのよ
小さな 小さな ラッセちゃん

 ザハリアス・トペリウス(Zacharias Topelius、フィンランド、1818-1898)
 Lasse liten(童謡)

*この詩にアリス・テグネール(Alice Tegner、スウェーデン、1864-1943)が曲をつけて、とても親しまれている愛唱歌になっています。現在歌われているものはこのオリジナルの詩よりもっと宗教色の薄いアリス・テグネール版のテキストになっていますが。

北欧の詩(31) 「溺れることのできる沼」

「溺れることのできる沼」

ゆっくり、邪魔されずに溺れることのできる沼はどこにある?
嫌な匂い等しないところ、楽しく溺れることができるところは?
前に沈んだ気味の悪い死体が入り江の底を埋めていることもなく、
死んだ魚や黴臭いザリガニが狂って行儀悪く死んでもいないところ
もしそんな沼があるのなら、僕はすぐに静かに飛んでいって
その美しい水面に僕の心地よい空を見つけるのだ

 カール=ヨーナス・ロヴェ=アルムクヴィスト Carl Jonas Love Almqvist
 (スウェーデン、1793-1866)
 "Om svenska rim" (1850~1860年代)

北欧の詩(30) 誕生日の歌

「そう、彼女は長生き」

そう、彼女は長生き、
彼女は長生き、
100歳まで生きよう

もちろん、長生き、
もちろん、長生き、
もちろん彼女は100歳まで生きよう

作者不詳

*スウェーデンのお誕生日ソングです♪

2010年7月 4日 (日)

北欧の詩(29) 「ノアおじさん」

「ノアおじさん」

ノアおじさん、ノアおじさんは、良い人だった
箱舟から降りると、彼は地面に木を植えた
ワインがいっぱい、ワインがいっぱい、できるようになった
ノアおじさんはそうしたのだった

ノアは漕いで、ノアは漕いだ
自分の旧い箱舟から降りて、酒瓶を買った
売ってるそんなやつを
飲むために、飲むために
私達の新しい公園で

彼には良くわかっていた、彼には良くわかっていた
人間は自然に喉が乾くものだと
他の動物と同じように
だから彼は、だから彼は
ワインを植えたのだった

ノアおばさん、ノアおばさんは良い人だった
彼女は飲み物をくれた
彼女は娘もくれた
ぼくはその娘と結婚した、その娘と結婚した
その瞬間に

彼女は絶対そんなことは言わなかった、言わなかった
親愛なるお父さん、ジョッキを放しなさいな
もう飲みなさんな
いや、彼女は次々と彼に新しい酒を注いだのだった

ノアおじさん、ノアおじさんは
髪をみだして、髯を鳴らして
顎は丸くて、頬っぺた赤く
底まで飲んだ、底まで飲んだ
バンザイ、バンザイ!

そして楽しく、そして楽しく
私達の緑の土地で
人は最高のものを得、
誰も渇きを覚えなかった
皆、御馳走の卓に着いた

どの乾杯も、どの乾杯も
迷惑なんかじゃなかった
だれも音頭を取らなかったので
ぼくがその名誉をもらう
底が見えるまで、底が見えるまで
こうやって飲むんだ

 カール・ミカエル・ベルマン Carl Michael Bellman (スウェーデン、1740-1795)
 Gubben Noak(国民愛唱歌)、Fredmans sånger 1791 所収

*酒盛りの歌です。ベルマンは酒盛りソングの大家でした。
この歌のメロディーは古来からのもので、童謡の「熊が寝ている」その他にも使われています。

北欧の詩(28) 「狐が氷の上を走ってる」

「狐が氷の上を走ってる」

狐が氷の上を走ってる
狐が氷の上を走ってる
ねえ、ねえ、女の子の歌を歌ってもいい?
女の子はこうやって歩くんだよ
女の子はこうやって座るんだよ
女の子はこうやって立つんだよ
ねえ、だから、女の子の歌を歌ってもいいよね?

狐が氷の上を走ってる
狐が氷の上を走ってる
ねえ、ねえ、男の子の歌を歌ってもいい?
男の子はこうやって歩くんだよ
男の子はこうやって座るんだよ
男の子はこうやって立つんだよ
ねえ、だから、男の子の歌を歌ってもいいよね?

・・・

 Raven raskar över isen (スウェーデン童謡)
 作者不詳

*3番はおばあさん、4番はおじいさん、5番は仕立て屋さん、6番は靴屋さん、7番はペンキ屋さん、8番はパン屋さん、9番は煙突掃除屋さんになります=行為がそれぞれの職業行為に変わる=。替え歌も多いです。
 *夏至祭、クリスマスに皆で手をつないでくるくる回って踊るときの歌です。

北欧の詩(27) 「新年の鐘」

「新年の鐘」

鳴り響け、鐘よ、苛烈な大晦日に鳴り響け、
宇宙の極光の空と地面の雪に向かって、
旧い年は横たわり死につつある。
魂の音を大地と海の上に鳴らせ!

新しい年を鳴らし入れ、旧い年を送り出せ
新年の最初の震える瞬間に
世界の境から虚偽の力を追い出せ、その響きで
そして我等に真実の力の感触を招き入れよ

我等の思いを悲しみの牢獄から響き出せ、
そして引き裂かれた胸に慰めを鳴り入れよ。
富者と貧者の間の憎しみを追い出せ、その響きで
そして地上の親類に和解をもたらせ、その響きで。

死の宣告を受けた者が残りの日々を数えることを
そして古代の戦いの霊を追い出せ、その響きで。
より高貴な、より高尚な人生を招き入れよ
よりよい目的、より純粋な規範を持った人生を。

心配、悲しみ、困窮を追い出せ、
凍りついた時が再びあたたかくなるように鳴り響け。
詩の警鐘の沈黙を追い出せ、その響きで、
そして歌い手の心に想像の喜びをもたらせ。

名誉ばかりを考える威厳を追い出せ、
虚偽の噂、妬みの落とし穴を追い出せ、その響きで。
正しき勝利の道を招きいれよ、その響きで、
そして人間の勝利の旗に向け、鳴り響け。

鳴り響け、鐘よ、鳴れ、世紀の苛立ちを撓め、
夜明けの、親しい人々の力を解放せよ!
鳴り響き、押し出せ、戦いの千年を、
鳴り響き、迎え入れよ、千年の友愛の国を!

魂を開放する時を迎え入れよ、その響きで
自分本位な絡まったしがらみを脱して。
全ての国から暗闇の影を追い出せその響きで、
来るべきメシアを招き入れよ、その響きで。

アルフレッド・テニソン(イギリス、1809-1892)。
スウェーデン語訳はエドワード・フレディーン(スウェーデン、1857-1889)
上記はスウェーデン語からの和訳

*この詩(スウェーデン語版)は毎年大晦日にストックホルムの野外博物館であるスカンセンで国一番の(とみなされる)俳優が新年を迎えるべく野外で大空に向かって朗詠するものです。
*テニソンのオリジナルはもっと明るく軽い感じがします。オリジナルには曲もつけられているようですが、スウェーデン語訳のは朗読のためだけに使われるているようです。

2010年7月 3日 (土)

北欧の詩(26) 「新年」

「新年」

輝く雪の羽をもってひゅうひゅうとやって来る新しい年よ
きらきらする陽光に最も厳しい風を混ぜるものよ
乙女の頬にさらに多くの燃えるバラを灯すものよ
死にゆく者の胸をさらに強くかき抱くものよ
私は輝く雪の羽根を持つ新年の君を歓迎しよう

おお、すべての世界に、終にあのころの時を与えよ
神がまだ水と土地を分けたまわなかったころの
動物の目がまだ宇宙の青を眺めていたころの
弱者がまだ獣の足や人間の手で引き裂かれなかったころの
愛がまだ魅惑的で打ち砕くものでなかったころの
おお、すべての世界に終にあのころのときを与えよ

 ダン・アンデション Dan Andersson (スウェーデン、1888-1920)
 'Ny år', i ”Dikter”

北欧の詩(25) 「秋の日々」

「秋の日々」

秋の日々は透明
そして森の金色の背景に染まっている
秋の日々は全世界に向かって微笑んでいる
望みなしに寝入るという心地よさ
花に倦み緑に飽きて
ワインの紅い冠を頭に頂いて
秋の日はもはやなんの郷愁を持つことなく
その指は厳しく冷たい
それがあちらこちらで見る夢において
白い片が絶え間なく降る様子の

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran (フィンランド 1892-1923)
 'Höstens dagar' i “Dikter”(1916)

北欧の詩(24) 「友の誕生日の歌」

「友の誕生日の歌」

喜びがあった、最初に、
君の父上の腕の中に抱きかかえられて
君は涙とともに掲げられた
天に向かって、光に向かって、
父上の信仰と希望がささげられた
家中に喜びが溢れた
けれどもその喜びは今ここで
君を愛するものたちに囲まれてのものとは違う

喜びと愛情は、正しく、清く
素朴な黄金のときのように
ここで一つになる
神聖なる時を招き寄せて
聴け!同音に!
天から君に彼女が光臨する
君の心の神殿に

子と妻人の至福に生きよ
良き友、末長く生きよ
そして祝福を受けて戻って来い

われらの歌のこだまは教会オルガンの調べのようだ
使者の集いから厳かに広がるもの
そうだ、教会から来るものは感謝の声
そうだ、末永く生きよ、我のために、信仰を通して
年輪の力に打ち勝ち、苦悶を宥めよ
そして簡素な正直の冠を得よ
神と人の友のための
休息の夕べを心地よく、灰塵で飾れよ

 フランス=ミカエル・フランツェン Frans Michael Franzen ( スウェーデン 1772-1847)
 'Sang på en väns födelsedag' i ”Samladedikter, tredje bandet” 

北欧の詩(23) 「巨人」

「巨人」

わしは岩山の地下深くに住んでいる
オーデンの目の光が届かぬところ
わしはアーサの神たちが嫌いだ
そして、神にひざまずいたアスクルの息子たちも
あやつらを軽蔑する

わしの喜びは真夜中の嵐に乗ってゆくこと
わしは野原の芽を踏みしだき、竜骨を裂く

わしは旅人を捜し求めた小屋から追い出して迷わせる
そして彼が巨人の笑い声に震えるのを見て喜ぶ

けれどもわしは日中でも大丈夫だ
彼がいかに眩しく光り輝こうと
裸のワルキューレ達が血のように紅い羽根を羽ばたかすとき
虹のツバメたちがいかに心地よく
群れを成して周回していたとしても
そして幅広の刀が人間の心臓を冷やすのだ!

「穢れなき汝、エンブラの娘たち、望みは何だ?」
見よ、魔法使いの腕からの花々は萎れた

「どんな国のために戦うというのか、汝、北欧の若者たちよ」
つまらない金のために、彼は父の墓を売った
谷に賢者が座っている
彼は真実を語った
オーデンが語るように深く、
彼は真実を語った、ミーメルの頭をもって

わしは一握りの靄をその老爺の目に投げた
なんと楽しいことよ!あの道化は否定した
創造主の支配を

わしは吟遊詩人の夢が嫌いだ

ヴァルハラに引きずられた、祖国と名誉、
美徳と神々についての
わしは愚か者を青い空から引き離して、惹きつけることはできぬ
けれどもわしはいつも満足していた、地上で
そこは軽蔑されているのか

トールがハンマーを持ってやってくる
わしは彼に向かって微笑む
わしは山の兜を頭にかぶり
英雄の力を振るわせてやる
太陽に光を降り注がせてやる
悪は不死だ
善と同じように

 エサイアス・テグネル、Esaias Tegner (スウェーデン、1782-1846)
 'Jätten' 1817

北欧の詩(22) 「鳩とポピー」

「鳩とポピー」

鳩とポピーが一緒に踊る
鳩は踊るポピーの手の上
-ここでちっちゃな鳩が踊る

鳩とポピーが一緒に踊る
鳩は踊るポピーの腕で
-ここでちっちゃな鳩が踊る

鳩よ、おお、鳩、まだまだ踊るの!
ピンクの冠、落としちゃうよ!
-ここでちっちゃな鳩が踊る

(作者不詳、スウェーデン、17世紀)

北欧の詩(21) 「ニーチェのお墓で」

「ニーチェのお墓で」

偉大なる探求者はもういない。。
彼の墓を私は温かい花のカーテンで覆う。。
冷たい石にキスして私はこう語りかける:
ここにあなたの最初の子どもが嬉し涙を零しています
ふざけて私は貴方のお墓に座ります
軽蔑するかのように-貴方が夢描いたのより気持ちよく
希に見るお父さん!
貴方の子どもは貴方を裏切りません
貴方は地上に神の歩みを持っていらしたのね、
目をこすりながら、いったい私はどこにいるのだろうと?
いや、本当に、、ここは私の場所
私の父の荒れ果てた墓。。
神よ-永遠にこの場所を見守りたまえ

 エディス・セーデルグラン Edith Södergran (フィンランド 1892-1923)
 'Vid Nietzsches grav', September 1918 i “Septemberlyran”(1918)

北欧の詩(20) 「母。」

「母。」

君が何かおいしいものを欲しければ、わが子よ、彼女は君の言うとおりになにかくれるだろう。
君が遊びたければ、小さな友よ、彼女は喜んで君と遊ぶだろう。
彼女のところへ行け、君が何かに悩んでいるのなら:彼女は君の痛みをやわらげてくれるだろう
彼女のところへ行け、君が疲れているのなら、そして彼女の心のそばで眠れ

 ヴィクトル・リードベリィ、Viktor Rydberg (スウェーデン、1828-1895)
 'MODERN.' ur ”Dikter, andra samlingen”

北欧の詩(19) 「お前の悲しみはお前のものだ」

「お前の悲しみはお前のものだ」

お前、人の子よ、お前の運命がいかに重く感じられようと
お前の弱々しい仲間達に慰めなどを求めるな
お前の悲しみをすでに重い胸に乗せるな
お前の悲しみはお前のものだ、お前は彼女をずっと持ち続けるべきなのだ

 ヴィクトル・リードベリィ Viktor Rydberg (スウェーデン、1828-1895)
 Din Sorg är Din, i ”Dikter” (1882)

北欧の詩(18) 「黒いバラ」

「黒いバラ」

なぜあなたは今日沈んでいるのか言ってごらん
ねえ、あなたはいつも陽気で元気なのに?
私は今日はもう悲しくならないよ
私が陽気で元気だとあなたが思えない限り
だって悲しみは夜のように黒いバラを持っているのだからね

私の心の中にはバラ園がある
そこでは私は心安らかになることはできない
茎にはとげがいっぱいだ
それが私に常に痛みと憎悪を与える
だって悲しみは夜のように黒いバラを持っているのだからね

けれどもバラによって至宝になるんだ
死よりも白く、血よりも赤く
それはどんどん生長する、私はずっと続くと思うよ
心の中の木の根が伸びて打ち砕くのだ
だって悲しみは夜のように黒いバラを持っているのだからね

  エルンスト・ヨセフソン Ernst Josephson (スウェーデン、1851-1906)
’Svarta rosor’ i "Svarta rosor" 1888

北欧の詩(17) 「ある愛の歌」

「ある愛の歌」

僕は愛を金で買った
僕には他に方法がなかったから
美しく歌っておくれ、耳障りのする弦で
美しく歌っておくれ、それでも愛について

決して実現することのない夢
夢としてはとてもきれいな
エデンから呪われた夢
でもエデンはエデンなのだから

  グスタフ・フレーディング Gustaf Fröding (スウェーデン、1860-1911) ’En kärleksvisa’ i ”Grälstänk” 1898

北欧の詩(16) 「子守唄」

「子守唄」

太陽がその軌跡をたどる
天蓋高く、
月は白鳥のように帆走する、
真夜中に
旧きものすべては新たに
小さな貧しき幼子のために、
たった今、世に現れしものに。

ハリエット レーヴェンイェルム (Harriet Löwenhjelm,, 1887-1918, スウェーデン)
Vaggvisa, i ”Dikter” 1927

北欧の詩(15) 「ジプシー」

「ジプシー」

私は見知らぬ国から来たジプシー
秘密めいた茶色の手にトランプを持つ
日々は毎日単調で多彩
私は反抗的な目をして人々を見つめる
カードが燃えているのを誰が知ろう?
カードの絵が生きているのを誰が知ろう?
一枚一枚に運命であるのを誰が知ろう?
私の手から落ちる一枚一枚のカードが
幾千もの意味を持つのを誰が知ろう?

この手が何かを求めているのを知るものはいない
この手はすべてのものになじんでいることを
けれどもそれは夢の中で触るのだということを
そんな手を持つのは世界にたった一人だ

この素晴らしい盗賊の手を
私は赤い布の下に隠す
反抗的で、憂鬱で、指輪がいっぱいで、強い
茶色の目は終わりのない渇望を眺める
唇は消えることのない炎の中で燃える
投げやりな手は暗く赤い夜の中でその勤めを果たす

 Edith Sodergran エディス・セーデルグラン (フィンランド, 1892-1923)
 Zignerskan, 1920 i ”Landet som icke är”,

北欧の詩(14) 「ずっと前には」

「ずっと前には」

覚えているかい、消え去った瞬間がどんなだったか
あっという間に消えていってしまった時?
覚えているかい、僕らの心がどんなに燃えたか
神の恵みを受けて互いを魅惑して?
僕は無くなった時を数えているんじゃないよ
それを皆のためにするのは神さ
けれども心はその間にため息をつく
「ずっと前は、ずっと前には!」

それから別の時間が来た、君の気持ちは
冷たくなった、なぜかは僕には、まだ、わからない
僕の幸福は思い出へと色褪せた
けれども僕にはまだ友が一人いる
君の手を今でも僕は握らせてもらえる
君の心のそばで泣かせてもらえる
それは、それでも、慰めであり幸運だ
だけど、ずっと前は、ずっと前には!

すべての、僕が持っていたすべては消え去ってしまった
ただの愛人ではなく、友を?
燃えていた炎をかきたてよ
そして僕に言ってくれ、まだちっちゃいのが生きていると!
以前そうだった君になってくれ
春の太陽が幸福に輝いていたとき
そして僕にキスをしてくれ、僕がこう嘆いている間に、
「ずっと前は、ずっと前には!」

 エサイアス・テグネール Esaias Tegner(スウェーデン、1782-1846)
 För länge sen, i ”Mindre Dikter”

北欧の詩(13) 「ナナカマドとライラックの下で」

「ナナカマドとライラックの下で」

花あふれる心地よい谷
私の心の安住の家
暖かい緑の部屋
そこに春と愛が住む
空気と光の太陽の子
ああ、私にはあなた方の静かな音が聴こえる
花あふれる心地よい谷
私の心の安住の家

ライラックの陰に憩い
ここに私の囲いを求める
ナナカマドの香りが降り注ぐ
最高の花の雨
雨は心の春の中で降りしきり
そこに花を咲かせ続ける
ライラックの陰に憩い
ここに私の囲いを求める

おいで、森の中の私の友
おいで、私のそばで歌っておくれ
森は永久に裏切らず
春は永久に若く
命は夕べの風のように
春の息遣いのごとく永遠だ
おいで、森の中の私の友
私の横で歌っておくれ

愛する青い目
昔のように微笑んでおくれ
ナナカマドの白い花を雪のように降らせよ
昔のように花咲かせよ
夕べの露をあなたの涙の中に溶かせよ
そして太陽と春の中に目覚めよ
愛する青い目
昔のように微笑んでおくれ

花あふれる心地よい谷
至福に輝いて
清き春が語り
われらはよりよく理解する
夕闇が赤く染まり、目を覚まして
心から香りが出てゆく
花あふれる心地よい谷
至福を輝いて

 ザハリアス・トペリウス Zacharias Topelius(フィンランド、1818-1898)

北欧の詩(12) 「私が嘘つきであるのなら、、」

「私が嘘つきであるのなら、、」

私が嘘つきであるのなら、私の罪は計り知れない
私がペテン師であるのなら、私は神聖なものを使ってペテンをしたのだ
私が嘘つきであるのなら、きっと天から転げ落ちてきたのだ
エードラの広場で粉々にされて

私が嘘つきであるのなら―
不幸な精霊が私の竪琴を埋葬するだろう
腐った硫黄の泥地の中に
竪琴よ、月夜に願いを込めて腕を伸ばせ
生きているものは何も通り過ぎることのないその場所で

私が嘘つきであるのなら―
私の素晴らしい名前が天の壁から根絶されるだろう
真珠の文字が海の岩盤にたたきつけられて粉々になるだろう
私を生んだ水が沈黙するだろう
世界は私の語る物語を聞くことがなくなるだろう

私が嘘つきであるのなら―
美しい野原はそれでも私を愛するだろう
美しく不幸な兄のように:
あいつは月と天空のために物語を語ったのだ、
あるはずのない物語を、
それらの儚い美は壊れてしまったのだ

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド1892-1923)
 ”Är jag lögnare..” ur ”Septemberlyran”(1918)

北欧の詩(11) 「最初の」

「最初の」

沢の最初の泡が消え
春の最初の花がしぼむ
けれど、あなたの最初の恋は、若い心よ、
いつも長く生き続けるのだよ

 ヨハン=ルドヴィグ・ルーネベリィ Johan Ludvig Runeberg (フィンランド1804-1877)
 ur“Dikter”(1830)

北欧の詩(10) 「誰が舟を操れる?」

「誰が舟を操れる?」

誰が舟を操れる、風無しに?
誰が舟を漕げる、オール無しに?
誰が友と別れられる、涙を流すこと無しに?

私は船を操れる、風無しに。
私は舟を漕げる、オール無しに。
でも、私は友と別れることはできない、
涙を流すこと無しには。

 スウェーデン民謡
 Vem kan segla

北欧の詩(9) 「デンマーク、我が祖国」

「デンマーク我が祖国」

私が生まれたデンマーク、そこに私の家がある
私の起源はそこにあり、私の世界はそこから始まる
ああ、デンマーク語よ、あなたは私の母の言葉
とても優しく寿がれ、あなたは私の芯に届く
ああ、デンマークの爽やかな浜よ
古の武人達の墓が
林檎園と麦芽畑の間に立つ
あなたを私は愛する、デンマーク、我が祖国

夏が花の褥を支度し
この広々とした浜より豊かなところがどこにあろう?
満月が白詰草の原にかかり
椎の祖国のように美しいところ
ああ、デンマークの爽やかな浜よ
ダンネブローゲン旗が翻るところ
神がわれらにそれを下さった、神は我らに最高の勝利を下さる
ああ、私はあなたを愛する、デンマーク、我が祖国

あなたはかつて北欧全体の支配者だった
イングランドを従えていた、今は弱いといわれる
小さな国、けれども地上広く
デンマークの歌と鑿の音が聞こえる
ああ、デンマークの爽やかな浜よ
鋤が金のホルンを見出す
神があなたに未来を与える、思い出を与えるごとく
あなたを私は愛している、デンマーク、我が祖国

私が生まれた国、私の家があるところ
私の起源はそこにあり、そこから私の世界が広がる
言葉が私の母の柔らかい声であり
甘い音楽のように私の心に染み入ってくるところ
とても優しく祝福されて、あなたは私の中心に届く
ああ、デンマークの爽やかな浜よ
野生の白鳥の住処に
緑の島々に、私の心の家がある
あなたを私は愛する、デンマーク、我が祖国

 ハンス=クリスチャン・アンデルセン HC Andersen (デンマーク、1805-1875)
 Danmark, mit Faderland, i ” Fædrelandske Vers og Sange under Krigen (1851)”

*これはデンマーク国歌ではありません

北欧の詩(8) 「おお、私達の国よ」

「おお、私達の国の神よ」

おお、私達の国の神よ、おお、私達の国の神よ、
私達はその神聖な、神聖な名を敬う。
天の太陽の体系から
あなたのために花冠を結う
あなたの戦士、古きものの集まり。
あなたにとっては千年が一日であり
一日が千年であるにすぎず、
震える涙を持った永遠の小さな花が
その神のために祈り、死する。
アイスランドの千年、アイスランドの千年、
震える涙を持った永遠の小さな花が
その神のために祈り、死する。

 アイスランド国歌。1874。マティアス・ヨクムソン(Mattias Jochumusson,1835-1920)

*本来もう少し長いのですが、一番のみで済みません。

北欧の詩(7) 「私達の国」

「私達の国」

私達の国、私達の国、私達の祖国、
音高く、おお、高価な言葉!
天の極みに持ち上げられるのではなく、
谷に沈められるのではなく、岸辺で洗われるのでもない、
北欧の私達の村より愛され、
私達の父の土地よりも愛されるもの。

私達の国は貧しい、これからもそうあり続けるだろう
金に支配される者にとっては。
見知らぬ者は自尊心を持って私達をやり過ごすだろう:
けれどこの国を私達は愛する。
私達にとって、沼、山、島がいっぱいの
ここは金の国なのだ。

私達は私達の河の轟音と
小川のせせらぎを愛する。
暗い森の暗いざわめき、
私達の星の夜、私達の夏の明るさ。
すべて、すべて、目に見えるものが歌であり、
私達の心を一度は揺らすものなのだ。

ここで私達の父達は戦った。
思想で、剣で、鋤で。
ここで、ここで、晴れの時も曇りのときも。
固い幸運、柔らかい幸運。
フィンランドの国民の心は鳴った。
ここで契約が結ばれた。

誰が戦いの宣言を刻んだのか。
この国民のための。
戦いが谷から谷へと続いたとき。
霜が飢餓の苦悩とともにやってきたとき。
誰がこの流されたすべての血を計ったのか。
そしてすべての忍耐を。

そしてここで血が流れたのだ、
そうだ、ここで、私達のために、
そして喜びと満足が、
そしてここでため息が。
私達の負担を担う者
私達の日々のずっと以前に。

ここで私達は明るく、より良く、
ここで私達はすべてを賜り、
運命は私達の運を投じる。
一つの国、私達は祖国を得た、
地上にこれ以上の価値があるものがあろうか、
すべてが高価で、愛されて、保持されるべきもの。

そしてここで、こここそがこの国、
私達の目がこの国を見る、
私達は手を差し伸べる。
そして機嫌よく湖と岸辺を示し
そして言うのだ:そこにあるこの国を見よ。
これが私達の祖国だ。

そして私達は輝きの中に住まうことを得、
青の中の金の雲に、
そして私達の生活は星の踊りになった。
そこでは涙は作られず、ため息も存在しない。
このまだ貧しい国に
私達の憧れは存在し続ける。

おお、祖国よ、千の湖をもつ国よ、
そこでは歌と信頼で建てられ、
そこでは命の海が私達に岸辺を与えてくれる。
私達のいにしえの国、私達の未来の国。
あなたの貧しさを隠さずにおけ。
自由であれ、元気であれ、安心せよ。

あなたの繁栄はまだ蕾の中、
強制無しに熟すもの、
見よ、私達の愛からそれが出てくる
光、あなたの輝き、あなたの喜び、あなたの希望。
そしてより大きい響きが一度
私達の祖国の歌。


 フィンランド国歌。ヨハン・ルードヴィグ・ルーネベリィ(Johan Ludvig Runeberg、フィンランド、1804-1877)1846

北欧の詩(6) 「古きあなた、自由なあなた」

「古きあなた、自由なあなた」

古きあなた、自由なあなた、北の高地のあなた、
静かなあなた、喜びあふれ、素敵なあなた、
わたしはあなたを歓迎します、地上で一番素晴らしい国
あなたの太陽、あなたの空、あなたの野原は緑
あなたの太陽、あなたの空、あなたの野原は緑

あなたは昔の偉大な谷の記憶を受け継ぎ
あなたの誉れ高き名は世界中に広まった
わたしはあなたがなにであるか、なにになるか、
なんであったかも知っています
ええ、わたしはこの北欧で生きて死にたい
ええ、わたしはこの北欧で生きて死にたい

わたしはあなたが常にわたしの愛する国であり続けることを望み
死に至るまであなたを信頼することを誓います
あなたの正義をわたしは大切にします、わたしの心と手で
あなたの旗は、高く、勇ましく掲げられ
あなたの旗は、高く、勇ましく掲げられ

神とともにわたしは戦います、あたたかき家庭のために
スウェーデンのために、愛する祖国のために
あなたは世界の他のなにものにも代えられません
いえ、わたしはこの北欧で生きて死にたい
いえ、わたしはこの北欧で生きて死にたい


 スウェーデン国家(ヴェストマンランド地方民謡)
 Du gamla, du fria、リカルド・ディベック(Richard Dybeck、スウェーデン、1811-1877)作詞、1844


*1866年から国歌として使用されているものの公式に決定されたのではなく、伝統的に国歌とみなされているもの。

北欧の詩(5) 「愛における不運な者」

「愛における不運な者」

私は三人の愛人をなくした
一人目は死が打ちのめした
二人目は裏切りと狡知によって
競争相手に奪われてしまった
「三人目は?」ときみは尋ねるのだね
「彼女はどうなったのだ?」
彼女は私の妻になったのだ

 アンナ=マリア・レングレン Anna Maria Lonngren (スウェーデン、1754-1817)
 Samlade skaldeforsok 1819

北欧の詩(4) 「どこにもない国」

「どこにもない国」

私はどこにもない国に憧れる
なぜなら、存在するすべてのもの
私はそれを願うことに疲れてしまったから。
月は銀のルーン文字で私にどこにもない国を語る。
願いがすべて満たされる国、
私たちを縛る鎖がすべて崩れ落ちる国、
私たちの傷だらけの額を月の雫で涼ませることのできる国
私の人生は熱い意志だった
でもひとつだけ私は勝ち取ったの
本当にひとつだけはね
どこにもない国への道を。

どこにもない国で
私の愛する人は輝く冠を戴く。
私の愛する人って誰?
夜は暗く星は瞬いて答える
私の愛する人って誰?
彼の名は?
空のアーチは高く高く上り
人の子は答えを持たず無限の霧の中に沈む。
でも人の子は確信の子ではない。
そして人の子はすべての天よりも高く手を伸ばす。
そして、答えが届く:
私があなたが愛するものだよ、
そしていつも愛し続けるものだよ。

 エディス・セーデルグラン Edith Sodergran (フィンランド,
1892-1923)
 'Landet som icke är', i "Landet som icke är"1925

北欧の詩(3) 「死にゆく子」

「死にゆく子」

かあさん、僕、疲れた、もう、眠りたい
心臓が眠りにつくところへ僕を寝かせて
でも泣かないで、僕にそう約束して
だってかあさんの涙が落ちると、僕のほっぺたが火傷しそうなんだもの
ここは寒いし、外では嵐が吹き荒れている
でも夢の中では何もかもがとっても柔らかいんだ
そしてかわいい子どもの天使が見えるんだよ
僕が疲れた目を閉じると

かあさん、僕のそばに天使がいるのが見える?
天使の素敵な音楽が聞こえる?
ねえ、天使にはきれいな真っ白な羽が二つあるよね
きっと神様からもらったんだね
緑と黄色と赤が目の前で踊ってるよ
天使が放つ花なんだ
僕は生きてるけど羽がもらえるかなあ
それとも、かあさん、僕が死ぬときにもらえるのかな?

どうしてそんなに僕の手をぎゅっと握り締めるの?
どしてほっぺたを僕のほっぺたにくっつけるの?
濡れてるのに炎みたいに熱いよ
かあさん、僕、ずっとかあさんのものでいたい
でも、もう、確かじゃなくなっちゃったね
かあさんが泣くと、僕も一緒に泣いちゃうよ
ああ、僕、とっても疲れた-目を閉じなくちゃ-
かあさん-ねえ、天使が今、僕にキスしたよ

 ハンス=クリスチャン・アンデルセン HC Andersen (デンマーク、1805-1875)
 Det doende Barn, i ”Kjobenhavnsposten, 1827”

北欧の詩(2) 「永遠なるもの」

「永遠なるもの」

強者は剣をもってその世界を形作るであろう
彼の噂は鷲のように飛んでゆくのであろう
しかしいつかはその彷徨う剣は折られ
鷲は飛んでいるうちに落とされる
暴力が作り得るものは変わりやすく短命である
それは遠い砂漠の砂嵐の中で死ぬのだ

しかし真実は生き続ける、斧や剣の間で
輝く額の彼女は静かに立っている
彼女は夜の世界を導き
他のものへ示し続ける
真実は永遠である:天と地にまつわり
親類から親類へと繰り返されてきたこれらの言葉

正しいものは永遠である:地上で踏みつけられた百合のように
腐ってしまうことはない
悪しきものがすべての世界を終に征服したとしても
正しき汝は望むことができる
あなた以外のものが狡知と暴力に追いまくられたとしても
安住の地はあなたの胸の中に隠されている

そして胸の中の炎に隠された意志が
人性を神に似せて、行為を生み出す
正義は腕を得、真実は声を得、
人々は変性のために立ち上がる
あなたが払った犠牲、あなたが追い立てられた危険
それらは星のようにレーテ河から上る

そして詩は天の虹のような花の香りのようではなく
あなたが作る美しきものは人間以上のもの
年と顔が新しくなる
美しきものは永遠である:我等は熱望し
時の波よりその金砂を掬う

故にすべての真を達せよ、すべての正を勇気を持って行え
そして美しきものを喜びをもって創れ
その三つは人の系図とともに消えるものではない
我等が常に望むもの
時があなたに与えたものを、あなたは再び得られよう
永遠なものはあなたの心にあるゆえに

 エサイアス・テグネール Esaias Tegner (スウェーデン、1782-1846)
 ’Det eviga’ 1810

北欧の詩(1) 「あなたはひとりぼっちで歩いているんじゃない」

「あなたはひとりぼっちで歩いているんじゃない」

もし幾千の星の中で
たった一つあなたを見ている星があったら、
その星の意味を信じてごらん、
彼女のその目の輝きを想ってごらん。
あなたはひとりぼっちで歩いているんじゃない。
その星には幾千もの友がいて、
皆があなたを見ているのだから;
彼女のためにあなたを見守っているのだから。
あなたは幸運で幸福だ。
今夜は天があなたを包んでいるのだ。

カール=ヨーナス・ロヴェ=アルムクヴィスト(1793-1866、スウェーデン)
’Du går icke ensam’, ”Songes”1849

いろいろ(1) 引越してきました

引越し作業中

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